Soner Menbers Club No43

Since May 2014

シューマンのアンダンテと変奏 Op.46

2025 NOV 4 13:13:08 pm by 吉田 康子

シューマンのアンダンテと変奏を11/8に弾きます。

これは2台ピアノのレパートリーの1つとして取り上げられることがありますが、もともとは2台ピアノ、2台チェロ、ホルンという変わった組み合わせです。
シューマンは何故こんな編成にしたのか?モーツァルトのお友達のホルン奏者ロイドゲープみたいな存在が身近に?「アダージョとアレグロ」というホルンの伸びやかな旋律が魅力の曲もありますが、ホルン、特にナチュラルホルンの音色が好きだったのでしょうか?結局のところ理由は不明です。しかもチェロが2台も一緒・・・ヴァイオリンでなく何故?と。

試作段階でクララ・シューマンやメンデルスゾーンからの評価も演奏効果という点で今一つだったようです。気持ちが折れたのか2台ピアノ版に修正してそちらに作品番号を付けたとか。でもオリジナルの方が断然素敵なのに・・

この曲との出会いは20年ほど前のことでした。シューマン独特の甘く夢見るような美しい旋律に惹かれて是非弾きたいと思いながらも、この編成ゆえメンバーが揃わす2回も挫折。練習計画をしたのに予定が合わないとか、演奏者が見つからないとか、で諦めかけていたところでした。今回は3度目の正直ということで、ようやく実演にこぎつけました。

2台ピアノ版であれば実現は可能であっても、やはり同じ音色も楽器の重なりには私はあまり魅力を感じません。その昔、ライヴ・イマジンでサンサーンスの「動物の謝肉祭」を演奏しましたが、これとて他の弦楽器、管楽器がいればこそのアンサンブルです。その時には、プーランクの「シテール島への船出」ミヨーの「スカラムーシュ」も弾きましたが、それらは遊び心あふれる小品であって、作曲家が真面目に真っ向から取り組んだ曲には思えません。やはり音域が広く1台で完結しがちなピアノという楽器は同時に2台もいらないのかもしれません。

また現実的には2台のピアノが使えるホールが限定されるという事情もありました。公共ホールには一点豪華主義志向のためか2台のピアノが使えるところが限定されます。知っている公共ホールの中では五反田文化センターには新旧2台のスタインウェイがありますが、区民ではないので抽選倍率が高くて予約が難しいです。今回のすみだトリフォニーにはスタインウェイとヤマハがありますが、本来であれば同じメーカーと機種、コンディションであるべきでしょう。さらに練習となると、ピアノ2台があって、その上に他3人が演奏出来るスペースがある場所はとても限定されます。

もう一つこの曲を長い間敬遠してきた理由は2台のピアノがほぼ同じような旋律を弾く、という点にあります。それって各奏者の力量の差が一目瞭然です。私と似たり寄ったりのピアノ弾きには差を付けられたくない、というつまらない意地もあって共演者の選択には難しいものがありました。

今回は私の師匠が相方を務めてくれるという幸運に恵まれました。持っている技量も出てくる音も断然違う、そんな師匠の胸を借りる気持ちで臨めるのは何て心強いのだろう!という思いをひしひしと実感しています。私自身は目先の自分の音に精一杯なのに、師匠は自分の持ち分を当たり前のように弾き、他の奏者に目配りをしながら必要な音を確実に示す、次のテンポや曲想を皆に届ける・・・そんな様子を傍で見て聴いて感心しながらも教えられる事が沢山あります。本来であれば、私がやるべき役割の筈です。

you tubeでアルゲリッチが色々な人と演奏しているのを見かけます。これは、バレンボイムとの演奏。さすが大御所2人だけあって自在に楽しんで弾いている様子はついつい引き込まれてしまいます。

この特異な編成ゆえか、商業的に採算が取れないのか、生の演奏機会が少ないようです。長年温めてきたこの曲の魅力を伝えるべく練習を重ねて本番に臨むつもりです。どうぞお楽しみに♪

旧奏楽堂の抽選会

2025 OCT 5 17:17:45 pm by 吉田 康子

10月1日の朝に上野の旧奏楽堂に行ってきました。その日に限ってと思いたくなるような朝から本降りの雨。建物自体は上野駅の公演口から徒歩10分ほどかかる東京都美術館の裏手にあり、駅からも遠い感じがします。

