Sonar Members Club No.36

カテゴリー: ロシア残照

こんなこと言っておいて・・・

2023 JUL 1 0:00:48 am by 西 牟呂雄

『発展は、精神的、道徳的な価値に基づいた文明の対話の中で行われなければならない。文明によって人間やその本質に対する理解は異なるものだ。そしてすべての文明が人間の至高の尊厳と精神的本質を認めている』
『伝統的な価値観は、すべて守らなければならない固定的なものではないが、新自由主義といった価値観とは異なり特定の社会の伝統、文化歴史の経験に由来して、いずれもユニークなものである』
『ジェンダーやゲイ・パレードといったファッションを国民・社会に導入するのは構わない。ただし他人に同じことを要求する権利はない』
 成程と唸らせる発言だ。
 翻って、最近SMCの投稿で検証されているように、敗戦以来ペシャンコにするシステムを構築してもゾンビのように
蘇ってくるジャパンという化け物を、繊維交渉・鉄鋼貿易・半導体輸出にいちいちイチャモンをつけ、グローバル・スタンダードをゴリ押しして護送船団方式を潰し、新自由主義を導入させたアメリカに対する警句としては秀逸な論考と思う。最近のLGBT法案の茶番もまたしかり。
 ところで冒頭の発言は誰のものか。驚くべきことに日本人の右翼ではない。昨年の10月にモスクワで開催された通称『ヴァルダイ会議』でのプーチン大統領の講演なのだ。
 ウクライナ戦争下で、ブラジル・アフガニスタン・中国・エジプト・フランス・ドイツ・インド・インドネシア・イラン・カザフスタン・ウズベクスタン・南ア・トルコ、さらには米国の民間人も参加した会議だった。
 それなりの論理的な話をすることのできる指導者が、何の大義も見いだせないムチャな戦争をしかけるという国際関係の不可解さに唖然とせざるを得ない。自分は戦争を始めておいてどうかと思われる発言だ。
 私はあの侵攻を支持するものではないことを強調しておかねばなるまい。ロシアからの帰国者の話を元に一般的なロシア人の感じているところをブログに書いたところ、まるで筆者が戦争支持者のような誤解を受けて攻撃を受けたからだ。バカバカしい。
 開戦から15ヶ月。双方の思惑通りに行かない最中にワグネル騒ぎという不確定要素が勃発した。これに関するインテリジェンスは筆者の手元にまだない。
 2014年、クリミアを占領した頃にロシアの事業パートナは『何でそんなことをするんだ』と怒っていたが『だけど支持率は高いし選挙では圧勝するではないか。どうしてロシア人はプーチンに投票するのか』と聞いた。帰って来た答えは『オレ達はソ連崩壊の時にドン底に落ちた。それをここまで戻してくれたのがプーチンだ。それにあの程度の悪い奴に投票しておかなければもっと、物凄く悪い奴が出てくるに違いない』と開き直られた。なるほどワグネル騒動を見てこういう輩のことを言っていたのかと妙に納得した。
 しかしながら、1年以上の戦闘が続くと、ズーッと戦争が続くことが居心地のいい輩が透けて見えてくる。まずはアメリカ。自国の兵士は血を流さなくて対立軸であるロシアの国力を消耗させることが可能になり、面倒な中国問題に集中できる。ブリンケンはチャイナで何を話したのか。侵攻以前のウクライナにおけるネオコン一派の露骨な活動が既に明るみになって来ている。
 そして中国。この事態にアメリカがどこまでコミットするのかじっくりと見極めているだろう。そして虎視眈々と日本を取り込むべく触手を伸ばしてくるはずだ。ターゲットはハニー・トラップにかかったとの噂もある林外務大臣。一方でロシアをサポートするフリをしつつ一帯一路の構築にいそしんで稼ぐ。
 ただし、訪露して習近平が高らかに謳った『制限のない友好』について、肌感覚としていささか疑ってかかっている。他に頼りになる相手がいないからさすがのプーチンもヘーコラしてみせたが、アッチラ大王やジンギスカンの恐ろしさをロシア人は忘れない。黒竜江沿いの国境線に中国人は2億人、ロシア人は800万人。竹槍で来られてもロシアは防衛できっこない。ロシアは自ら中国の軍門には下らないはずだ。

 さてさて、この悲劇を一刻も早く終わらせたいと思っていないのはどこの誰だ。筆者の考えでは単純な一国の悪意ではなかろう。何かグローバルなオーガニゼーションなのか。陰謀だー!!

プーチン・プッツン

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寒い国からの帰国者

2022 DEC 18 12:12:55 pm by 西 牟呂雄

 先般、長年ロシアに居住していた古い友人が一時帰国した。彼は現地のさる団体の理事であり、この『特殊作戦』遂行中の環境でも踏み止まっていたのだが、久しぶりにあったところゲッソリとやつれていた。やはり相当のストレスを抱えているのだと拝察した。
 曰く、ロシアのニュースばかりを聞いているとおかしくなってくる。幸い彼の場合は西側のニュースにも触れることができるので、バランスは保てているつもりだが、盗聴はされているはずなので滅多な批判を控えていると次第にロシア寄りになっていく気がする、と。以下、要点のみ。

