Soner Menbers Club No43

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グレーラーさんの本

2019 JAN 30 0:00:26 am by 吉田 康子

ルイ・グレーラー著、 雨田 光弘 絵、「ヴァイオリンはやさしく音楽はむずかしい 二十世紀楽壇の逸話集」という本を読みました。何だか聞き覚えのあるような名前でしたが、検索すると
ルイ・グレーラー(Louis Graeler 1913年 – 1987年)は、ニューヨーク生まれのヴァイオリニスト。クーリッジ弦楽四重奏団、クロール弦楽四重奏団などで活躍後、トスカニーニ率いるNBC交響楽団で活躍、シンフォニー・オブ・ジ・エアーのコンサートマスターを務めた。1960年に来日、日本フィルハーモニー交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、札幌交響楽団のコンサートマスターを務めた。とあります。

先ず、この本の装丁が印象的でした。ハードカバーでもなく文庫でもない、小学校の教科書みたいな表紙の感じと親しみやすい手触りが気に入りました。1985年の初版で増刷するにつれて、今では64刷になり以下のような別の表紙に変わっているようです。

たぶん口述筆記のような形で奥様である羽仁 結さん(羽仁五郎の娘で映画監督の羽仁進の姉妹)が日本語に訳したようです。私の手元にある本の最後には、訳者 暮良(グレーラー) 結子と書いてありました。だからでしょうか、ポツリポツリと思い出話をするような文章で当時のエピソードが語られています。

楽団員や指揮者の逸話、エルマン、ハイフェッツ、フォイヤーマン、クライスラー、トスカニーニ、ストコフスキー、モントゥ…同じ時代に生きた巨匠達も沢山登場します。こんな恵まれた立場にいた人が何故日本に来たのか?ニューヨークでの確立した社会的地位を捨ててまで来る価値が戦後混乱期の日本にあったのか、私には理解出来ないという気持ちが残りました。

それともうひとつ、雨田さんの挿絵が一般的にカレンダーなどでみかける猫の絵でないことも意外でした。水墨画に彩色した猫の絵が人気のようですが、私はそれほどのものとは思えません。たまたまチェロ弾きで絵が描けるという二刀流であることが、競合相手のいない隙間の業界でウケた印象がありました。この人がチェロ弾きでなくただ普通の絵描きだったら?猫が楽器演奏をしていなかったら?親から受け継ぐ才能は多少あったにしても、これほど人気にならなかったでしょう。やはり背景にあるストーリーがプラスアルファに作用してモノをいう今の風潮を感じました。むしろこの本の挿絵の方が余程暖かみがあってグレーラーさんの人柄まで伝わってくるようで、ほのぼのとしています。どうせ音楽系のジャンルで勝負するなら、なまじか猫に特化せず人物の絵をもっと描いて欲しいなと思いました。
   

また、この本の中で一番に印象に残ったのは、日本に来たグレーラーさんが「仕事を始めてみると、じきに私を必要とする事情がのみこめました。我々は演奏する音楽の中で生まれ育ち、人生をその中でして来ているのです。それは、先生から習い教わったものとは違います。それが私だけであることを知ったのです。」という文章です。

昔読んだパリ左岸のピアノ工房の中にも、主人公のご近所の奥さんでアマチュアのピアノ弾きの人の言葉に「音楽そしてピアノを弾くことは私の生活そのものなの」と語る言葉がありました。

歴史に裏打ちされた文化背景の違いを痛切に感じたものです。師匠から教わったものは「芸」の模倣であって芸術ではないです。グレーラーさんが日本に来て肌で感じ取った違和感は、そのまま日本での音楽の在り方を表しています。他愛のないエッセー集の体裁ですが、色々と考えさせられるヒントを貰ったように思いました。

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