Sonar Members Club No.36

カテゴリー: 失われた20年とは何だったのか

齋藤次郎氏インタヴューを嗤う

2023 APR 26 12:12:35 pm by 西 牟呂雄

 文芸春秋の今月号に元大蔵事務次官である斎藤次郎氏のインタヴューが載っている。先ごろ出版された『安倍晋三回顧録』に対する反論である。この方は在任期間中から抜群のキレ者で、10年に一人の大物として有名だった。
 私は回顧録の方も買い、随所で膝を打って快哉を覚え、同時に、こりゃ役所の言い分も相当あるだろうなと思った。そこにこの反論とは、興味深く読んだ。
 文中、氏の在籍していた時代に(おそらく主計局では)盛んに議論が行われ、ただでさえ優秀な官僚が切磋琢磨していたかを述べている。これは本当で、今はどうか知らないが夜の時間を気にすることなく延々と議論し、時には一杯やってから役所に戻ることも珍しくなかった(但し午前中にキャリアが席にいることもない)。
 財務省は税金を取ることと予算を切ることが仕事だ。
すなわち、どうやって増税するか(主税局)いかにに概算要求を切って上手く納めるか(主計局)の大義とノウハウを磨き上げ鍛えられた。そうして財政規律を固く守って来たと綴っている。
 ただでさえ優秀な連中がこうしてスキルを磨くのだ。一様に『それはダメです』という事に関してはプロ中のプロ、右に出るものはなかろう。
 それは結構な話だが、なぜそうかという例に先の大戦時の戦時国債をもって来たのには恐れ入った。確かにパーになってインフレを招いたのだが、それは負けたからだろう。亡母の実家はさる筋であったため、資産のほとんどを軍事国債にしてスッテンテンになったのは事実だ。
 だがその話をこの平和な(日本ではの話)今日に引き合いに出されても現実的ではない。ましてや単年度一発で複式会計もやらないドンブリのまま。この点は長く指摘されてきたが全く議論の俎上にも上がらない。後段になって、今後の防衛費増大についても国債は以ての外であり、復興特別税・法人税・タバコ税でまかなうことを財務省の功績であるとしている。
 筆者はリフレ派で、こういう事態には個人向け国債が最適だと考えている。
 増税は、消費税もそうだが、タイミング次第で必ず経済を冷え込ませる。氏の見解には全体を通じて景気・雇用・成長といった面への言及が全くなく、その配慮すら感じられない。将に『下々のことは知ったこっちゃない』なのだ。
 さて、回顧録にある元総理の財務省に対する非難に対し、消費税アップを延期した際の財務省との攻防で谷垣当時幹事長を担ぎ出そうとしたことを『荒唐無稽な陰謀論』と断じている。氏がその動きを知らなかったはずはないのだが、バックレられるのは実働部隊が旧斎藤組(主計局長だった時の部下達)でなかったからで、このあたりはアリバイ作りとして巧妙だ。
 そう言うご自身は深く小沢一郎に接近し、その人脈をフルに活用していた。そして小沢一郎に操られた細川総理に深夜の記者会見で国民福祉税構想を発表させるという荒業を繰り出した張本人だった。
 更に、故安倍元総理は仮想敵を作り出し、それに対して極端な排除の論理で政権を運営した、と主張されるが、それは氏と二人三脚で組んでいた小沢一郎の得意とするところではなかったか。            『省益とは何を指すのか理解できない』と話を持って行くのだが、決まっているではないか。オレ達の好きに税金を取らせろ、予算を切らせろ、のことだ。そこに手を突っ込まれかけたのが気に入らないに違いない。小沢は好きにやらせてくれた・・・。
 『モリカケ』問題に至っては、リークの可能性を一笑に付し改竄を指示した佐川当時理財局長に同情すらして見せる。筆者はあの件は佐川氏が責任を取って腹を切らなかったので自殺者まで出したと解釈しているので、これも頂けない。元総理が与り知らなかったのはすでに明らかになっている。
 財政規律の話に戻る。1990年代後半までトリプルAだった国債の格付けが2014年から徐々に落ちはじめ、故安倍総理の増税延期を機に『A+』となった下りには、さすがキレ者と感心した。氏が様々な大蔵キャンダルの挙句、部下に罪をなすりつけたと言われながら辞任したのが1994年なのだ。その後天文学的不良債権処理で失われた20年に陥り財政規律もクソもなくなるのは自分のせいではない、と言いたいらしい。故安倍総理の増税延期は2014年。前年に大蔵省の後輩である黒田氏が日銀総裁に就任し、黒田バズーカを撃ったタイミングであり、ここでも見事なアリバイが成立する。参った。小沢一郎をたぶらかして¥80/$をほったらかしたあと民間がのたうち回って国力がガタ落ちしても財政規律の方が大事だ、という論法だ。
 同じ文芸春秋の一昨年十一月号(10月発売)に現役財務次官が『財務次官モノ申す』としてコロナ対策に纏わるバラ撒きを批判した論文が載り、氏はこれを高く評価している。安倍内閣は2年前に終っていたが随所にアベノミクスを引き合いにしているところもあった。当初、元総理は現役が官邸にモノ申す前にマスコミに発表することに厳しい目を向けていたが、その後は執筆者の矢野事務次官を囲む勉強会をしたそうである。そして安部氏亡き後矢野氏は、真の調整役がいなくなりその穴は大きい、と漏らしたらしい。ちなみに矢野氏は上記佐川元理財局長と同期である。他に片山さつきセンセイ。
 時は巡り、安部-野田総理の代表質問から解散に至り、自民党政権が復活した。その前の民主党政権時に斎藤氏は日本郵政社長のポストにいた。郵政民営に反対の立場で入閣していた亀井静香の人事と言われている。
 すると、政権交代により自身の立場が危うい上に大蔵人脈のポストを奪われてはならじ、とばかりに、任期を残したまま後輩の坂篤郎に譲り、政権交代後の菅幹事長を激怒させた。急遽民間出身に挿げ替えられた。坂氏はこれも優秀な人材で知られており、ゴリ押し人事のとばっちりを喰らった格好でむしろ気の毒ですらあった。

