「美しき水車小屋の娘」、感動した!
2022 SEP 13 20:20:22 pm by 西村 淳
「半額」と書いてあるボックスの中にこのCDを見つけた。勿論、イアン・ボストリッジが現代最高のテノールだということを知っていたし、デイム・内田光子さん然り。いまさらですか・・有名な録音だし、という声がどこからとも聞こえてきそう。
(EMI 7243 5 57827 2 4)
第一曲のごとごとと廻る水車の前奏から一気に、本当に一気に別の世界に連れていかれた。イメージを寸分たがわず音にできる、内田さんの凄さに。「美しき水車小屋の娘」は私にとって重たい「冬の旅」とは違いテノールで軽さを演出できるヘフリガーやヴンダーリッヒであり、もっとインティメットなお付き合いができるものだった。そして甘酸っぱい青春の譜でもあった。悲劇的な結末であっても柔らかいF-durに乗せた「小川の子守唄」で終結することで「むかしむかしそんなことがあったとさ」みたいな雰囲気が好きだった。
ボストリッジ=内田のアプローチは違う。青年が恋をして、焦燥し、失恋し、絶望を実にドラマチックに再構築する。最後は死によって解放された青年が天国から見つめている。ボストリッジの歌は専門家筋の評価は素人のくせにとか、必ずしも高くないようだが、私にとっては音楽を共有してくれる最高の歌手。ここではピアノが歌と一体となり、また対向したりした器楽的な構成も衝撃的ですらあった。聴き進めていく途中で涙腺が何度も緩んでしまった。
2004年3月にこの二人は来日してこれを演奏している。その場に居なかったことに遅れてきた青年になってしまったが、幸い動画も残っていた。ライヴならではの大胆さがプラスされ小さく貧弱な画面でもサントリー・ホールの目の前で「水車小屋」が演じられているように錯覚したほどだった。
(NHK BShifi youtubeより)
この曲を演奏するのにボストリッジに声をかけたのは内田さんらしい。もし本当だとすると、伴奏者が歌手を選んだことになる。何てこと、そんなこと未だかつて聞いたことがない!!
内田光子さんはすでに日本国籍を離れている。そう、音楽をやるにはあまりにも日本の環境は無邪気で貧弱すぎる。いまだにコンサートを楽しむのではなく「お勉強」と思ってイベントに参加している人が多すぎないか?
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ST
9/14/2022 | 3:40 PM Permalink
多摩川へりの野ばらに恋をしてしまい、ここ数年、5月になるとわたしの手は傷だらけです。「野ばら」の歌詞が気になっていて、シューベルトの歌曲はもう少し「ちゃんと」知りたいとおもっていました。何か本を読もうとおもいます。その前に、紹介されている「水車小屋」も聴いてみたくなりました。
JLGの訃報に動揺しています…「Notre Musique」ご存知ですか? とても好きな映画です。おそらく「映画史」はキリスト教史だとおもいます。とても悲しいです。
西村 淳
9/14/2022 | 7:43 PM Permalink
「野ばら」今思うと、ちゃんとした歌手のものは聴いたおぼえがありません。探す楽しみが増えました。
映画館で見たゴダール作品は唯一「気狂いピエロ」だけです。ジャン=ポール・デルモンドの存在感に鮮烈な印象が残っています。Notre Musiqueとは訳すと「私たちの音楽」となりますね。これはいいものをご紹介くださいました。For Ever Mozartなんてのも見つけました。私は映画についてはほとんど無邪気で貧弱すぎるようです。
ST
9/16/2022 | 1:31 PM Permalink
「冬の旅」は知人からいただいた、Prégardien と Andreas Staier のCDを持っています。このピアノがすごく好きです(フォルテピアノ?)。
ゴダール後期は歴史・哲学・文学の知識がかなりないと呑み込めないことだらけ、何より映画オタクを全面に押し出してくるので、わたしにもわからないものばかりです。しかし後期作品はキリスト教と映画を重ねながら「リアルタイム」を撮っている感じを受けました。Notre Musique は観やすいほうです。
西村 淳
9/16/2022 | 9:47 PM Permalink
フォルテピアノの話となると際限なく話題は拡がりそうです。「冬の旅」は私にとってあまりにも立派すぎる曲です。バッハの「マタイ受難曲」なんかと同列かな。そんなわけであまり聴く機会もないのですがテノールで歌うとまた別の世界になるのでしょうか。
JLG、先に書いた通りですがエンターテイメントとしてはちょっと辛いかもしれませんね。ましてキリスト教!となると手に負えない。この辺りに私自身の限界を感じます。
ST
9/19/2022 | 10:25 PM Permalink
友人が図書館からボストリッジ×内田さんのCDを貸してくださって今、手許にあります! ブックレットのボストリッジのテキストがよい示唆を与えてくれ、ひじょうに有難いです。まだ前半しか聴いていませんが魅力的な抑揚で引き込まれました。なんとなく流れでトラップ一家の「菩提樹」を観て泣き笑いしているところであります!!
「アワーミュージック」酷いカタカナ語ですがこれは予備知識いりませんので、ぜひ是非に(監督はいつもチェリスト贔屓です)。our と notre と随分ニュアンスが違いますね。JLGは our は嫌いな筈なのに…。
西村 淳
9/22/2022 | 5:22 PM Permalink
「アワー・ミュージック」とよく似たものに、フォーレの連作歌曲集に「優しい歌」というのがあります。ソプラノとピアノ五重奏という歌曲としては特異な編成。大好きでして何と二回も(!)ライヴ・イマジンのプログラムに載りました。フランス語では「ラ・ボンヌ・シャンソン」、英語では「ザ・グッド・ソング」でなんかなあ、といった感じです。