Sonar Members Club No.36

Since July 2013

ヒョッコリ先生 さようなら

2024 JUL 20 1:01:36 am by 西 牟呂雄

 あっ、レイモンド君だ。久しぶりに見ると(1年振りかな)さすがに大きくなって一人で歩いていた。この子英国帰りだよな。よし、試してやるか。
『グッド・アフタヌーン』
『ヨーライ』
ん?なにそれ、英語?
『レイモンド君だよね』
『アーイ』
 わかった。この子コクニィを喋ってるんだ。ヨーライとは you alight だな。
『ハウ・オールド・アー・ユー』
『ヨンサイデス』
 ふうむ。何とかコミュニケートできる。日本語も前より喋れる立派なバイ・リンガルになりつつあるようだ。
『トゥダーイ・グランパ?(まてよ、ひいおじいちゃんか)』
『オッ、オージー・サマップ・・・ネンネ』
ん?するとお母さんが走ってきて大声を上げて呼んだ。
『勝手に走って行っちゃダメって言ったでしょ!』
 お母さんは喪服をお召しだった。
『すみません、いう事聞かなくて』
『いえいえ、大きくなりましたね。帰国されたんですか』
『ええ。急な話で。この子のひいおじいさんが先日亡くなりまして取り急ぎ帰ってきました』
『えっ、先生が?』
『はい。お陰様で大往生でした』
『それはそれは御愁傷様です』
『これから〇〇寺で葬儀なんです』
 呆然とした。あのヒョッコリ先生が逝ったとは。そうか、ご葬儀が〇〇寺なら近所だな。曇って小雨が気持ちよい。

 昼メシを食べてブラブラと散歩がてら〇〇寺まで、先生との会話を思い出しながら行ってみた。するとずいぶん大勢の人が見送りに来たようで、本堂に収まりきらなくて境内にたくさんの黒い人だかりができていた。ふうん、人気のあった人だったのだな。
 そしてちょうど焼香が終わったところで、喪主さんの挨拶が始まるところだった。初めて見かける顔た。レイモンド君のお爺さんで僕と同じくらいの年だろう、普段は東京にいてこちらに来ることは滅多にないらしい。

 本日はお足元の悪い中、またお忙しいところ近しい皆様にご焼香していただいて父も満足したことと思います。故人になり替わりまして御礼申し上げます。
 本日お見えの皆様には改めて父の事蹟たどる必要は無いものと思います。
 晩年の父が大変に好んだ肩書が三つございました。
 一つは『海軍兵学校76期会代表幹事』。この76期という年次は、入校時点にはすでに戦局が悪化し、サイパンは落ちておりました。そのため苛烈な教育を受け、2号生徒で敗戦を迎えました。兵学校は江田島です。従って直前の広島のキノコ雲を同期全員が目撃した年次です。そこでの体験はその後の父の人生に多大な影響を与えたのは想像に難くありません。思想的には海軍ふうの中道リベラル、息子の私が右ッパネですので「お前は少し危ない」と窘めることがしばしばありました。また、最期が近くなると悟って「ワシは海軍葬で送られたい」と言い出しました。まさか民間の我々が軍葬をやるわけにもいかず、本日皆様が若干の違和感を感じられる棺の軍艦旗や流された音楽は、せめて故人の意向に添ってやりたいという私達の思いとご承知ください。
 二つ目は、長年奉職しました東京●●株式会社が功績のあったOBに与える『社友』です。戦後、荒廃した祖国の復興の一助にと入社したと聞いております。時期は高度経済成長の真っただ中で、需要家はどんどん増加し、インフラが次々と立ち上がる中、大変忙しくしていたことを覚えております。そんな中、先代を早く失くして若干30歳にして当主となったため、未亡人となった祖母並びに兄弟、そして我々家族を支えました。
 三つめは、中央での仕事をあらかた片づけて活動の拠点をこちらに移した際、丁度地元の公立北富士総合大学の法人化を進めるため理事長を引き受け、その功績に対し与えられた『名誉市民』です。兄弟の中で最も地元に貢献したのはワシだ、と自慢しておりました。面白いもので、地方出身の学生さんを月に一度自宅に招き、夏はバーベキュー、冬はお鍋を囲んで話を楽しんでおりました。
 さて、様々な御厚情を賜った中で父の人生に彩を添えたのは、こよなく愛した『酒』でありましょう。皆様お一人お一人にも故人と酌み交わした思い出をお持ちと思います。ひたすら楽しい酒との付き合いでした。今頃は先に送った弟達と車座になってニコニコしながら飲んでいるのではないかと慰めております。
 最後に体力が衰えてベッドから降りられなくなり食事も喉を通らなくなったのですが、目が覚めると「喉が渇いた。ビール持ってこい」と言い、2缶位を「うまい」と飲み干しました。お医者様もさばけていて、もはや投薬の必要もないから飲みたいものを飲んでよい、とのことでしたが、まさかそれから10日余りも生きるとは思ってもいなかったようで驚いていました。最期は苦しみも痛みもなく、次第に息が細くなって天寿を全うした次第です。
 概して明るく豪快に見えた父でしたが、ことに当たっては緻密に考えをめぐらし、丁寧に物事を運ぶ人でありました。
 父は30台で当主となりましたが、跡継ぎの私は古希であります。この歳にして大きな柱を失ってオロオロするのは誠に情けない限りですが、まさに路頭に迷うような思いです。本日ご列席の皆様には、残された我々に故人の生前と変わらぬご厚情賜りますようひたすらお願い申し上げてワタクシの挨拶と致します。本日はありがとうございました。

 そうか、もうヒョッコリ先生には会えないのか。ずいぶん立派な人だったんだ、知らなかった。
 レイモンド君は本堂の奥でお母さんの膝の上にチョコンと座っているのが見えた。

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

 

続・街道をゆく 旧甲州街道犬目宿

2024 JUL 13 15:15:35 pm by 西 牟呂雄

 旧甲州街道は上野原あたりで現在の国道20号線よりやや北側の山間を通っていた。犬目峠を越える前後の休息のため、一村を以て宿場町をしつらえ犬目宿とした。江戸開府後に日本橋を起点とした五街道が整備され、参勤交代も定着した6代将軍徳川家宣の頃の話だ。

