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近況と「鱒(D550)」

2024 MAR 21 21:21:25 pm by 西村 淳

しばらくソナーブログの投稿がストップしていた。1月1日の能登半島沖の大地震、3日のJALと海保機の衝突大炎上から始まった令和6年。17日には腰痛がひどくて神山先生にとうとうご対面。見立ては何と椎間板ヘルニア(!)。鍼治療2回でバッチリ直していただいた。秋にはアメリカ大統領選挙、そしてその頃にはキシダくんはもういないだろうし、ウクライナとパレスチナはこれから一体どうなるんだろう?「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」ならばと歴史を紐解くとこれがまた凄まじい。人間そのものへの不信が沸々と湧いてきて、そりゃあ宗教が必要だわとなる。そして今度はイッペイくんがやらかした。彼のポジションは過酷だ。ストレスに押しつぶされそうになった精神状態を慮るなら同情を禁じ得ない。そんなわけで日々の出来事がすごすぎて落ち着いて文章を書く気になれなかった。密かな希望であってもすがるしかない世の中、音楽というすがるもの、逃避場所があることは幸いだった。かのショスタコーヴィチだってスターリンの圧政、暴政の前に死んだふりをしながら弦楽四重奏曲を書きどっぷりと自身の音楽に浸かっていたし、だったら全体主義、New World Orderの下でも音楽さえ取り上げられなければ案外精神は自由でいられるかもしれない。

閑話休題。シューベルトの歌曲「鱒」について記憶をたどってみよう。
1966年頃、小学館から「世界の音楽」全15巻が隔月で発売され、それを情操教育とか言って母が買い与えてくれた。3枚のソノシートが付いてていて発売日にはワクワクしていた。指揮者の渡邊暁雄やピアノの安川加寿子、ヴァイオリンの田中千香士ら、当時の日本人のオールスターキャストでこの企画のために新たな録音をしたようだ。その中にはベートーヴェンの第九交響曲の第4楽章もカットされていたが収録されていた。ソノシートの収録時間は短い。これでアンソロジーを完成させようという意気込みはすごい。その後、類似の企画にLPレコードが付属した、しかも演奏がガイジンというものが出回った。ちょっと羨ましかったが、先鞭をつけた小学館の立派な企画は西洋音楽に興味を持つようになったし、その後の音楽人生の原点となった。早速、赤い半透明でペラペラした円盤をステレオ装置のターンテーブルに載せ初めて「鱒」を聴いた。余多あるドイツ・リートの中でも特に人気のある曲。美しいメロディーと見事な躍動感のピアノ伴奏に一気に魅せられ、大好きになって今でも変わらない。何となくもっさりした印象の「未完成」交響曲、「野ばら」や「菩提樹」なんかはピンと来ず、あまり好きにはなれなかった。

そんな「鱒」を使った五重奏曲(D667)を練習していいる。シューベルトは大歌手ヨハン・ミヒャエル・フォーグルと共にシュタイヤーという町を1819年、1823年、そして1825年の3度にわたって訪問した。この時、フォーグルの友人でもある鉱山の副支配人パウムガルトナーは2つの条件を出してシューベルトに作曲の依頼をした。1つは当時流行していたフンメルの「ゼプテット第1番Op.74」の作曲者によるピアノ五重奏編曲(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスとピアノ)と同じ編成のものとすること。2つ目は歌曲「鱒」を素材に使ってほしいとのことだった。編成上の難しさからなのか当時から演奏や出版の記録はなく、評価も不明ながら「鱒」を使ったことは後世も含め大成功をもたらした。
5月11日の「シューベルティアーデ in 錦糸町」で五重奏曲を演奏する。2度目の機会ともなると色々なものが見えてくるが、初めての時は書かれている音符を音にするだけで必死。今回見えてきたものについてはまた別稿で書いてみようと思う。

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