その日は来年10月のホール予約の抽選会がありました。ここの利用可能な日は行事の無い土曜日のみ、来年10月の空きは4日間だけでした。
多摩地区の自宅から朝の通勤ラッシュの中を2時間近くかかる行程ですが、それでも8:40には到着していなければ抽選会に参加出来ません。

いつも使うホールが行事で3ヶ月間使用不可となり、もう一箇所別のホールは倍率15倍になりました。地元民の優先枠に入れないアウェー状態での当選は程遠い確率です。来月の11/8、そして来年4/4は会場を確保してあるものの、その後の公演の為に先月申し込んだ来年9月分は全て落選でした。

八方塞がりの状況の中、以前使った事がある旧奏楽堂を思い出しました。ここの運営管理は緩いのですが、贅沢は言っていられません。誰でも平等に申し込める事だけでも有難いです。くじを引く一瞬の為に遠方から出向くにはあまりにも大変な感じがしましたが、一縷の望みをかける気持ちで向かいました。

ここで公演をしたのは2020年、コロナ直前の2月なので、上野は5年ぶり。駅や周辺の建物も様子が変わり時間の流れを実感しました。

建物の前には開門を待つ人達が既に6名ほど。10月はハイシーズンのせいか最終的に普段より多い20名が集まりました。4つの当選枠に20人?!5倍の競争率です。う~ん、キビシイなぁ、とタメイキ。ダメモトだからと自分に言い聞かせつつ次第に緊張が高まります。

秒読みで9時きっかりに扉が閉められて、これからの流れと注意事項の話の後に早速くじ引き開始です。金属のお盆に裏返しにシャッフルして並べた番号札を順番に取るという何ともアナログな方法。1回目の緑の札はクジを引く順番を決める予備抽選、そして緑の番号札の順番に2回目の本抽選で赤い札を引き、その順番に好きな日の予約を取れる仕組みは変わりないようです。

要するに赤い札の4番までを引き当てないと他は全てハズレです。10年ほど前に予備抽選が1番だったのに本抽選はビリに近い結果だったことが頭をよぎりました。ドキドキ・・

私は予備抽選の緑の札は5番でした。程よい番号で幸先が良いなと思いながら、本抽選の番号札を引くと・・・なんと2番でした!!凄い!やった、勝った!!!何という強運!執念というか強気というか。よくぞ引き当てた!と自分を褒めまくりました。

羨望の眼差しを背中に感じながら予約手続きを終えました。3,10,24,31日の選択肢の中から、1番クジの人は24日を、そして2番目の私は3日を選択。これでやっと59回目の公演会場を確保出来ました。
よかったぁ・・やっぱり来てよかった!という気分になる自分はゲンキンなものです。ようやくホッとしました。

公演開催は始めに会場ありきだと考えています。日時と場所が決まってこそ実現可能になります。10年ほど前はあちこちの抽選会によく行きました。箱の中から番号付きのボールを取り出す、商店街の福引のようなガラガラを回す、おみくじのような棒を引く形もありました。
コロナ以降はコンピューター抽選が主流となり直接現地に行かなくよい分だけ楽ですが、どういう基準で当落が決まるのかは見えないのは、今どきの選挙同様に不透明感は拭えません。大変ですがアナログなりの良さがあるように思います。

結局のところ「くじ引きに行って当たったよ!」というだけの内容ですが、運営を続けるためにはオモテに見えない苦労があることも伝えたいと思いました。
やっとのことで手に入れた会場ですから、是非ともここでいい演奏がしたいと改めて思います。

雨の合間の東京国立博物館前広場は、かつての噴水が無くなってがらんとしたように見えました。それでも行きとは違った晴れ晴れとした景色に見えました。

布団の中から出たくない

2025 JAN 13 22:22:34 pm by 吉田 康子


布団の中から出たくない
https://youtu.be/s4DxPeLNVuw?si=WEXovnpodFfsdU4Q
文字通りの曲名で昨年冬にyou tubeで見つけました。寒くなると思い出すお気に入りです。朝、目が覚めて「暖かい布団から出たくない」、ただそれだけの他愛の無い歌ですが共感を呼ぶ歌詞と大袈裟で演歌のような歌いっぷりが面白いです。この「打首獄門同好会」という物騒な名前もインパクトがありました。