・生活していく上での不都合は何もなく、経済制裁は効いていない。物価も安定しており特殊作戦推進中の実感は乏しい。日本食もいつでも食べられる。
・中国、インド、アフリカ諸国、南米等は制裁どころか非難決議にも加わっていない。むしろ安部ープーチンの関係をよく知るロシア人にとって、日本が制裁に加わる方が違和感があるらしい。
・元総理の暗殺はロシはアでも大きく取り上げられ、SNSなどではアメリカの陰謀説が流れもしたらしい。
・ロシアが孤立を深めている、と報道されるようだが、上記インド、中国、とは良好な関係であり欧米とはさすがに距離感はあるものの、人口比で言えば孤立ということにはならない。
・反戦デモは全力で抑え込む。体制転覆の気配は感じられない。ロシアは一党独裁ではないが、革命が起きる可能性はまずゼロ。
・仮にクーデターなどが起きてしまったら、返って『こんな甘っちょろいことでは勝てない』とするもっと強硬な人物が出てしまう方が心配される。
・心あるロシア人は本当に嘆いている。世界中に恥ずかしい、何という事をしてくれるんだ、と悲憤慷慨しているが、表立っての発言には気を使っている。
・核の恫喝はそんなに心配することはない。使った場合は孤立どころではないことはさすがに分かっている。
・戦争はやるべきものではないことを前提に言うが、この作戦のマズさ加減は初期にキーウを攻略しきれなかったことに尽きる。首都を潰して新政権を立てて終ろうと考えたのだろう。
・そもそももう8年も小競り合いをしていて膠着状態だった。その均衡を煽りに煽ったのはアメリカである。ここがロシア寄りと非難されるところだろうが、NATO入りはターニング・ポイントで、いくらなんでもやめろと言っていればこうはならなかったはずだ。
・そもそもウクライナは上から下まで腐敗した政府しか作れなかった国だった。クリミアをどうこう言うが元はと言えばタタール人がいた所を強制移住させてついでにウクライナにくっつけただけなのだ(この辺りで私が、それは今言う話じゃないと釘を刺す)。
・製鉄所に立てこもっていたのはウクライナ陸軍ではない。内務省直属の暴れ者。幹部はネオ・ナチで、地元では嫌われていた。
・徴兵逃れに出国するものがあとを絶たないのは本当だ。我々ローカルの雇用者にも『海外に転勤させるな』といった指導がある。
・日本の金融機関のスタッフは皆海外に出た。モスクワと時差のないドバイにいてテレ・ワークしている。
・ヨーロッパもコール・オプション等で看板を下ろしている。しかし、ヨーロッパ勢はこの百年でも国境が変わるような経験を何度もしているので、どうも水面下では繋がっているようである。
・戦争の先は見通せない。しかし次の火種はポーランドだ。
・現在ロシアからの出国はモスクワからイスタンブールかドバイしかない。従ってウラジオストックから出国するにもモスクワまで来なければならない。
・日本のニュースで最もショックだったのはアントニオ猪木の訃報だった

 そして彼は年が明けたらしかるべきタイミングでロシアに帰ると語った。私はグッド・ラックとしか言えなかった。

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ウクライナのスナイパー

2022 MAR 21 0:00:14 am by 西 牟呂雄

 別に戦争を煽るつもりはなく、ひたすら停戦・平和を祈っております。
 アンドレイ・スコベツキー少将
 セルゲイ・ポロフニャ大佐
 アンドレイ・コレスニコフ少将
 ビタリー・ゲラシモフ少将
 オレグ・ミトヤエフ少将
 いずれも今回の侵攻で戦死したロシア軍の高官である。侵攻とそれに至る国家の意思は邪悪かつ憎むべきものだが、戦死された人を嘲る気にはなれない。
 オシントから拾っただけで5人にも上る将官の戦士は、狙撃によるものと言われている。狙撃、すなわち遠距離からの高性能ライフルで仕留められた。
 通常このクラスの指揮官が最前線のコンバット・ゾーンに行くことは考えにくいが、そうせざるを得なかったのか、或いはウクライナのスナイパーがそこまで肉薄したのか。ちなみに先日閉幕した北京パラリンピックにおいて、ウクライナに最初の金メダルをもたらしたのはバイアスロン。ノルディック・スキーと射撃を組み合わせた競技だ。この国の射撃は伝統があるのだ。

リュドミラ・パブリチャンコ

 その昔、独ソ戦の時代に赤軍には2000人もの女性スナイパーがいた。
 その中でも飛び抜けて成果を上げた伝説の兵士がいた。リュドミラ・パヴリチェンコ少佐、その名の示す通りキエフ出身のウクライナ人女性である(~~~ンコとつくのは~~の子というウクライナ語)。
 若いころから競技としての射撃に打ち込み、キエフ大学に進学した頃に戦争が始まると狙撃手に志願する。トカレフを手に擬装を纏って長時間潜伏し、進軍した敵を背後から狙撃した、成功は数百人。
 連日ウクライナの士気の高さが報道される。女性もどんどん志願しているが、パブリチェンコの伝統を受け継ぐ人々だろう。
 彼女は戦場からは無事に帰れたのだが、赤軍の英雄として没後の遺体は皮肉にも現在ウクライナを侵攻しているロシアの首都、モスクワのノヴォヂヴィシエ墓地に埋葬された。
 狙撃手は敵中に孤立するケースが多く、2000人の女性スナイパーで生還できたのは1/4に満たない。リーザ・ミロノヴァ、モスクワ出身。ニーナ・ペトロヴァ、狙撃教官から48才で義勇軍に志願。アリヤ・モルダグロヴァ、カザフスタン出身18歳。ローザ・シャーニナ、入隊前は保母さん。いずれも名を成した狙撃手だったが戦死した。

 鮮やかに基地を叩いたロシア軍だったが、プーチンに上っていた情報の精度が悪すぎたのか、当初の戦争設計は成り立っていない。ロシアはその後の個別戦闘で押し込んだがそれで済むと思っていたのか。分割・傀儡政権、どちらのケースもウクライナ人の中に残り続ける憎しみを消すことはできず、仮にあの広い国土を占領するとしても今展開している以上の兵力を割けない。ロシア陸軍の常備兵力は27万人と聞く、半分以上を突っ込んでいてあれだ。
 このままでは長引けば長引くほど勝てなくなる。ウクライナはチェチェンやジョージアとは違う、どうやって統治するつもりだったのか。破れかぶれで核を使ってしまえば、(小型の限定核を無人の荒野に使うのだろうが)永久にロシアは破綻する。中国も態度を変える。
 偽旗作戦(false flag tactics)も既に見破られ、情報戦でも押され気味、サイバー戦もどうやら効果は限定的に見える。
 帝国陸軍が大陸で、アメリカがベトナムで、ソ連がアフガンで経験したことをプーチンが学んでいるとすれば、そろそろ国内に向けて恰好のつく落し所の結果を交渉するはずだ。

 待てよ。こうまで無理筋の戦争をプーチンが仕掛けた要因について、いかにもと言える合理的なものがない。真珠湾をやっちまった裏にハル・ノートがあったのだが、アメリカ人でその存在を知る者は皆無。我々の知らないハル・ノートをプーチンに突き付けた陰謀はないのか。
 例えばアメリカの圧力を受けたくない某国がNATOをそそのかし、ウクライナに核が配備されたとプーチンに吹き込んだ。或いは中国を追い詰めるためにウクライナのNATO入りを煽ってプーチンを切れさせ習近平に踏み絵を迫る。・・・・あんまりふざけてると顰蹙だから止めておく。