歌川広重

 八王子から小仏峠の関所を過ぎると街道は山間部を縫うように進むので、実はほとんど富士山は見えない。ただ一か所、富士が顔を覗かせるのがこの犬目峠である。そのせいで浮世絵師が題材にしている。
 このうち広重のものは実際の景観ではなく(こんな景色は犬目にはない)後に尋ねた『猿橋』の構図の類似が指摘されている一種のコラボと言ってよい。
 一方北斎のものは浮世絵特有の富士山をデフォルメしてはいるものの、街道の雰囲気を良く伝えている。

葛飾北斎

 
 中央高速で山梨県に入ると最初に談合坂S・Aがあるが、この談合坂の山側が犬目宿にあたる。この談合坂という地名は別に中央道建設の際に土建屋が談合したからではなく、犬目が歴史上わずかにその名を知られる事件に由来する。
 このエリアは元々米作には不適な山間部のため、コメは甲府の商人からの買い付けに頼っていたが、天保の大飢饉の際には買い占めによる米価高騰から大規模な一機が発生した。その際にリーダー格として指導したのが犬目出身の水越兵助だった。その兵助と志を同じくする現在の大月市エリアの無頼の徒を束ねていた森武七と語らったので談合坂という地名になった。
 一揆は当初、貧民救済のため米・金を五カ年賦で借り受けて貸し付けるという綱領を持って良く統率され、現在の笛吹市春日居の穀物商小河奥右衛門宅を打ち壊して帰村した。
 ところがその後、甲府盆地ではこの騒ぎに乗じた無宿人・博徒といった連中が大暴れしてメチャクチャになってしまうオチが付いている。兵助自身は騒動後家族とともに木更津に身を隠した後に戻ってきてこの地で義民として敬われている。

街道沿い

 さて、多少迷いながら犬目宿に着いた。本来の町並みは昭和期の火事により大半が失われたというが、縫うように曲がりくねった先にそこだけ真直ぐな一本道が通り、両側に民家が整然と並びいかにも宿場町だというたたずまいである。
 印象としては、大藩の長い行列がいっぺんに泊まるのには少々狭かったように見える。毛槍をかざしての『したーにー、したに』と整然とやるのは宿場に入ってから出るまでなので、この距離では長い行列には足りないのではないか。
 というのも、宿場町では殿様の安全を確保するため、本陣を中心に入りと出の道を捻じ曲げた構造になっており、特に甲州街道は江戸に向う軍勢の防衛上の理由から西から来るところには宝勝寺という防衛拠点を置いているため直線が短い。

本陣と思われる民家

 参勤交代は宿に大きな現金収入をもたらしたが、そのための役務提供は常備している人馬では足りず、近隣の民衆から助郷役を課したため民衆への負担も大きかった。
 また、各大名が宿場で鉢合わせると大混乱になるため、時期やコースを調整して宿泊が重ならないようにしたらしい。
 例えば御三家筆頭の尾張徳川家は普通に考えれば東海道を通りそうだが、しばしば中山道経由で甲州街道を使った。尾張藩は大藩であるから犬目宿のキャパをこえてしまう。その際に殿様が泊まった地元の素封家が今でも残っていたが、その理由は庭先から見えた富士山の景色が気に入ったからだ、と伝わっていた。
 葵の御紋の高張提灯が掲げられ門番が立ち、武士であろうとも下馬しなければならない格式だと言うが、こんなところに普段武士なんぞ居るはずがない。

尾張大納言宿所(民家)

 ところで以前のブログでも指摘したが、このエリアには桃太郎伝説があり、百蔵山の桃太郎が犬目の『犬』鳥沢の『雉』猿橋の『猿』を連れて岩殿山の『鬼』を退治したことになっていて、それにちなんで宝勝寺は犬の寺を称していた。近隣に犬嶋神社も3つほどあり、犬とは何かの関係がありそうだが分からない。
 歴史的には戦国時代においてこの地域は甲斐と相模の国境にあたるためしばしば戦闘が行われた。即ち関東の支配者である小田原北条と甲斐郡内の覇者小山田が干戈を交えている。
 主たる戦場は山中湖から御殿場へ抜ける都留郡や相模川沿いの厚木に加え、八王子城と対峙するこの辺りであった。古戦場の跡がある。

右に登る

 街道はそういった戦乱や天災、および利便性の改善のためにルートが変わったようで、今通っている旧甲州街道の更に前、古甲州街道ともいうべき道も残されている。この右上に上がっていく険しい道がそうである。籠や馬なら行けそうだが、馬車ともなるととても上がれない。
 明治13年、天皇陛下全国後巡幸で山梨県にお出での際には馬車を仕立て文武百官を従えての大行列である。一つには大名行列以上の華やかさを演出する必要もあったのだろう。
 そこで慌ててこしらえたの現在の旧『甲州街道』なのだ。

山梨巡幸-猿橋ー

 一行は上野原での宿泊の後、ここを通って犬目宿で小休止。大月の星野家で昼食、初狩の小林家で小休止、笹子峠手前の黒野田宿で宿泊した。
 星野家は今でも立派な屋敷が残っていて名産『桃太郎納豆』を売っている。
 小林家は筆者の祖母の実家だが、特に口伝は残っていない。当主が幼かったため小休止に於いては御尊顔を拝することはなかったと思われる。

明治天皇 休息碑

 こういった記念碑は『御小休(ごこやすみ)』として各地に残る。何しろ馬車に乗っての全国御巡幸であるから名望家・素封家・本陣などさぞ気合が入ったことだろう。筆者は都下荻窪にいたことがあるが、そこにも存在していた。
 街道は古戦場跡を縫いながら、参勤交代の大名行列のために整備され、明治天皇行幸のおかげで広げられ、眼下に鉄道が通り車時代に至って通行をしやすいように国道20号線となって遥か下に移り犬目宿は廃れた。更には大動脈としての中央道が見えている。

雲海の中

]

 尾張の殿様が愛でた富士を写メに捉えようとしたが、梅雨時だったので雲の中に埋もれてしまった。
 いずれ、秋口の晴れ渡った時に挑戦しようと思っている。
 殿様が見た時は、こんな無粋な鉄塔は無かったんだろうな。

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

 

