ジャルスキー・イン・パーソン
2025 OCT 14 14:14:40 pm by 西村 淳
フィリップ・ジャルスキー&ティボー・ガルシア デュオ・リサイタル
2025年10月13日(月・祝)彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
来日を心待ちにしていたジャルスキー。コロナの最中にその予定があったが、流れてしまったため、この日ほど楽しみにしていたものはない。
80分ほどのリサイタル。2曲のギターソロを挟み途中休憩なし。
カウンターテナーというちょっと特殊な唱法を知ったのはもうかれこれ50年も前の事。アルフレッド・デーラーの男声とも女声とも異なる柔らかな世界、ダウランドの曲に魅せられた。そしてジャルスキー。デーラーをより現代的にブラッシュアップした世界は、バロックオペラからシャンソンまでをカバーする。特にヴェルレーヌの詩を集めた万華鏡のような美しいCDは私にとってのエヴァー・グリーンだ。中でもノルマンディー上陸作戦に符合したシャルル・トレネの「秋の歌」、日本人なら誰でも知っている上田敏の「秋の日のヴィオロンの・・」というあれ。何とエベーヌ四重奏団がつけているのだから心躍らぬはずはない。
彩の国さいたま芸術劇場の音楽ホール。500名、ほぼ満席だったし響きもなかなかヨロシイ。来場者、ご婦人が少し多いのはアイドルだからなあなどと開演を待つ。いやあ出ましたよ、千両役者だ。カッコいいなあ。リサイタルなので上質なスーツとシャツ。背も高いしまるで映画スターの登場に会場の空気が変わる。ドミンゴを「観た」時もそうだったけれど、歌手には半端ないオーラと華があるのはまぎれもない事実。これだけは器楽奏者が逆立ちしても敵わないし、音楽の原点は何をさておき「歌」。
カウンターテナーの音域はアルトからメゾソプラノあたりまでか。その中性的な響は男、女をあまり意識せずに音楽そのものをストレートに伝えてくれる。シューベルトの歌曲すら独自の世界が拡がり、これを愉しむのも好きだ。調子がいいのか声の衰えも全く感じさせなかったし、繊細な表現を補う伴奏をピアノではなく、ギターを選ぶところが素晴らしい。ともすれば重くなりがちな鋼鉄の箱を選ばないところが、バロックやそれ以前の音楽に通暁しているからこそ。またガルシアさんのギターの切れ味と伴奏の域を超え自在に切り込んでいく凄さ。むしろ編曲だけにオリジナルにこだわらないことでそれ以上の効果をあげていたと思う。
アンコールは3曲。日本語で歌った「いつも何度でも」(千と千尋の神隠し)とヘンデルの「私を泣かせて下さい」、そして「枯葉」。これに涙しなかった日本人はいないだろう。
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