Sonar Members Club No.36

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ハーバー ヨット 酒

2023 MAY 6 7:07:50 am by 西 牟呂雄

出航を待つ我が艇

 連休前半は船に乗っていた。ところが低気圧の早い通過に会って天気は目まぐるしく変わり、おまけに風は台風並みだ。
 初日に東京湾が見えた時点で白波がバンバン立っていたのでイヤな予感がしたが、いつもは穏やかな湾内にもうねりが入っていた。通常こういう波は天気が回復しても残るため、船を出してもやたらと波を被るので、まぁ、楽しくはない。艤装の点検をして早寝。
 すると翌日は土砂降りになった。とは言えヨット屋は濡れるのが商売だから怯んではいられない。怯んではいられないが、そこはその~、朝からビールを飲んだ。

雨に煙るハーバー

 実は僕は雨が大好きで(他のクルーは嫌いだが)キャビンで雨音を聞きながらウトウトしたり焼酎もチビチビ。
 浮き桟橋から覗くと小魚が群れてグルグル回っている。どういう運動法則で動いているのか、突然向きを変えたり反対周りになったりしながらゆっくりと移動している。どうも先頭を進む1尾が全体を統率する訳ではなく、群れの真ん中あたりにいた奴がクッと向きを変えると全体がついて行くようで、1時間ジッと見ていたが全く法則が思いつかなくて数式化を考えるのは止めた。
 雨が上がって来た。燕がヒラヒラと舞う。そうか、もう巣作りの季節なんだな。
 日が時々差し込むが全般的に曇り。もう酔ったかな・・・。

差し込む夕日

 

 フト気が付くと夕方で、何故か誰もいない。みんなはどこかの船に飲みに行ったか外に食事に行ったらしい。海は相変わらずの鈍い鉛色のような荒れ方だが、時間がここだけ止まったような静けさのままだ。
 ハーバーでは見知った顔は皆が挨拶をするし、クルーとはバカな話で盛り上がる。だが航海に出ない時は手慰みにロープを手に取ったりし、結局誰もが孤独なのだ。即ち、目標を失った人間ほど始末に悪いものはない。
 前期高齢者の僕は秘かな目標を持ってはいるが、人に明かすことはない。
 次に目が覚めたのは夜中。クルーは全員酔い潰れて転がっていた。
 一人で外に出て浮き桟橋から星のない空を見上げると、さざ波の揺れを背中に感じながら転がってみた。海と空の間に一カ所だけ真空でカラッポな何かがあって、それが僕だ。その僕は、自由であり、漂っていて、不確かな、無用の長物である。背中の下の海中には昼間見た夥しい命が蠢いて、それらの発するエネルギーはカラッポの僕を通過して暗い曇天の空に放射されていく。一人が寂しくはなかったが、上述のささやかな目標、誠にささやかな前期高齢者らしいものだが、それに思いを巡らせ、ひょっとしてその思いとともに今、フラフラと海に落ちたなら一体誰が気が付くだろう、と思ったら怖くなって寝た。

ウワッ

 翌日、この1年以上水置きしていた船が、メンテナンスのためにクレーンで上架されていく。見ると船底にビッシリと海藻やらフジツボが付いている。これを掻き落としてやらないとスピードは出なくなったり舵の効きが悪くなる。この船は人間で言えばちょうど前期高齢者くらいになるはずだ。水置きの場合走り続けなければアッと言う間に(1年程度で)こうなってしまう。
 ムムッ、僕もボヤボヤしてる訳にもいかない。ささやかな目標のためにも。
 今日は出航する。気付けにウィスキイをストレートであおった。

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Categories:ヨット

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