 しかし、繰り返しになるが筆者はリフレ派・MMT支持の立ち位置なのだが、いささかヤバい時期には来ているとは考えてはいる。金利差によって¥130/$で安定しても、一向に競争力が上がらないのはどうしたことか。既に巨額の貿易赤字が3期も続いており、エネルギー・コストは爆上がり。春闘で企業がキバったところで賃金の上昇分は吹っ飛んでしまう。最早手遅れなのか。
 妙案はないのだが、国債の暴落は本当にヤバいから、少なくともイールド・カーヴ・コントロールの形を残しながら10年かけてチビチビ金利を上げるしかないのではないか。市場の歪みは当面置いておく。
 抜本的とか言い出すと大幅に福祉を切るとか、核武装して防衛コストを下げるとか力業の政策に行かざるをえなくなり本末転倒。それでも財政規律が回復する前に災害も不慮の国際紛争にまきこまれないとも限らない。
 蛇足ながら、インタヴュー中でもっとも巧みなのはゴルフについての部分である。ゴルフを始めて面白くなったころ。信頼する上司から『公務員たるもの接待ゴルフなどするな』と言われて止めた、とある。これを現代日本語に翻訳すると、『主計官がたかりのゴルフなんかするな、と言われたので以後は渋々自腹でプレイした』となるだろう。

一般不均衡理論 Ⅱ

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一般不均衡理論 Ⅱ

2023 JAN 16 6:06:56 am by 西 牟呂雄

 2021年度末、すなわち昨年の今頃の時点である。マネタリー・ベース(中央銀行が市中に直接供給しているマネー)は日米でそれぞれ700兆円と5兆ドルだった。すると700÷5=140で1ドル140円が導かれる。
 2022年から米国があまりのインフレに利上げを始めると、円安が進行し3月に130円台になり、日本も物価が上がり出す。奇しくもロシアのウクライナ侵略と重なり世の中が騒然となった。特にマスコミは家計が破綻する、と煽った。為替はヒステリックに150円まで下落し、その後に目下の130円レベルで落ち着いた。その間の平均は140円くらいだろう。何だこれは。
 この単純な割り算は、交換比率について総量の比較と為替相場の相関を示したソロス・チャートと言われる分析手法として知られている。
 為替取引は株価と同じで、参加者の全員が全く同じ情報を共有して全く同じ思惑で行動すればある価格での売買は成立しないので値は動かない。従ってこの間に大儲けした者と損を被った者がいただけだ。儲けたのは誰だ!それは政府である。
 九月に外為特別会計180兆円のうちのドル建て債券を売却して、急速な円安対策として為替介入したが、その原資は1$100円時代に勝ったアメルカ国債だったと日経新聞が報道している。単純計算で含み益は数十兆円だったろう。
 確かに戦争の影響によるエネルギー・コスト上昇や円安に伴う原材料の高騰は家計を苦しめる。しかし、それも全体で観れば2%プラスα のレベルで、うっかり黒田総裁が口を滑らせた『許容の範囲』と言える。昨年12月の4%は驚きの数字ではあるが、むしろこの何十年も口にすることすら憚られた『値上げ』を許容できる環境になったことこそデフレ脱却の第一歩として評価したい。
 さらに悪い円安などというが、そのおかげも相まって2022年度の製造業に限って言えば大幅な増益の企業が目白押し。今まで貯めこんだ内部留保もあり、今回の春闘ではそれなりの賃上げはなされる。確かにコロナ禍もあり飲み食い旅行の類は厳しいものがあるが、マクロレベルでの物流はすでに回復していた。
 さすがに$=150円を付けた時はギョッとした。その時点での貿易赤字が月間2兆円にもなっていたからだ。これが続けば価格転嫁も交易条件の改善もかなり遅れるのだが、幸い冒頭申し述べたレベルに戻り、さらに日銀の方針転換を思わせる黒田介入によって現在の水準にある。所謂Jカーヴ効果が出る環境にある。
 先週末は次の黒田介入を期待しての国債売りが殺到し、均衡状態では稼げない金の亡者がカラ売りをかけている。これを日銀は10兆円で買い入れ市中の流通国債が枯渇するほどになれば、円の流通は市中で増加して為替は既に130円を切るまでになった。めでたしめでたし。この状況は前回『一般不均衡理論』で考証した。
 さて、これで万歳か、というとそうはいかないようだ。米中ともにリセッションの風が吹いて、実は年明けから製造業の活動水準は急速に落ちている。
 外部要因だけではない。防衛費増額・異次元の少子化対策,等まことに喫緊の重要課題に対してオウム返しのように増税議論がくっついてくるのだ。総理あるいは税調の重鎮から発せられるアナウンスは、いかにも民間の経済など知ったこっちゃない財務省の影がちらつく。なぜ、あの優秀な財務官僚が防衛関連個人国債とか消費税のうち1%を振り向けるといった発想が湧かないのか。
 この増税アナウンスは高市早苗が喝破したように今言う話じゃない。経済を活性化する方が先だろう、順番が違う。
 嘗てのキャリアは骨のある人が多く、上に向かっても政治家に向かっても自説を申し立てる根性があったと聞くが、目下のところ財務省の本義である『予算を切る』『税金を取る』ことに血道をあげ、上がそうなら末端まで一色になってしまった感がある。
 彼らは確かに優秀で、挫折感もない。だが出世欲は人一倍強く、そのためなら自説を曲げるどころじゃない。筆者の先輩に徹底的に我が道を行きペイオフを断行したサムライがいたが、そういう人材は枯渇したのではないか。あのリザイ局長なんか・・・ねぇ。
 で、困ったことに思うように出世しないと選挙に出たり(評判の悪い〇〇さつき)ひどい場合は自殺。自殺の大蔵、不倫の外務という言い方があった。
 総理はすでに絡めとられており、何か政策を発表しようとすると寄ってたかって財源論を刷り込まれ、そしてそれを言わされている。いずれ増税になるとしても時期と議論のタイミングがあるであろうに。
 かように経済の舵取りの不均衡状態は国家の内側からももたらされるのである。

