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コーヒー飲歴と可否茶館

2017 MAR 4 20:20:41 pm by 西村 淳

私にとってコーヒーは変わることのない人生のパートナーの一つである。
これなしに一日は始まらないし、空間と時間に潤いを添える。
★札幌・1971年。狸小路しかなかった札幌にモダンな地下街の誕生と時を同じくして「可否茶館」なる専門店がオープンした。生意気盛りの高校生が背伸びして足を踏み入れたのが(校則は喫茶店の出入りは禁止)大通りにカウンターのみでオープンしたてのこの店だった。もちろんコーヒーの味なんかわかるはずもなく、ただ大人の雰囲気に浸りたいだけだったに違いない。よく通ったジャズ喫茶「act」ではアルバート・アイラーのテナーサックスに浸りながら口にした鍋で再加熱した焦げたコーヒーの不味さは格別で記憶に鮮明だ。
★岩国・1977年。名曲喫茶「タキ」。駅前にあったこの店はいわゆるクラシック喫茶だった。おじいちゃん、おばあちゃんがやっていたっけ。巨大なスピーカーと真空管アンプから流れ出るペーター・マークと素晴らしいバランスのコーヒー。今でもこの味わいは思い出す。地方都市の音楽文化を支えていたが今はもうない。
★東京・1986年。新宿「トップ」。サイフォンで落とすコクと香りの空間。レベルの高いコーヒーは最高に美味しかったが、喫煙自由空間は時代遅れになって消滅してしまった。
★東京・2015年。スターバックス独り勝ち。いつ行っても満席なのは平均化された社会の象徴。クルマ1台が買えると豪語するドリップマシンで淹れたスペシャリティ・コーヒーは一ランク上のクオリティ。
自宅で飲むために良い豆を探していたところ、なんと可否茶館がまだやっていることを発見、それどころか札幌でチェーン店を展開までしているではないか!
至福の時を演出してくれたのは、「メロ・ハマヤ」(ドミニカ)。なんとも芳醇でキレがありフルーティな味わいは奥の深さを感じさせる。何より部屋に漂う豊かな香りは圧倒的。このコーヒーを知ってしまうと他のものは手を出す必要がないほど。しかもこれはミルクを拒否しているのだ。また可否茶館の看板となっている「カンデリージャ・ミエル」(コスタリカ)も「メロ・ハマヤ」を知らなければきりっとした逸品である。
「1971ブレンド」はその名の通りオープンした時のものを復元したもの。当時の苦いノスタルジックな思い出が蘇ることはなかったけれど、時代の波にのまれ多くが廃業に追い込まれた喫茶店で数少ない成功体験を語れる可否茶館。
コーヒー飲歴の原点に還ることができたことに感謝し、何よりもコーヒーそのものへの愛情すら感じるその経営姿勢はすべてに通じる。これから先も共にあってほしいものである。

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