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ZOOMの向こうの悲しげな眼

2022 MAR 16 0:00:59 am by 西 牟呂雄

 顔はカメラの向けられず俯いていた。
「何てことをしてくれたのだ」
「皆さんに恥ずかしい」
「我が国は世界の信用を失った」
「何て事をしてくれたのだ」
「私があやまってもしょうがないが申し訳ない」
 憔悴し切った声には生気がない。
 相手はエカテリンブルグにいるロシア人。10年に渡るパートナーである。来日時には我が喜寿庵にも来て、たまたま来ていた学生たちと交流したこともある。
 大学工学部を卒業してエンジニアとしてスタート、ソ連が崩壊した。その後ジョブ・ホッピングした後に起業してあの国有資産のブン取り合戦のさなかで経営してきた。まじめでロシア人にしては珍しく酒が飲めない。個人的にはいかなる状況下でも、彼との友情に応えたいのだがやれることは狭まりつつある。手仕舞いか凍結か。日本は非友好国認定された。
 耳障りのいい情報だけに頼ってプッツンした大統領が悪い。クラスター爆弾、病院・学校空爆、次はマスタード・ガスか・・・限定的な核。
 核が使われたらNATOは黙っていない。核に対して核が使われなければ抑止理論そのものが破綻する。プーチンはそこまで狂ったか。もう他人事ではない。モスクワの地下ではすでに凄まじい情報戦が繰り広げられていることだろう。
 今もモスクワにいるさる日本人は侵攻直前まで、そんな心配はない、いったい何の大義があってキエフを攻めることができるのか、議会も機能している国でそんなことが始まるはずはない、西側報道はヒステリーだと断言してメンツを失った。現在は、これ以上経済制裁を受けてもっと酷いことをしでかさないか、と恐れている。
 街は警察官の数が目に見えて増え、おかげで治安は保たれているらしい。デモの光景が今までは放映されていたが、今後は見ることはできないだろう。報道規制が凄いことになりつつあるからである。あのロシアのスキンヘッド国連大使など、仕事とは言え全くの嘘っぱちを読み上げさせられているのは気の毒にさえなってくる。世界はカティンの森を忘れはしない。
 ロシア国内にはフェイク・ニュースが入り乱れ、国営テレビでは傭兵まで使うロシア軍は平和のために戦っているのだそうだ。ネットの統制も時間の問題だろう。ウクライナではお家芸である略奪・殺人・暴行が始まるに違いない。
 悲惨さ、非情さ、残酷さ、不条理さは今更ブログで私が書くどころではない。
 翻って、21世紀になってまでもあのような愚行が現実に起こり、それは我が国周辺でいくらでも可能性を秘めているという事実だ。前期高齢者である我が世代はイザという時に備えなければ。人間の盾にしかなれないだろうが、海に囲まれたわが国では子供がボート・ピープルになってしまう。
 無論プーチンは言語道断である。しかし、まともなロシア人も多いのだと付け加えたい。既読の読者もいるかも知れないが、あくまで冷静に思い出を記しておく。

「ワタシの名前はアリョーナです」
「こんにちわ。日本語が上手ですね」
「・・・・」
 同行のアレクサンドルが慌てて何か言った後、教えてくれた。
「彼女、『じょうず』がわからなかったんだよ」
 訪問先のマネジャーが『ウチの娘が日本のアニメが好きなんだがセリフは吹き替えだ。ところがテーマソングは日本語で流れて日本語の字幕が映る。それを覚えたくてネットで日本語講座を見つけて勉強しているんだが、日本人とナマの日本語を話したことがない。電話するから話しかけてやってくれ』と言って受話器を取ったのだった。
「おとなになったら日本に来てください。待っています」
 あれから10年。きっと飛び切りの美人になっていることだろう。

 気が重い。平常心を保ちつつウクライナの安寧を祈る。

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プーチン・プッツン

2022 FEB 28 1:01:43 am by 西 牟呂雄

 全くひどい話だ。外交も何もない。気に入らないからいきなりブッ放しキャタピラ音を鳴らしながら首都に侵攻。
 直前まで『部隊は撤収する』などと三味線を世界中に吹聴しながらいきなり開戦だ。これでは会談に奔走した仏独首脳は単なるコマ使い。筆者はハンガリー動乱やチェコに侵攻したソ連を思い起こす。
 プーチンは会見では原爆の使用体制を取ったとまで発表した(特別態勢のこと)。しかし一体どこに撃つのか、まさか自国の兵士がいるウクライナの都市ではあるまい。アメリカ?まさか。現ウクライナ政権をナチ呼ばわり(ロシア系住民をジェノサイドしたというフェイク)。映像を見るとやや太り、その目はイッている。体調に異変をきたしておかしくなったのではないのか。
 このナチ呼ばわりには伏線があって、ウクライナの2014年政変(親ロシア大統領追放)の際、その後の政権中枢にネオ・ナチ一派がいたことは本当だ。このことはロシア国内で思いきり報道されモスクワでは常識となっている。しかもその一派はアゾフ連隊として武装し、東部親派の支配地域で対峙している。その源流を辿ると大戦時に親ナチだったグループに行きつく。だがゼレンスキー大統領はユダヤ系なのだ。東部でロシア系住民を虐殺したと言うが、大きな声では言えないがこの8年というもの、東部ではそのアゾフ連隊とロシア派がズーッとドンパチはやっていて犠牲者も出ていた。
 キー・ワードはNATO。ウクライナの現政権はNATO加盟を謳っている。既にバルト3国がNATO入りした現在、プーチンにとってベラルーシとウクライナのNOTO入りはどうしても阻止したい。冷戦中は16ケ国だったのが今や倍だ。
 ロシア人の国境感覚がそうなのだ。ロシアの国境のロシア側には何にもない。20kmくらい寒々とした荒野が広がっているだけだ。モンゴルとも中国ともそう。そういう緩衝地帯がないとロシア人は落ち着かない。NATO加盟国と国境を接するなど以ての外という考えである。筆者はかつて日ロ合弁会社を立ち上げ、現在もロシア人との交流は続き、普通のロシア人の善良さをよく知っている。上記の国境感覚も彼らと話していて気が付いたことだ。北方領土の問題に一般のロシア人が関心がないのはそれが『島』だから。アッチラ大王に攻め込まれ、ジンギス・ハーンに蹂躙されたことがDNAに沁みついていて、中国人をキタイ・スキーと呼ぶのは契丹のこと。広大な緩衝地帯がなければいられない。
 それにしてもアメリカからあれだけの警告を受けたにもかかわらず、たった100発のミサイルでガタガタになったのはどうしたことか。ベラルーシから入って来た部隊は、遠く極東から移動して演習に参加していたことは確認されていた。今更、予備役招集、志願兵募集・外人部隊とか言っているが、何も対策していなかった、勇武のコサック発祥の地だというのに。8年前にほぼ無抵抗でクリミアを取られて東部を実効支配されながら何をやっていた。無論サイバーもフェイクも工作も(クリミアの時もやった)何でもやられ放題だったにせよ、こんなに脆いとは思わなかった。或いは首都籠城を決め込んで墨子の戦いでもするつもりだったのか。
 ついでに言えば、頭のおかしくなったプーチンにウクライナが蹂躙されている時に、アメリカもNATOも成すすべがないことをジーッと見ているのは大陸と北の国。ウクライナはソ連崩壊の際に保有していた核を手放した。台湾ははるかに小さい。放ったらかしにして見殺しにした場合、ニンマリするのは〇近〇と刈り上げデブだ。さっそく一発撃って見せた、こっちも向いてと言いたいらしい。
 一方、欧米がSWIFT排除まで踏み込んだ。ルーブルは暴落するだろうが、こっちも返り血は浴びる。例えばエネルギーが高騰する。合弁事業はどうなるのか・・・。モスクワ在住のロシア通日本人は『自分の人生が否定されたようだ』と嘆いた。彼はほぼ完璧にロシア語を理解するため、ロシアのTV・新聞ばかり見て普段はかなりバイアスのかかった意見の持ち主だが、さすがに落ち込んだ。
 ウクライナもウクライナで、2004年の通称オレンジ革命でEU寄りを主張したユシチェンコ政権は内部抗争に明け暮れ2010年時点ではロシア寄りのヤヌコーヴィチに選挙で負ける。オレンジ革命そのものもジョージ・ソロスに操られたものだと囁かれていた。