一般不均衡理論

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日本の良き時代 

2022 SEP 24 22:22:29 pm by 西 牟呂雄

 多少の反乱・一揆の類を除けば人々が平和に暮らし文化の華が咲く。一見お花畑的な理想郷といえなくもない時代が日本史には二度あった。平安時代と江戸時代だ(異論はあろうが)。身分制度だのイチャモンのツッコミ所は満載とはいえ、当時の庶民はお気楽な暮らしを立てていたことだろう。士農工商と言うが、工と商は主に都市部にしかいないのだから身分云々はお武家様に対して形だけヘーコラしていれば良く、よほどの豪商以外は全く税金など払わずに済んでいた。この気質は明治以後の下町に残り、戦後でもしばらくはサラリーマンのことを『月給取り』と言っていた。あれは『月々決まった額を貰って税金を払っている人』という意味だったと記憶する。実際に聞いたことはないが『税金なんざ払ってたまるかよ』といった気質が蔓延していたのである。
 お江戸の時代まで、もっぱら税金を納めていたのは農民ということになるのだが、お花畑時代以外に政治的に混乱していた、例えば戦国時代(室町時代)の民・百姓は大変な目にあっていたかというと、それはそうでもないらしい。平安時代末期700万人が鎌倉時代を経て室町幕府成立時には800万を超え順調に増えていっている(国土交通省資料)。
 やんごとなく平安貴族がセッセと式典を暗唱したり占いに凝ったり文学の花を咲かせていた傍らで、傭兵として犬のように使われていた源平の輩が地方で(平家は都で)バカバカしいから勝手にやらせてもらうぜ、とばかりに幕府なる行政機関を立ち上げる。
 鎌倉幕府は陰湿な内部粛清を繰り返しながら、承久の乱でブン取った後鳥羽上皇の広大な荘園を分けたあたりがピークで元寇によって求心力を失う。
 その混乱の中、農民は生活が向上し人口を増やしているのだ。ついでに言えばこの時代に、それまで貴族のものだった仏教が民衆に開放され。これが日本社会の横糸となっていく。もう一つ。大量の宋銭が流入し、それなりの経済活動が活発になる。
 時代は鎌倉から室町と幕府が変わり、その成り立ちについて『権門体制論』や『東国立国論』といった論争が成されているが、農民を中心とした一般日本人の生活水準は上がった。税金としての年貢を納める以外にも、支配者の元に様々な『役』といった形で職業での奉公が提供されるようになっていく。領主の方でもそういったものを確保するために領内を『守る』即ち領国経営のために『クニ』を防衛するようになっていくのである。
 民衆に蓄えられたエネルギーは海外に向けて(元寇のお返しではないだろうが)倭寇として押し出し、国内では鎌倉仏教の浸透による一向一揆といった体裁をとったと思われる。倭寇は武装貿易船団であり、一向一揆は内部エネルギーの自浄的発散と筆者は考えている。弾圧され沈静化したのだが、これは江戸期に至って統治が洗練されたからだ。天災・冷害等でコメの値上がりに対して江戸期に発生した一揆は基本は武装したものではなく。直訴や逃散といった作法があり、その後全藩一揆・惣百姓一揆・強訴といった大規模な蜂起が起きるが、打ちこわしと言っても家屋を壊すなどはあったが放火・略奪・殺傷といった武力衝突にはなっていない(例外はあるが)。
 中世研究の網野善彦は、税金を納める定住民(ほとんどが百姓)に対し、非定住のを漂泊の民を研究し実態に迫った。筆者はこれらの人々が『自由』であるといった記述には違和感がある。それらの漂泊の民が束縛を受けない独立した集団として捉えるのではなく、実は極貧スレスレの生活だがそういった輩も『食える』豊かな社会になった際の内部エネルギーの自浄的発散(上記、一向一揆の際に記述した)だと見ている。
 更に話を進める。江戸期に至って人口・生産がさらに上がると、統治する側の武士は完全にサラリーマンとなり、百姓は多量に入った銭が国産化されると益々資本主義的になり、言ってみれば中小企業者的に躍動する。年貢は個人にかかるのではなく村落にかかるので共同体が形成され、域内ではその百姓が造り酒屋や鍛冶屋、機織りを手掛け自足するのだが、驚くことにその付加価値は(裏作も含め)無税なのだ。小作・貧農が増加するのは明治になってカネによる納税を施行したために小百姓が土地を手放して転落したことによる。更に江戸期の百姓は移動の自由もあったのだ。
 外圧がきっかけとはいえ、ある種のブルジョワ革命とも言いうる明治維新に際して活躍した人材は官軍・爆軍とも百姓上りが大活躍している。これも歴史の流れから言って先程来使っている内部エネルギーの自浄的発散とこじつけることも可能だろう。
 お上の税金を逃れた付加価値が民衆にエネルギーを蓄積させ、その自浄的発散により構造改革が起こるという仮説は、この『失われた〇十年』という、主に平成全般に渡る停滞期に、消費税が段階的に10%に増税された時期とほぼ一致することに触発されて思いついた。
 結果的に正しかったかどうかを別にして、安保闘争といった大衆運動が起こり得たのが高度経済成長期であったことも妙に平仄が合う。
 それでは今日の停滞しているとされる我が国の社会には、筆者の言う内部エネルギーの自浄的発散の芽はないのか。なぜ発露されないのか。或いはエネルギーそのものが蓄積されていないのか。
 それは我々高齢者がふやけているからに他ならない。このゾーンが既得権益にしがみついて社会全体のエネルギーを雲散霧消させているのだ。思い当たるだろう、ジジイの自慢話ほど退屈なものはない。おまけにやたら神学論争が好きで自説に拘る。試しに国会議事堂前に行ってみれば『防衛費増額反対』『自衛隊違憲』『○○退陣』といったシュプレヒコールをする老人たちがいつもいる。老人達がヒマにまかせてやる社会活動もまた、大きなマイナスの社会コストだ。
 さっさと引っ込んで若い人たちに好き勝手やってもらい、遊んで暮らしていればいい。
 そしてジャンジャンくたばればコストは下がる。
 その時点で減税をやれば、瞬く間に日本は復活する。移民なんか必要ない。

