Soner Menbers Club No43

Since May 2014

4番弾きました!

2022 SEP 14 16:16:47 pm by 吉田 康子

9/3ライヴ・イマジン50でベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を弾きました。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲については、2014年ライヴ・イマジン27で第5番「皇帝」を、2020年ライヴ・イマジン45で第1番を、どちらもラハナー編曲の弦楽四重奏との室内楽版でした。

最初に「皇帝」を弾いた時から私は落ち着いた大人の雰囲気の4番が一番好きでしたが、あまりにも壮大で立派、畏れ多い曲という印象でした。それでも4番と5番の楽譜を買って弾いてみましたが、弾けないところに付箋を貼っていったら4番は付箋だらけに・・・涙
結局その時には第5番「皇帝」を選択。名前が付いているだけあって有名で、一般的にウケが良く一番難しい曲だと思われているようでしたが、私には自分の苦手なパターンが少なく、解りやすい内容と共に聴き映えの良いお得な曲に思えました。よくもまぁこんな少ない素材でこれだけ派手なハッタリを聞かせられるものだとベートーヴェンの手法に感心したのが第一印象でした。

それから8年、50回目の公演の曲目を考えるのにあたり、アニバーサリーを祝うのに相応しい名曲として4番の選曲でした。演奏時間40分越えの大曲なので、他の曲との釣り合いが難しくプロオケのプログラミングでも苦労するようで演奏機会が少ないのも納得です。今回は弦楽四重奏にヴィオラをもう一人加えた編成の楽譜を少し前に入手して機会を伺っていました。当日の他の曲目が弦楽六重奏曲だったのでチェロ奏者も2人に。1人はオケ版のコントラバスパートを弾いて貰い、ピアノと弦楽器奏者6名という編成での演奏になりました。

実際に取り組んでみると実に堂々たる大曲。あまりの大きさに戸惑う気持ちで一杯でした。しかも頼りにしていた師匠がコロナ以来、対面でのレッスンを避けている様子。なんだか孤立無援の様相を呈して悲壮感が漂いました。私1人の力ではとても手に負えない、どうしよう?!この曲のレッスンが出来る人なんて、そんじょそこらに居るとは思えないし。最初はベートーヴェンのソナタ全曲演奏会をしているプロの中でも第一人者と言われるピアニストに教えを乞うことを考えましたが、コネもツテも無ければそう簡単には事が運ばないのが現実でした。大体において国内在住かも定かではないし連絡を取るだけでも難しそうでした。

でも「捨てる神あれば拾う神あり」の言葉通り、プロの演奏者として活動している人が身近に居ました!前の師匠と同じような経歴の方でしたが、私の中では演奏者という認識であって、指導者としての面に気づけずにいました。ダメモトで事情を伝えてお願いしてみたら、思いがけず快諾の返事!天にも昇る気持ちでした。しかも4番をオケと一緒に本番で弾いた経験もあるとのこと。何という幸運!ようやく道が拓けたという実感を得ました。その時点で既に本番が2ヶ月後に迫っていました。

実をいえば私自身が4月から7月末まで原因不明の頭痛、めまい、倦怠感に悩まされました。コロナにかかったか?ワクチン後遺症か?それとも何か大病でも患っているのか?と耳鼻科で検査したり、脳神経外科でMRIを撮ったり、人間ドックや鍼灸にも。何を調べても異常無し。体調だけでなく精神的にも病んでいて、時間は刻々と過ぎるのに練習に集中出来ないジレンマに悩まされ、苦しい日々でした。頭痛と眩暈を抱えながら歩く時も「フラつかないよう真っ直ぐしっかりしなきゃ」と気を付けていたせいか、傍から見たら不調が判らないようで、それだけに自分自身の意識とのギャップに大きな挫折感を覚えていました。

新しい先生の初回レッスンは3時間を取って貰いましたが、1楽章だけで時間切れ。2台ピアノで最初の数十小節を弾いたところで、私の問題点、不足する部分を確実に把握しての的確な指導はまさに「目から鱗」でした。各部分について「ここはこう考えているから、こういう練習をした」という自身の経験も踏まえての実践的な指導は説得力があり納得の連続。また弾く時の姿勢、腕や身体の使い方、指の運びなど、今迄誰からも指摘して貰えなかったことを次々とアドバイスしてくれました。私はこれまで何をやってきたんだろう?3歳からピアノを始めて音大まで出て苦節数十年、ずっと弾き続けてきたのにも何も知らない、解っていない事を痛感して茫然とするばかり。

