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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(200X年男子中学編Ⅱ)

2014 JUN 12 20:20:34 pm by 西 牟呂雄

  B・Bは不思議な奴だ。
  育ちの良いお坊ちゃんなんだが、何を考えているのかさっぱり分からない。一年生の時に席が隣だったので仲良くなったのだが、一年付き合って益々訳が分からなくなった。計画性といったものがまるで無くて、思いつきだけで生きているようだ。発想が自由なのは中学生らしくて構わないが、余程甘やかされたせいか常識に欠けている。まさか犯罪を犯すとは思えないが、突拍子もないことをしては本人は気付かずに周りが慌てることが何度かあった。
  二年生になった途端、髪をピンクに染めてきた。茶髪は何人もいるがさすがにピンクはあいつだけだ。更に連休明けには真っ赤になった。狂ったのかと思ったら六月には草色にした。どうしたことかと聞いてみると、一年間で十二色を達成するのだそうだ。
「7月からは夏休みだから黒くしてるけど、虹の七色とピンク、草色、後どうしたらいい?」
一体何のためにそんなことをしているのか分からない。
  そう言えば、去年は自分で仮想連合艦隊を仕立てて喜んでいた。こっそりノートを覗いたらB・Bが名付けたイージスやら空母の絵が書いてあって、イージス艦は『高天原』とか『岩戸』、空母は『天狗』『夜叉』だった。どういうセンスなんだ。
  僕らの通うE中学は男子中高一貫校だからクラブ活動は高校生と練習しているので、中学大会では結構強い。団体競技が苦手なので剣道部に入った。そこでもそこそこ仲間ができたが、たまたま二年でも又同じクラスになったので、友達といえばちょっと変だがB・Bと、やたら英語が好きな英(はなぶさ)、ちょっとヒネてる椎野の四人組か。
 ある日剣道部の練習を終えて、体育館から出て裏のほうに行ったらすみっこに奴がうずくまっている。こんな時間まで何をしているのか、と声をかけた。すると『アッ』とか言って慌てて立ち上がった。
「お前こんな所で何やってんだよ。」
「何でもない、何でもない。」
楊枝が地面にいっぱい刺してある。
「ナンだそれは。」
「何でもない、何でもない。」
地面を覗いて見ると、蟻の引越しの行列があって、それに沿ったように楊枝が何本も刺してある。それが幾筋もの線になって、奇妙な幾何学模様のようになっていた。どうもB・Bが蟻の邪魔をしてルートを変えさせるように楊枝を刺しているのだ。
「お前。いつからこんなことやってんだ?」
「いつって、うーんちょうど三日目かな。」
「・・・・。」
 又別の日。放課後、一人体育館で『突き』の練習をしていた。何故か両手を一杯に伸ばしてカウンター気味に決まる突きが好きで、中学剣道では禁じ手だから稽古の後に型の練習をしていたのだが、そこにひょっこりB・Bが顔を出した。
「出井。こういう型やってみてくれよ。」
 竹刀を手に取ると、半身でライフルで狙いをつけるような恰好で、竹刀の刃を外側に寝かせ右肘が高く上がるように構えた。やってみると微妙に窮屈だ。
「それで突いてみてくれ。」
というので、えいっ、と突いたが半身の分だけ剣先が伸びきらず、やはり両手を伸ばした方がいい。
「そんなのじゃだめだ。左足を踏み込んでヤッと突いたらすぐ引く。続けてヤッ、ヤッ、と3回踏み込まなきゃだめなんだ。」
「ヤッ、ヤッ、ヤッ!」「遅い!それにもっと踏み込む!」「ヤッヤッヤッ!」「遅い!もっとヤヤヤっと!」
「ちょっと待て。なんでオレがお前なんかに指導されなきゃなんないんだ。」
「ねえ、どんな感じ?人が切れそうかな。」
「・・・・鋸引いてるみたいで窮屈だな。」
「ふーん。そうか。だめかな。」
 何を考えているんだ。さっぱり解らない。ところが僕は凝り性なので、さっぱり解らないまま、時々思い出してはやってみた。
 合宿で師範の道場に泊まっていた時、朝練の素振りの後に思わず『ヤッヤッッヤッ』をやったら師範が目を丸くした。
「出井。今の型はどうした。」
「いや。何でもありません(B・Bみたいな喋り方だ)。」
「それは実践剣術だ。そんな練習をしても現代剣道では使い物にならん。試合では使えないから。第一君はまだ中学生だろう。型を崩すと太刀筋が悪くなる。誰に教えられた。」
「何でもありません、何でもありません。」
「フム。天然理心流だよ。」
「てんねんりしんりゅう、何ですかそれ。」
「新撰組の剣法だ。今のは沖田総司が得意にしていた、天然理心流の『突き』だ。」
周りがみんな驚いた。
 だが何でB・Bがそんなことを知っていたのだろう。それよりその後剣道部では『総司』と言われるようになってしまった。いい気分だ。
 夏の都大会が始まった。ウチの剣道部はOBの面倒見が異常に良く、試合にも大げさな応援が来て盛り上がる。部員も多いので、A、B2チームがエントリーしていて、僕はBチームの中堅だった。
 2回戦までは順調だったが、3回戦となるとBチームはかなり苦しい。先鋒、次鋒があっさり抜かれた。相手は僕よりでかい。3年生じゃないだろうか。蹲踞から竹刀を合わせると『チエーイ!』と物凄い気合を発している。この暑いのにうるさい、と思った瞬間『メーンン!』と飛び込んできて体当たりしてきた。この野郎、これが得意か。またやるぞ、来た!『メーン!』突っ込んでくるデカゴリラを竹刀も合わせず、右半身を開いてかわしたところ、僕の肩越しに首一つでかいそいつの面が振り向いた。僕も気合を発した。
「ヤッヤヤ!」
しまった。例の突きがカウンターで3発きれいに入っちまった。
「反則!」
 師範が鬼のような形相で僕を睨んでいた。E中Bチームの夏が終わった。

 夏休み明けに早速B・Bを捕まえた。
「おい、おまえが何で新撰組の剣法を知ってるんだ。」
「ん?何の話だ。」
「お前が教えたあの『突き』だよ。沖田総司の得意技だそうじゃないか。」
「そんな人知らないよ。あれはオレが考えた『飛龍剣』って言うワザだ。あれ役に立ったか?あともう一つは『蛟竜剣』って言うのも有るんだけど今度教えてやる。」
「・・・・。もういいよ。・・・・。」

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(200X年男子中学編)

 

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(200X年 男子中学編Ⅲ)

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Categories:サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる オリジナル

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