 さて、筆者のような保守派は急激な改革は好まない。昔は良かった、などと言うのが嫌いなのである。それよりももっと嫌うのが外圧だ。大陸・半島からの外圧など断固跳ね返さねばならない。するとなぜか冒頭述べたお花畑時代、遣唐使をやめていた平安期と鎖国していた江戸期の下層階級に生まれたかった、などと夢想するのである。さぞ気楽な人生を必死に生きたことろう。

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ネットがもたらした事

2015 AUG 31 0:00:32 am by 西 牟呂雄

 それこそ20年前くらいからか。『失われた』と言われた間にネットは我々の生活に深く浸透した。それまでの職場はベテランも新人も電話にかじりついて怒鳴り合っていたり、罫紙に定規を当てて線を引いて資料を書いていたり、遥かに騒々しいものだった。又、経費節減のために通話料金が表示される受話器が導入されているところもあった。
 それが世界規模で通信費は限りなくタダになるメールのやりとりはおろか、スカイプで顔を見ながらの会議さえほぼゼロ・コストで毎日でもやれる。
 挙句の果てにこのブログのように、出版でもすれば大変な金と手間がかかりそうな(従って世に出すことが不可能な)どうでもいい文章が人目に触れることも可能になった。
 便利と言えば便利であり、お手軽といえばお手軽。
 聞けば大変な出版不況ということだが、それはネットでお手軽活字が世の中に溢れかえり、金を払ってまでそういったモノを手にしなくなったからではないか。一方で質の高いベスト・セラーはちゃんと売れている。
 しかしそれで、かつてであれば金と手間この部分を担っていた人の仕事が雲散霧消してしまったのではないか。

 山本夏彦氏が既に述べている。便利になって失うものは多いが人は絶対に前には戻れない、と。

 グローバル・スタンダード(好む所ではないが)も規制緩和もどんどん進むだろうが、多くの業務が失われていくだろう。行きつくところは好むと好まざるとに関わらず二極化が進む、当然ながら。
 中途半端は更に分が悪い。ITも取り入れた、海外展開も力を入れた、と一生懸命やってみるが、一般的に中堅企業は苦しい。運営するのに腰が引けてチェックしようと会議ばかりやることになる。尚且つ一人が暴走してしまうと致命的なダメージを負うことになるから、いきおい慎重にもならざるを得ない。更に、各種システムが運用可能になった時点では多くの人が余るのだが、大企業ならいざ知らず家族経営的な中堅所では思い切った人減らしを躊躇してしまう。

 世に『格差問題』が言われ出して久しい。恐ろしいことに広がる一方との報告も散見される。ネットの使い方も競争優位のツールとして使う側と、短い捨て台詞や娯楽の対照としてしか使わない層に分化しているのかも知れない。そして生活・仕事全般に至るまで、ネットのおかげで前者は一層密度濃く時間を使い、後者はよりスカスカな時間を過ごす。

 話が戻って、冒頭の『手間』の掛かる部分を担ったゾーンはそれでは失業したりニート・引き篭もりになったのだろうか。そういった統計を寡聞にして知らない。まさか全部がそうなったとも思えないのでやはり社会のある部分を支えているのだろう。
 そう言えばメールが『電子メール』等と言われていた頃、こういう物が普及したら会議などは無くなるかも知れないと思ったが、一向に無くならなかった。方針を上から下へと伝えるにも未だにそれなりのナントカ会議の体裁を取らないと組織は統括できない。
 労働人口が減るのだから『余計な手間』を省けるだけ減らすのは大変結構。だが今まで述べてきたように生産性の格差は縮まらない。
 

 ところで最近アグリカルチャー・デヴューしてから気が付いたのだが、農作物を小規模に育てることは実に精神衛生上好ましく、一方でオタク・ニート向きの作業かもしれない。大規模ともなれば機械化・企業化が必要かもしれないが、担い手が元々そういう管理形態に向いてない人々だから、あくまで個人的にやらせる。
 ちょっとだけ作業して有り余る時間をネットの娯楽に当てればメデタシメデタシとならないか。

 もっと別の話に展開したかったが、道草を食っているうちに下らないなオチになってしまった。

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爆買いの行方

2015 AUG 29 0:00:26 am by 西 牟呂雄

 銀座を昼間歩いて、今更ながら中国観光客の多さに感心した。
 地元のドラッグ・ストアにも『免税コーナー』ができて、いつも日用品をガッサリ買い込んでいる列に中国人が並んでいる。比率は圧倒的に大陸だが、どうやら台湾・タイといったところの人達もいるようだ。
 イン・バウンド効果大いに結構。これにはアベノミクスの円安誘導も一定の役割を果たしているだろう。

 一方で、その買い物客達の行儀の悪さも報道にある通り(九州に居たとき湯布院に新婚旅行に来ていた韓国人カップルは慎ましやかだったな)。しかし爆買いにはかすかに既視感がある。

 30年以上前のイタリアはフィレンツェのグッチ本店。バスで乗り付けた日本人のオバチャンの買いっぷりも凄かった。こちらも同じ観光客なのだが、一人でノコノコ見ているとダーッと日本語が聞こえてきて『ちょっとこれハウマッチー!』といった喧騒に囲まれ逃げ出した。「クオント・コスタ」くらい覚えて買い物に来やがれ、と思った。バブルの前のことだ。
 バブル時にハワイや香港ではもっと凄い光景があったことだろう。
 もっと昔、JALパックが人気があった頃。日本人団体旅行のマナーが問題だったのではないか。〇春ツアーがヨーロッパ某国や東南アジアで失笑を買ったことはなかったか。

 繊維だ鉄鋼だ半導体だとアメリカさんが散々ゴネた頃は『日本異質論』がバラ撒かれ、休日をやたらと増やされた。バブルの弾けにもガイアツの影を感じた。
 だが今に見ていろよ、と思った日本人の息の根を止める事などできはしない。このあたりでむしろ日本人の良質な部分が覚醒したと考えている。そうか、郷に入っては郷に従え、この前の戦争の時もコッチの言い分だけじゃ通らなかったじゃないか。マナーは合わせてちゃんとやりますよ。そこからが日本人の勝負所だ、と。
 まぁそう覚醒して20年以上経つわけだ。
 このあたりの感覚は爆買いの主人公達にはおそらく全く分からないだろう。何しろアノ連中は自国が世界なんだから。むしろ『日本よ、もっとチャイナ化しろ』と言って来る方が心配だ。

