Sonar Members Club No.31

since February 2013

コーヒー飲歴と可否茶館

私にとってコーヒーは変わることのない人生のパートナーの一つである。
これなしに一日は始まらないし、空間と時間に潤いを添える。
★札幌・1971年。狸小路しかなかった札幌にモダンな地下街の誕生と時を同じくして「可否茶館」なる専門店がオープンした。生意気盛りの高校生が背伸びして足を踏み入れたのが(校則は喫茶店の出入りは禁止)大通りにカウンターのみでオープンしたてのこの店だった。もちろんコーヒーの味なんかわかるはずもなく、ただ大人の雰囲気に浸りたいだけだったに違いない。よく通ったジャズ喫茶「act」ではアルバート・アイラーのテナーサックスに浸りながら口にした鍋で再加熱した焦げたコーヒーの不味さは格別で記憶に鮮明だ。
★岩国・1977年。名曲喫茶「タキ」。駅前にあったこの店はいわゆるクラシック喫茶だった。おじいちゃん、おばあちゃんがやっていたっけ。巨大なスピーカーと真空管アンプから流れ出るペーター・マークと素晴らしいバランスのコーヒー。今でもこの味わいは思い出す。地方都市の音楽文化を支えていたが今はもうない。
★東京・1986年。新宿「トップ」。サイフォンで落とすコクと香りの空間。レベルの高いコーヒーは最高に美味しかったが、喫煙自由空間は時代遅れになって消滅してしまった。
★東京・2015年。スターバックス独り勝ち。いつ行っても満席なのは平均化された社会の象徴。クルマ1台が買えると豪語するドリップマシンで淹れたスペシャリティ・コーヒーは一ランク上のクオリティ。
自宅で飲むために良い豆を探していたところ、なんと可否茶館がまだやっていることを発見、それどころか札幌でチェーン店を展開までしているではないか!
至福の時を演出してくれたのは、「メロ・ハマヤ」(ドミニカ)。なんとも芳醇でキレがありフルーティな味わいは奥の深さを感じさせる。何より部屋に漂う豊かな香りは圧倒的。このコーヒーを知ってしまうと他のものは手を出す必要がないほど。しかもこれはミルクを拒否しているのだ。また可否茶館の看板となっている「カンデリージャ・ミエル」(コスタリカ)も「メロ・ハマヤ」を知らなければきりっとした逸品である。
「1971ブレンド」はその名の通りオープンした時のものを復元したもの。当時の苦いノスタルジックな思い出が蘇ることはなかったけれど、時代の波にのまれ多くが廃業に追い込まれた喫茶店で数少ない成功体験を語れる可否茶館。
コーヒー飲歴の原点に還ることができたことに感謝し、何よりもコーヒーそのものへの愛情すら感じるその経営姿勢はすべてに通じる。これから先も共にあってほしいものである。

Categories
未分類

    6 comments already | Leave your own comment

  1. 東 賢太郎

    3/5/2017 | 12:17 AM Permalink

    コーヒーは深いですね、「メロ・ハマヤ」飲んでみたいです。どこへ行ってもスタバは寂しい光景と思います。

    Respond to this comment

  2. 吉田 康子

    3/5/2017 | 11:35 AM Permalink

    新宿西口の喫茶店「トップ」、先日通りがかって閉店を知ってビックリしました。昔ながらの雰囲気の店でコーヒーは美味しかったけれど、喫煙可の空間が嫌で足が遠のいていました。検索すると渋谷の2店舗のみの営業になってしまったようです。やはり時代の流れでしょうか。
    エスプレッソやブラックコーヒーが苦手な私に多くを語るほどのこだわりはありませんが、「メロ・ハマヤ」は魅力的ですね。

    Respond to this comment

  3. トム 市原

    3/6/2017 | 6:33 PM Permalink

    西村様
    ミクロネシア在住のトム市原です。
    札幌でコーヒーと来ると、思い出すのは「コージーコーナー」で1960年代です。
    カウンターの向こうの棚には各自愛用のコーヒー茶碗が飾ってあり、行くと中年の「筒井バーテンダー」がだまってブラックコーヒーを淹れてくれました。
    初めて「トラジャ」を飲んだときは感激しました。
    今は彼もなくなり店も駅地下に有って10年前に発見して行きましたが、昔の面影は味と共にありませんでした。
    中学時代の同級生を連れて行くと、始めにミルクピッチャーに入ったのをいきなり飲み干し、次に添えてある角砂糖を噛み砕き、やおらコーヒーに口を付け「コーヒーって苦い物だね」彼には初めての味覚だったのです。
    新宿の「TOP」も良かったですね。
    人はそれぞれ時を流れても何処かで同じ空間を共有していたのが判るとうれしいものです。

    Respond to this comment

  4. 3/6/2017 | 8:37 PM Permalink

    トムさん、はじめまして。
    コメントありがとうございます。もしかするとトムさんがの席に座ったかもしれないと思うと人と人とのつながりを感じます。
    ミクロネシアではコーヒーは採れるのでしょうか?フィリピンでその地の豆を購入したことがありますが、これがまた焙煎もまずいせいもあって最低だったのを思い出しました。

    Respond to this comment

  5. トム 市原

    3/7/2017 | 1:36 PM Permalink

    亀さま
    小生アルコールはだめで「コーヒー命」です。
    かってはポナペでも日本人がコーヒーを作って居て、我が家にもコーヒーの木があります。
    鳥が種を運んで来たようですが周囲に♂の木がないせいか、花ばかりで実を付けません。
    時々野生の実を取ってきて、自分で乾燥して焙煎しますが、とても良くできたときは素晴らしい味のが出来ます。
    表皮を取るときとか焙煎の温度によって随分変わる物です。
    野生のは70年前に日本人が植えて、今では大木になり実が落ちてその辺もコーヒーの木だらけです。
    今度、ポンペイ通信に載せますよ。

    Respond to this comment

  6. 3/7/2017 | 6:29 PM Permalink

    トムさま
    焙煎をマンションの台所でやっていて、レンジフードから排煙していたら隣人が火事か!と飛んできました。
    ポンペイ通信、楽しみにしています。

    Respond to this comment

  7. Your email address will not be published. Required fields are marked *

    *


    *


    You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>