ペンギンといえば、坂崎千春さんデザインによるJRのSuicaペンギンが有名でJRの駅で見かけたことがあると思います。モデルはアデリーペンギン。たしか絵本では「スイッピ」という名前でした。

一方この「コウペンちゃん」は西武鉄道で使われていて、西武池袋線の石神井公園駅に「石神井コウペン駅」と書かれていたりするノリのよさも。モデルは皇帝ペンギン。
相手のことを否定せず褒めてくれる「肯定」という意味合いも重ねているようです。当たり前の事をしても「えらい!」と褒めてくれるので、現代の疲れた社会人に癒しを与えてくれるので幅広い層に人気のようです。2019年2月時点で50億円規模の商材になっているとか。

丸くて点目の動物は「かわいいキャラクター」の大きな要素のように思います。北海道の「シマエナガ」や「すみっコぐらし」も典型のように思えます。目が黒だけだと見ている人により色々な表情に見えるのに対し、黒い部分に光の煌めきを表す白い点があるとピカチュウやハム太郎のような「ウルウル」とした漫画のような印象になります。

「コウペンちゃん」も最初見た時は、可愛いぶって媚びている印象でしたが「布団」の歌とのんびりした動きに好感度が上がりました。

ライヴ・イマジン55

2025 JAN 8 19:19:15 pm by 吉田 康子

上記の公演日は2月11日(火祝)です。葉書には月曜祝日になっていますが火曜日です。大変申し訳ありませんでした。お詫びして訂正いたします。

「たまには投稿して下さい」とメールを頂いて自分の前の記事を見たら、昨年5月でした!なんとまぁご無沙汰したままだったのを改めて実感。

昨年夏以降は私事で怒涛のような日々でした。
振り返ってみれば10月のラプソディ・イン・ブルー本番も何とか乗り切った感じがしています。さて、そうしながらも新年を迎えて相変わらず目先の曲に追われる日々・・次の本番はもう1ヶ月後に迫っています。毎度懲りない奴だと呆れつつも時間に追われて練習しています。

次は「循環形式」と題してフランクの弦楽四重奏曲とショーソンのピアノ四重奏曲を取り上げます。循環形式とはいくつかの主題や旋律を全曲を通して登場させて統一感を持たせる手法です。どちらもマイナーな曲ながら「長年温めて来た大切な曲」です。

私はショーソンの方だけの演奏、コンセールは2回弾いたのに、これは初めてです。ずっと気にかかっていたものの「大変そうだし」と敬遠していました。この曲を初めて聴いたのは20年以上前、冒頭の東洋的な旋律が印象的でした。このエキゾチックな旋律が増三和音の連続に彩られ半音ずつ変わっていく様にショーソンの巧みな手腕を感じます。

「もう後回しには出来ない」と覚悟しての挑戦でしたが、やっぱり難しい。頭の中で解っていても耳が納得してないと、その音を捉えることが出来ないもどかしさがあります。終楽章は冒頭の旋律が再登場して大団円のごとく締めくくります。ここに至るまでの紆余曲折を何とか自分のものにしてこの美しく感動的な曲を伝えたいと日々格闘中です。

こちらは、ジャン・クロード・ペヌティエがピアノを弾いた演奏。
聴いている分には易しく聞こえるのに・・
https://youtu.be/DbUBXtLZ28c

上記の葉書の図案はフランクやショーソンと同時代のクロード・モネの1871年作「かささぎ」という絵画です。今の気候に近い雪景色に惹かれました。

玉の肌シャンプー

2024 MAY 22 14:14:22 pm by 吉田 康子


今迄は安い合成シャンプーを使っていましたが、石鹸系が頭皮や髪の健康に良いと聞いて切り替えを考えました。昔、生協で買った石鹸シャンプーの使い心地が悪くてすぐに止めてしまったことがあります。あれから随分経つので今どきの製品は随分と改良されているだろうと期待も。

石鹸シャンプーと検索すると「オーガニック志向でない人はお呼びじゃない。良さが解る人だけでいい」みたいな排他的な雰囲気を醸し出している製品もあり、敷居を高くされている印象のところもありました。そうは言っても製品のクオリティを伝えるには見た目や印象も大きな要素で、先ずは買って使ってもらえないと始まらないのにと残念に思いました。まぁ昔ながらの会社にはあるあるですね。

