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酵母たちを誘惑

2026 OCT 6 18:18:36 pm by 西村 淳

ライヴ・イマジン59が終わった。5分で話した小噺を掲載しておく。
今回はモーツァルトにまつわる話で一昔前に話題になった日本酒の醸造で醪(もろみ)にモーツァルトを聴かせるとお酒が美味しくできるというなかなか香ばしい話。
福島県喜多方の300年以上続く小原酒造の社長さんがインタビューに応えて「きっかけはドイツで搾乳時に音楽を聞かせる研究があり、醪にも聞かせてみよう」としたこと。
準備したクラシック音楽は、モーツァルト、ベートーヴェン、バッハの3種類、ジャズはマイルス・デイビス、演歌は北島三郎だそうで、その中でモーツァルトが一番、酵母の増殖速度が早かった、さらに、後の研究で、ロックバンドのローリング・ストーンズからも同様のデータが出てきたと。
この話はちょっとした驚きだった。だったら音楽なら何を聞かせても同じじゃないのかとグルグル。でもベートーヴェンも北島三郎も酵母は元気にならなかった。となるとモーツァルトとストーンズの共通項って?さあ、ここからが妄想だ。
ストーンズにキース・リチャーズと言うギタリストいる。ミック・ジャガーと並ぶすストーンズの顔。彼のギターの調弦は変わっていて、通常の「ミ・ラ・レ・ソ・シ・ミ」ではなく、「レ・ソ・レ・ソ・シ・レ」。そして6弦の一番太い「レ(D)」を弦ごとブチッと外して、5弦の「ソ(G)」を最低音にした俗に言う「オープンG」と言う奴。『Brown Sugar』や『Honkey Tonk Women』のリフは怒涛のようなオープンGが満開に。そして低弦が一本無い軽さと響きの透明さ。この独特な「ストーンズ・サウンド」は彼らにその後の50年間の飯を約束した。
ところでモーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』、あの超有名すぎる冒頭のメロディ(「♪タ・タ・タ、タララララ・タ・タ」)は、ト長調(Gメジャー)でまさに以下の音だけで作られている。ソ ・ レ ・ ソ ・ レ ・ ソ ・ シ ・ レ……
キースの5本弦ギターの開放弦を、低い方から順番に「ポロロロロン」と爪弾くだけで、『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』の主旋律の骨組みが完全に、寸分狂わず鳴り響く。ジャンルとしては18世紀のウィーンの宮廷音楽と、20世紀後半のイギリスの不良たちのロックという、宇宙の両端のように見えるモーツァルトとストーンズながら、物理的な「音の遺伝子」は完全に一致しているわけ。これなら理屈が通る。
ストーンズのノリはモーツァルトのアレグロのような「快速に、流れるように進むテンポ」とは全く違っていて、『Start Me Up』などは、むしろ少し腰を落としたような、タメの効いた「ミディアム・テンポの重い一撃(バックビート)」だ。テンポやリズムの躍動感(スピード)の仮説よりも、「オープンG=ソ・レ・ソ・シ・レという和音そのものの物理的な一致」の方が、ジャンルやテンポの壁を軽々と超えて酵母にダイレクトに届いていたのだと確信する。酵母たちがその「ソ・レ・ソ・シ・レ」の純粋な響きに包まれて、どんなに心地よくお酒を醸していたのか、想像するだけで楽しくなる。

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