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ギトリス、オクテットを弾く

2018 MAR 11 19:19:00 pm by 西村 淳

音盤組合を覗いていると、メンデルスゾーンのオクテットがかかっている。これはライヴ・イマジン39のトリで演奏した曲だ。おもわず聞き耳を立てた。ファースト・ヴァイオリンがすごい迫力なので、カウンター横の「Now Playing」のCDを手に取ると、おや、イヴリー・ギトリスの名前が。1993年に行われた第1回の「ストラディヴァリウス・サミット・コンサート」のライヴ録音だ。
・メンデルスゾーン 八重奏曲 変ホ長調 Op.20
イヴリー・ギトリス(Vn1)木野雅之(Vn2)堀正文(Vn3)タマヨ・マイヨル(Vn4)ヨッシー・グットマン(Vla1)ジャンパオロ・グァテリ(Vla2)ユリウス・ベルガー(Vc1)山下泰資(Vc2)
(Strad ONSO-53781)
ギトリスはアクが強すぎて今までパスしていたヴァイオリニストだったが、曲が曲だしということで購入して全曲を聴いてみた。いくつか気づいたことを留めるなら、あまりにも自分勝手すぎる解釈が目立つこと、そして音程の悪さ、さらに雑音の多さも気になる。必然的にいいところを聴こうと耳が切り替わったが、使用しているストラドが時折放つ透明感と存在感を両立したキリっとした美しい音、さらにソリストだけが持つオーラのようなものも同時に感じる。そしてこの曲のファースト・ヴァイオリンはこれくらいの存在感を示すことが、より曲を栄えあるものとすることも違いない。
ギトリスは3.11大震災の後、外来演奏家のキャンセルが相次ぐ中、下を向いてしまった日本人をすこしでも励まそうと自分自身でできることを精一杯やってくれた人。例えそれが「奇跡の一本松」であろうがその尊い気持ちをいささかも減じるものではない。おそらく音楽を正しく理解している人でも、このヴァイオリニストの芝居がかった表現やその立ち居振る舞いで、時にはその正確な判断力はどこかに飛んでしまうこともあるのだろう。心の交流には感動し涙すら誘うものもあるが、録音という厄介な媒体は冷酷に、残酷にその仮面を剥いでしまう。どちらが良いか、それは受け取る人の生き方次第ということか。

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