ユーリア・ティモシェンコ

 その頃、首相として人気のあった美人のティモシェンコは、後に逮捕される程利権を漁りまくった腐敗政治家。2014年にユシチェンコを引きずり下ろしたポロシェンコも大金持ちで、オレンジ革命を支援していたが実態は不正蓄財に励むマムシのような大統領だった。要するにロクな政治家がいたためしのない国家なのである。

 ところでこの電撃侵攻は(全く認められないが)見事の一言に尽きる。ウクライナはまだNATOではない、バイデンは部隊を派遣しないと言った、EUは簡単に騙せた、オリンピックは終った(パラリンピックはこれからだが)、相手はまさかと思っている、大地が凍って戦車が移動しやすい、今しかない、というタイミングを選んだ。アッという間に防空システムを破壊し、3方面からの侵攻を開始し首都を包囲する。
 東部でブラフをかけて主軸は北と南から、しかも主力は今なお温存している。
 そこから『非軍事化』と『中立化』を条件に話し合う、と誘いをかける、うまい。非武装中立とは恐れ入る。九条でも押し付けるつもりか、満州国でもつくるつもりか。
 ゼレンスキー大統領は前提条件なしでの交渉に応じるとか。核にビビッたか。
 その間、制裁は厳しくなり、ロシアの孤立感はますます募るだろう。だがプーチンはそんなことは織り込み済みで怯まない。多少の返り血は覚悟の上だ。国内のデモなんか知ったことか。
 それから感心したのは、SNSでも意識したのか攻撃対象を軍事拠点に絞り込んでいる(当然誤爆もしているが)。ロシア軍がアフガン(撤退を余儀なくされたが)やシリアでやったことは(シリア軍がやったことになっているが)皆殺しである。やってることは20世紀・昭和丸出しだが、戦術は今世紀・令和ということか。
 気になることが三つ。あの気が遠くなるほどの渋滞の中、トイレは大丈夫なのか?
 密集する両軍にオミクロンは蔓延しないのか。
 国連は話を聞く機関に過ぎないのか(そうなんだけど)。

 さて、NATOとロシアに挟まれた国。大国の思惑により攻撃を受ける国。言うまでもなく米・中の力比べのただなかにある我が国と台湾の置かれた状況と同じなのだ。この事態を見て大陸が台湾領の島を取りに行く、アメリカは辛くも助けて戦闘になる、自衛隊が周辺事態としてサポートし実弾攻撃を受けて巻き込まれる、大陸の意を受けた北の国がミサイルを100発我が国に打ち込む、安保条約発動の全面戦争、核!
 まだある。安部ートランプだったら有り得ないが、バイデンの裏切りだ。民主党は昔から大陸とツーカーだ。冷戦時代はソ連に大陸をけしかけるため密かに協力をしていた可能性が言われている。
 世界は中露・日米欧・インド(今回国連の理事会で棄権)・イスラム教国家・どうしていいか分からない国、の五つに分かれていくだろう。
 さて、どうする。核武装しますか、岸田総理!

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『今ここで思いついた』ウラジミール・プーチン

2018 OCT 4 22:22:16 pm by 西 牟呂雄

 余裕綽々でプーチン大統領は言った。
『ちょうど今こんな考えが頭に浮かんだ。平和条約を結ぼうじゃないか。今ではなく年末までに。あらゆる前提条件なしに』
 ニュースで散々否定的に報道されたので筆者もいささかひどいブラフだという印象だった。『なぜその場ではっきり断らなかったのか』『事前にその発言が止められなかったのは重大なミスだ』といった評価が多かった。
 冷静になってその状況を思い出すと、以下の3点が気になる。
 一つは安倍総理のスピーチが先にあり、プーチンがそれに答える形で飛び出した発言であること。つまり総理のスピーチに答える形での発言だ。
 もう一つは、この場を仕切っているモデレーターはブリリョフという著名な司会者で、この発言はロシア全土に中継されている番組であったこと。
 更に、安倍総理とプーチン大統領の間に習近平が座っていたアングルだったこと。
 要するに十分に『聞き手』、この場合ロシア国民と習近平を意識しての発言なのである。
 まず、総理スピーチでは将来に向けての話をしながら、日中・日朝の関係に触れ、ロシアとの長い交渉経緯を紹介し、『プーチン大統領、もう一度ここでたくさんの聴衆を証人として、私達の意志を確かめ合おうではありませんか。今やらないでいつやるのか、我々がやらないで他の誰がやるのか、と問いながら歩んでいきましょう』と語りかけ拍手を浴びていた。ロシア・ウォッチャーに聞くと、とりわけプーチンの拍手は手振りが大きかったという。
 そして質疑が終わるとブリリョフが大統領に向かって、北方4島に『アメリカの軍隊が来たらどうなるのか』と聞いたのだ。専門家によればさすがにこのテの問いかけは勿論予定の質問だそうだ。そしてその答えに、まずこう切り出している。念のためロシア大統領府が発表した英訳が手に入ったのでそのまま紹介すると次の通りだ。
Allow me to being by saying that SHINZO is right. Both he and I are eager to sign a peace treaty.I believe this to be extremely important for the relations between our countries.
となっている。
 この”SHINZO”のニュアンスは特別で、格段の信頼関係を感じさせるものだ。他の先進国首脳と何かとトンガリがちのプーチンがこう呼ぶのは世界でただ一人であり、そこに失礼さは微塵も感じられない。
 そして56年モスクワ宣言に触れ、冒頭の発言につながる。
 プーチンは過去の交渉記録をすべて知り尽くしている。そして安倍総理も秘密提案まで含めて諳んじているほどだ。この56年宣言を口にしたことは重大なシグナルだろう。
 更には習近平を前にしてわざわざ中露で領土問題(大ウスリー島のこと)を解決した事を引き、最後をこう結んでいる。
 We will seek to provide favorable conditions for resolving these issues. We want to resolve them, and I hope that one day yhis will happen.
 今のまま四島一括返還を言い募っていても、戦争でもない限り絶対に領土は返還されないままなのは明らかである。さりとて、さしたる根拠もなく足して2で割るような妥協案に持ち込むこともウィンーウィンとは言いがたい。
 総理の必死の外交を冷ややかに見ているのは誰だ。外務官僚のサボタージュということを作家の佐藤優が常々指摘しているが本当にそうなのだろうか。四島一括返還をお経のように唱えていれば大過なく過ごせるのかも知れないが、このままでは百年事態が動くとも思えない。

