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『ヒマ』と『忙しい』の間を生きる

2025 SEP 13 12:12:50 pm by 西 牟呂雄

 最近知り合った面白い男が言った。『おっそろしく忙しくてね』そりゃ大変だろうな、と心から同情した。で、何がそんなに忙しいのか、元々商社マンなので納期に追われているのかな、と聞いてみるとそんなことはない。理系の院卒で商社にいたが、退職後あるシンクタンクにいて、そこでバイオ関連についての研究をしている。先日ある仮説を思いついたようで教えてくれた(よく分からないのだがどうも中身は大したことがないような)。すると、その仮説を人に聞かせたくてしょうがないのだ。ひっきりなしに電話をかけまくって同じ話を何人にでも説明し、やたらとアポをとっては誰かとセットし、喜々として出かけていく。ところが私の見る限り忙しくは見えない。忙しさを演出したがっているのかどうか、分からない。
 一方私は喜寿庵で『ヒマでヒマでしょうがない』とグチを言いながら、セッセセッセとダイコンやニンジンの種を撒きニンニクを植え、草刈りに精を出してゴルフやスキーに行く。喜寿庵にいないときはヨットにまで乗り、もちろんヤボ用も足す(仕事だけど)。実際にヒマだからだ。
 冒頭の男、3カ月振りに会ったら前回言いふらしていた仮説の話はもう止めていた。それはそうだろう。どうせどこかで読んだ話の焼き直しなのがミエミエで誰も本気にしなかったのだから。要するに当たり前のことを過激に言っただけだろう。聞いている限りではそれはそれで面白かったのでいいのだが、今度はその仮説を進化させたような特許の話に夢中だ。なにやら説明をしてくれたがさっぱり分からなかった。その特許をナントカが評価してくれたとの触れ込みはどうも嘘っぽい。そしてその特許を広めようと例によって走り回る始末。すなわち忙しいのだ。だが良く聞いてみると本人が出願する特許ではなく、そのまた知り合いが取得するかもしれない、という程度の話で実態は絵にかいたモチのようだ。
 私の方はヒマに任せて台湾に行ってきた。顛末はブログに書いた通り。いやはやヒマというのも大変なもんで慣れない観光までして疲れてしまった。そのリハビリがてらヤボ用(仕事とも言う)に励んだ。ヤボ用の方は、頼まれもしないのに国際情勢にモミクチャにされてニッチもサッチもいかない。マッいいか。これからインドと打ち合わせを。
 古い友人に会った。同い年のこの男、極めつけのセンスとカンの良さで世の中をナメ切っている。一応サラリーマンにはなったもののまともに勤まったとは思えない。そもそも努力とか我慢といったことはやるようなタマじゃない。長い付き合いなのだが反省の弁を聞いたことがない。それは目標も計画も最初からないのだから、失敗や挫折を自覚できない。従って反省する機会がない。そんなバカなと思われるだろうが実際にいるのだからタチが悪い。
 そしてこの男は、察するところ私と同じくらいヒマなはずだが、おかしなことにどうもそうではないようなのだ。休日に連絡したりすると『忙しい』とか言って付き合わない。そんなに働き者のはずがないから不思議だった。それがついこの間理由が分かった。奴は自分のことを詩人でソング・ライターだと思っているらしい。普段から詩を書いたり作曲したりしていたのだ。半世紀近い友人だが、そんなことを始めたとは聞いていなかった。そういえば少し前にミョーな歌を歌っていた。多分あれがオリジナルなんだろうが、バカバカしいほど単純なお経のようだった。
 僕を含めここに3人のパターンを列挙したが、この3人のパターンは以下の3つに類型できる。

冒頭の男   ⇒  忙しい   ⇒  忙しくするために妄想が湧く
私      ⇒  ヒマである ⇒  特にやることもない
古い知り合い ⇒  ヒマである ⇒  ヒマだがやることはある

 くどい様だが実在の人物なので、実際に観察することが可能だ。そして彼らは私がブログを書いていることを知らない。だからここであからさまに暴露してもバレることもない。
 年齢は 冒頭の男は一回り若く、私と古い知り合いは同い年。容姿および教養はドッコイドッコイである(ただし専門は違っている)。目下の金回りは 冒頭の男>私>古い知り合い だろう。
 必ずしもパターン別の中央値とも思えないが、私を分析するツールとしてこの3パターンを比較し、私の今度をどうして行こうか、の参考になると考えた。なにしろもう古希だから。
 もっと踏み込んで言えば、私はともかくほかの二人は破滅の道に向かう可能性が高いと考えている。ちなみに二人を引き合わせる計画はない。