私はガチの自然派ではないので成分比較までしていませんが、いくつかの製品も試してみて、TAMANOHADAが一番気に入りました。そういえば錦糸町のすみだトリフォニーの近くに本社があったなという記憶も。だいたい「玉の肌」という名前がレトロな響き。それゆえ「TAMANOHADA」にしたのかも?と。HPを見たら、なんともお洒落な雰囲気にビックリでした。また製品自体の見た目が素敵で、スタイリッシュな容器に入っていて気分が上がります。このあたりは、他社に無い消費者寄りの姿勢が感じられて好感が持てました。これならプレゼントにも使えます。

香りは6種類あって迷うところ。検索するとアメニティーズという名前のお試し用があったので早速に使ってみました。高さ7センチほどの小瓶、中身は80mlです。ヤクルト1本が100mlなので、それより少なくてシャンプー、コンディショナー、ボディソープの3本セットで¥1650は結構なお値段。ローズやラベンダーのような甘いフローラルな香りは苦手でフルーティなものやグリーン系の爽やかな感じが好みなので、オレンジ、ガーデニア、フィグの3種類購入。香りというのは個人の好みが大きいので文章で説明されても実感出来ないし大きな容器のものを買って失敗したら悲惨ですから。

オレンジは溌剌としてスッキリとした印象。思わず「わぁ、いい香り!」と言いたくなるような明るい香りが立ち上って初夏の果物を連想させます。ガーデニアは割と和風で控えめな昔風の香りで品のいいおばあちゃんの着物を連想させるような樟脳とか匂い袋とかを地味にした感じ。嫌ではないし邪魔にならないけどインパクトも少ないです。ガーデニアはクチナシのことだと後で知って納得。フィグはストレートにツーンとくるような現代的な感じがしました。どの香りも柔らかで上品、洗い上がりから暫くは匂い立つような残り香もしばらく漂って消えていく心地良いものでした。また蓋を開けて嗅いだ匂いより実際に使った時の方が身体に馴染む感じは香水と同じですね。

肝心の使い心地ですが、洗い上がりのキシキシ感が思ったより少なくコンディショナー後には気にならなくなります。やはりシャンプーとコンディショナーはセットで使うのが不足分を補いあって良さそうです。従来の合成シャンプーは酸性寄りで髪表面のキューティクルが傷んだ状態をシリコンで覆って滑りをよくしているようです。そこに弱アルカリ性の石鹸シャンプーを使うと高い洗浄力で毛穴が開き摩擦が起きるので髪が軋むとか。暫く使っていると髪自体が健康になって本来の滑らかさになる様子は「弱アルカリ性の温泉で肌がつるつるになるのと似ている」という例えがありました。

使った人のレビューとして、ヘアワックスが落としやすい、洗い流した後に身体や床がヌルヌルしない、泡切れがよい、背中のニキビが減った、そのまま身体も洗えて便利、そんなレビューも見かけました。
昭和のお爺ちゃんやお父さんは、頭も体も固形石けんで一気に洗ってしまう人が多くいましたが、それはとても自然なことだったのかもしれません。そういえば私も長いストレートの髪だった時には椿油をシャンプー後にお湯に数滴たらして洗髪の仕上げに使っていたことを思い出しました。これも昔ながらの保湿ということだったのでしょう。今になってようやく納得しています。

 
最近のお気に入りということで自宅用にはオレンジの香りの大きな容器のものを買いました。丸い石鹸や鯛の形の石鹸も魅力的です。これまでは日用品としてあまり気に留めることもなかったものですが、楽しみが増えた感じがして嬉しいです。来月会う予定の友人には小さい容器のセットをプレゼントしようと思っています。

クーペルヴィーザー ワルツ

2023 NOV 19 21:21:31 pm by 吉田 康子

昨日「クーペルヴィーザー ワルツ」の楽譜を入手しました。
(Universal Edition UE 14930 SCHUBERT KUPELWIESER – WALZER D Anh.Ⅰ 214 aufgeschrieben von Richard Strauss」クーペルヴィーザー ワルツ D Anh.(補遺)Ⅰ 214 」。

