Sonar Members Club No.36

Since July 2013

とりあえずの死ー日本棄民伝 劇団1980

2025 NOV 10 20:20:36 pm by 西 牟呂雄

 『とりあえず死にます。日本に帰る日まで』
 何という絶望的な言葉だろう。アル中、嘘つき、認知症、その他様々なクセのある4人のおばあさんが行き場を失って養老院で暮らしている。ところがそこは日本ではなく旧満州、哈爾濱外僑養老院なのだ。
 満蒙開拓団として日本から渡り、そのまま居残らざるを得なかった残留婦人と呼ばれる人達である。
 そして彼女たちの世話を焼いているのは日本軍についてきて置き去りになった朝鮮人の女性。
 彼女達は望郷の思いもさることながら、若かったころの自身の幻が現れては日本敗戦後の悲惨な体験が苛む。ここは分身を登場させる、という悪魔的な手法で観客を思いっきり引き込む。
 現代演劇の音響・照明を駆使した迫力ある舞台は強烈だった。

 仲間の早野さんが主演した舞台を見てきた。お話を伺うと、何しろ老婆の役作りだから腰を曲げて演ずるので肉体的にもキツい。おまけに過去の体験はどれも命がけの様相で、乳飲み子を置き去りにする、満人に襲われる、パートナーを見殺しにする、殺される・・・。いきおい声を張り上げる演技が延々とつづくのだからたまらない。毎日終るとドッと疲労が被さってくる感じでボロボロになるそうだ。

 ポツダム宣言受け入れ後のソ連侵攻は鬼畜の振る舞いにより入植日本人はズタズタにされる。運よく帰国できたにせよ同様の苦労には多くの証言がある。満州だけではない。内蒙古や北方領土ではその後も帝国陸軍の果敢な戦闘が記録されている。

スキー競技の張家口

ヒグチのリスト


 満州出身の著名人は民間だけでも赤塚不二夫・浅丘ルリ子・池田満寿夫・岩見隆夫・梅宮辰夫・小澤征爾・加藤登紀子・藤原正彦と多士済々だ。男性は『夫』がつく人が多いが、偶然なのか。
 加藤登紀子さんのお父さんはそれこそ哈爾濱で元関東軍の特務だったと思うが、新宿のロシア料理店のオーナーだった。芸能関係にもネットワークがあった興味深い人物と聞いた。

 重いテーマだが戯曲が書かれたのは1992年。バブルのバカ騒ぎがすっ飛んだ直後なので驚いた。そろそろ置き忘れたものに手を付けなければ、と日本が気付かされたごとし。
 この養老院はその後も存続し、同じように帰国できなかったロシア人、アメリカ人、韓国・朝鮮人もいた。その後盛り上がった帰国支援事業により、帰国が叶った人も留まらざるを得なかった人も既に鬼籍に入られたことだろう。最期の心の安らぎとご冥福を祈る。
 初演のパンフレットに現地の養老院長の言葉が引用されている。
『ここに彼女達がいる限り日本の戦後は終わっていないのです。いやたとえ居なくなっても終らないでしょう、日本政府は彼女達に何もしていないのだから』
 これには参った。それはそうだろう、行き場の無くなった方々を手厚く面倒を見ていただいたことには感謝する。
 だが考えても見てほしい、日本は負けたのだ。負けてからは、占領され憲法を変えられ、米兵には乱暴され、ソ連兵には略奪され、シベリアに送られ、内地もメチャメチャにされ『何もしていない』どころか『何もできなかった』のだ。それから懸命に働いて稼ぎ、うっかり調子に乗ってバブルに踊り、やっと何かできるように1990年代になった。そちらさんだって国共内戦から文化大革命とやってたじゃないの。まぁいいか。

 早野さん、熱演お疲れさまでした。
 韓国人役の方のタドタドしい日本語があまりにハマったので、韓国の女優さんかと思いました。
 もう一つ、ゴチャゴチャになって地元の満人が叫ぶシーンは、満州語なのか北京語(マンダリン)なのか。待てよ、満州語なんて今更教えられる人はいないか。

 あっ、書いておいてなんですがもう千秋楽過ぎてます。

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

Categories:国境

▲TOPへ戻る

厳選動画のご紹介

SMCはこれからの人達を応援します。
様々な才能を動画にアップするNEXTYLEと提携して紹介しています。

ライフLife Documentary_banner
加地卓
金巻芳俊