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メンデルスゾーンのオクテット

2017 DEC 3 6:06:59 am by 西村 淳

メンデルスゾーンの中では特別に親しまれている曲でもあるし、オクテットならシューベルトかこれ。メンデルスゾーンと言えば裕福な家庭に生まれ、早逝したものの幸福な人生を送った人。ドラマチックなストーリーがないせいかこの人について出版されたものは多くない。作曲だけでなく、指揮者としてマタイ受難曲そしてバッハを蘇生させた大きな功績、また水彩による風景画家として知られているが、多芸多才が災いしたのかその音楽に深みが足りないなどと言われることもある。実際にその通りであってもヴァイオリン協奏曲の魅力に抗える人はいないし、高校生のころ初めて聴いたハイフェッツの弓に身も心もトロトロになったのを思い出す。トスカニーニとの白熱のライヴは今聴いても最高だ。
  
オクテットはこの曲が15歳の時に書かれたものであること、つまりあの「真夏の夜の夢」の序曲よりも以前に作られたことに驚き以外ないし、何の衒いもない勢いと希望、甘酸っぱいような情熱にはたまらない魅力がある。私には「やりたい曲リスト」があって、ライヴ・イマジンのプログラムにはその中から必ず一つ入れているが、この曲はいつもリストの筆頭にありながら8人を揃えることがなかなか難しく今まで実現できなかった。素晴らしいメンバーに恵まれ、これを次回のライヴ・イマジン39で取り上げる。
メンデルスゾーンといえば「スケルツォ」。颯爽と、軽快に、精密に演奏できなければならない。事実オクテットのこの楽章を姉のファニーも激賞し、ゲーテのファウストの一節を音楽に重ねてみせ、曲全体をスタカートとピアニシモで、トリルの優しく軽い煌めきを伴って、と弟の言葉を報告している。
Flight of clouds and veil of mist / Are lighted from above / A breeze in the leaves, a wind in the reeds, / And all is blown away(ゲーテの翻訳は無理なので英訳原文のまま)
「スケルツォ」は自身でもよほど気に入っていたようで、第1交響曲Op.11のメヌエット楽章の差し替えとして、管楽器を加えてオーケストレーションして何度も演奏したそうである。
オクテットの録音では珍しいものでトスカニーニがNBC交響楽団の弦楽合奏で演奏したものが遺されている。あのNBCをもってさえもたもたして重々しくテンポも一定にならずにもどかしい。特にスケルツォは8人でやるからこそである。
ただ聴くのとやるのでは、大違い。メンデルスゾーンのどの作品にも言えることだが、譜面に書かれた音符の数はとても多く、技術的な練達のハードルの高さは半端なものではない。設定テンポを「弾ける」ところに設定して安全運転をしてしまうとその魅力はどこかに消えてしまうし、無謀なアクセルは事故のもと。何とも厄介なものである。今回は第2チェロのパートをコントラバスで演奏する。第4楽章、プレストの冒頭主題はこのバスが主役を務める。最近はこのスタイルでやる機会も増えてきているが、こうすることでスケール感がまるで違ってくるしやりがいのあるチャレンジだ。そして何といっても最大のチャレンジはファースト・ヴァイオリンにあり、ここに魅力があるかどうかが成功のカギを握っている。メンデルスゾーンはこの曲を彼のヴァイオリンの師、エドゥアルド・リッツ(Eduard Ritz)へのバースデー・プレゼントにしている。腕自慢たちは一度はこのヴァイオリンを経験してみたいものらしい。
傑作、オクテット。弾くほうも聴くほうにとっても最高の一期一会にしたいものだ。

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