怪奇 マンモス・フラワー

2024 JUL 5 13:13:47 pm by 西 牟呂雄

ポツン

 これは以前ブログで紹介したこともある、孤高の観葉植物で、喜寿庵の奥にある通称ネイチャー・ファームのはじっこにひっそりと佇んでいる。

ポツン 考


 それがですな、この梅雨時になって異常な姿に変身したのである。
 あまりの奇怪さに、思わず昔見たウルトラQ(50代以下の人、ごめんなさい。ウルトラマンの前の特撮テレビ)を思い出した。
 この番組ははじめはオトナを対象に企画された特撮物のフシがあって、怪奇現象を扱う不気味なテイストだったが、途中からもっぱら怪獣の出番が増えて後の子供向けウルトラマンの出発点ともなった作品である。
 ゴメスとかナメゴンとかカネゴンのキャラクターを僕たちは白黒で見たのだった。

 その中に東京の都心で突如巨大な植物が花を付ける『マンモス・フラワー』というのがあったが、それを彷彿させたのがこの写真である。あの寂しげな観葉植物の中からニューっと茎が伸びて花を咲かせた。
 長年見ているが花を咲かせたことはない。何じゃこれは。
 よく見ると花自体はそうケバケバしくはないものの、どうも突然変異的に出現されると不気味ですらある。あまりの気候変動でおかしくなったのだとするとコワい。

 という訳でその後必死に画像検索をすると、どうやら一番近いのはリュウゼツランという植物だった。そしてこの種は成長が遅く花を咲かせるまでに数十年を要し、開花・結実後に植物は枯れる一回結実性(一稔性植物)だとある。
 なにー、すると今現在見ている花は、こいつが生涯をかけてその最期に力を振り絞って咲かせた結晶とでも言うのか。
 そんな珍しい物に興味を示すのは僕の二代前、即ち変わり者で有名だった爺様に決まっていて、その爺様がヒマに任せて普請したこの喜寿庵はそろそろ百年が経つ。爺様、例によって凝った仕掛けをしたな。孫の僕が突然咲いた花に仰天して、その最期を見届けるのを今頃どこぞでニヤリとしているに違いない。
 ヨシッ、これで枯れてしまうならその時までをちゃんと記録してやるぞ、と意味もなく力を込めた。

 ところでその横でゴソゴソやっているネイチャー・ファームのアグリであるが、去年植えたスーパー・ニンニ君とお彼岸に蒔いたニコニコ・ポテトの収穫が始まった。ロクに肥料もやらず、厳しく育てられたニンニ君は締まった表情だが、ポテトの方は新品種かと思うほど小ぶりになってしまった。料理の材料にはなりそうもないので、茹でて自分で食べた。今のところ体調に変化はないので、少なくとも毒ではないだろう(不味かったけど)。

スクスク

 さて、枯れてしまうのをドキュメントしようとスケジュールの合間を縫って見に来たら、枯れるどころかますます健やかに咲き誇っている。どういうことだ。

 その後、二週間経った。
 相変わらず花は咲いている。
 下の方から枯れて来るという記述があったが、ご覧の通りドヤ顔で立ったまま。
 本当に枯れるのか、今度はそっちが心配になってきた。
 今年は梅雨も短く、その後は酷暑という。
 まさか・・・。

ドヤッ!

 梅雨空の元、
 更に一週間が過ぎてついに花が落ちた。
 いよいよ百年の寿命が尽きるのだろうか。
 但しこの硬い葉はまだ青々としたまま。
 まてよ、一部はすこーし白っぽいかな。
 そうなるとやたらと応援したくなった。
 せっかく異常気象なのだから、もう百年くらい行けるのではないか。
 そう思って周りに油カスを埋めたり水をやったりしている。
 ガンバレガンバレ!

花が落ちた


 
 

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

ドン底とは何か 日本ハムファイターズ

2024 JUN 29 20:20:03 pm by 西 牟呂雄

 交流戦の巨人とやったあたりからおかしくなった。3引き分けをはさんで1勝5敗で3位に転落、首位ホークスとの差は11.5ゲームに広がった。
 理由は簡単で、役立たずの清宮と12球団一の下手キャッチャー清水を1軍に上げ、尚且つたまに使うからだ。ついでに最悪ストッパーだった杉浦も中継ぎで出す(今のところ防御率はいいが)。バカ・ボスは学習しない。
 交流戦MVPは水谷だ。ピッチャーもそこそこ。それで去年のファイターズに逆戻りとは、どう考えても監督力のダメさである。そしてチーム状態が悪くなっているところへ首位ホークスをエスコン・フィールドに迎え撃つ。なんというマズさか。

 初戦は山崎福也を持ってきて、清水も清宮もスタメンには使わない、ヨシヨシ。ホームランにはホームランとまずまずの出だしだった。ところがこの日の山崎はコントロールが悪くその後ポカスカ打たれるのだ。守備に至ってはゲッツーのはずが、何とダブル・エラーという珍プレーも出てアッと言う間に5-1と試合は崩れた。福田の二塁への送球がそれ、細川から一塁への送球もそれ、その間に1点献上と高校野球でもないような下手さ。全く去年までのファイターズ丸出しに僕は天を仰いだ。
 打線もマヌケ感満載でスチュワート。ジュニアのナックルに7回までに13三振。それならばピッチャーの代わりバナをと津森を攻め立てたのだが、川村のファイン・プレーでパァに。こう言うのを手も足も出ない、と言う。あまりの不甲斐無さにあきれた。

 本日はまたしても守備がエース伊東の足を引っ張った。水谷が落球!このエラーで交流戦MVPが帳消しになった。そして1点だけ取れたのは出してはいけない清水が打点を叩き出すという悪い冗談。これで4連敗。
 思うに、少し調子がいいからと言ってバカ・ボスが思い上がったのではないだろうか。打てもしないのにバントのサインが少ない。スクイズは殆どない。エラーは清宮がいなくても去年並。つまり全員去年と変わらない下手だったのに貯金ができて舞い上がったに過ぎないのだ。
 それにしてもこの11試合の1勝7敗3引き分けはあまりに酷い、即ちどのチームにも年に一度は来るドン底なのだ。バカ・ボスに覚醒を期待できないから、このドン底をいかに抜け出すか、選手一人一人が考えなければファイターズの今シーズンは終わる。
 それを占うのは明日の第3戦。宿敵ホークス相手に勝負を挑むファイターズの明日はどっちだ!

