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バルトーク・レコーズ

2019 OCT 5 21:21:41 pm by 西村 淳

バルトーク・レコーズはベラ・バルトークの息子で、録音技師だったピーターが主に父の作品を制作する目的でベラの死後、1949年に設立した会社で、その頃録音された米ピリオドの有名な録音はこの頃のものである。シュタルケルの代名詞にさえなったコダーイの無伴奏チェロ・ソナタはその圧倒的な演奏と輝かしい音で今日に至るまで全く色あせていない。
「バルトーク・レコーズ・ジャパン」の村上泰裕さんから注文したCDが届いた。少し前にソニーから復刻されたニュー・ミュージック四重奏団(NMQ)の米コロンビアに録音した全てがCDでリイシューされたのをきっかけに、バルトーク・レコーズのNMQによるベートーヴェンを探していて村上氏につながったわけである。NMQは1948年から1956年までしか活動をしなかったことと、モノラルからステレオへの変遷という過渡期だった不幸も重なりほとんど顧みられなかった団体ながら、完璧な演奏は後のジュリアード四重奏団の範ともいうべきものだ。
村上氏はバルトーク・レコーズ・ジャパンを立上げ、ピーターの録音の保全、販売などを手掛ける一方で、ここが一番凄いところだと思うが、ベラが望んでいて果たせなかった出版譜の改定をピーターと共に行っている。CDに同封されていた商品カタログと日経の文化欄に掲載された「バルトーク愛 楽譜校訂」の記事を読んで驚いた。単なるCDの転売屋さんではなかった・・。私達演奏者はどんな一つの音符であってもないがしろにすることは出来ない。常にその意味を考えているから信頼すべき校訂版の登場は本当にありがたい。本当にいい仕事をしているに違いないし、心からエールを贈りたい。
既に出版されたものは「青ひげ公の城」のスタディ・スコアなどすでに16点を数え、そのために教職を辞しまでした使命感が村上氏の中で赤々と燃えている。人としての一番大切なものが何なのかを伴って。知己を得る前に購入し未読のままだが、「父・バルトーク 息子による大作曲家の思い出」ピーター・バルトーク著 村上泰裕訳 ㈱スタイルノート刊もある。
さて、肝心のバルトーク・レコーズである。この会社を知り、係わりを持ち始めたのは「ある晴れた日に」という個人(故古畑銀之助さん)のレコード通信に紹介されたのがきっかけであった。この通信は眼を世界に向けてくれたし、おかげで多くのLPが海外から我が家に届いた。それまでとても遠い存在だったバルトークが途端に身近な人となったNo.17(1976年4月)を以下に引用する。

▶ 「バルトーク・レコード」が手に入る
・・吉田秀和「一枚のレコード」(中央公論社)のトップに出てくる「バルトーク・レコード」#916、無伴奏ヴァイオリン・ソナタは、ジュリアード四重奏団のロバート・マン若かりし頃の録音、私は前からこれがほしくてニューヨークへ行くたび、あっちこっちのレコード店で「バルトーク・レコードは」と尋ねてみましたが、「もうない(ノーモア)」と、そっけない返事。しかし、ほかのバルトーク・レコード社、ときおりセール箱にほうりこまれていて、安く入手できること、ニューヨークもシカゴもバッファローもトロントも、同じで、またシュワン‐2(モノラル・カタログ)には、いまなお全「バルトーク・レコード」が掲載になっているのです。そこで、とうとう去年、シュワン・カタログ社に問合せ、新しいあて名を知りました。早速手紙で問合せ、二つ折り四項の小パンフレットと、値段は一枚5ドル、と報せてきたので、直接注文したら、すぐレコードを送ってきました。セロの堤剛氏に、「ピーター・バルトークはどうしてるだろう、先生のシュタルケルに尋ねてみてくれないか」と、私は一度話したことがあり、堤氏は、「たしかニューヨークで今もレコード社をやっていて、欲しいという人にだけ売っていると聞いていますが」と言っていましたが、その通りでした。
パンフによると、全部で35枚のレコードがあります。みなモノラルです。しかしながら、やれステレオ、やれ4チャンと、計測器に頼って音とりし、またその音を後で加工する、というような、この頃の技師たちのやり方と違い、自分の耳だけを頼りに正しい音を残すことに努めたピーターは、このバルトーク・レコード社の設立前後にも、モノラル・ピリオド盤コダーイの無伴奏チェロ・ソナタ(シュタルケル)、先にも書きましたように、日本のオーディオ・ファンの名言「弦の松脂の粉の飛び散る音まできこえる」名盤名録音を残していますが、モノラルとはいえ、この35枚中にはやはり名録音があります。
35枚全部を聞いたわけではありませんが、特に録音でめざましいのは、#908、Tibor Serly:Sonata for violin solo(Frankces Magnes,Violin)です。このレコードは、針を落とすなり、目の覚めるようなピチカット・ヴァイオリンの音が豊かに飛び出してきますし、曲も演奏もよろしい。ピリオド盤コダーイに勝るとも劣らなぬ名録音だと思います。これに比べると、私が欲しかった上記のロバート・マンのバルトークのソナタは、演奏は素晴らしいけれど、少しふやけた音がしますし、またいかに鋭いピーターの耳とはいえ、当時の録音装置では、オーケストラやピアノ物は、現在の水準からみると不満が多いこと、やむを得ないでしょう。
また、我が国は、オーディオ・マニアの多いこと、世界一だと信じますし、ピーター・バルトークの名も、アメリカより我が国でこそよく知られているのではないかと思いますが、わが国レコードメーカーの誰か、ピーター・バルトークを日本に招き、よい録音を企画しようという人はいませんか。「良い録音」という意味は、優れた機械に頼るのではなくて、優れた音楽的な耳に頼る、ということを私は言いたいのです。

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