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☆ 蛙 鳴 蝉 噪 ☆

2012 SEP 14 9:09:19 am by 西 牟呂雄

日本通と自称する友人のイギリス人は、日本人はとても親切だと信じている。
コンビニや百貨店の店員は何も買わなくとも、笑顔で接してくれる。
英語を使ってくれる(と異国の彼は思っている)。
女性は、旦那が仕事から帰ってくると正座して迎えてくれる‥

一部は正しい。
店で、服や靴を見てると、それは今年の流行ですよと頼みもしないのに説明してくれる。
店の中をぶらぶらすると、一緒についてきて試してみますかと誘いをかけてくる。
私は自分の中年の魅力のなせる業だと有頂天になる。
日本は本当にいい国だ・・・・。

フランクフルト(ドイツ全般だが)で買い物をする時の、順序はこうだ。
(1) 自分で商品を選ぶ
(2) (重くても大きくても)自分で商品をレジに持っていく
(3) 精算する
(4)  万引き防止タグをはずしてもらう
(5) 商品を受け取る
(6) 「Danke」と言う
(7) 「Bitte」と店員がいう。通常、ここで笑顔が確認される。

実に効率的なシステムだ。おそらく、あと10年たってもこの順序は変わらないと確信している。日本なら非生産的な動作や「xxもいかがですか」などの潤滑油的な会話がはいるかもしれないが、ここでは消費行動に直接影響を与えない行動は、見事に合理的に抑制されている。
(6)と(7)の順序も変わらないと思うが、私の孫がドイツに行く頃までには、ひょっとすると正常化するかもしれない。

そんなドイツのある寒い冬の夜、私と妻が街の中心部にあるレストランに向かう途中、彼女のコートにトマトケチャップをかけられたことがあった。小心者の私は、びくびくして歩くからケチャップだろうが醤油だろうが、かけてやろうという輩がいると、すぐに気がつくが、元来育ちが良く、性善説で育った彼女は、人は自分に対しても嫌なことをするわけがないと信じきっている。

レストランでコートを預けた時にやや太めのレスラータイプのウエイターが、悲しそうな顔をして汚れたところを指し示したので気付いた。
彼は、何も言わず厨房に行き、濡れたタオルを持ってきた。 そのまま、予約の札をどけて、テーブルの上にコートを広げ、一生懸命ケチャップを拭いてくれ(というより、ケチャップを擦り付けているように見えたのだが・・・)。

近くのテーブルでご主人と食事をしていたご婦人が(これまた大柄ドイツ人)ウエイターからタオルを奪い取り、女性らしい手つきで見事にケチャップ痕を綺麗にしてくれた。
結果に満足した彼女は、にっこり笑いながら(きっと笑っている顔だと思ったが)妻に、コートを手渡してくれた。
レストランにいた5〜6組の客は、ケチャップをふく彼女の優雅な手に注目していた。作業が終わった後、ほっとしたかのように食事を再開した。何人かは、妻に向かって笑顔で話しかけていた。

マニュアル化された笑顔や言葉の薄っぺらさを白々しく思う時があるのは、生来の私の疑い深い性格のせいなのか、深い洞察力に裏づけされたものなのかは分からない。

薄っぺらな笑顔はほとんど印象に残らない。
マニュアル化された接客は心に残らない。
だから、フランクフルトのご婦人やウエイターのオヤジのジャガイモみたいな笑顔は、20年近くたった今も記憶に残るのだ。

新聞報道によると、「近いうち」に衆議院が解散され総選挙が実施されるかもしれない。
街には笑顔の紳士淑女のポスターがそこかしこに満ち溢れる季節がやってくる。
どの人の笑顔が1年後に印象に残っているのだろうか。

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