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

白い狐 VS 緑の狸 都知事選スタート

2024 JUN 19 9:09:45 am by 西 牟呂雄

 白狐は別名砂かけババアという妖怪で、人にイチャモンをつけることで成り上がった。緑狸は別名塗り壁といい、権力にスリよって今の地位に上り詰めた。
 ただしどちらもスネに傷を持っている。白狐は参議院議員当選後も二重国籍だったことがあり、緑狸は学歴詐称を金でもみ消した。そしていずれもテレビ業界を手玉にとることに長けているが故に集票能力は高い。
 さらに言えば白狐は『二番じゃだめなんですか』という小学校低学年並の質問で有名になり、緑狸は怪しげな英語の標語を連発した。
 どちらも自陣営での人望は無く、嫌われ者である。
 筆者は都民であるが、両者の立候補した選挙全てでどちらにも票を投じたことはない。だが両者に投票した都民は何百万人もいるのだ。そいつらはバカか政治に絶望したニヒリストかどこかの工作員に違いない。どっちが当選しても引っ掻き回すだけで何も都民のためになることなどしないに決まっている。築地のドタバタは何だった。7つのゼロはどこへ行った。
 共通点は大陸のアノ国が大好きで、緑狸はコロナの初めの時点で備蓄している医療用の防護服を送った。白狐は北京大学に留学した。なぜ国籍まで持っていた台湾大学ではないのか。
 白狐は外国人投票権を打ち出す恐れさえある。緑狸はアラビア語が喋れないのがバレるのがいやでエジプトと断交でもしかねない。或いは卒業証書を出してくれた借りを返すため依怙贔屓してイスラエルを敵視するか。既に刑事告訴までされた。
 どっちもいやだ。田母神閣下・ドクター中松・元衆議院議員の小林興起・タレントの清水国明(あのねのね)等が出馬するらしいので応援したいがおそらく死に票になる。究極の選択をするぐらいなら住民票を喜寿庵に移さねば。
 こうなったら何とかもうチョットまともな候補者をぶつけて二人をつぶす秘策を練ってみた。この際、どちらにも見るべき政策なんかないのだから政治能力・政策立案能力はどうでもいい。

➀ 女性には女性を
  本来、支持しているマトモな女性政治家で言えば高市早苗と言いたいところだが勝てそうもない。そこでだ、国民的女優から選ぶとすればこの人しかいない。東京出身で品格も申し分のないとなると吉永小百合さんで決まり。自民党が必死に口説けば白狐の下品さと緑狸の胡散臭さを凌駕することだろう。

➁ スター選手から
  有権者の中高年、特に団塊の世代から上の圧倒的な支持を得られるとすればこの人、巨人軍永世名誉監督の長嶋茂雄!
  滑舌は大変に悪いようだが、元々何を言っているのか分からないのだからいっそ全く喋らなければいいのだ。下手に喋れば票が減る。

➂ 意識高い系タレント
  有権者の半分を占める女性票にのみ焦点を当て、それなりに格好の付くタレントとは。『嵐』で人気者だったうえに最近ニュース・キャスターでも活躍する櫻井翔だ
  この人は女性票をゴッソリ取れる上に、お父さんがキレ者官僚として有名だった。息子のために副知事にでもなって後ろから振り付けをすれば何とかはなること請け合い。

➃ 引退大物政治家 
  結構厳しいが、すでに議員を辞めた大物の中に使いモンになるのはいないだろうか。森元総理を考えたが、裏金の黒幕のイメージがあってダメ。
  石原慎太郎が実は死んでいなかったことにして比較的顔の似ている次男の良純を立てる手も考えたが難しかろう。
  それならまだ元気そうな小泉純一郎はどうだろう。
  いや、いっそ都知事を輸入する、例えばオバマ前大統領でもヒラリー・クリントンでも超法規で国籍を付与してなってもらう。

⓹ もう何でもいい
  とにかくあの二人の二択は耐えられない。どうしてもいやだ。棄権するのも消極的賛成にされそうでイヤだ。
  ビートたけしでも東国原でも所ジョージでも何でもいい!あの二人のどちらかに給料として払われる税金を払いたくない。大阪は横山ノックで何とかなったし東京だって青島幸雄だったこともあるじゃないか。
  何なら緑狸に投票しておいて、あることないことフェイクを流し、スキャンダルまみれにして引きずり下ろすか。

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

 