表紙にはシューベルトの肖像、裏には画家クーペルヴィーザーが描いた絵も添えられています。(中央で左手をあげているのがクーペルヴィーザー、ピアノの前に座っているのがシューベルト)
これは1826年にシューベルトが友人であるレオポルド・クーペルヴィーザーとヨハンナ・フォン・ルツの結婚式に贈った曲で、それが聴き覚えで語り継がれ1943年1月ウィーンでリヒャルト・シュトラウスが手書きでピアノ譜にした、といういわくつきの曲です。
 
この楽譜には通常の印刷譜とファクシミリ版の両方が収録されていますが、聴き覚えで語り継がれたものとして、どこまでリヒャルト・シュトラウスが介入したのかはわかりません。自筆譜があるわけでもなく、そのあたりの事情は不明です。そのためか楽譜の冒頭にはシュトラウスの名前が併記されています。

32小節の小さな曲。実際に弾いてみてやはり変ト長調の穏やかな温かみを感じます。25小節目で急に転調して僅か2小節で元の調に戻るのも意外な展開ですが、驚いたのはダカーポで冒頭に戻る時の和音。とても新鮮な響きでした。変ト長調というフラットが6つもついた調性は翌年の有名な即興曲集Op.90の第三曲と同じです。Op.90のほうにはト長調に編曲したリヒテルの演奏も遺されていますが、これでは優しさがどこかに行ってしまい現実的な音楽に聞えます。

作曲家、中村洋子さんのブログに詳しく述べられています。さすがの分析だと感心しました。

今回の楽譜入手は川口成彦さんのCD(Fuga Libera FUG744)を聴いてのことでした。

作曲家の生きた時代の楽器で演奏するのが一つの流れとなっている昨今、当時に近い音色で奏でることで、フォルテピアノによる繊細な音楽が語りかけてきました。

奇しくも今日は、シューベルト(1797-1828)の命日です。
調べてみるとニキタ・マガロフなどの多くのピアニストが当たり前のように弾いているこの曲を、私は今迄知らなかったことを恥じる気持ちもありますが、「知るは一時の恥、知らぬは一生の損」という言葉もあります。ようやく味わうことが出来たのはシューベルトからの贈り物かもしれません。

ライヴ・イマジン52が終わりました。

2023 AUG 15 15:15:53 pm by 吉田 康子

バルトークのピアノ五重奏曲は私にとって大きな曲でした。
ピアノ五重奏曲は、過去に度々弾く機会がありました。少しでも大勢との演奏をしたいと思っているので、ピアノトリオよりはクィンテット、管楽器よりは弦楽器というのが私の志向です。振り返ってみただけでも、シューマン、シューベルト、ブラームス、ドヴォルザーク、ショスタコーヴィッチ、フォーレ、フランク、ヴァインベルクなどを弾きましたが、バルトークが私には一番難しい曲でした。

これは今回のファーストヴァイオリン奏者も同じ感想だったと後で聞いて納得しました。それだけファーストヴァイオリンとピアノの負荷は大きいものでした。だからと言って他のパートが易しいか?という訳では決してなく、普段使わないような音域のパッセージを受け持ち、拍子や休符そして和声の難しさがあり、中核で全体を支える大変な役割を担っていました。曲の規模、難しさゆえに今迄で一番沢山の回数の合奏練習を重ねました。GWには合宿のように連日集まり一日中練習し、レッスンも何度も受けて地盤を固めていきました。

以下がピアノ譜の一例です。音の多さゆえに1ページ1小節という部分もあり、テンポが速いので譜めくりの間が無く、縮小コピー数ページ分を切り貼りしてあります。赤鉛筆の部分は譜めくりの方へのタイミングを示しています。

私は今迄も分不相応な難曲に挑戦してきました。「アマチュアの特権」とばかりに怖いもの知らずに挑戦することに意義を見出すような気持もありました。でも今回のように練習している途中で「この曲を全部弾ききれないのでは?」という不安に襲われたのは初めてのことです。厚かましい限りですが、それだけ大きな重荷に苦しみました。もともとR.シュトラウスを思わせるような甘い魅力的な曲想に惚れ込んだ曲です。絶対に諦めて手放したくない!という強い思いがありました。