 プーチンは冒頭の言葉で踏み込んだ。これをガチーッと受け止める禁じ手はないものか。筆者はある、と考える。『よし、分かった。56年モスクワ宣言から始めよう』と言ったらどうだ。
 56年宣言は歯舞・色丹の引き渡しを謳っているのだ。地図をみて欲しい。両島は国後の真ん中あたりまでの海域に食い込んでいる。経済協力も地政学的に効果が激増するに違いない。
 プーチンは国民の前で約束している。無論国民をいきなり失望させるわけにはいかないが、驚くなかれ一般のロシア人は北方領土で係争していることはおろか、何処にあるのかさえほとんど知らないのが現実だ。平和条約ならば2島は帰る。
 ここまでならば日米安保条約の範囲として認定してロシア側も差し支えないはずだ。いや、除外対象としても本当はいいのだが、尖閣列島を範囲内と断定しているため中国に対して理屈が立たない。やっかいなのは国後・択捉には地対艦ミサイルを配備し軍事拠点としていること。
 さて、二島引渡し後は満を持して巨額の(1兆円くらいか)公共投資を国後島にする。日本に施政権だけはあるが、クナシリは自治とする。タックス・フリーとし、日露企業を呼び込む。できれば原発(もうダメだろうが)を建設するとか、ディズニー・リゾート型の施設などで人が集るようにする。カジノでもテニスの大会でも何でもいいからとにかく日本人が行けるようにし、金が回るようにする。
 ちなみにかの大坂なおみ選手の祖父としてテレビに出てくる人は、歯舞群島の勇留島出身だ。札幌から飛行機を飛ばせば彼女の出るトーナメントは日本人で満員になるだろう。
 ところで、択捉島は治安が結構悪いらしい。連邦政府の社会経済発展計画で投下された資金が汚職を蔓延させ、少ない人口ながら殺人や麻薬の犯罪までがある。ここは一つ両国で協力し、日本人が行くならばコーバンなどを設置し安定に努めていただきたい。特にヤクザとロシア・マフィアがくっつかないようにしなければ金をドブに捨てるよりひどいことになりかねない。

 と、まぁ勝手な事を思いついてみたが、右翼の人怒らないでくださいね。私は保守派のつもりです。左派の人反対するなら対案をお願いします、国益を損なわないように。 

北方四島共同経済活動は

国境を考える Ⅳ


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エカテリンブルグの春

2018 APR 15 17:17:57 pm by 西 牟呂雄

 さてロシアである。4月は日照も大分長くはなったが東京の感覚では充分に冬のエカテリンブルグに立ち寄った。
 市街地は130万都市であるからドカドカの積雪ではないが、夜は軽く氷点下になる。道路は除雪されているものの歩道は雪解けのグチャグチャした感じだ。

日本に来た事があるとか

 この街は今年のワールド・カップの開催地でもあり、日本もセネガルとの試合が組まれている。各国歓迎の意味で国旗が飾られている中に日の丸もちゃんとあった。
 ところが元々の競技場の観客席が3万人以下だったので(ロシアらしいが)スタジアムの外にスキーのジャンプ台のような仮設席を作って間に合わせた。もちろん終わったら取り壊す。あの上から試合を見るのは怖いだろう、と地元の奴が言っている。

 ロシア経済は石油価格の下落と制裁を受けて著しく停滞し、昨年は多少盛り返した事になっているがまだまだだ。
 といってもこんな田舎では(一応ロシア第四の都市だが)目に余るほどの景気低迷は分からない。昔からインフラがとても先進国並みに見えなかった。
 むしろ僕が見ればそこが可愛らしい、手頃な町という印象だ。 
 大統領選挙があってプーチンが軽く再選された、見た限りでは『だから何なんだ』というほど影響を感じない。反プーチン・デモなどここでは起こらなかったし、選挙の不正は話題にならない。投票率は60%くらいあって日本と変わらない。
 民間のロシア人と接していて感じるのだが、オカミに対するガバナビリティが高い。というか元々統治者という者はロクなもんじゃないと感じているフシがある。『政治家は、悪い奴かもっと悪い奴か物凄く悪い奴のどれかだ』という冗談はロシア人から聞いた。勉強不足でつぶさに読み込んでないが、ロシア革命もソ連崩壊も財政破綻が引き金を引いたトップの権力闘争と資産のブン取り合いと言ったら皮相に過ぎるかな。
 ここエカテリンブルグもそれなりに犯罪もあり、HIV感染者も公表されているのでマフィアぐらいいるかもしれない。車のラジオからローリング・ストーンズの『Get Off My Crowds(一人ぼっちの世界)』が聞こえてきたときはオッと思った(50年前の曲だが)。