令和亜空間戦争 老人ホーム編

2024 JUN 15 0:00:08 am by 西 牟呂雄

 ついにオレは体が利かなくなった。ロクに歩けない。手は震えている。耳は遠く、目も暗がりや遠くは分からない。同居人には愛想を尽かされ子供も孫も寄ってこない。有り金はたいて介護付き老人ホームに転がり込んだ。ここで静かに余生を送ろうと思ってのことだが、なかなか快適である。後は寿命との勝負だが、脳は持つのだろうか。
 メシも旨いしプライバシーにも気を使ってくれる。ネットも使えるし申し分ない暮らしだ。
 ただ、一つ気になるのは食事の時にどこに座って食べるのかの塩梅が難しい。こっちはこのありさまだから車いすを押してもらって空いているところにしか行かれない。だが、まだ多少元気な奴はヨチヨチしながらも仲のいい連中の所に行きワアワア言いながら食べている。オレも入っていきたいとも思うのだが、面倒な気もしていつも言われるままに黙って食べさせてもらっている、何しろ手が震えるのでこぼしてしまうのだ。情けない。
 しばらくして様子が分かってくると、小集団の中に一際目立つ男がいるのに気が付いた。襟足にかかる髪型と切れ長の目に特徴のある表情をした奴である。良く笑う。そして周りにいる老人は男も女も奴の言う事にいちいち反応して一緒に笑ったり頷いたりしている。時々視線が合うのだが、その目は明らかにオレを拒絶しているようなのだ。
 入居後一か月が経った。そうこうしているうちにオレにも挨拶をしたりテーブルを一緒に囲む仲間ができてきた。といっても半分は介護がなければ食事もできそうにない連中で、要するに介護士さん達と仲良くなったわけだ。すると彼等・彼女等からあの男の評判が聞こえてくるようになった。名前はアベというらしい。現役時代は怪しげな団体役員をやっていたそうで、なにやらいろんな知り合いが多い。まだ体も結構動くのでたまに外出する。
 ある日、天気が良かったので介護士さんが庭に連れ出してくれると、あのアベが立っていて『やあ、どうも』と挨拶をする。こちらも『どうも』と返した。すると『介護士さん、忙しいでしょうから車いすは僕が押して散歩につきあいますよ』などと言うではないか。オレはそんなことしてもらうのはいやだと思ったが、介護士さんは『それじゃよろしくお願いします』と行ってしまった。
 奴は庭を回ると『せっかくいい天気ですから外に行ってみましょうか』と言い出した。多少面倒かとも思ったがヒマに任せて言うがままに押されて外に出た。
 久しぶりの外気は心地よく、今日は風もない。住宅街だが人通りもない。
『あなたは以前は何をしていたのですか』
『普通のサラリーマンでした』
 会話はうるさいというほどではなく、とりとめもなく続いた。ところが、この地区を流れる河川にかかる橋のところに来ると、押す手を止めた。
『辺りに誰もいませんねぇ』声は低く変わっている。
『ええ、こんな街中で静かなもんですね』
『目撃者もいなくて今私がこの川に飛び込んだらあなたに何かの容疑がかかるかもしれませんね』
 こいつ何を言い出したんだ。
『或いは私が徘徊を始めていなくなった場合はあんたは誰かが発見してくれるまでここにいることになりますかな。いや冗談ですよ』
 言いようのない不気味さが伝わってくる。こいつ、オレにマウントしているつもりなのか。
 待てよ、人の気配がしない。オレは不自由な首を精一杯回して見ると、奴はいない。なんてこった、オレを置き去りにしたのか。
『こんなところまで来て何してるんですか』
 突然大声で呼ばれてハッと我に返った。
『いや、オレはアベさんに押してもらってここに来たんだけど、彼どこかに行っちゃって』
『何言ってんですか。アベさんならずーっとみんなでリハビリ体操してますよ。ダメじゃないですか勝手に出て行っちゃ』
『勝手にって、オレ一人じゃここまで来られるはずないでしょ』
『またそんな言い訳して。これは電動車椅子なの!』
 どうなっているのか。
 オレの推測はこうだ。奴は妖術を使うのかマジシャンなのかは知らないが、何らかの手段で人を服従させたり洗脳したりしてあの施設のボスの地位を手に入れているに違いない。そうはさせないぞ。
 それからしばらく、冷静に奴を観察し、たまに挨拶などはするが細心の注意を払いつつ秘かに呪術の研究を始めた。丑の刻参りでもやりたかったのだが、この有様では夜中に抜け出すこともできやしない。
 まず初めにタロット・カードを使おうとしたが、その解説書のあまりの多さに驚いてヤメ。魔法陣を書いて『エロイムエッサイム、我は求め訴えたり』とやろうとしたが、検索するとあれは水木しげるが自作したらしく、それなら自分で描けばいいとオリジナル魔法陣を作ろうとし、円の中を五芒星にするかダビデの星にするかで悩み挫折。
 そうこうしているうちに、奴のマジックは続いた。オレの嫌いなおかずが増えているし、中庭に押してもらって行くと奴とその取り巻きがこっちを見てニヤニヤする、オレのお風呂の順番に奴が割り込む。
 ある日、オレがボーッと窓の外を見ていると、奴が何かを唱えながら不思議なステップを踏んでいた。なんだかモタモタと歩きブツブツ言っている。聞こえてくるのは『リン・ピョウ・トウ・シャ・カイ・ジン・・・・』なんだありゃ。だが、その動きを見ているうちに突然気持ち悪くなってきた。息が上がり目がくらむ。
 次に目が覚めたのはベッドの上だった。起きようとしたが金縛りだ。
 運よく介護士さんが見回りに来てくれたので『起こしてください』と言おうとしたが声が出ない。介護士さんはこう言いながら事情を察知したらしく起こしてくれた。
『もう、一人ではうろつかないでくださいよ。危ないから』
 いや、オレはズッとこの部屋にいたのに、分かった。奴がまた妖術を使ったな。ところがうまく言えない。
『ヨージュツ、、アベ、、、』
 というのが精一杯だった。意味は通じないだろう。介護士さんは無視して出て行ってしまった。

 奴のあの不思議なステップには何かある。オレは大変な苦労をしながらパソコンで検索しまくった。すると、何と謎が解けた。
 あれは念じながら北斗七星の形を踏む『禹歩』というステップで、『三歩九跡の法』という陰陽師が使う秘術なのだ。そうか、奴は陰陽師だったのか。
 しょうがない、それに対抗するにはこちらも陰陽師だ。
 不自由な体で検索を続け、精神統一のために結界を張って瞑想し、ユーチューヴでそれらしい動画を見続けた。
 すると驚いたことに体調がよくなってきて、車椅子でなくても少し歩けるようになった。オレにも霊力が備わって来たようだ。いいぞ。次の段階に進もう。
 折り紙を折って『式神』をたくさんこしらえ、自作の呪文をかける、『阿毘羅吽欠蘇婆訶(アビラウンケンソワカ)我は求め訴えたり』を深夜0時に三回唱えること7日。どうやら霊力が宿って来たころ合いを見て、枕の下に並べて寝てみた。
 その晩に見た夢は痛快であった。奴が『禹歩』を踏みながらこっちに迫って来るのをオレの式神が左右から攻撃し、慌てた奴がボロボロになって倒れこむ。再び立ち上がってまた『禹歩』で立ち向かってくるのを今度は前後から攻撃する。奴は何度も倒されるのだが、次第に近づいてくるのが不気味ではあったが、目の前に来た時点で目が覚めた。
 翌日の朝食時間に奴は現れなかった。効いてる効いてる、しかもおかずにオレの大好物の茄子のシギ焼が出た。どうやら一人前の陰陽師になれたようだ。
 部屋に帰ってみると、枕の下に隠していた式神がいない!ははぁ、奴の所に波状攻撃をかけに行ったのだな、ヨシヨシ。
 と喜んでいたら、夕食には奴はいた。何事もないような顔をしていつも通り側近に囲まれて大声で笑う。聞き耳を立てていると、夕べは娘さん一家のところに泊まって来たような話で、オレの式神は何の効果もなかったではないか。