 昨今中国の株の下げっぷりが凄い。人民元を切り下げても、だ。おかげで世界同時株安が地球を2周した(8月21~25日)。円は上がった。天津の爆発もその影響の全貌は見えない。人民元切り下げという超非常事態をせざるを得なかったところに2015年からの憂鬱で予言したような不穏な雰囲気が漂う。

 しかしどうであろう、大陸からの爆買いに来日する人数は減りこそすれこのトレンドは続くのではないか(円が120/$の水準である限り)。それに消費される金額の何万倍もの不正蓄財が海外に移された後でもあるし。
 中国の実体経済は7%成長と言い出した頃からせいぜい3~5%が実態だろうと噂されていた。
 彼・彼女等がやたらと買い求めているのは日用品や家電量販店、免税の化粧品店が多いと聞く。彼らが使うのはもっぱらLCCだろうから富裕層と言わなくとも十分来日できるのでは。自国ではニセモノだらけだということをもう知ってしまったのだ。そもそもあの爆買いグループが全て株に投資している訳でもあるまい。
 この際、上海あたりから近い九州の空港内に、例えば佐賀・大分・北九州・宮崎あたりで一大爆買いランドのような温泉付きショッピング・モールでも作って、入国しないで買い物とスパ・リゾートを組み合わせてしまえばお金をジャカスカ落としてくれないだろうか。
 特に北九州は人工の海上空港なので密入国の管理なんかもし易いし、意外とコストは安いだろう。他に海上なのは神戸・関空・中部国際に長崎か。
 現代の『出島』にしてしまえば輸出に係る輸送コストもゼロで済むし、むしろ採算に苦しむ地方空港などは乗ってこないか、どうであろう。対馬に行って韓国人観光客の多さに仰天したことがあった。彼・彼女等はフェリーで来ていたが大して観光する訳でもなくウジャウジャ固まっていただけだった。

 プチ・富裕層が根絶やしになる前に『バクガイ』をブランド化してLCCとコラボし、北九州空港あたりを『KBL(キュウシュウ・バクガイ・ランド)』にする構想を誰か計画しませんか。

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ドキュメンタリー ギリシャがやっちゃった

2015 JUN 29 21:21:37 pm by 西 牟呂雄

 このようなギリギリの調整というのは最後の一晩で決着がつくものだとは考えるのだが、銀行閉鎖とは。

 ユーロ不安から円が高くなった分だけ日本の株価は下がるが、あまり慌てるほどではないだろう。2万円台ならば問題無い。為替というのは不思議なもので、経験則上では急激な変動の危機感が持続するのは3カ月程度なのだ。無論その後の調整には1年くらいはかかるのではあるが。円建て外債はダメだろうが900億だったか。

 しかしどうだろう。EUの盟主になっているドイツは2月時点でこれを読んでいた気配がある。保有国債が紙屑になってしまうことを覚悟して人質のように他のEU諸国を揺さぶったのではないか。何しろ貿易黒字の多くをEU域内で稼ぎ出して、言って見れば食い散らかしているわけだ。
 しかしユーロ圏南欧諸国の債務危機があった2012年に比べると、市場は動揺していない。100年前だったら戦争でも始まって植民地にされるところだったろうが、今更そうはならない。
 デフォルトはするのだろうが、そのこと自体の影響は限定的。ヤバかった南欧諸国も2012年時点よりはマシになっている。予想されたデフォルトは急に起こるものではないから、あの程度の国が破綻したところで恐慌などにはならない。
 問題は時間稼ぎのつもりでやる国民投票の結果、ユーロから(ギリシャ国民もEUも望まないにも関わらず)離脱する道筋がついてしまう場合だ。そもそも国民投票なんかに掛けるような問題ではないと思うが。EU(ドイツ)は弱い国をしゃぶって見捨てるという評価になってしまいう、そうなりゃ信用縮小だ。
 英国もEU離脱に舵を切る。自国内でスコットランドの独立問題を抱え続けて大陸のイザコザに巻き込まれている余裕なんかない。
 フランスはギリシャ国債もドイツよりも保有していてダメージは格段に大きいが、それでもドイツに擦り寄るしかあるまい。 

 しかし思いもよらない所に問題が発生するきっかけになるかもしれない。
 例えば中国。株価の下落が始まっている上に、外交も上手く行っているとは言い難い。ヨーロッパは大きな輸出先だ。おまけに国境を接している北朝鮮は経済制裁を受けていて、全ての外貨決済はユーロなのだ。下落が起こってしまうとタダでさえ破綻している北がグシャグシャになってしまう。その場合38度線より中朝国境の方がヤバい。38度線では簡単に跳ね返されてしまうからだ。いや、何も戦争という意味だけではなく難民流出や治安崩壊ということも含めて。
 当然韓国経済は中国のダウンの影響大、さすがに日本も無傷では済まなくなるか。

 そう思ってヨーロッパのマーケットの開いた夜のニュースをチェックしたが、株価は2~3%の下落と円高後の東京マーケットの下落程度でしかない。そして思ったよりニュースの扱いが小さい。

 少し他の地域に目を向けると、これまたなかなか難しい。
 全く手が付けられないIS問題はアメリカが本気にならなければ絶対に無くならない。
 テロも所構わずだから始末に悪い。
 ウクライナも、実質ロシア軍がウクライナ軍に勝てていない。ロシアは、中国はギリシャにちょっかいを出すだろうか。
 
 どうも日本のプレゼンスが上がる気がする。
 このブログはフォローします。ドキドキするけど・・。

 
 