 しかし日本も悩んでいる少子化問題は合計特殊出生率・乳児死亡率は10年前に比べるとそれぞれ1.3⇒1.7、8.5(1000人当たり)⇒6.0(日本は3以下)と改善傾向にあるので驚いた。聞けば男性の平均寿命も60位だったのが66才まで伸びている。
 知り合ったロシア人はカタコトの英語で話すのだが、無論政治の話なんかできない。二重スパイ暗殺の話も北方領土も怖くて話題に上げない。民間同士は結構制約が多いのだ。彼らからプーチンに対するあからさまな不満を聞くこともない(日本在住のロシア人はたまにこぼす)。
 オリンピックがあったので、フィギア・スケートの話で盛り上がったり。どうも今回会ったのははそれなりの連中らしく、クラシック音楽やバレーの出し物なんかに詳しい、文学への教養も深い。機械設計のエンジニアなのだが僕なんかより遥かにITに強く、様々なことを瞬く間に画像化できる。
 問題はそれをビジネスに繋げるインフラというかチャンスが少なすぎるのではないだろうか。無論地理的なハンデもあるだろう。
 この辺の事情を良く理解した上で、いいヒントを与えてやればまだまだ伸びる余地のある国でありエリアだと思う。
 何と日本語学校が市内に3つもあるし、日本食レストランも出来てきて(見なかったが)日本への関心も高い。
 調べていないのではっきりしないが、ここにはシベリア抑留とは別にノモンハンの時に捕虜になった日本人がいたらしいとも言われている。

酒が飲めない!

 ところで奴等が自慢したことの一つに、一人当たりのマヨネーズ消費量が世界一でギネスにも載っている、と言うのがあった。何でそんなにマヨネーズが好きなのか分からない、飲んでいるんじゃないのか。

 そして帰国の際に小銭を両替したら、10%以上もルーブルが下がっていた。
 どうせトランプがろくでもないツィートでもしたのだろうと思っていたら本当だった。オイオイ、止めてくれよ。
 そしてシリアに・・・。

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北方四島共同経済活動は

2017 DEC 10 22:22:57 pm by 西 牟呂雄

北富士総合大学冬季特別講座

 受講者の皆さんお早うございます。冒頭からナンですが、これでは全然遅く、足りない。
 安倍ープーチンの両首脳の肝入りで合意した「八項目の協力プラン」や提題の共同経済活動はこの一年大して進展しませんでした。
 僅かにこの九月、ウラジオストックでの東方経済フォーラムにおいて優先的に事業を絞り込んだだけで、その事業とは以下の五つ
① 海産物の養殖
② 温室野菜の栽培
③ 島の特性に応じた観光ツアー
④ 風力発電の導入
⑤ ゴミ処理・削減対策
です。
 これらは学生諸君には分からないかもしれませんが、典型的な官僚の作文です。おそらく外務省の関係者が考えたのでしょうが。
 皆さんは北方四島の人口がどれくらいかご存知ですか。色丹島で三千、国後島で八千、択捉島で六千と言われています。軍関係は除かれているでしょうが合計で二万人を越える事はないでしょう。即ちこのエリアでの地産地消型の経済活動を育成しても成り立たない、下世話に言えばペイしない。ロシアの方に旨みがないのです。
 この際、主権の所在は一端脇に置きましょう。勿論日本の領土であることは間違いありませんが、70年進展していない話です。例えば同じように実効支配されている竹島ではこういった共同活動など永遠に望めません。

 北海道側の窓口となりうる釧路市は四島合計とほぼ同じ人口ですが、その予算規模はどれぐらいでしょうか。1700億円~1800億円です。
 上記の5項目での事業規模をどのくらいで想定したのかわかりませんが、領土であるという主張を強く出す為には10兆円くらいの投資は覚悟すべきでしょう。上記予算の70年分を考えての金額です。
 この5項目を見る限り、そんな金額を考えていないことは明らかです。腰が引けてます。四島の外から人や金を引き込める事業はせいぜい➀と➂でしょうか。大したことにはなりません。
 もっとロシア人も日本人も四島に行きたくなる、行けばビジネスになる、面白いことがある、そうならなければ。

 一時、面積二等分論や3島返還論などがありましたが、これらは面子を潰される外務省及びその周辺によって内側から潰されました。実はロシアは長年の領土問題をこの等分方式で二度解決しています。中国とノルウェーです。中国とは川の中州、といっても335平方キロもありますが、その二等分、ノルウェーとは17万5千平方キロの大陸棚海域の二等分です。

 ところがロシアは今年の八月に、色丹島に新型特区を開設することを発表しました。これは結構なクセ球なのです。なぜでしょう。
 色丹島は1956年宣言で既に日本への返還を明らかにしている2島の方です。当時のソ蓮ですら返そうと明記した島にロシアの特区であることを発表してきた訳です。
 おそらく外務官僚は『認めがたい』と反発したでしょう。法的には日本領土に勝手に施政権を主張した形になりますから。
 ですがこのシグナルに乗らない手はありません。
 プーチン大統領は領土を返すつもりなどサラサラないのです。これは確かな筋で何度も確認されています。あのゴルバチョフでも全く関心を持たなかった。

 ところで私はこの夏にエカテリンブルグで開催された産業展示会に行き、プーチン大統領の権力の強さをまざまざと見ました。なんとプーチンが来ると突然発表され、事前のセレモニーが全てひっくり返りました。海外からの参加者も数千人いましたが、勝手に来て見学し勝手に帰って行きました。森元総理とは気が合う様で少し会談はしました。
 お陰で予定はメチャクチャです。しかしロシア人スタッフからは全く不平はなく、我々に対する(私はともかく)謝罪などありません。
 一般のロシア人は気が長い、100年位はついこの前の感覚でしょう。実は日露戦争に負けたことを深く根に持ってもいます。領土の返還など考えたこともない。
 そういう輩を相手に、安倍総理は実に巧みに駒を進めています。民主党政権を覚えていますか。皆さんがまだ小学校でしょうかね。日露関係は最悪でした。鳩山元総理の息子さんはモスクワに留学してましたが、物凄く評判は悪かったです。
 もっとも民主党政権で喜んだ国はありませんでしたが。中国でさえ不貞腐れて韓国はイ・ミョンバクが竹島に上陸しました。彼らの外交は稚拙過ぎましたが、自民党も対ロシアは腰が引けていました。わずかに橋本総理時代、手を伸ばせば届くところまでいったのですが相手のエリツィンが弱ってしまい潰れてしまいました。小渕・森総理もプーチンとは結構良かったのですが次の小泉総理はぶち壊しにしました。田中真紀子という田中角栄さんの娘さんを外務大臣にしたりして、ロシア通の鈴木宗男さん、民進党から自民党に移った鈴木貴子議員のお父さんですね、を逮捕にまで持って行きます。
 ここではその内容については触れません、各自で調べてください。
 現在一強とまで言われる安倍総理は自民党総裁をもう一期やるかもしれません。プーチン大統領は足元の弱い指導者を絶対に相手にしません。トランプ大統領でさえ二期目は無いかもしれない、とナメているフシがあります。
 安倍総理の次に誰がやっても多分だめでしょう。プーチン大統領も来年の大統領選挙への出馬を宣言しました。この時期しかないはずです。
 それなのにあの5つの共同事業ではロシア側が満足するはずがありません。

