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中国はどこへ行くか、「中国は覇権国になりうるのか」

2013 DEC 27 11:11:39 am by 中村 順一

上海の摩天楼

上海の摩天楼

僕が中国に初めて行ったのは1992年、それから後、前の会社で国際関係の仕事に長い間携わったこともあり、駐在の経験は無いものの、相当の回数訪れている。出張はやはり北京、上海、(香港)が中心になるが、プライベートでは旧満州、旧関東州、新疆、福建、敦煌、西安、雲南、広東、等、いろいろな場所に行ってきた。

おそらく中国ほどこの20年で変化した国もないだろう(地域で言うなら、正確には首都北京と沿岸部の大都市の変化と言うべきだが)。90年代初頭の北京、上海はまだパッとしない田舎都市、かなり貧しい発展途上国、という印象だったが、今では、高層ビルの立ち並ぶ上海の迫力は東京をも凌ぐ、と認めざるを得ない。ものすごい経済成長でGDPも日本を抜き去り、中国の政府関係機関や金融機関の連中は今や自信に満ちている。20年前は自信なさげに下を向いていたのに。

 

さて政治や経済の関係者では、中国がアメリカに変わって21世紀の覇権国になるかどうかが議論の対象になってきている。国際関係論では、「覇権国の移動」ということが重視され研究されている。

16世紀の後半あたりからの覇権国は、短期間だったがオランダ、次がイギリス。イギリスの覇権は極めて長く継続、フランスはナポレオンが挑んだが敗北、19世紀ビクトリア女王時代にイギリスは世界を制覇。19世紀後半から新生統一ドイツが挑戦するものの第一次大戦で敗北。20世紀は疲弊したイギリスに変わってアメリカが覇権国になり、第二次大戦後の世界をコントロール。しかし21世紀に入って疲弊気味、変わって中国が台頭してきた、という分析である。今の中国の台頭、アメリカへの挑戦は、19世紀後半のプロイセン主導のドイツがイギリスに挑戦した歴史に似ている。世界は再び覇権を争う大国同士の戦争に突入するのでは、といった議論である。

では中国はアメリカに代わる21世紀の覇権国になれるのか。僕としては、「なかなか難しいのでは」と言いたいところだ。ある国家が覇権を持っているというのは、パワーについて、あらゆる基準で、その国家がほかの国家を圧倒している、ということである。このパワーとは軍事力、経済力、人口等のハードパワーだけでなく、他の国を引き付ける文化や価値観といったソフトパワーも含まれる(アメリカの民主党系の政治学者である日本びいきのジョセフ・ナイはこのハード・パワーとソフト・パワーを合わせたパワーをスマート・パワーと定義している)。覇権国は軍事的に強いとか人口で圧倒する、というだけでなく、いわゆる国際公共財を他の国々に提供しなければならない。今の世界では、これは自由な貿易秩序を維持するのに貢献している、ということであり、基軸通貨を提供したり、いろいろな方法で他の国々に世界にとって必要なルールを守らせたりすることである。それで覇権国は最も大きなメリットを享受するが、他の国もメリットを得る。覇権国をしてこれを可能ならしめるためには、覇権国が持っている価値観や規範に他の国々もコミットしてくれることが必要になる。

21世紀半ばには中国のGDPはアメリカを上回るだろう。しかし、中国には現時点では友人がいないのである。どちらかというと世界中から警戒されている。「文明の衝突」という名著を書いた、アメリカの政治学者ハンティントンによれば、中国一国とアメリカ一国を比べるより、中華文明圏(ほぼ中国のみ、ハンティントンによれば台湾、朝鮮、韓国、ベトナム、シンガポールが含まれるが)とキリスト教文明圏で比較したほうが、国際社会の力学をストレートに反映できる、という分析になる。アメリカの他にヨーロッパ諸国を加えて、その全体のGDPを中国が追い抜けるか、というとちょっと難しい。無理である。過去、キリスト教文明圏の国々は一貫してヘゲモニーを握ってきた。覇権の移動といっても、ハンティントンの定義では同じ文明圏の中での移動に過ぎない。日本も含めて世界中の国々がそれに慣れている。

世界の国々がぶつぶつ言いながらもアメリカの覇権を認めているのは、アメリカの行動は予測可能だからだと思う。アメリカは、一応説明責任を果たそうとするスタンスは保持している。しかし中国の行動はそうではない。共産党の事情もあり、予測が簡単でない。説明責任という発想がない。そもそも長い歴史の中で、政府が自分の人民に説明する習慣がない。

やっぱり、いやだな、付いていけないよ、と皆が思ってしまう。そうなると、世界中の国々がハンティントンの言う中国文明圏の国々も含めて、中国が覇権を握らないようにアメリカを結局はサポートする。インドも日本もアフリカ諸国も。イスラムだけは微妙だが。すなわち、アメリカ一国の力は落ちていくが、おそらくは当面はアメリカを中心とする集団覇権体制が続くのである。中国は覇権国家にはなれない。軍事力や人口で圧倒しようとしても、ソフトパワーの強化や説明責任の貫徹が無ければ、アメリカと並ぶG2にもなれない。世界中の国々がイヤだからである。

ハンティントンによれば、日本は2世紀から5世紀に中華文明から派生して成立した独自の文明圏で、中国文明圏には属さない。日本独自のプレゼンスをキープしつつ、アメリカを中心とするキリスト教文明圏についていく、という戦略が基本になろう。

 

 

 

 

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