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ところで失われた分を取り戻せるのか

2015 MAY 9 17:17:28 pm by 西 牟呂雄

 最初から何だが日本型の密度で仕事をするのは、グローバル化が進むだけ進んでしまうと成り立たないのではないだろうか。
 色々と話をしていてアメリカ人だろうが中国人だろうが単純なビジネスの交渉ではしばしば『こいつらもうちょっと真面目にやれないのか。』と思ったことが何回もある。2000年代の頭の頃に(2002~2007)日本の素材をアジアや大陸に売りまくって組み立てた製品を北米に輸出する、というモデルに悪乗りしてまぁカモにしていた。ところが日本側は交渉のプレゼンの手続きまでは異常にエネルギーを使ってしまい、その場に臨む前にもう仕事が終わったような気になってしまう。最近読んだ本にうまいことが書いてあった。『日本人は非常に能率的に非効率な仕事をする。』そういうノリではどうも通じなくなって来ているのかも知れない。
 実は当時からもアメリカ人(白人だったが)の、見た目のトロさやだらしなさの合間からは思いもつかない集中力に一瞬ヒヤリとしたことや、中国人のやたらと友好的な態度の中にチラチラ覗く拝金主義的な上から目線にハッとさせられたことはあった。その場の交渉力では正直歯が立たなかった。
 合同演習をした海自の将校さんが言っていた。アメリカ海軍は普段時間には遅れたりダラダラしているように見えて、実践訓練をやってみるとこれが強いらしい。概して実戦向きなのだろう。
 京大教授の故会田雄二氏によれば、言い方は悪いが24時間ダラダラと且つ粘り強く働く、今日も明日もあさってもメリハリ無く働き続けるのはアメリカ人や中国人にはできないが、日本では(僕は別にしても)可能だという。現在でもしばしば悲劇を生みかねないブラック企業などが潜在的に存在している訳だ。
 更に欧米・大陸は少数民族を奴隷的に使う体質を共通して持っている。アメリカは移民を飲み込み、中国は異民族は言うに及ばず農民戸籍の人間をいくらでも苛める。こういった体質はグローバル化との親和性が高く、資本も国境を越えてダイナミックに移動できる。大陸が?とお思いのムキはあるかもしれないが、東南アジア中の中華街が強固なネットワークを築いていることを見れば一目瞭然であろう。この点多少の異論もあるかもしれないが話が進まないのでチョッとそういうことにしておいて欲しい。いい悪いは別として日本人はそういうタチにはできていないから、その真似事をすれば失敗する。グローバル化に乗り切れなかった所以かとも思う。
 大陸とは一定の距離を置いている方が相互にハッピーであること、歴史が証明しているではないか。一人頭はまだだがトータルGDPは既に2倍近い。相手の挑発もあるし、今更わざわざスリ寄って行く必要は無く、来たら追っ払い続けていればいい。むしろそれぐらいがいいのではないか。
 
 ところで、我が方が経済的に優位に立っていて中国というリソースを使おうとしていた頃、見るのもおぞましい振る舞いの日本人がウジャウジャしていた。中国語も覚えず、エラそうにふるまい、下品な物言いにゲラゲラ笑う日本人の塊は中国中にあちこち固まっており、日本でリストラされた腹いせか金に目が眩んでいたような顔は醜悪そのものだった。そういう特にエンジニアが自分の持っている2流の技術をペラペラ喋りまくっていた。
 その前には同じようなのが半島にゴッソリいたし、そのまた前には怪しげな英語使いがアメリカをウロウロもしていた。
 皇軍の軍律厳しく国際法を順守し規律正しくしているうちは評判が良かったのが、調子に乗って変なのが巾をきかせていた大陸浪人なんかもああいう顔をしていたに違いない。
 しかし今日位になればもうそういう連中は使い尽くされてお払い箱になっているだろう。一時いい思いもして稼いだんだからおとなしく引っ込んでろ。

 繰り返しになるが日本はグローバル展開に乗り損なったのだ。それに乗ってうまいことをやったのは、先程から例に出しているチャイナやアメリカであったのではないか。
 そして最近言われ出したニュー・ノーマルという無成長経済になってしまった。これ、以前はゼロ・サムという言い方だった。そして格差が広がったことになる。
 現時点ではEU・ロシア・南米に好況感はない。ドイツだってギリシャが弾けたらタダではすまない。
 勝ち組のはずの大陸でさえ気の遠くなる程の不正蓄財を国外に持ち出す政府幹部は後を絶たないし、アメリカは世界の警察の座から自ら降りた。だいたい使い切れないほどの資産を国外に持ち出そうとする輩がガサガサいるなんてロクな国じゃないだろうに。
 翻ってこの程度の格差なら世界水準から見れば上出来だし、今後は人口も減って縮小均衡はやむを得まい。
 いっそのことガラパゴス化を徹底させてサーヴィス産業を充実させたりする。すると特に日本語の参入障壁が高いのでまず外資は入れないし、今の為替が維持できればそれなりにやっていける(突発的な外部要因除くが)。爆買いやガイジン観光客の増加は実に結構なことで、ニューノーマル経済にソフト・ランデイングすることは可能ではないか。製造業は匠の技で必要なものだけを作る。

 一方いとも簡単に国境を越えてビジネスを立ち上げられる優秀な人材は現在でも多く、今後も続くだろう。そしてそういう一握りの逸材達はそれこそサッと日本語を捨てる方向に行くのかもしれない。そういったビジネス感覚の研ぎ澄まされた人々は自分のビジネスに一番能率のいい言語を選ぶだろう。日本のマーケットはニューノーマル・ゼロサムで結果縮小均衡するのだから。

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一般不均衡理論

2015 APR 17 21:21:32 pm by 西 牟呂雄

 最近考えているが、経済学で言う『新古典派』の均衡理論は長期的に(100~200年)そうかも知れないが、実体経済というものは社会的な環境の視点を通してみると違っているのではないか。私の仮説だが、必ずしも経済合理性で行動しないゾーンが(先進国でさえも)一定の比率で存在して攪乱要因となり、更に確率論として試算し得るモデルを凌駕してしまう時に雪崩を打って逆バネにする「オーガニゼーション」が発動されてしまうのではないか。
 これは・・、となった時にカラ売りを組織的にやる、或は見切りを付けて資金を引き揚げるプログラムは常に内在しているのではないか、とも思っている。
 僕は『アジア通貨危機』を末端管理職の時代に目の前で見た。比較的順調だった東南アジアの通貨がガンガン売られ、韓国はIMFの管理下に入った。
 ITバブルも味わった。あれ以来「バブルというのは終わってから気づくもの」といった定義がなされたと記憶するが。
 その後更に情報技術が進みスピードも上がったにも関わらず、リーマン・ショックは起こった。前年にサブプライム・ローンが飛んで、年が明けるとベア・スターンやファニーメイと大型の破綻が続いた。これらが奇数月に起こったので出まかせに『次は9月だ。』と言いふらしたら、本当に9月の末にリーマン・ブラザーズがやらかしたので慌てた。しかしその際にも、実は猛烈なカラ売りで荒稼ぎした者はいた。ただこの『稼ぎ』の部分はすぐには現金化されないので全体の信用が縮小する。しかもすぐには返済できない不良債権への評価が算出不能なレベルだったため、国による救済がどの程度の効き目か分からずに混乱を極めた。