式神

 頭にきたオレはこのような式神を12体こしらえそれぞれに「青龍・朱雀・白虎・玄武・勾陳・六合・騰蛇・天后・貴人・大陰・大裳・天空」と名前を書き霊力を込めた。そして夜半、再び呪文を唱える。今回は物部神道の祝詞に変えた。
『ひと ふた み よ いつ む なな や ここの たり、ふるべ ゆらゆらと ふるべ』
 この日の夢はとんでもなく大変だった。奴が『禹歩』で来てオレの式神が襲い掛かるのだが、突如奴の周りに普段一緒にいる側近達が同じステップを踏みながら集団で迫って来るとオレの式神が次々と燃えてしまい、役に立たない。恐怖に駆られたオレは仕方なく奴らと同じ『禹歩』で歩き始める始末だ。ここで目が冷めた、フーッ。
 翌日は無論奴は元気である。それどころか昼食後に中庭で仲間を集めて『禹歩』の練習を始めているではないか!そしてあの呪文を一斉に唱えている。『リン・ピョウ・トウ・シャ・・・・』
 わかったぞ!あれは陰陽師の呪文、臨兵闘者 皆陣列在前(りん・ぴょう・とう・しゃ・かい・じん・れつ・ざい・ぜん)のことだ。ヨーシ。
 これでは陰陽師のまねごとをしていては奴にやられる。こんな甘っちょろい式神なんぞでは奴は倒せないのだ。
 オレは更に研鑽を重ねた。
 そしてついにたどり着いたのが真言密教の呪詛だった。
 不動明王の御力でもって邪を払い悪を倒す、正義の秘宝を身に着けたのだ。
 深夜、ろうそくの一点を見つめながら7回唱える。 
のうまくさんまんだ~、 ばざらだん せんだ~、 まかろしゃ~だ~、 そわたやうんたらた~、 かんまん
 この、最後の『かんまん』のところをトントン、というように節を取るのがコツだ。早速今晩から始める。

『あのアベさんは本当にいい人だね』
『ハルアキさんのこと?協力的だしそう手もかからないからね』
『それだけじゃない。健康促進のために考えたステップをみんなに教えたりしてくれる』
『あれは老人の足腰を鍛えるのにちょうどいいらしくて評判だよ』
『それに比べて私が担当しているおじいちゃんには困ってるよ』
『ああ、あの変わり者の人?』
『もうわがままでわがままで困るよ。なんのリハビリだか知らないけど一生懸命折り紙の人型を作ってたり。掃除の耽美に全部捨ててるんだけどね。この前なんか夜中に部屋でろうそく立ててたから叱り飛ばしたけど』
『少しボケてんじゃないの』
『少しどころか大ボケだよ。分けわかんないことブツブツ言うし』
『あんな耄碌したお爺さんがセッセとなんかやってると恐いな』

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

 
 

台風の通った相模湾を渡る

2024 JUN 8 0:00:11 am by 西 牟呂雄

 なんと間の悪い。恒例の油壷ー伊東レースが、台風直後の6月1日に行われた。前日、土砂降りの中、船を下したが、準備も何もレースが成立するかどうかも分からない荒れた天気で、台風は通過しても雨・風・うねりは残るかと暗澹たる気持ちになった。我が艇はレース・ボートではないのであんまりうねりに叩かれると規定時間内に入港できず、リタイアにされる公算が高いのである。
 そう思って朝起きてみると何と風はない。油・水・ビール・ウィスキィ・食料を積み込み出艇申告し、レース旗であるピンクのリボンを括りつけた。本部艇にチェック・インをするため、スタート・ラインに向ってみれば鏡のような凪の海面である。我が艇はうねりにも弱いが、ベタ凪はもっと困る。凪では更に進まない。
 試練は続く。メイン・セールを揚げようとすると出ない!マスト内の巻き込み式なのだが、中で噛んでしまっていた。ボースンがリフトに乗ってマストを登り、色々手を尽くしてもダメ。スタート時間の信号が鳴った。
 ところが、あまりの風の無さに各艇ポジション取りに悩み一斉にフライングしてしまった。ジェネラル・リコールという再スタートとなる。こっちもはれどころじゃなく、メインはあきらめてやれゼネカーを出すぞスピンを揚げるぞとジタバタし、全く船は進まずに焦りまくっているうちに予告信号が鳴り、再スタートとなった。
 スタート後10分を経過した時点で冷静沈着なスキッパーが厳かに言った。
『エンジンをかけろ。我が艇はリタイアするから本部にコールしろ』
 全員全く異存なく、一部はニターッとした(僕が)。
 こうなったらエンジンをブン回していい所に船を付け、早く温泉に浸かろうと一瞬にして切り替わったのだ。

 後方で必死に風を拾い真面目にレースを戦っている僚船を見ながら、通常は6時間はかかる航路を約3時間で伊東に着いて入港祝いのビールを飲んで温泉に入った。
 ところがのんびりと船に戻って来ると、大モメにモメている。僚船のオーナーとレース委員がトラブッていた。
 レース委員会はあまりの風の無さにコースの短縮を決定したが、その際のフィニッシュ・ポイントは『北緯35度2分45秒 東経39度10分15秒付近』と決められていて、熱海から見える初島の北側である。ところがまずいことにこの日、同じような葉山~初島レースも行われ、そのフィニッシュ・ラインもそのあたりだった。そこでレース本部は多少ズラしてラインを張った。この際、ピン・ポイントで狙ってきた船がラインを見誤り、多少行って来いとなってロスが生じたのだ。その時本部艇に向ってかなり激しい罵声が飛んだらしい。
 こういうこともあり得るので帆走指示書には『上記の位置はおおよそであり、位置の誤差は救済の対象にならない』と規定している。この『おおよそ』が問題とされた。
 そこから事態は複雑になった。罵声を浴びせられたレース委員会も頭に来たらしく、船名を確認するとその船の所属ヨット・クラブの会長に厳重注意の電話を入れた。そして査問を受けたそのクルーも激高したという話。話がつかずに、油壷のドンである我がスキッパーの所に持ち込まれた。こういう時『おおよそ』は困るのだ。
 まぁ、レースの最中だから興奮するのは分かるものの、品性に欠ける罵声は宜しくはない。その場でクレームのレッド・フラッグを揚げてレース成立後にしかるべき話し合いが行われるべき、という結論だ。