今迄私は協奏曲のソリストは自己中でいいと思っていました。でもそれは独奏曲演奏の場合であって、協奏曲も相手あってのこと、常々共演者に伝えることに注意を払っている点で室内楽寄りのスタンスであるという認識を新たにしました。自分が弾くだけでなく相手を聴く、曲を受け渡す前に相手が判りやすいように示すという姿勢が大事であることを知りました。初回の合奏練習でロクに弾けなかった私に毎週根気よく付き合ってくれた弦楽器奏者の皆さんにも何より演奏で報いたい一念がありました。

結局それから本番までに4回レッスンに通いました。体調もようやく少しずつ回復してきたことも追い風になりました。新しい先生は演奏を仕事にしているプロの奏者でだけあって、出てくる音自体がとてもしっかりした響きがあって私とは雲泥の差。同じ楽器から何故?と思う程。安定した演奏技術が随所に聞こえ、曲に対する知識、和声や楽典的な基礎も相まって、さすがの実力を目の当りにしました。そして私が構えることなく話が出来る気さくな人柄であると同時に絶対に相手を否定しない、批判しない姿勢にプロ意識を肌で感じました。私が出来ないところや苦労している事についても確実な答えを返してくれる。具体的な励ましの言葉で自信を持たせてくれる。生徒に教える立場でもある私はそういう指導姿勢についても見習うべきだと頭が下がる思いでした。

本番一週間前の最後の合奏練習で、私は自分が弾きたいテンポを具体的にメトロノーム数字で示して弦楽器奏者の皆さんにお願いしました。もうこれ以上の背伸びは出来ない、そんな気持ちがありました。コンマスの方が本番当日のリハでキッチリそのテンポ遵守で支えてくれました。私の力不足ゆえにCDテンポとはいかず不本意であったと思いますが、私のテンポで残り一週間練習してきたとのこと、感謝の思いで一杯でした。

また歴代の名ピアニストの演奏を沢山聴きました。特に冒頭部分はバックハウスの演奏が素晴らしく印象的でした。ここだけを一晩中練習していたという逸話も。その後の部分はあまりにヴィルトゥオーソ過ぎてタメイキが出るばかり。また2楽章は若きバレンボイムとクレンペラーの演奏が素晴らしく、とてもゆっくりとしたテンポの中でのバレンボイムの旋律の歌わせ方は大いに参考になり私自身も取り入れてみました。

こうやって何とか本番に滑り込みました。「怯まないで、楽しんで」という先生の言葉に励まされ、コンマスをはじめ弦楽器奏者6人に支えられての覚悟の演奏でした。本番は独特の空気があります。私の弾く一音一音が会場の空気を染める、この緊張感がとても好きです。200名近いお客さんの中には私の生徒も聴きに来てくれていました。冒頭の静かなピアノ独奏で始まるこの4番は私にとって最高峰の曲です。こんな素晴らしい名曲を弾ける機会を存分に楽しもうという気持ちで臨みました。

本番では新しい先生の指導効果は至るところに表れて自信を持って弾けました。そして弦楽器の安定したテンポにより、周りを聴く余裕も持てました。大きな曲だけに練習が行き届かない部分もあり、悔しい思いが残るところもあります。そうであっても、それが今の実力。そう納得出来るだけの精一杯の準備をしました。私にとって特別の思いがこもった大曲を弾き切った時には、まさに感無量、熱い思いで一杯でした。

毎回本番が終わると自分への反省と記録の意味もあって、苦労話の記事を書いています。こうやって見直してみると懲りずにまた・・という気もしますが、他の誰にも出来ない経験だという自負もあります。私には書き並べる事が出来る知識が圧倒的に少ないので何かを評価したり考察は出来ない代わりに経験したこと、気持ちなどを書き表す形になります。それが共感を呼ぶこともあれば、興味が無い人にはつまらないだろうなとも思っています。

新しい先生は、私にとって一期一会ともいうべき出会いです。もっと早くであればと思えばキリがないですが、今より遅くなくてよかったと考えるべきでしょう。今後も引き続きの指導をお願いしました。教材は何が?との私の問いかけにも、不足点を補うべき最適な曲を次々と答えてくれました。これから気持ちを新たにして取り組みます。過去に思うように弾けなかった曲も、もしかしたら今後もう少しマシに弾けるかも?という希望も持っています。この歳になっても新しい事を学べるって何ともいえない幸せな気持ちです。

Categories:ライヴ・イマジン

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