 実はヒラ時代に商品先物相場に入れ込んだ時があって一か月くらい夢中になっていた。供託金を積んでその10倍位の金額で売り買いをする。業者はしきりに将来の値上がりを説くのだが、胡散臭かったので逆を張った(業者はヤメロと言ったが)。この時カラ売りを覚えて専らウリの側に回っていた。最初の3日で負けて、供託金を倍にして買いに走る。するとすぐに損を取り戻したのでもう一度手仕舞いしてウリを掛ける、マンマと当たって一週目は大勝。翌週も同じことをすると勝ちが火曜日には消えた。この時に手仕舞いしないで供託金を更に積む、丸損で2週目が終わる。翌週は毎日朝ウリを掛けて、昼休みに結果を聞いては逆張りを掛けることを繰り返して一週間やってチャラにした。このあたりで頭がいっぱいになり仕事に支障をきたしてきて怖くなった。途端に大負けしたので追証が追いつかなくなって止めた。結果は始めた時の供託金の10倍の金を蒸発させてしまった。白状するとこの経験があって、言うところの『均衡』は理論的にない!と確信した。いったい幾らか?言えるわけないでしょ。ワタクシ事で恐縮だがこのせいで結婚が大幅に遅れた、とだけ言っておこう。

 最近『格差論』が盛んに議論される。数字上ではそうなのかも知れない。しかしr>gの仮説を全面的に支持する気になれない・・・。日本においては低金利と上がらない土地のため、個別格差の広がりはそう大幅でもない(シングル・マザーや引きこもりといった各論は別)。例えば大資産を形成していたはずだった企業グループも、銀行護送船団方式にイチャモンつけられた後にはメーカーも銀行も数を減らし、従業員も減らした。
 結局バブルというものは均衡状態が大きく乖離しており、多くの人が先々の信用が拡大しているつもりになって発生する。その均衡を嫌う市場の一部がスタビライズされて行き、いわゆる負のチカラが溜まって来る。そしていらないもの(製品・サービス・建築物・その他等)が目に余るようになると一気に崩壊してしまう。ましてやグローバル金融がこれだけコントロールできなくなってしまうと、崩壊は常に突然なのだ。昔だったら戦争に違いない。
 冒頭の仮説に戻ると、少し極端だがグローバル金融は均衡を嫌うのではないだろうか。まして『レバレッジ』が効いており、高速売買が常態化し、人工知能が判断することとなればビッグ・ストリームは緩やかな調整にはならずにある種の崩壊を招く危険を内在せざるを得ない。

 念のため断っておくが、証券・金融を否定しているのでは全く無い。それらへの経験もないため、そこはSMCのエキスパート達におまかせしたい。

 今日の黒田日銀の緩和政策も異常と言えば異常事態に違いなく、出口戦略が言われだして久しい。イェレンの緩和中止が聞こえてきたら即座に対応すべきなのではないか。
120¥/$の居心地の良さにも慣れてきた。株価は2万円。

 カラ売り組の息遣いが聞こえてくる。
 
 随分手にしていなかったが、久しぶりにシュンペーターを読み直してみようか。昔読んで例の『創造的破壊』について、妙に腑に落ちたことを思い出した。

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円安と株高

2014 NOV 5 11:11:20 am by 西 牟呂雄

 自信満々の黒田総裁の異次元殺法がさく裂して株価は前場で一時1万7千円の壁を突き破り、円は110円/$を飛び越えて113円だ。この市場ショックを見極めて、安倍総理は消費税増税の決断をしなければならない。じつに効果的なタイミングだと思う。恐らく財務省はこれで消費税アップは安泰と祝杯をあげているだろうが、ちょっと待てよ。そんなに単純か。安倍総理はあと6年を狙らっているのだから、役人に煽られて遮二無二3党合意に乗っかる舵取りをするほどヤワじゃない。現状は国債を日銀が一手に引き受けてしまい、ろくすっぽ市場に出なくなったため政府の方は日銀に対する返済をすればいい。即ちどうにでもなる。一応禁じ手とされるがもはや多いか少ないかの話。
 一方である程度の株は輸出型大企業が核になって業績が潤って見えるのだが、企業の収益力を示す株価を現在の為替ドル表示で冷静に見てみると概算で20%程度の上昇しか見られない。これはほぼ円安による手取り現金の上昇にリンクする。
 しかも国際情勢の不安が大きすぎて、予測はどっちに出るか予断を許さない。
 まずはイスラム国の大暴れ。石油価格とテロのリスク。二つ目はエボラ出血熱。どこに飛んでくるか分からない恐怖。第三にウクライナ情勢。プーチンのブラフかと思っていたが、双方引っ込みがつかなくなってしまわないか。そして香港。何かの力が働いていなければ、あのスピードでマスクや傘が行き渡るとも思えない。心配なのは香港のキエフ化だ。場所柄第三勢力が入り込みやすい。
 これらはむしろ円の安全性が評価される方向が一般的だが、アメリカの緩和出口政策の前の絶妙なタイミング、黒田総裁乾坤一擲の勝負と評価したい。

 今後については突発的な例外を排除していくつかのシナリオを考えてみる。
シナリオ1
 消費税増税時期延期 ドル150円 株価 19,000円台
 7~9月の統計を見て判断するとすれば、それ程アクティヴではなく、年内に来年の10%への上げは難しくなる。しかし三党合意によって法制化されているため、財務省系の猛烈な圧力が安部政権を揺さぶる。そこで、執行時期を半年~一年延ばす、あるいは1%づつ2年に渡ってあげる。インフレ目標は達成される。