バックハウスと競り合う程のヴィルトゥオーソである23歳のバルトークが自分の技量の限りをつぎ込んで世の中に打って出る気概を込め作曲。そして自身の演奏で初演。独自の作風を確立する前の最後のロマン派スタイル。循環形式、装飾的な連符、緩急の舞曲、果てはフーガまで沢山の要素を詰め込んでありました。ピアノ譜で1700小節、演奏時間約45分という大曲。初演後にコンクールにも出品したものの、長くて難しすぎるということで相手にされなかったとか。もう少し簡潔にして洗練されたら歴史的にもフランク以上の存在になっていたのかもしれません。それであってもバルトークでなければ作れなかった天才の作品であることは確かです。

本番は、ファッツィオリのフルコン。色の付いたフワフワと柔らかいタッチでしたが、私は硬質な響きが出せるスタインウェイの方が好みだなぁという印象でした。お客さんは私達の気迫に押された感じで、とんでもなく難しい曲というのがヒシヒシと伝わったようです。楽章間の切れ目がほぼ無く、続きでの演奏なので一気に最後まで走り抜けた感じでした。最後の音を弾き終わった瞬間、あっけにとられたような空気が漂い、その後こちらが一息つくとハッと我に返った様子になりました。
 

私自身の演奏の出来としては60点。これをあと1年練習したら70点には出来るかもしれませんが、自分の技量の絶対的不足ゆえに練習だけでは補えないものがあります。かといって安全運転で演奏出来る曲というのも選曲が限定されてモチベ―チョンも上がりません。やはり自分が弾きたい曲と聴く人に伝えられる演奏とのせめぎ合いになります。その辺りの加減を客観的に見極めるのが今後の課題です。今回のバルトークでほんの少しでも背伸びが身に付いたなら何よりです。

ライヴ・イマジン52 『響きあう落日』

2023 JUL 9 23:23:40 pm by 吉田 康子


ライヴ・イマジン52 『響き合う落日』
2023年8月11日(金祝)14:00開演 豊洲シビックセンターホール

ヴォルフ:イタリアンセレナーデ
ヴォルフ:「メーリケ歌曲集」より(弦楽伴奏版)
バルトーク:ピアノ五重奏曲

内田 明美子(1st ヴァイオリン)青山 千裕(2nd ヴァイオリン)
内田 吉彦(ヴィオラ)西村 淳(チェロ)
高山 美帆(ソプラノ) 吉田 康子(ピアノ)

早いもので、本番まであと1ヶ月となりました。あちこち難所だらけですが、弾けば弾く程にのめり込みそうになる魅力があります。楽譜を持っていたのに今迄何故この曲をやってみようとしなかったんだろう?とも。「私の最高傑作は次回作だ」というチャップリンの名言のような気概を持って本番に臨みます。

バルトークはお好き?

2023 MAY 22 16:16:07 pm by 吉田 康子

サガンの小説に「ブラームスはお好き?」というのがありましたが、私は「バルトークはお好き?」と訊いてみたい。以前の東さんの記事に「人はバルトーク派とストラヴィンスキー派に分かれる」という吉松隆説についての記載がありましたが、私も両方好きな欲張り派です。
しかも好きなものは「聴く」にとどまらず何とか味わってみたい。以前には「春の祭典」連弾版や「コントラスツ」「兵士の物語」という無謀な挑戦をして大変な思いをしました。それでも懲りもせずバルトークのピアノ五重奏曲を選ぶ自分に呆れていますが、やはり怖いもの見たさの気持ちをくすぐる麻薬のような魅力があるのかもしれません。

バルトーク ピアノ五重奏曲
あまり知られていないこの曲は、23歳1904年に作曲(SZ.23)されロマン派を思わせる曲想。初めて聴いた時にはバルトークらしからぬ甘ったるい長い曲という印象でしたが、改めて見直すとR.シュトラウスやワーグナーの匂いが感じられ、ジプシー風の旋律やリズムにバルトークの才気が散りばめられた魅力があります。
4つの楽章を通して弾き、全部で1700小節あまり。ピアノ譜で170ページ、演奏時間45分という長さゆえに演奏機会が少ないのかも。以前にDenijs Dille校訂のBudapest Editio Musicaの楽譜を手に入れて温めていましたが、ようやく日の目を見ました。

各パート全員が技術的に難しく皆で苦労している状態ですが、少しでも自分達の表現を盛り込めたらと思っています。本番は8/11のライヴ・イマジン52、今年の夏も熱いです。

リュビモフを聴きました。

2023 APR 20 22:22:02 pm by 吉田 康子

 

