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「三四郎」読書感想文

2023 AUG 18 12:12:13 pm by 西村 淳

暑い、とにかく暑い。散歩の歩数も半減、読書の秋にはまだ早いが時間もたっぷりある。
漱石の「三四郎」を再読した。おそらく半世紀前に読んで、爽やかな印象を持ったが、やはりとても面白く読了した。漱石は「草枕」もいいが、「三四郎」も勿論いい。
このところ世の動きに対し、私たちの時代が一番難儀だと思っている自分があるが、どんな時代にあっても人の心のありよう、持ちようは同じ。だからこそ100年以上前の文章であろうが物事の本質を突いたものであれば、今の私たちの心の情景をきちんと表現して揺らす。今まで洞ヶ峠で昼寝をしていたくせに目が覚め、何かできる、何かを変えられるという思い込みが儚い幻想だということも思い知る。でも大学に入学したての三四郎の気持ちとシンクロできるならまだまだこれからの人生だ。

『この劇烈な活動そのものがとりもなおさず現実世界だとすると、自分が今日までの生活は現実世界に毫も接触していないことになる。洞ヶ峠で昼寝をしたと同然である。それではきょうかぎり昼寝をやめて、活動の割り前が払えるかというと、それは困難である。自分は今活動の中心に立っている。けれども自分はただ自分の左右前後に起こる活動を見なければならない地位に置きかえられたというまでで、学生としての生活は以前と変るわけはない。世界はかように動揺する。自分はこの動揺を見ている。けれどもそれに加わることはできない。自分の世界と現実の世界は、一つ平面に並んでおりながら、どこも接触していない。そうして現実の世界は、かように動揺して、自分を置き去りにして行ってしまう。はなはだ不安である。』(夏目漱石:「三四郎」(青空文庫))

さて、話は変わって「三四郎」の中にアフラ・ベーン(1640~1689)なる作家が出てくる。
知らないなあ、初めて聞いた名前なので調べてみると英国初の女性職業劇作家とある。
日本では紫式部にせよ清少納言であれ、先立つこと600年、日本の女性達はすでに活躍していたわけで、彼我の文化の差は圧倒的に日本の勝ちだ。
戦後女性の解放が進んだなんて学校で刷り込まれていたが、何のことはない、GHQ施策の一環だっただけのこと。日本には元々素晴らしい文化があったのだから。それにしてもさすが漱石、この時代の日本のインテリのレベルの高さに羨望すら覚える。

『「先生、ついでだからちょっと聞いておきますがさっきのなんとかベーンですね」
「アフラ・ベーンか」
「ぜんたいなんです、そのアフラ・ベーンというのは」
「英国の閨秀作家だ。十七世紀の」
「十七世紀は古すぎる。雑誌の材料にゃなりませんね」
「古い。しかし職業として小説に従事したはじめての女だから、それで有名だ」
「有名じゃ困るな。もう少し伺っておこう。どんなものを書いたんですか」
「ぼくはオルノーコという小説を読んだだけだが、小川さん、そういう名の小説が全集のうちにあったでしょう」
 三四郎はきれいに忘れている。先生にその梗概を聞いてみると、オルノーコという黒ん坊の王族が英国の船長にだまされて、奴隷に売られて、非常に難儀をする事が書いてあるのだそうだ。しかもこれは作家の実見譚だとして後世に信ぜられているという話である。」』
(同上より引用)

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