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米国エネルギー事情の転換

2012 SEP 14 14:14:30 pm by 西 牟呂雄

経済成長をする上で最も重要な要素は人・資金・技術以外では、エネルギーと食料・原材料で有る事はご案内の通りです。
その内の一つであるエネルギーに関して、米国での状況が大きなトレンドとして転換し始めて来ましたので御注目頂きたいと思います。

嘗ての様に、自国の原油の生産が頭打ちしジリ貧に成って行くトレンドから、長期の生産回復更には過去最高更新も視野に入る様に成って来ました。この事は、米国に長期投資を考える上で非常に重要な要因であると考えます。

あるエネルギーコンサルタントによりますと、米国の原油・ガスの生産量は1972年にピークを打ちその後右肩下がりを続けて来ましたが、2004年頃から反転し始め、2020年には過去最高であった1972年のレベルを粗50年振りに上回るだろうと言う予測が立てられました。
 
この生産の転機になったのは、2004年頃に発見されたシェールガスの発掘、生産が大きな要因となったのはご存知の通りです。
シェールガスの発掘は、元々は原油発掘の技術を応用したもので、それほど画期的なものでは無く一種のコロンブスの卵的な発想で試した所予想以上に上手く行った様です。 

米国の油田発掘の歴史を簡単に申し上げますと、1902年頃に陸上油田開発が始まり1970年代前半頃にピークを打ちました。
その頃から大手石油会社は、海洋油田発掘にこぞって方向転換し、その後はどんどん海中深く掘ることに拠り生産を賄ってきました。
一方、見捨てられた陸上油田地域は中小の油田発掘業者が取り残された状況になり、残った業者は安く放置された土地をリースしながら知恵を出して地道に発掘していたのです。 その後、2004年頃に彼らの努力が実りフラッキング法と呼ばれる様な発掘手法で大きなシェールガス田を発掘する事に成功したのです。
その様な大きなガス田を発見した中小の開発業社を見て、大手石油会社は資金力にものを言わせてそれらの権益や会社そのものの買収に動き始めており、今後も同様の動きが予想されます。

フラッキング法は、大量の水と化学品を使って発掘する事から環境破壊、具体的には地下水の汚染等が危惧されており、特に住宅密集地が近くにある様なペンシルベニア州やNY州からの反対論が出ています。 しかしながら、天然ガスは原油換算で現在の原油の4分の1程度と言う価格の安さと、米国エネルギー消費量の200年分と言われる様な非常に豊富にある埋蔵量から外国(特にOPEC)からの原油の輸入を減らし米国のエネルギー安全保障上有利に成る等の理由から発掘推進派の声は強まっております。 最近では、NY州の環境保護推進派の重鎮も賛成の意見を出し始めており、シェールガス発掘推進の上で有利に成りつつある様です。 これは、福島で起きた原子力発電事故により環境に優しいとされていた原子力発電源の将来が見通し辛く成ってきた事、又、中小の石炭発電所に対する規制(500MW 以下は廃止)が厳しく成りつつ、石炭の代替として可能なエネルギー源は天然ガスしか無く、ある程度の環境問題は致し方無い言う判断の様です。 世の中には現在の電力消費を賄える規模で全く問題の無いエネルギー源は無いと言う事です。

この安い天然ガスに目を付けた他のビジネスも俄かに大きなトレンドとなりつつあります。
大手石油会社や化学会社がこの安い天然ガスや液体ガス(LPG)を利用して世界規模の超大型化学プラントを作る計画を発表し始めています。
既にダウケミカル、シェル、バイエルン等が計画を発表しており、米国では何十年振りかの大型化学プラント作りになります。
世界最大の消費地にプラントを作る事は理に適っており、中東や他の地政学的に難しい地域に作るより余程採算性が高い事から大手が次々と参入しようとしているのです。 工場の候補地には大変な雇用促進にもなり、地元の政治家等は既に積極的に誘致活動に動いているようです。
 

一方、米国電力業界で使用される燃料炭は排出物等の問題で米国では敬遠されており、米国内での需要は過去10年減少しています。 又、環境省では、今後500メガワット以下の発電所での燃料炭の使用は法により規制(廃止)される様で、電力会社として新たな対応に迫られ始めています。
上記でも述べましたが、この石炭の代替エネルギーの期待の星として天然ガスが見込まれています。

以上の様に、米国内での原油特に天然ガスの生産の拡大が有望視され、今後は天然ガスの発掘、生産、精製、そして化成品の製造等に大きな弾みが付きそうです。
これらに伴う、雇用増加、生産・貯蔵設備等の大型投資、それらを消費地に結び付ける為のインフラ投資等はかなり大掛かりなものになり、又、それらに関わる企業の合従連衡、グローバル企業間でのM&A等は活発になり、株式投資の観点からも非常に重要な注目点に成る事は間違い無い様に思われます。 

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