シナリオ2
 予定通り増税    ドル105円 株価 15,000円台
 結局三党合意のまま来年10%になる。一方で国際マーケットは円の安定感を重視して円買いに進み、100~105円に落ち着く。結局第三の矢が短期的に景気を押し上げる力にはなり得ず、格差は縮まらない。奥の手は復興を中心に大幅予算をつけてメデタシメデタシくらいか。ただ日米金利差が拡がると130円くらいになる。

シナリオ3
 消費税大幅延期 衆議院解散  ドル 180円 株価 11,000円
 各種数字が悪いところへ持ってきて沖縄知事選で負けてしまった安部総理は衆議院を解散する。泡を食った野党は当然敗北し、自民党圧勝するも消費税は『時期を見て』と玉虫色にされる。アメリカが金融緩和を縮小した時点で円暴落。物価は上がり株価も下がる。ただ国債は暴落しない。政府は強権的になる。日本TPP交渉から離脱。

 どうせ当たりっこないけど、言ったもん勝ちで・・・・。あしたにも訂正したりして。

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失われた20年とは何だったのか (序説のオマケ)

2013 SEP 13 15:15:42 pm by 西 牟呂雄

 東 大兄のシリーズにて、この期間の証券三国志的な迫力あふれる記述がなされました。大いに知的好奇心が触発されたところです。多くの示唆がありました。

 まず、’97年分岐説。我々世代は40代前半で序説に書いた通り一向に減らない不良債権の影におびえつつもそれなりの勝負を掛けていた頃です(今手抜きをしているという意味ではありませんが)。当時は中堅ということで、実際のプレイヤーとしてもジタバタしつつ、同時に後進の育成にも当たっていた訳です。この頃確かにオヤッと思ったことが幾つか思い当たります。一言で言えば権威の喪失、とでも言うのでしょうか。従来型の『親方日の丸』的なものに、特に若い人達が全く魅力を感じなくなってきた実感がありました。当時の就職希望学生と話をしていて、学生などはどんなに勉強していても産業構造の実態について論破されるはずもなく、むしろツベコベ言うような輩に「ホウ、それで?」というスタイルで接していましたが、優秀そうな連中程「あんたらの言ってるとおりにゃならねーだろ。」といった寒々しい反応が返ってきたのがこの頃でした。官僚よりは外資、既存企業よりはベンチャーといった流れができて、それは今日に至っているようです。二つの流れが始まりました。

 2001年は9.11という、アメリカがひっくり返るおぞましいテロが起きています。私の同期同窓の金融マンが二人犠牲になりました。アメリカはビックリし、怯え、その後底力を奮い立たせます。余談ですがこの時に思い出したくもありませんが『中にはいい気味だと思う人もいるのでは』的なツウィートをした恐ろしく低レベルの社民党女議員がいました。ここまで低俗な発言を政治家たるものがうかつにも外に向けて発信するのか、と気が遠くなったものです。

 2003年から2007年は製造業は高レベルの稼働です。そしてこの間がほとんど小泉内閣でした。SMCは政治談義は御法度ですので、そちらはさておき経済面だけで言えば、そこそこの成果があったかに見えます。不良債権はこの間金融機関の国有化を経て縮小し、更に再編が進み何か改革が進んだ高揚感が無きにしもあらず。しかし、内閣総理大臣が陣頭指揮をしたとも思えません。密かに噂されていたのは、総理の経済オンチをいいことに竹中氏が丸投げされたと言い触らし、中身を木村剛氏にこれまたブン投げた、あれはいくら何でも、というものでしたが。そう言えば木村氏も日銀出身でした。その後振興銀行はあっさり失敗しています。

 さて次の東 大兄の指摘、経済のスケールの伸び縮みという観点のデフレ解釈。小泉内閣期を通じてジワジワと燻っていましたが、この時から『格差』という言い方が始まったのです。東理論でいくとスケールの伸びによるデフレ感は低所得者、年金生活者の方に相対的に重いことになります。全くその通りです。ですが、私はその前に感じた次世代への違和感が我が世代の逼塞感と共鳴し全体的に拡がり、もう少し違った上記二つの流れが顕在化したように捕らえました。不幸にして小泉後、第一次安部内閣の無残な結果から大混乱が続きます。政治は翻弄され続けて、リーマンショック(5年前)3.11震災(2年前)と試練の連続です。その間に民主党政権を挟んでいます。災害については、現在も苦しんでいる被災者に同情を禁じ得ません。

 二つの流れ、というといかにも上、と下、に聞こえるかも知れませんが、意味するところは違います。むしろ右、と左くらいの感じです。格差という言葉には違和感があり、固定された階級などこの日本に全く存在していないと考えています。一般に非正社員、失業者、広くはニート、引き籠もりが格差の被害者ということでしょうか。確かにジニ係数等にはその傾向が見られますが、例えば被災者の方々より苦しんでいる非正規社員とはどういう人なのでしょうか。以前書いたように、私のパラメーターではニート・引き籠もりの類いは生活満足度は上位にランクされます。二つの流れとはうまく表現できないのですが『耽溺型』と『傍観型』位にしか表記できません。このあたりの論考は又別途検証したいと思いますが、確かな感覚として少し上の団塊世代はこの二つには分類できないのです。実際にはフーテンとか古い言い方ですが全共闘世代といった呼称は色々ありますが、それなりの理論武装をしたつもりの、何かに反発する形でのエネルギーを放出したがるタイプしかいません。反論大歓迎ですのでご教示頂きたいと思います。 

 東 大兄は『失われた』の部分をアングロ・サクソンに一泡吹かせた後の虚脱感と喝破したように読み取りました。卓見です。我々の世代はデフレ期間とされる昨今(というには長いのですが)を苦戦しつつも辛くもしのぎ、今後に上記二つの流れを示唆したのではないでしょうか。しかしどちらがどうとは言えませんし、これからも不況も危機もあるでしょう。それはそれとして。

 まさかのオリンピックがあと7年。 実は個人的に帰京以後環境の変化があり、私自身は現在『成仏派』を自称しております。オリンピック等のスポーツイベントや行事は今までTV観戦しかしませんでしたが、是非ナマで観戦し、参加したいと思います。その頃60代半ば、果たしてどうなっていることやら。楽しみが増えた気がしています。

 

 
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