蛙鳴蝉噪(ギリシャ編)
2012 SEP 28 22:22:09 pm by mtsuzaka
ギリシャは良い国だ。アテネを歩くと道端の石ころでも遺跡に見えてくる。エーゲ海と限りなく青い空。ギリシャの神々はオリーブと青い海が好きなのだ。ユーロ圏のゼウスの国「ドイツ」からきた観光客も多い。ドイツ人は旅行が好きだ。特にギリシャは人気の国だ。彼らは言う。「ギリシャはいい国だ。但し、ギリシャ人がいなければ・・」と(旅行先を「日本」にして、ドイツを「中国」や「韓国」と読み替えても違和感はないが)。 ドイツ人は冷徹だ。冷静といったほうが良い。おまけに堅実家だ。全方位に資金をばら撒くどこかの国とは違い、資金援助に関しては非常に慎重だ。財政破綻に陥っているギリシャへの支援に関しても厳しい。
最近の世論調査結果(9月2日付フィナンシャルタイムス紙)では、ギリシャが資金を返済すると信じるドイツ人はわずか26%しかいなかった。大多数のドイツ人はギリシャがユーロ圏に留まるべきではないとも考えているのだ。イタリアでは77%、スペインでは57%の人が、ギリシャは緊縮財政を耐え抜き、借金を踏み倒すことはないと信じている。善良な人達が集まる国だ。
この問題に対するドイツ人の冷静さは、今に始まったことではではない。2010年3月にフィナンシャルタイムス紙に掲載された結果でも、ドイツ人の61%がギリシャに財政上の支援をすべきではないと答えていた。 同じ南欧地域とはいえ、トロイア王家の末裔によって建国された(とアエネーイスに書いてある)イタリアはギリシャに救いの手を差し伸べようとしている。
ギリシャは欧州の心の故郷なのだ。 「ヨーロッパ」の名称は、牛に化けたゼウスが背中に乗せてクレタ島に拉致してきたフェニキアの王女エウロペに由来する(と神話に書いてある)。大英帝国が誇るナショナルギャラリーや各国の美術館で連れ去りの目撃情報を確認することができる。
「The Rape of Europa」 1637-9,
Guido Reni National Gallery
ギリシャも証拠を残している。 ユーロ圏加盟17ヶ国3億3000万人が使用する統一通貨のデザインにそれは刻まれている。紙幣は加盟国統一のデザインだが、コインのデザインは各国に任されている。ギリシャで発行されたコインには、ゼウスとエウロペの姿が刻まれている。「全能の国ドイツ」が、か弱いギリシャを乗せてユーロ圏という海を泳いでいるのだ。ゼウスはエウロペの美貌に一目ぼれしたため背から振り落とすことはない。しかし、ドイツはいつまでもギリシャを乗せているとは限らない。現代のエウロペは自力で海を泳ぎきる体力はない。必死でゼウスの背にしがみついていなければならないのだ。
2010年1月フィナンシャルタイムス紙はギリシャ中央銀行総裁のプロボポラス氏のギリシャ財政危機に関する寄稿文を掲載した。彼はギリシャがユーロ圏を離脱する選択肢を「オデュッセイア」に登場する海の魔物(?)のセイレーンになぞらえた。オデュッセイアでは、セイレーンの甘美な歌声を聴いた船乗りは、彼女(?)に引き寄せられて生命を失う。勇者オデュッセウスは、歌声に引き寄せられないよう自分の体を船のマストに縛り付けて無事故郷に着くことができた。寄稿文は、The future of its(Greek) economy is unwaveringly tied to the mast provided by the euro. と終わる。 警告を意味するサイレンは、セイレーンを語源とする。私たちは、セイレーンの歌声がギリシャがユーロ圏を離脱するサイレンとならないよう祈るとしよう。
蛙鳴蝉噪(スカート丈と株価編)
2012 SEP 27 8:08:39 am by mtsuzaka
パリコレが始まった。常に最新のファッションに敏感な(何を着てもオヤジファッションとなる)私にとってパリコレは、流行をチェックするだけではなく、Hemline theory による投資理論の検証を行う意味でも、重要なイベントなのだ。
Hemline theory は、1926年、ペンシルベニア大学ウォートン校の経済学教授George Taylor氏によって発表された。教授の研究によると、好況時には女性のスカートの丈が短くなり、景気が良くない時期は丈が長くなるという、感覚的にも分かりやすいセオリーだ。何事にも探究心旺盛な私は、東京でサンプル調査を行ってきたが、青山と新橋だけでは正確なサンプルを得ることは難しい。そこで、多くのHemline theory 研究者同様、パリコレをサンプルとして採用しているのだ。難解な数学を駆使してノーベル賞を受賞する学者や、オプションを売って利益を得たと虚偽の報告をする輩がいる魑魅魍魎な株式相場の世界において、Hemline theory は極めて明快だ。
2010年には経済を学ぶオランダの学生によって理論の実証レポートが発表された。Taylor 教授が示したように、スカートの丈と景気には相関があるというものだった。
但し、スカートの丈は、景気に対する先行指標ではなく、3年ないし4年程度の遅行指標であるとしたものだった。
