「ザ・ロイヤル・ハント・オブ・ザ・サン」インカの黄金伝説と共に
2014 MAY 18 5:05:34 am by 阿曾 靖子
今月のテーマ「黄金」で記憶が蘇りました。
「ザ・ロイヤル・ハント・オブ・ザ・サン」
私にとって忘れ得ぬ衝撃を受けた名舞台ベスト3に入る名作です。
1985年パルコ劇場 にて
ピーター・シェーファー作 テレンス・ナップ演出
伊丹十三翻訳 山崎勉 主演
太陽を父とする帝国2400万人を従えるインカの王と
粗野な成り上がりスペイン将軍のピサロ
ならずもの167人でその太陽を生け捕りにしてしまうという
インカ帝国征服を主軸にした作品なのですが
作者のピーターシェーファーは「エクウス」「アマデウス」「ブラック・コメディ」等
20世紀のシェークスピアと賞され、私の観劇体験の中でも
この劇作家は突出しています。
巨大な日輪と縁取る花弁が印象的な装置の中で
驚きは当時まだ「演劇集団 円」の研究生だった
渡辺謙の鮮烈なデビューの存在感でした。
「アマデウス」におけるモーツアルトとサリエリのごとく、
この芝居では山崎勉と渡辺謙の対立する二人の主人公の
葛藤の上に構築されているのですが、このインカ帝国の王
アタウアルパのスケール感に、名優山崎勉も食われてしまう程の
名演でした。(事実そういう「役」でもあるのですが)
王の自由を得る為に、民が2ヶ月をかけて国中の黄金を運び込み
巨大な部屋を埋め尽くすという場面を今月のテーマ「黄金」で
懐かしく思い出してしまった訳です。
(長さが22フィート、幅が7フィート、黄金は高さ9フィートの
しるしまで積まれることになった、とあります)
ベスト3に入るもう一つの「アマデウス」は
サンシャイン劇場にて、確かこちらは1982年の日本初演時
あるいは翌年の最初の再演時、
(この作品は1979年にトニー賞を受賞しています)
主演の二人は松本幸四郎と江守徹でした。
終演後、確実に観客が衝撃で静まり返った様に感じたこの時の
感覚は、芝居にかかわる者として幸せと絶望感が
入り混じったような忘れ得ぬ体験でした。
演劇の悲しさー 名作名演の数々が「生もの」ですので
ご紹介していても悔しさがありますが
優れた作家の作品はまたどこかで上演されるかもしれませんので
ぜひ機会があれば見ていただきたいです。
伊丹十三訳のこの作品「ザ・ロイヤル・・」のあとがきに
「・・・・このような文化的、パラダイム間の葛藤は、実は手品の仕掛けに過ぎず
シェーファーはこの仕掛け使って、より深く、より根源的な、
人間そのものに根ざす対立へと観客を導いてゆく。
愛と憎しみ、希望と絶望、信頼と裏切り、純粋と打算、崇高と汚辱
祈りと呪い、偉大と矮小、純真と卑劣、許しと拒絶、連帯と孤独、等の
対立を、グロテスクな事件の連鎖のうちに綯いまぜて、
シェーファーは胸の詰まるようなやり方で、人間という不可解な縄をあざなって
ゆくのである。」と評しています。
劇書房ベストプレイシリーズ等、翻訳劇の戯曲として
作品に触れることは可能です。
Categories:演劇
2 comments already | Leave your own comment
東 賢太郎
5/19/2014 | 1:00 AM Permalink
インカ黄金伝説はどことなくそそられますね。見てみたいものです。アマデウスは映画しか見てません。かなり強引な決めつけですがそれなりに面白かったです。伊丹十三。なつかしい名前です。むかし彼の本を何冊か気に入って真剣に読んだ時期があって、彼のダンディズムに僕は影響を受けています。彼のねこ好きは筋金入りです。もっと生きていただきたかった。
阿曾 靖子
5/20/2014 | 5:18 AM Permalink
伊丹さんは猫好き・・・そういえば伊丹映画にもネコがしばしば
効果的に出てきます。
この舞台の前年に「お葬式」、同年に「たんぽぽ」が公開され、
2年後大ヒットの「マルサの女」へと続き、まさに山崎勉とのコンビネーションが最潮期に達していたころでした。
纏わりつくようなサックスのテーマ曲とユニークな宮本さんの
ヘアスタイルも印象的で、以降しばらく伊丹映画にもはまりました。