 一方で実は北方領土問題が解決してほしくない人達も日本にはいます。誰だと思いますか。まず四島周辺の漁師さん達。彼等はソ連時代からロシアの沿岸警備隊と秘かに関係を構築していました。ベトナム戦争を戦っていたアメリカ兵の中でロシアに亡命した人達がいますが、何人かは日本経由で道東の漁船から亡命したことが確認されています。闇があったようです。
 今日でも年収2千万を超える人がいます。ナマコの密漁ですね。今やヤクザの三大シノギは覚醒剤・オレオレ詐欺・密漁と言われています。こういった人達は返還されてシノギが減るのは困ります。
 また、水産加工工場が稼動して安い製品が大量に入ってくると困る事業者も出てくるでしょう。ましてや『特区』にされて様々な便宜供与が成されたりすれば、周辺自治体の税収にも影響があるかもしれません。総じて『北海道経済打撃論』とくくられます。
 外務省は安倍総理の外交にも危機感があるようです。官邸主導でやられると組織存亡の危機バネが働いて『それは現状ではできません』と強く出るでしょう。日本の官僚は極めて優秀ですが、特に『ノー』という事に関してはプロ中のプロなのです。
 その他にも四島が返還されないことで食っている学者・政治家はウヨウヨいるのです。

 さて、色丹島の話しに戻ります。上記の共同事業で島内のインフラ整備だけをするなら初めに申上げたようにいかにもミミッチイ。
 まず日本人が大勢乗り込んでいき、稼いで見せる。使ってみせる。色丹ブランドを日本にもロシアにも売り込む。属人主義で法を適用し日露が協力して治安に当たる。ディズニー・ランド・ノース・ポールなんかどうですか。島独自の仮想通貨は考えられませんか。
 なにしろ特区を宣言されて外資を呼び込むところで日本がグズグズしていると、例えば制裁を食っている北の国や中国が参入する可能性だってあるのです。

 さて、この中で北海道出身の人はいますか。どこですか。根室!近いといえば近いですね。あなたは。ああ札幌ですか。はい、帯広。他には、函館ですか。
 どうでしょう、返還されたら移住する気はありますか。・・・・ダメか(笑)。
 ほかの地方の方どうですか。さすがにいませんか。観光だったらどうでしょう。これは結構いますね。成る程。
 私はどうするかと言いますと、この年で移住されても迷惑でしょうからさすがに引越しはしません。
 ですが、現地で何か仕事があるならばやってみたいとは思います。ここでこういう講義をしている責任もありますから(笑)。

 実際は日米安保条約の適用はできないでしょうし、施政権・徴税権・治安維持と政治的なハードルはまだまだ高いのです。
 ですが本日の皆さんはお若い学生の純粋な民間人です。もしも事業がスタートした際、もっともその頃は卒業か(笑)、そんな場所を見ることは滅多にできません。是非歴史の証人になって頂きたい。そしてその見聞を生かしていって下さい。
 時間が来ましたのでこれで講義を終わります。質問は後から受けます。
 

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国境を考える Ⅴ

ロシア残照

ロシア残照 Ⅱ

米・露はどう対応するのか

2017 FEB 9 9:09:53 am by 西 牟呂雄

 トランプ大統領になって先が見えない予測不能になると、私のような保守派は歴史に立ち返って考える。百年前はどんなだったか。
 1917年は二つの世界史的動きがあった。一つはロシア革命。もう一つはアメリカが第一次世界大戦にシブシブ参戦した。ロシアはグシャグシャな混乱期となりアメリカはヨーロッパに関与を始めた。
 目下の状況はこの反対に見える。ロシアはプーチンの元にクリミアを併合してドネツク(東ウクライナ)で戦闘、アメリカのトランプ大統領は内向きに舵を切る。しかし実は少し前にはその逆で、足元の東ヨーロッパの国々がEU入りしNATOがロシアの足元にまで範囲を拡げ、その勢いを後押ししたのはアメリカ(オバマ大統領は積極的でないにせよ)であった。
 アメリカが中東に手を焼いてイランと妥協までしたが、ロシアはシリアに露骨に介入する。
 世界を左右する両国の関係は100年間振り子のように(サイクルとは言えないが)綱引き状態にある。冷戦は終結したものの、この力関係は相変わらず国際社会に強い緊張を強いている。
 情報機関がリークする大統領に拘わるスキャンダルめいた話はさておき、この振り子理論で言えば米露関係は安定に向かうと睨んでいる。ひとつのヒントに気が付いた。
 トランプ大統領は就任前にキッシンジャーと会っている。
 キッシンジャー人脈が復活した。これはロックフェラー人脈でもある。
 指名された国務長官はテイラーソン。言うまでもなくエクソン・モービルのCEOであり同社はロックフェラー直系。
 クリミア併合による制裁で金融と並んでロシアが堪えているのは石油掘削の最先端技術が対象になっていることだ。北極海に近いエリアの石油は中東のモノと違って油層が硬く、既存の技術では掘れない。その技術を握っているのはアメリカのメジャーなのだ。
 一方ティラーソンはサハリンⅠプロジェクト依頼ロシアと関わった親露派として知られる。制裁解除はロシアにもエクソン・モービルにも共通のウィンーウィンなのだろう。
 制裁解除には何かのきっかけと条件があるだろう。
 筆者はクリミア、もしくは戦闘の散発する東ウクライナの非武装緩衝地域化だと考えている。クリミアは手遅れかも知れないが、ドネツクあたりならウクライナも飲める妥協点ではないだろうか。それさえクリアすれば米露は対ISで十分協同活動し得るだろう。
 もう一つ。来年はロシアでも大統領選挙が行われる。勿論プーチン再選は磐石だろうが、節目になることは間違いない。
 
