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とうとうモーツァルトのお父さんが教えてくれた

2019 SEP 8 21:21:38 pm by 西村 淳

ソナーの吉田さんのブログにある通りショスタコーヴィチのピアノ五重奏曲は、それこそとてつもない傑作だ。これを知るや、ブラームスの野暮ったさは胃にもたれる。口直しにと思って聴いたアシュケナージとメータ/ロンドン交響楽団の演奏が悪かったわけではあるまい。ブラームスの印象はその性格そのままなのか「言いだしかねて」といった風情が漂う。
さて、タコタコ。その中でもその五重奏曲の第4楽章の透徹した哀しみに心がシンクロする。雪の冷たさ、長い冬と待ち焦がれる春の声。北国を経験したことのない人にはちょっと無理だろうな・・きっと無縁だから相当違ったイメージが出てくるかもしれない。
楽譜にあるように初めはファースト・ヴァイオリンとチェロの2重奏である。ここでチェロは♩=72で淡々とウォーキング・ベースのようにリズムを刻まなければならない。ところが言うは易し行うは難し。29小節に渡ってこの四分音符を弾いているうちに、72のテンポが怪しくなり、ちょっと早くなっているかもしれないと不安になってくる。事実そうなっているのかもしれない。こんなことを書くとお前の弾くコンサートなんか行かないから、と言われてしまいそうだが、だから「ただ」ほど高いものはないと言ってるじゃないですか・・などと開き直るのもどうしたものか。実際にテンポをメトロノームのように正確に維持することは至難の業なのだ。心臓の鼓動だって機械のように正確には動いていないわけだし。
そんな時、たまたま読み始めた有名なレオポルド・モーツァルトの「ヴァイオリン奏法」にその練習の仕方が書いてあるではないか!恥を忍んで告白するなら私はこれまでこの本を読んだことがなかったのだ。その存在を知るだけなら、何の役にも立たない学校の授業で教わるのと一緒だ。ところが最初のページをめくった時から天才・アマデウスのお父さんの博識と教養に圧倒される。今からでも遅くはない、もう一度、一から始めて弦楽器奏法の奥義を学ぼう。
「・・・そこそこ弾ける多くのヴァイオリン奏者でも、同じ長さの音符が終始流れている音符を弾くと、ついつい急いでしまって、たった数小節であっても、四分音符ひとつくらいは速くなってしまうものだ。このような弊害を避けるためには、最初はゆっくりと弓を長く保ち、いつも弦に付けておき、急がずに抑え気味に弾くのである。特に同じ長さの4つの音符の後半の二つを、短くしすぎないことである。」
やってみた。上手く行ったりいかなかったり。でも確信を持って言えることは速くはなっていないことの実感だ。
イチローがいい事を言う。「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道だと思っています。」そう、ライヴ・イマジンを通じて小さいことをまた一つ積み重ねたぞ。

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