ライヴ・イマジン52が終わりました。
2023 AUG 15 15:15:53 pm by 吉田 康子
バルトークのピアノ五重奏曲は私にとって大きな曲でした。
ピアノ五重奏曲は、過去に度々弾く機会がありました。少しでも大勢との演奏をしたいと思っているので、ピアノトリオよりはクィンテット、管楽器よりは弦楽器というのが私の志向です。振り返ってみただけでも、シューマン、シューベルト、ブラームス、ドヴォルザーク、ショスタコーヴィッチ、フォーレ、フランク、ヴァインベルクなどを弾きましたが、バルトークが私には一番難しい曲でした。
これは今回のファーストヴァイオリン奏者も同じ感想だったと後で聞いて納得しました。それだけファーストヴァイオリンとピアノの負荷は大きいものでした。だからと言って他のパートが易しいか?という訳では決してなく、普段使わないような音域のパッセージを受け持ち、拍子や休符そして和声の難しさがあり、中核で全体を支える大変な役割を担っていました。曲の規模、難しさゆえに今迄で一番沢山の回数の合奏練習を重ねました。GWには合宿のように連日集まり一日中練習し、レッスンも何度も受けて地盤を固めていきました。
以下がピアノ譜の一例です。音の多さゆえに1ページ1小節という部分もあり、テンポが速いので譜めくりの間が無く、縮小コピー数ページ分を切り貼りしてあります。赤鉛筆の部分は譜めくりの方へのタイミングを示しています。
私は今迄も分不相応な難曲に挑戦してきました。「アマチュアの特権」とばかりに怖いもの知らずに挑戦することに意義を見出すような気持もありました。でも今回のように練習している途中で「この曲を全部弾ききれないのでは?」という不安に襲われたのは初めてのことです。厚かましい限りですが、それだけ大きな重荷に苦しみました。もともとR.シュトラウスを思わせるような甘い魅力的な曲想に惚れ込んだ曲です。絶対に諦めて手放したくない!という強い思いがありました。
バックハウスと競り合う程のヴィルトゥオーソである23歳のバルトークが自分の技量の限りをつぎ込んで世の中に打って出る気概を込め作曲。そして自身の演奏で初演。独自の作風を確立する前の最後のロマン派スタイル。循環形式、装飾的な連符、緩急の舞曲、果てはフーガまで沢山の要素を詰め込んでありました。ピアノ譜で1700小節、演奏時間約45分という大曲。初演後にコンクールにも出品したものの、長くて難しすぎるということで相手にされなかったとか。もう少し簡潔にして洗練されたら歴史的にもフランク以上の存在になっていたのかもしれません。それであってもバルトークでなければ作れなかった天才の作品であることは確かです。
本番は、ファッツィオリのフルコン。色の付いたフワフワと柔らかいタッチでしたが、私は硬質な響きが出せるスタインウェイの方が好みだなぁという印象でした。お客さんは私達の気迫に押された感じで、とんでもなく難しい曲というのがヒシヒシと伝わったようです。楽章間の切れ目がほぼ無く、続きでの演奏なので一気に最後まで走り抜けた感じでした。最後の音を弾き終わった瞬間、あっけにとられたような空気が漂い、その後こちらが一息つくとハッと我に返った様子になりました。
私自身の演奏の出来としては60点。これをあと1年練習したら70点には出来るかもしれませんが、自分の技量の絶対的不足ゆえに練習だけでは補えないものがあります。かといって安全運転で演奏出来る曲というのも選曲が限定されてモチベ―チョンも上がりません。やはり自分が弾きたい曲と聴く人に伝えられる演奏とのせめぎ合いになります。その辺りの加減を客観的に見極めるのが今後の課題です。今回のバルトークでほんの少しでも背伸びが身に付いたなら何よりです。
Categories:ライヴ・イマジン
東 賢太郎
8/15/2023 | 5:05 PM Permalink
吉田さん、行くつもりでしたが急に丁度そこが出張になってしまいました。それにしても凄い楽譜ですね、これをやるのにプロもアマもないですね、バルトークの気概も見えますが何よりこれの真価をつかみ取って弾ききった皆様の気迫はきっと聴衆を圧倒したことでしょう。ライヴ・イマジンに頭が下がりますし本当に残念でした。
吉田 康子
8/15/2023 | 9:19 PM Permalink
東さん
早速のコメントをありがとうございます。
各パートが難しいので、皆で頑張れば何とかなるかな?と思っていましたが、皆で弾いてもやっぱり大変でした(涙)
でもいい曲ですね。落日とか世紀末という言葉がぴったりくるような甘い世界観に酔ってしまいそうでした。
https://youtu.be/5JeITt_AYo4
(pf)ロンクィヒと( Vn)ケレメンの演奏が気に入ってよく聴いていました。
西村 淳
8/16/2023 | 9:43 AM Permalink
ピアノ譜を見る限り、音符の数が縦にも横にも半端ない量ですね。作曲された頃(1904年?)はまだリストの弟子たちも健在だし、なにせ同郷リストの影響を受けた作品でもあり、バルトーク自身、ヴィルティオーソを自認していたに違いなく、そのピアノに弦を絡ませるという何ともユニークな作品です。当然ピアニストへの重圧はこれでもかと凄まじく、厄介な作品。まして現代のファッツィオリが吠えると弦4人は束になっても敵わないでしょう。知られざるバルトークの一面を垣間見て、いい経験になりました。
もちろん、チェロパートだって易しくなんかありませんでした。
吉田 康子
8/16/2023 | 12:09 PM Permalink
バルトークは自分の技量を基準にしていたんでしょう。後の「バルトーク特有の難しさ」が前面に出ていない分だけ親しみやすく美しい曲想が魅力です。
今回弦楽器の皆さんは降り番が無くて全曲参加でしたね。どれも難しい曲だったので大変だったと思います。お疲れ様でした。
maeda
8/16/2023 | 10:31 AM Permalink
このところ共演機会の増えたギター方面のコンサートが同時刻にバッティングしてしまい、行けなくて済みませんでした。難曲をお疲れ様でした。歌も素晴らしかったと聞いております。また挑戦を重ねていってください。
吉田 康子
8/16/2023 | 12:32 PM Permalink
演奏活動にお忙しいご様子、何よりです。奥様に受付でお目にかかりました。どうぞよろしくお伝え下さい。
この記事は私からの視点なので「バルトークは素晴らしい曲だけど大変だった!」と書いていますが、会全体を見渡すとヴォルフのセレナーデを弦楽器で軽やかに、メーリケではピアノ伴奏でなく弦楽伴奏での歌を、というひとひねりした選曲。もちろん歌は大輪の花を咲かせるかのように表情豊かに色合いを添えてくれました。歌や言葉の持つ説得力は大きいですね。そして起伏の激しいバルトークの後のアンコールに「モルゲン」で心穏やかに、という絶妙なプログラミングにお客さんも楽しんで頂けたのではと思います。
西 牟呂雄
8/16/2023 | 12:55 PM Permalink
鬼気迫る迫力に脱帽です。
この写真コワイ。
吉田 康子
8/16/2023 | 1:13 PM Permalink
1枚目の写真は、最後の音を弾いた瞬間です。私をはじめ皆がコワイ顔をしていますね(笑)
その次の瞬間が2枚目。その時の空気と気持ちの変化が表情に出ています。
この一瞬の変化を切り取った写真がすごいなぁと思い、表情の変化が伝わるように当初より大き目の写真に入れ替えて掲載した甲斐がありました。