 ところでトランプと会談後、キッシンジャーは中国を訪問する。何故か。
 キッシンジャーと共和党は親中だが、ティラーソンは知られた対中国強硬派だ。しかも同様の発言をするマイケル・フリンと先日来日し尖閣が安保条約適用範囲であることを表明した”狂犬”マティース国防長官といった布陣である。マティースは「明のビヘイビァを研究している」と言ったそうだ。
 筆者はキッシンジャー訪中を、エクソン・モービル(ロックフェラー)繋がりでティラーソンを国務大臣にせざるを得ない旨、中国に伝えるためだったと見立てている。案外「トランプは本気だから浮かれるな」と釘を刺しに行ったかもしれない。中国はトランプ大統領の当選を選挙期間中の『TPP脱退』『駐日米軍撤退』発言に期待していたフシがあったからだ。おまけにヒラリーでは『人権問題』を取り上げるだろうが、トランプだったらその点心配なかろう、と。
 或いはキッシンジャーは「トランプには良く言い含めておいたからな」と言ったかもしれないが。

 この米・露接近はプーチンの追い風となり、領土交渉を言いつのる安倍総理に対してプーチンがそっぽを向くのでは、という論調が主流のようだ。筆者はそうは思えない。
 最近ロシア関係者で頻繁に話題に上るのが、上記制裁解除の結果採掘・精製可能となるシベリア・オイルの北極海ルートの輸出に関して、プーチン大統領が並々ならぬ熱意を示しているからだ。北極海ーオホーツク海ー日本海ルートはロシアの核心的戦略の気配がする。その際に千島列島の安全確保は極めて重要だ。タンカー回送ともなればアラスカからも近い。
 双方受け入れ可能な『共同管理』、例えば主権はフィンランドだが自治権を持ち言語・教育・生活様式はスウェーデンとしたオーランド諸島方式、といった方法の本で『共同経済活動』をするやり方はある。無論安保条約は適用されない。
 ちなみにこの裁定案は国際連盟の提案で採用されたが、発案者は日本人新渡戸稲造だった。

 そういえば北方領土とクリミアには奇妙な歴史的偶然が重なる。
 クリミア戦争は1854年から始まるが極東でも戦われた。英仏連合艦隊がカムチャツカ半島のロシア守備隊を攻撃しているのだ。そしてその戦いの隙をついてプチャーチン提督は下田で択捉島が日本領土という文言を含む和親条約を結んでいる。
 また、先の大戦の戦後処理のために連合国が会談して(あの不愉快極まりない)北方領土に禍根を70年ものこしたその場所は、クリミア半島のヤルタであった。

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日露ビジネス・ダイアローグより  

2014 NOV 6 18:18:03 pm by 西 牟呂雄

撮影 小野ともひで氏

撮影 小野ともひで氏

 
 皆様はじめまして。わたしの方からは日本の地方企業がロシアに、色々悩みながら合弁会社を設立した話を紹介します。クライアントは、この中の皆様は恐らく聞いたことの無い会社です。企業規模は大きくはありませんが、再来年に100周年を迎える中堅の会社であります。
 まず、時節柄政治的な話はさけたいと思います。主催者の趣旨もそうだ、と聞いております。
 一概に中小企業の進出、と括るのに幾つか定義したいのですが、まず銀行団の支援が得られるような規模ではないこと。更に様々な行政のサーヴィスが長期に渡って受けられるようなプロジェクトでないこと。正に民間と民間で、失敗すれば我々は逃げて来なければならない覚悟を持ってやる仕事、とご理解下さい。
 きっかけは、地方行政が地元産業振興のため地元企業保有技術の海外への事業展開を政策として推進しており、一方ロシアとの貿易促進の外郭団体様が日露ビジネス・マッチングを企画されていた、この二つの動きに乗っかって訪問ミッションに参加したことです。今から七年前のことでした。
 ただこの動きはその後のリーマンショックでいったん止まります。
 2009年に再度ミッションが訪露し、先方からも産業視察団が来日しました。その中で先方の我々と同程度の会社様が興味を持って頂き、互いに協議を重ねた訳です。
 随分と時間が掛かり、二回ほど双方譲らずデッドロックに乗り上げました。
 難しかったのは、やはり我々にロシアに関する知識が全くといってもいいほど無かった事で、やはり『寒い国』『怖い国』の印象のままやや腰が引けていた。しかし先方の、日本の技術を導入して事業を拡大する、といった熱い情熱が強いインセンティヴでありました。結果双方対等の50:50という合弁会社を昨年発足しました。
 50:50というのは、決定効率・後処理等を考えると止めたほうがいいと散々言われるものですが、現地の事情も考え(モスクワから1600km時差2時間)あえて踏み切ったものです。
 交渉に当たって経理概念が少し違っていることにも気が付きました。既に計画経済を脱して20年以上立っていて、グローバル標準の会計システムも整備されている訳ですが、ロシアの人々は非常に物持ちがいい。長く長く使うのです。そして償却後の評価はあまり重きを置いてない。『今で言えばいくらの資産』ということは若いロシア人でも飲み込めていなかったようです。同じように棚卸仕掛かりへのコスト参入も普段はやらないようでした。これからの問題でしょう。
 又、我々の使う日本語は形容詞とテニオハでいくらでも繋げることができます。一方のロシア語は個々の単語が長い。どんなに優秀な通訳を頼んでも、双方3分以上喋ってから通訳してもらうと微妙なところでズレていました。話は短く切らなければいけません。

撮影 小野ともひで氏

撮影 小野ともひで氏

 ところで、実際に始めてみて驚いたことが二つありました。一つは我々パートナーに恵まれたのでしょうが、ロシアの人は一度約束したことを身を切ってでも守ってくれました。具体的にはお客様の支払い条件がモメたのですが、彼らは契約通り払ってくれました。ロシアにも義理人情の世界があるのでしょうか。
 もう一つ、内陸部は大変に親日的です。様々な理由があるのでしょうが、その一つは日本のアニメかもしれません。
 お客様の工場に訪ねた際のエピソードです。商談が済むと先方のマネージャーがおもむろに、
「娘が日本語を勉強しているが、日本人と話したことがない。話してやってくれ。」
と言い出しました。日本語学校も無く日本人もいない所で英語版のインターネットで学習しているらしい。理由はアニメで、当地では(モスクワから200km)全て吹き替えですが、主題歌だけは日本語の字幕付きでそのまま流れます。その歌を日本語で歌いたくて一人で勉強しているのだそうです。独学ということで、どんなメチャクチャな日本語かと身構えたところ、
「ワタシノナマエハ アリョーナデス。」
ときれいな日本語が聞こえてきました。聞けばまだ15才とか。是非勉強を続けて、できれば日本で合いましょう、と約束しました。楽しみにしています。以上です。

ロシア東方シフトは本物か


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