 具体的な比較に移る。
 モテ度 私・古い知り合い>冒頭の男。これは簡単で、冒頭の男は出だしはいいのだが、すぐに胡散臭がられて嫌われる、本当だ。私と古い知り合いはターゲットにする対象が全く重ならないので引き分け。
 真面目度。これも話してみるとすぐ分かる。古い知り合い>冒頭の男>私。自明の理であるが、私は何事もまじめに取り組めない。どうやら子供の頃からそうだったらしく、今であれば軽い自閉症とか学習障害児とされていただろう。冒頭の男は知り合って間がないので断定はできないが、次々と夢中になるがそれが最後まで続いたのは知らない。レポートを書くとかシミュレーションをするとかいったいうマメさに欠け、最後の落とし前をつけない。商社時代の実態はよく知らないが、実際の成果には乏しいと思われる。その点古い知り合いはここのところ詩人で作曲家のつもりでい続けている(らしい)。もっとも昔はそんなことはしていなかったが。
 酒。言うまでもなく 私>古い知り合い>冒頭の男 である。まてよ、不等号は逆か?無論飲む量も酒癖も私が一番手に負えない。冒頭の男は飲めないのじゃなかったか。従って酒席での失敗はありえない。私は数えきれないほどある。古い知り合いは日本酒が好きだが明るい酒である。
 家族。3人とも家庭は持っていて普通かな。冒頭の男は娘と息子。私は息子が一人で孫もいる。古い知り合いは子供はいない。いたって平凡な家庭といって差し支えないだろう。冒頭の男は教師の息子。私はサラリーマン家庭。古い知り合いは確か親は自営業だった。これも類型別に有意差は無い。
 さて、このフツーの3人のオッサン(冒頭の男は50代だがまぁオッサン)はどういうタイプといったらいいのだろう。
 フェアを期するために私から行く。テーブルに記したようにヒマである。で、ヒマに任せて無計画にチョイスして色々手を染め、しまいにこんな役にも立たないブログまで書いてそれで楽しい。ヤボ用(仕事)に対して、結果に意味があるかどうかはすっ飛ばして、結論までの能率とスピードしか興味がない。世の中からはみ出している自覚はある。やりたいことは山荘かヨットでぼんやりしていると浮かんでくるので不自由しない。但し、生活圏は限られている。
 冒頭の男は私とは違ってヒマになることに恐怖を感じているようだ。そして承認欲求が強いらしい。それはしばしば口が滑って明らかなウソが混じることで分かる。実際には自分自身の仮説やら特許が日の目を見た途端に(まずないだろうが)ヒマになることが分かっていて、それが嫌なので無理やり忙しくしているフシがある。流行に敏感ですぐに被れる。見たところ新興宗教なんかに引っかかる危険も感じる。イイ奴なんで心配ではある。
 古い知り合いは、長い逡巡(といっても思春期の一時期)の末に詩作と作曲にたどり着いた。そして人に読ませたり聞かせたりすることをしないまま作品を作り続けている。何かの機会で世に出る可能性は無くはないが、自分からは働きかけない。従って奴の迷作は日の目をみることはなかろう。一応未だに働いてはいるが、それで身動き取れなくなるほど忙しいとは言えまい。やはりヒマだ。
 以上に分類ができた。
 私はいまのままがいいし、他の二人がうらやましいともああなりたいとも思わない。ほかの二人が私を尊敬などしていない。どの人生が豊かかという優劣はつけられない。
 しかしながら、この3パターンにおいては誰も退屈な人生は送っていない。
 結論から言えば、上記テーブルは下記の通りに進化すると思われる。

 冒頭の男    ⇒ 無情の人 ⇒  中毒 ⇒ 妄想 ⇒ 哀れ
 私       ⇒ 無用の人 ⇒  怠惰 ⇒ 孤独 ⇒ ??
 古い知り合い  ⇒ 無欲の人 ⇒  偏屈 ⇒ 自由 ⇒ 悟り  

 さて、古希を迎えてヒマな私が今後どうするかを考えるために、私を挟んで最近知り合った『忙しい』と長い付き合いの『ヒマ』な例を上げ、どうしたらいいかを考察しようとした。
 極端なサンプルなので、一般的なパラメーターにはなりにくいとは思うが、見たこともないケースよりは実在するだけマシだろう。そして観察していて分かったがIQは恐らく古い知り合いの方がはるかに高そうだ。思い込みが無く切り替えのスピードが違う。この場合普段の奴と詩人になる切り替えのことである。そして共通点にも思い当たった。どちらも知的好奇心は旺盛だ。そして気が付いたのは二人は『退屈したくない』だけなのだ。
 ここまで書いて来ると、急にどちらも薄っぺらい人間に感じられて、せっかくここまで考察したことが無駄になった。
 私は結局このままでいくしかない、今後もなにもしない、という誠にアホな話になってしまった。ここまで読んだ人、ごめんなさい。

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Categories:潮目が変わった

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