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チャイコフスキー第1協奏曲

2026 AUG 12 14:14:56 pm by 西村 淳

Youtubeを見ていたらバレンボイムが弾くチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 セルジュ・チェリビダッケ(以下チェリ)指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団との共演(1991年10月ミュンヘン、ガスタイクでのライヴ映像)が出てきた。
界隈では有名らしいけれど、この映像の存在は知らなかった。そもそもバレンボイムは指揮者としてもチャイコフスキーはあまり熱心ではない印象だったので、この大仰な協奏曲なんてきっと眼中にないだろうなと思っていた。ところがどっこい、えっ!そうなんだ!チェリとだったらチャイコのコンチェルトも弾いてしまうんだと仰天した次第。ただ両者は遡ること2年、1989年9月16日、インゴルシュタットのアウディ工場で同社の2700人の従業員を前でも同曲を演奏していた。
つまらない演奏だったら最後まで観るなんてことはまずないが、久しぶりに一気に最後まで。まずチェリの指揮、そしてチェリのオーケストラの精度の高さはどうだろう。管と弦のバランスの完璧さと精妙な音程の確かさ(ピュア!)から生まれる風通しのいいサウンド。絶対に埋もれない弦楽器群。実はこの映像が撮られる前年、チェリとミュンヘン・フィルの来日を武蔵野市民文化会館の大ホールで聴いている。チェリは舞台に登場してもホール全体を完全な静寂が支配するまで棒を振り降ろさない。息を飲むような緊張感が座席にも伝わった。当時の音の印象が蘇った。チェリの棒はとてもわかり易いけれど、仮に私がプロの奏者だとしたら恐ろしくてこのオケだけには入りたくないなと記憶が遡る。
因みに、1990年10月13日 当日のプログラムはブルックナーの交響曲第7番 ホ長調 1曲のみ。

肝心のバレンボイムのピアノ。ゆったりしたチェリのテンポを独奏が始まると一気に自分のもとに引き寄せ、その後はものすごい集中力でこの曲を弾き切る。再弱音から轟音が響き渡る強奏はゴージャスだけど、真骨頂はppの表現力か。オーケストラとの対話もさすが、これほど音楽的な「チャイコン」はない。
調べてみるとちょうどバレンボイムはこの時期、乗りに乗っていてバイロイトでは1988年〜1992年に伝説的な『ニーベルングの指環(リング)』全曲ツィクルスを指揮をしているし、1991年はモーツァルト没後200年の記念イヤーでベルリン・フィルとモーツァルトの主要なピアノ協奏曲を弾き振り演奏するプロジェクトを成功させている。彼がピアニストとして活躍を始めた当初、天才チェロ奏者デュ・プレとの結婚の違和感と無慈悲なその後の彼女の悲劇に面白くない感情を抱いた一人だった。しかしその後の活動は私たち自身の心の狭さを思い知らされた。さすが、フルトヴェングラーに認められた巨大な才能だ。
伝え聞くには現在はパーキンソン病を患い、音楽活動はかなり制限されているようでもう生演奏に接する機会はないだろう。遺してくれた感動は永遠だ。

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