 モメごとを捌いて、伊藤市長も来賓として参加する歓迎パーティーに臨んだ。
 ここだけの話だが、地ビールというのにあまり旨いものはない、とだけ言っておこう。

 さて、翌日再びセールと格闘して遂に引きずり出すことに成功、よかったよかったと港を出ると、真向いの東風を受けた。真上り、と言ってとても帆走できない。しかもよく見るとセールの一部が破けている。これは・・・・。このまま風に逆らわずに行ければ持つのだろうか。
 案の定、破れ目は伸びてしまいこのままでは裂けて修理不能になる。今度はあわてて下ろしてたたむ。思えばこのセールも、十年以上良く働いてくれた。僕達のムチャな航海にも付き合わされて波飛沫を浴び、寒風の中を何とか安全に港へと運んでくれたのだ。これで寿命かとなると葬式でも出してやりたくなる。いや、むしろ捨てずに喜寿庵にでも持って行ってハンモックにするとか日差し除けにでもならないのか。そう言えば物置の奥に押し込んだ、もう使わなくなったゴルフ・クラブとかスキー板のようなものを並べて眺めたら楽しいかもしれない。
 いや、他にもあるぞ、弾かなくなったギター、得体の知れないスパイク、使い物にならないノコギリ、と次から次へと頭に浮かんできて、暫し黙って海面を見つめていた。
 それらは人間の業のような・・・マッ、ただのゴミ・ガラクタだが。
 初島を交わし熱海に別れ告げ、真鶴半島を過ぎたあたりでは日が射した。夕べから飲み始めたウィスキィが2本が空いた。
 で、結局のところ往復ともセール無しの汽走になってしまい、とてもヨットで横断した気がしなかったが、安全な航海はできたことになる。帰港した途端に雨が降り出した。
 セールよ、ありがとう。
 もう梅雨だな。

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」
 
 
 

贋作 ジェット・ストリーム 女性コーラス編

2024 JUN 2 20:20:12 pm by 西 牟呂雄

ーミスター・ロンリーが流れてくるー
 またお目にかかれましたね
 パーサーのジェット・ニシームです
 長い旅に出られたのでしょうか
 それとも忙しいお仕事でしょうか
 いずれにせよ日常を離れて
 しばし瞑想にふけるのもいいでしょう
 安らかな女性トリオのボーカルでおくつろぎ下さい

 稲妻のような光
 あなたを貫いていった
 一瞬だけ はっきりと見えた
 青白い横顔
 あの光が
 あなたを遠くに連れて行った
 そしてわたしは置いていかれた
 あなたをわたしから遠ざけた光
 1億光年先の過去から
 あなたを目がけた光
 なぜ どうして 今なのか あのひとなのか
 



 さあ これからだ
 夜中に走り出したくなる
 さあ これからだ
 早朝に 飛び込みたくなる
 さあ これからだ
 身支度を整える
 あたらしい 靴
 あたらしい ランドセル
 あたらしい 船
 もう夢から覚めたろう
 これから 大変だぞ お前たち

ーエデンの東が流れてくるー

 いかがでしたか
 おくつろぎいただけたでしょうか
 最後のスリー・ディグリーズはどうしてもはずせません
 次回は日本版の女性コーラスを
 お届けしたいと思います
 また 空の旅でおめにかかりましょう
 パーサーはジェット・ニシームでした

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」
 
 

ケタ外れの資産と自由

2024 MAY 26 8:08:42 am by 西 牟呂雄

 今日のコンピューターの進化と通信技術の爆発的革新によってビジネス・チャンスが生まれるのであろうが、その果実を十分に味わえるのは一部の限られた天才達、GAFAの創業者や昨今のイーロン・マスク、サム・アルトマン、正体不明のサトシ・ナカモトといった人々だ。こういった天才の頭脳構造は計り知れない。
 つらつら思うのだが、彼等は数学の問題を『解く』のではなく、問題を『造る』ような思考をするのではないか。そうなると無限に思考は進化し続け、おかげで我々は便利に暮らせ、彼等は益々富栄える。天才もここまで来るとかなり危なくて、彼らの子供達には自閉症が多いことが知られている。
 特にマスクは次々とターゲットを変え、ものすごい能力と集中力でもって成し遂げていく。そのために超多額の投資を厭わず、周囲と軋轢を起こし、極限とも思われるリスクを取り続ける。最終的には人類の火星植民を考えていると言うから驚きである。怖いのは本当にそうなりそうな気がしてくるからだが。
 同じような天才、ピーター・ティールは不死の研究に投資するだけでなく、将来の技術により蘇生を期待し遺体を冷凍保存する計画だそうだ。
 そして、彼等のような超天才+超富豪が等しく求めるのは何か、というとこれが『自由』なのだ。ただ、単純に好き勝手に暮らすというような我々の考える自由ではない。
 既に彼らの事業領域は国境を越えてしまい、国家というものは彼等の仕事をむしろ拘束しがちな機構である。したがって無政府主義のアナキストになるかというとむしろその逆を目指す。マスクやティールがそうであるように、一般的なポリ・コレとかフェミニズム系の言説には激しく反発する。ツイッターを買収して凍結されていたドランプ元大統領のアカウントを復活させた。更に自身がCEOを辞任すべきかどうかツイッター上で投票まで行って辞任している。
 一方で、自分のプライバシーには非常に敏感で、それが守られなければ完全なる自由は得られないと考えている。もっと極論すれば政府の干渉からプライバシーを守るためなら民主主義など無用の長物に違いない。そもそも極端に高い知能の彼等から見れば、バカにしか見えない連中の投票行動なんぞはアテにならないと考えるはずだ。
 どうもビル・ゲイツとかスティーヴ・ジョブズといった当初のIT長者といわれた人々と、マスク・アルトマン等の次世代とではこのあたりの考えは違う。彼等は伝統を愛するなどという気質はサラサラなく、既存の右翼・左翼といった分類などに当てはまらない。
 こういった天才たちの末裔に至っては一般人とは共存できなくなるのだろう。
 かれらが夢中になるようなプロジェクトも、例えば火星に移住するとか遺体を保存して将来蘇生するというのにも莫大なコストがかかり、彼ら以外にその恩恵を享受できるような者はいない。
 そうなると、ただでさえ大富豪なのだから、核戦争に備えた広大なシェルターやら例えば南極に快適な住空間を造り、その中でいかなる制約も受けずに自由に暮らし始め、仮想通貨で外界からモノを調達し、ハッキング技術によりいかなる攻撃も阻止し、人工の食事をし、仮想空間で遊びながら、好き放題研究開発に明け暮れる。これは楽しみというか怖いもの見たさというか、そのような生活をしているところに見学に行きたくなるような興味が湧く。だが一緒に住めるはずもない。