アレクセイ・リュビモフ ピアノリサイタル
2003年4月16日(日)16:00 蒲田御園教会 1921年製ベヒシュタインで聴くブラームスの夕べ
ブラームスの作品より7つの幻想曲 Op.116 、3つの間奏曲 Op.117 、ピアノ曲集 Op.118 、2つのラプソディOp.79 

アレクセイ・リュビモフのピアノリサイタルに行ってきました。リュビモフは古典から現代までの幅広いレパートリーを持つ世界的なピアニスト・チェンバロ奏者でロシア最後の巨匠とも言われます。シェーンベルクやシュトックハウゼン、ブーレーズ、リゲティなどの現代音楽の作品のソ連初演やフォルテピアノ奏者としてモーツァルトのピアノ・ソナタ全集やショパンのバラード全曲録音など多数あります。

この日の会場は、JR蒲田駅から徒歩10分程の小さな教会。ピアニストのベンジャミン・フリスが選定した1921年製ベヒシュタインでのブラームス晩年の作品の演奏を楽しみにしていました。リハーサルを終えて控室に戻ってきたリュビモフは小柄で華奢な印象。御年79歳ということもあって足取りもそろりそろりという感じ。ホロヴィッツの初来日を連想させるような雰囲気でした。リハーサルが終わった会場内では広島公演から随行している調律師が本番前の仕上げの調律を行っていました。木目の美しい楽器を珍しそうに眺めたり写真を撮る人が多数。自由席だったので私は客席最前列左側、演奏者の背中側から鍵盤を至近距離で見られる位置で聴く事にしました。狭い会場ならではの特権です。

いよいよ本番。スーツに着替えたリュビモフは、ピアノの前に座ると先程の頼りなさそうな様子とは打って変わってピシッと背筋を伸ばして弾き始めました。最初の一音から芯のあるしっかりとした響き。さすがロシアの巨匠!ブラームス晩年の渋くて地味で難しい曲ばかりのプログラムを生で聴く機会はなかなかありません。特有の厚みのある重い和音と深い低音が溢れ出しました。衰える事の無い確実なテクニックで時に激しく時には穏やかな曲想を素直に紡いでいたように感じました。「外連味」がないという点でこれらの作品はリュビモフにとても合っていたように思います。だから外連味たっぷりのホロヴィッツはこれらの曲は弾けなかったし、弾かなかったのだと。

アンコールは、最初にモーツァルトのソナタK311ニ長調の第3楽章ロンド。オペラの序曲を思わせるような多彩な音色で軽々と聴かせてくれました。そして盛大な拍手の後にはシューベルトの即興曲OP.90-3、D899。ロシアのピアニストはこの曲をよく弾きます。しみじみとした情感あふれる演奏に涙するお客さんも。そして最後にはアルヴォ・ペルトの「アリーナのために」。1枚の五線譜に手書きで書かれた短い曲。澄み切った音色の余韻が残りました。全てにおいて、さすがの演奏でした。

リュビモフは、2022年4月ロシアのウクライナ侵攻の最中に友人のウクライナの作曲家であるシルヴェストロフの作品を含むコンサートを開催。ロシア警察は「爆破予告が出ている」という口実でコンサートを強制的に中止させようとしました。警察官に取り囲まれる中、演奏中であったシューベルトの即興曲 作品90-2を最後まで弾き続けた動画は世界中に拡散しました。
皮肉にもウクライナ戦争が、一度は引退を宣言したにも関わらず、ロシアから脱出時に財産も年金もきっと失ったに違いなく、図らずも人前でまた弾かなければならなくなったのではと思います。

演奏の後には別室でワインやシャンパン、お茶と共にパンやケーキが振る舞われました。教会ならではの家庭的な雰囲気の中、歓談に花が咲きました。リュビモフが審査員を務めていた「ピリオド楽器によるショパンコンクール」入賞の川口成彦さんの姿も見られました。彼の活躍を見ていると、それぞれの作品が作られた時代の楽器で演奏するという姿勢が、常識になりつつある世界的潮流を感じました。

今回のリサイタルは、MCSという音楽家を支援する団体の力添えで実現したもの。そのおかげで諦めていたリュビモフを生で聴くことが出来ました。日本で次はいつ演奏を聴けるかわからないとても貴重な機会でした。

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