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中国はどこへ行くのか、「戦後の中国は全体主義だったか」

2014 JAN 6 18:18:02 pm by 中村 順一

毛沢東

毛沢東

劉少奇

劉少奇

20世紀は人類史上稀にみる戦争と殺戮の世紀であった。その20世紀を代表する国家指導者、怪物は何と言っても、ヒトラー、スターリン、(毛沢東)であろう。何と言っても殺した人間の数が桁違いであり(毛沢東に関してはまだ分析が不足)、日本の戦争期の指導者など、この3人に比較したら、人間を殺す戦略性に関しては幼稚園以下の評価になる。

ヒトラーのナチズムとスターリンのスターリニズムはまとめて「全体主義」と呼ばれている。

これはアメリカが戦後に言い出したことで、その正確な分析は、先般筆者が投稿し、評価した映画の主人公であるハンナ・アーレント著作の「全体主義の起源」にまとめられている。アメリカの自由と民主主義に敵対するものとして、ナチズムとスターリズムがある。アメリカは正義なのだから(イラク湾岸戦争の作戦名も「正義」だった)、第二次大戦に参加するのは正しく、冷戦でソ連に対抗するのも正しい。そうすると、第二次大戦と冷戦で対立した当時のドイツの体制とソ連の体制は似ていなければならない。ハンナ・アーレントは見事にこの二つの類似性を指摘する。似ている理由の一つは独裁政治の中での、党と政府の二重機構である。

ナチズムにはナチ党があり、国家を独裁一党支配している。同時にドイツ政府もある。二重権力であるが、政府は空洞化する。党は私的機関で完全にヒトラー個人の指揮権下にあり、党が政府を支配する体制になってしまう。ナチ党にはドイツ国防軍とは別に親衛隊という武力装置がある。親衛隊が反対者を逮捕したり、ユダヤ人を虐殺したりする。ドイツ国防軍の将軍の一部はヒトラーの無謀な戦略を正そうともしたが、うまくいかない。

スターリニズムも共産党と政府の二重構造である。党が政府を指導する。そして親衛隊はないけれども、秘密警察がある。秘密警察は簡単に容疑者を逮捕し、裁判抜きで処刑してしまう。粛清である。1930年代には秘密警察内部での粛清も当たり前で、党や政府はあってもないのと同然で、秘密警察は強力で党中央、すなわちスターリンに絶対に歯向かわないようになっていた。

じゃあ中国はどうか。確かに似ている。ドイツやソ連の様に公然とアメリカに敵対したわけではないので、「打倒すべき邪悪な全体主義」とは定義されていないが。似ている点は党と政府の二重構造である。ちょっと異なる点は文化大革命の時には、党が優位に立てず、党が人民大衆によって攻撃され、党が革命委員会というものに置き換えられたりしたことである。この人民大衆は毛沢東に直結していた。ナチズムの親衛隊やスターリンの秘密警察の役割を、毛沢東の体制では一般の人民が担ったのである。

この三つの体制を比較してみたい。ナチズムの排除の対象はユダヤ人と共産主義であり、一般のドイツ人では無かった。すなわち、あのナチ体制でも自分が普通のドイツ人であれば排除される心配は無かったのである。排除の対象が人種的に限定されていたのがナチズムの特徴である。スターリニズムは誰もがよくわからない理由で「お前はスパイだ」と嫌疑をかけられ、拷問の末、自白させられ粛清されてしまう。党の中の人間でも安全ではなく、ナチズムにある限定性がない、だから怖い。

毛沢東の体制はもっと凄い。スターリン体制は党の内部の人を粛清したが、攻撃したのも党の内部の幹部である。しかし、毛沢東は人民大衆とか、まだ物事がよくわかっていない若者集団の紅衛兵に党の要人を襲撃させたのである。大衆とか紅衛兵の方が党の幹部よりも毛沢東に近い、という発想である。こうなるともう誰でもいつ攻撃の対象になるかわからない。スターリニズムと同様の、限定性がわからない恐怖である。

文化大革命は1966年に始まり、1976年迄続いたとされる。しかし、あれはいったい何だったのか、謎である。どうしてあれだけ大規模な破壊を実行したのか。当時毛沢東は大躍進政策の失敗で影響力を喪失しつつあった。その毛沢東が劉少奇一派を打倒するために、大衆を動員して党中央の権力闘争に勝利することが目的だった、とされるが、それだけであれだけの破壊を実行する必要がどうしてあったのか。

「全体主義の起源」は文化大革命以前に書かれており、中国の文革の分析は無い。また、中国の現指導者も毛沢東を尊重しており、文革の歴史的分析は、まだまだ先の話になろう。ソ連の指導者もスターリンを批判したが、中国では今でも毛沢東批判は一種のタブーなのだ。

しかし、毛沢東の体制が、ハンナ・アーレントの定義による「全体主義」の体制に近かったのは確かだろう。

 

 

 

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