 ところでアメリカ以外の国はどうであろう。彼らに匹敵するような天才がいるに違いないが、今どこで何をしているのだろうか。アジアには孫正義や盟友のテリー・ゴウやジャック・マーもいいセンをいっていた。ただ、孫正義は借入金が大きすぎるし、テリー・ゴウは政治に興味を持ちすぎ、ジャック・マーは共産党に潰されそうだ。まぁ彼らは日本人ではないが。
 ホリエモンがそうなりそうな芽はあったのだが、ちょっと乱暴すぎて叩かれた。筆者はアレはもったいないと思うのだ。今はロケットに関わっているようだが、再びチャレンジ復活するところを見たい。
 どうも日本国内に留まっていてはいくら天才でもとほうもない資産を築くような方向にはいかない。更に言えば、やたらとIQの高い人間のいる確率が同じだとしても、日本の暮らしが居心地が良くて、そこまで孤独に自由を求めるという感覚は生まれない.むしろ侘び・寂びの方に行くのではないかな。
 規格外の天才児である大谷翔平がメジャーで成功しているのを見ても、ズーッと日本にいたらあそこまでブレイクしなかった。
 天才が一生かかっても使いきれない資産を築き上げ。自由を求める気分を醸成するインセンティヴは風土と密接な関係があるに違いない。筆者自身はアンチ・グローバルであるから少しも困らないし、外国に住みたいとも思わない。大谷の活躍を見ているだけで充分である。
 無論、そうでない人がアメリカに移住するのは構わない。それこそ自由なのである。 

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」
 
 

みーつけた

2024 MAY 19 16:16:57 pm by 西 牟呂雄

 最近また一段とモノを失くす。特に喜寿庵にいるとコマゴマした作業をするが、かなりの頻度で愛用の道具が忽然と姿を消す。シャベル・鋏・焼却炉の灰掻き、どれもいい具合に錆の付いた味のあるモノだった。
 故トム市原氏によると、それらは異次元にワープしてそっちで役に立っているから気が向いたらこの世に帰ってくるのだそうだ。そうであればよほど向こうの方が居心地がいいらしく、もう何か月も見ない。
 そして恐ろしいことに幻聴まで聞こえてきた。夜になって電気を付けると『ミシッ』とか『コン』とかいったかすかな怪音がする。はじめは虫がLEDにぶつかっているのかと思っていたが今はまだ虫なんか飛んでない。喜寿庵にいるときは大抵一人だから確かめようもない。そしていつでも聞こえるわけじゃない。待てよ、ポルター・ガイストじゃないのか!

 ある日、夜中に喜寿庵に着いて電気をつけると例の『コンッ』が聞こえた。試しに『ただいま』と返事をしてみた。するとかすかにLEDが瞬いたような気がした。
 実はここの二階の部屋に大昔友達が泊まった時にチョット妙なことがあった。霊感の強い女性が『いらっしゃる』と呟いて朝まで放心状態で正座していた。その姿を実際には見ていないが、一緒に寝ていた女性が朝方『きもちワル~』と言って青ざめていた。試しにその部屋で何回も寝てみたが、僕には何も起こらない。しかし気になって懇意にしている真言密教のお坊さんにお祓いしてもらったことがある。
 喜寿庵は築100年は経っているが、不幸になったという人はいない(取り合えず私自身は除いて)。即ち悪霊の類ではない。すると座敷童なのではないだろうか。
 そこで、名前をつけてやることにした。まず考えたのは『コロポックルちゃん』だった。
 だが結論から言ってこの名前は気に入らないというか、全く反応がなかった。
 それからいろいろ試すのだが『〇〇ちゃん』とか『✖✖✖✖ちゃん』と試したが芳しくない。露骨に『座敷わらし様』もダメ。色々試したがアホらしくなってしばらく忘れてしまった。

 ある日、喜寿庵に憑いて思わず『ただいま』と声に出したところポルター・ガイストが起こって軽い怪音がした。オッ久しぶりに出たのか。ヨシッ。いろいろ考えて私が布教している滋養教の神様の名前を呼んでみた。『滋養様、今参りました』すると『ミシッ』と返事があった。しめた。ちゃんと敬語を使えば反応してくれたのだ。
 電気を付けながら『ご機嫌はいかがですか』『コンッ』『だいぶ暖かくなりまして』『カンッ』といったやり取りが続くではないか。
 それからは外に行くときは『滋養様、行ってまいります』とか声をかける。ただこれには何も返事はない(当たり前だが)。ネイチャー・ファームで農作業中にフト語り掛ける。『滋養様、近頃は雨が少のうございます』先日はついに生垣を手入れしながら『お熱うございます、はい』とやっていたら通りがかった人が目を丸くしていたのであわてて携帯で話しているフリをした。アブナイアブナイ。

ポテト・フィールド

 ネイチャー・ファームでは今年もジャガイモ・ナス・ピーマン・キュウリを造り始めた。昨年飢えていたニンニ君は収穫間近。油カスや肥料をやって育てている。
 するとですな、農作業の合間に思わず労働歌のように口ずさむことがクセになってきた。

ニンニ君

『滋養様~、滋養様~
 今年も年貢を納めます~
 ハァ~めでたい~、めでたい~』
 というテキトーな詩をゴスペル風に歌っているとディープ・サウスの綿花畑で汗を流しているような気がしてなかなかソウルフルである。
 あれっ、誰かいる?振り向いても誰もいない、ン?見られているのか?

あっ!

 当然誰もいるはずがない。
 あっ!
 半年ほど行方がわからなかったシャベルが顔を出していた。
 異次元から帰って来たんだな、お帰り。
 そうか、これも滋養様のお導きだろう。ありがたやありがたや。
 そこで、先程のゴスペルを口ずさみながらお礼の踊りを奉納した。
 間の悪いことにそこに電車が通りかかって、富士山観光に行く外人が大勢こちらを見ていた。

 「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

 
 

▲TOPへ戻る

厳選動画のご紹介

SMCはこれからの人達を応援します。
様々な才能を動画にアップするNEXTYLEと提携して紹介しています。

ライフLife Documentary_banner
加地卓
金巻芳俊