にも関わらず、Hemline は先行指標として根強い人気を保っている。ビジネス・インサイダー誌は、今年2月に、ニューヨーク・ファッション・ウィークに出品した25人のデザイナーの作品を計測し、スカート丈が短くなったこと示して今年2012年の株価の上昇を予想した。サーチナ(searchina)5月16日のニュースが、中国では長いスカート丈を好む女性が増えていると伝え、中国の景気回復に懸念を示した。
今年10月、ニューヨークダウ指数は史上最高値に接近している。一方、上海総合株価指数は、2009年2月以来の最安値を更新した。日本の株式市場の今後は、颯爽と街を歩く女性の服装にかかっていると言っても過言ではない。
くだんの、ビジネスインサイダー誌は、Hemline theory の他にも様々な先行指標を紹介している。口紅やハイヒール、アスピリン インデックスなどもある。http://www.businessinsider.com/hemline-index-2012-2?op=1
正統派のテクニカルチャートも数多く、研究されている。しかし、絶対に当たるチャートも指標もない。相場を正確に予想する事はプロと謂えども無理なのだ。無理であるが故に、多くの理論とチャートがあるのだ。
街を歩く女性のスカートを観察して景気を予想するのも一案だが、迷惑行為として通報されると予想することは、さほど難しくない。
蛙鳴蝉噪(小倉版)
2012 SEP 24 14:14:07 pm by mtsuzaka
☆ 蛙 鳴 蝉 噪 ☆
2012 SEP 14 9:09:19 am by mtsuzaka
日本通と自称する友人のイギリス人は、日本人はとても親切だと信じている。
コンビニや百貨店の店員は何も買わなくとも、笑顔で接してくれる。
英語を使ってくれる(と異国の彼は思っている)。
女性は、旦那が仕事から帰ってくると正座して迎えてくれる‥
一部は正しい。
店で、服や靴を見てると、それは今年の流行ですよと頼みもしないのに説明してくれる。
店の中をぶらぶらすると、一緒についてきて試してみますかと誘いをかけてくる。
私は自分の中年の魅力のなせる業だと有頂天になる。
日本は本当にいい国だ・・・・。
フランクフルト(ドイツ全般だが)で買い物をする時の、順序はこうだ。
(1) 自分で商品を選ぶ
(2) (重くても大きくても)自分で商品をレジに持っていく
(3) 精算する
(4) 万引き防止タグをはずしてもらう
(5) 商品を受け取る
(6) 「Danke」と言う
(7) 「Bitte」と店員がいう。通常、ここで笑顔が確認される。
実に効率的なシステムだ。おそらく、あと10年たってもこの順序は変わらないと確信している。日本なら非生産的な動作や「xxもいかがですか」などの潤滑油的な会話がはいるかもしれないが、ここでは消費行動に直接影響を与えない行動は、見事に合理的に抑制されている。
(6)と(7)の順序も変わらないと思うが、私の孫がドイツに行く頃までには、ひょっとすると正常化するかもしれない。
そんなドイツのある寒い冬の夜、私と妻が街の中心部にあるレストランに向かう途中、彼女のコートにトマトケチャップをかけられたことがあった。小心者の私は、びくびくして歩くからケチャップだろうが醤油だろうが、かけてやろうという輩がいると、すぐに気がつくが、元来育ちが良く、性善説で育った彼女は、人は自分に対しても嫌なことをするわけがないと信じきっている。
レストランでコートを預けた時にやや太めのレスラータイプのウエイターが、悲しそうな顔をして汚れたところを指し示したので気付いた。
彼は、何も言わず厨房に行き、濡れたタオルを持ってきた。 そのまま、予約の札をどけて、テーブルの上にコートを広げ、一生懸命ケチャップを拭いてくれ(というより、ケチャップを擦り付けているように見えたのだが・・・)。
近くのテーブルでご主人と食事をしていたご婦人が(これまた大柄ドイツ人)ウエイターからタオルを奪い取り、女性らしい手つきで見事にケチャップ痕を綺麗にしてくれた。
結果に満足した彼女は、にっこり笑いながら(きっと笑っている顔だと思ったが)妻に、コートを手渡してくれた。
レストランにいた5〜6組の客は、ケチャップをふく彼女の優雅な手に注目していた。作業が終わった後、ほっとしたかのように食事を再開した。何人かは、妻に向かって笑顔で話しかけていた。
マニュアル化された笑顔や言葉の薄っぺらさを白々しく思う時があるのは、生来の私の疑い深い性格のせいなのか、深い洞察力に裏づけされたものなのかは分からない。
薄っぺらな笑顔はほとんど印象に残らない。
マニュアル化された接客は心に残らない。
だから、フランクフルトのご婦人やウエイターのオヤジのジャガイモみたいな笑顔は、20年近くたった今も記憶に残るのだ。
新聞報道によると、「近いうち」に衆議院が解散され総選挙が実施されるかもしれない。
街には笑顔の紳士淑女のポスターがそこかしこに満ち溢れる季節がやってくる。
どの人の笑顔が1年後に印象に残っているのだろうか。