Soner Menbers Club No43

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ブラボー!イッサーリス。

2018 NOV 7 16:16:52 pm by 吉田 康子


スティーブン イッサーリスのリサイタルに行ってきました。音楽ってなんて素晴らしいんだろうと心から愉しむことが出来ました。たった一度の東京でのリサイタル、もったいないですね。チケットは完売でした。

今回は「音楽に[失われた時]を求めて」という副題が付いた演奏会。熱狂的な音楽愛好家であったフランスの作家マルセル・プルーストの長大で難解な作品「失われた時を求めて」の世界と同時代のベルエポック期に活躍した作曲家フランク、サン=サーンス、フォーレ、アーンなどの作品を重ね合わせた、というのがコンセプト。そうは言われても、正直なところ、この時代の文学に疎い私にとっては縁遠い世界のように思えました。

久しぶりに登場したイッサーリスは少し恰幅がよくなり、トレードマークのカーリーヘアも幾分白くなっていました。共演のピアニストのコニー・シーも12年ぶりで落ち着いた雰囲気に。やはりこんなところにも時の流れを感じました。

イッサーリスの自然でのびやかなフレージングはますます磨きがかかり、音楽が溢れてくるよう。そしてコニー・シーのピアノはとても繊細に寄り添い息がぴったり合っていて、ため息が出るほど見事なものでした。この人は間違いなく一流。アーンの甘い旋律から始まり、晩年の美しい響きが散りばめられたフォーレのソナタも技巧的ながらもそれ感じさせない歌心を聞かせてくれました。

そして今回のメインテーマでもあるアデスの「見出された場所」。イギリスを代表する現代作曲家トーマス・アデスがイッサーリスの為に書いた作品でプルーストの「失われた時を求めて」に直接触発されたとか。2009年の初演は作曲者のピアノとイッサーリス。難曲中の難曲といわれるだけあって、チェロのあらゆる技巧を詰め込んだ印象。気迫のこもった演奏で緊張感がこちらにも伝わって一気に引き込まれました。2016年のプロムスではオケ伴でやったそうですが、フィナンシャルタイムズの記事に、アデスとイッサーリスとの間で、「こんな悪魔的で難しいものは弾けない!」「だったら他のチェロを探す!」などギリギリのやり取りの末行きついたもの、とありました。

休憩を挟んでの後半のサン=サーンスのロマンス、フランクのソナタは、アデスから解放されたのかリラックスしてのびのびと音楽を楽しんで演奏しているよう。客席の雰囲気はお馴染みのフランクのソナタを楽しみにしていた様子でしたが、私はアデスの作品がこの日一番の素晴らしい演奏だったと思いました。

あいにくの雨でしたが、楽器がよく鳴っていて最弱音から最強音までのダイナミクスの幅の広さが真っ直ぐに届いてきました。アンコールはサンサーンスのロマンスop.36と白鳥。ストラドにお辞儀をさせると「今日の演奏はこれでおしまい」という意味だということをお客さん達もよく解っていました。

終演後のサイン会に並びましたが、もうイッサーリスとは10年来の友人でもあるので、サインでなく久しぶりに会えたご挨拶を。気さくな彼は、つい数日前に会ったかのような相変わらずの様子でした。

Categories:演奏会

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