皇軍未ダ屈セズ Ⅱ
2026 SEP 23 17:17:18 pm by 西 牟呂雄
に書いた話は例によって私の妄想の賜物だが、敗戦処理のため天皇陛下の勅使がマニラのマッカーサー元帥の元に飛んだのは史実である。陸軍参謀本部次長河辺虎四郎、外務省の岡崎調査局長外1名、陸軍少将天野参謀本部作戦課長外6名、海軍少将横山軍令部出仕外6名の陣容だった。
この海軍の随員『外6名』の中に実にユニークな文官が二人いた。
一人は溝田主一、海軍省の嘱託。1930年のロンドン軍縮会議での通訳として大活躍した。日本側の参加者は若槻禮次郎首席全権、財部彪海軍大臣、松平恒雄駐英大使、永井松三駐白大使にアドバイザーとして海軍少将になったばかりの山本五十六といったメンバーだ。その中にあって、流暢な英語と立ち振る舞いから他国の海軍関係者からは『ジョージ・ミゾダ』と称されしばしばアドミラル扱いを受けた。
余談であるが、海軍はアドミラル(提督)の乗船時の栄誉礼は各国とも共通で、まずタラップを上がってくる際に「カンカーン、カンカーン、カンカーン、カンカーン」と鐘(船鐘)を8つ慣らし、館内放送で『アドミラル〇〇、アライヴィング』と伝え、礼装に身を包んだサイドボーイズが8人で迎える。この鐘の数とサイドボーイズの人数が階級を表していて、大佐となると4つ・4人になるという明確な違いがある。
山本五十六とはこの時以来、長きに渡るブリッジ仲間となった。
スタンフォード大学の出身で、当然アメリカ通だから日米開戦には大反対だった。したがって真珠湾以後は海軍省お構いという身分で蟄居閉門の扱いとなっている。しかし面白いことにそれなりに高い給料は出続けていて、負けて激ヤバの交渉であるマニラ派遣団に加えられた。
もう一人は杉田主馬海軍書記官、中尉待遇の文官であった。東大卒業後なぜか海軍に国際法顧問として取り合えずの就職をしたわけだ。そしてケンブリッジのトリニティ・カレッジに留学して英語と国際法に磨きをかけることになる。現地では、まぁ勉学にも勤しんだのだろうが、ケンブリッジ大学管弦楽団でチェロを嗜み、ゴルフを楽しみ、車の運転に熟達した。
先の溝田氏も大変なゴルフ好きであり、晩年まで1ラウンド70台のスコアで回った達人だったが、杉田氏もまた帰国後に海軍省に勤務しつつ盛んにやったらしい。土曜日にはフォードの愛車にクラブを積み込んで海軍省に当庁し、昼過ぎにはプレイに行った逸話が残っている。
実は帝国海軍はロイヤル・ネイビーを範としたためゴルフに関する話は多い。日本人で初めてゴルフをやったのは水谷叔彦海軍機関少将で、英国王立海軍大学へ留学した際にロンドン近郊のブラックヒースでプレイしたのが日本人のプレイの最古の記録である。大正10年、昭和天皇の皇太子時代の訪欧の際、英国アディントン・ゴルフクラブで皇太子がゴルフをプレーされる場に随行したのは海軍中将小栗孝三郎だった。
尚、河辺勅使団には陸軍側からも大竹貞雄少尉・深町専治嘱託という二人が随行していた。
この大竹少尉もまた数奇な運命に翻弄された人で、サンフランシスコで生まれた日系二世、。通称はロイである。1924年、排日移民法が成立したため一家で帰国した。その後は山梨県の父の実家で苦労したが、地頭のいい人のようで東京商大に進む。するとが左翼運動に関与し退学。再び渡米しニューヨークの同盟通信記者として活躍するようになる。
改選前の1940年に本社転勤となって久しぶりに日本に来るが、二世だったことが睨まれたのか左翼運動が尾を引いたのか、いきなり徴兵されて中国戦線に従軍させられた。その間、同じ日系二世の高村悦代と結婚している。3年後、語学力を買われて参謀本部第2部の情報将校に抜擢された。
因みに悦代の弟、統一郎は日本において早稲田を卒業後志願して陸軍の特別操縦見習士官となり、特攻により戦死している。ここから話はさらに劇的になる。マニラに飛んだ大竹貞雄少尉はホテルの警備に当たっていた日系二世を見かけて話しかけたところ、妻の末弟すなわち統一郎の弟高村総二郎だったのだ。ハワイで徴兵され米陸軍情報部で通訳などをしていて、義兄弟の初めての対面であった。
大竹貞雄は戦後共同通信で記者に復帰し、1951年のサンフランシスコ平和条約締結では取材班キャップとして現地入り、記事はボーン国際記者賞(現ボーン・上田記念国際記者賞)を受賞した。
総じて海軍はこういう時のためのキャリアを養成していたのに陸軍は付け焼刃の感が否めない。国際法の専門家はいなかったのか。
さて、陸軍のもう一人の通訳である深町専治については、いくら調べても全くヒットせず前後の経歴も不明である。
それでなくともこの訪問団は帰国時のトラブル等謎が多く、筆者はこの人物は秘密工作員で偽名を使っていた可能性を感じている。そうだとすれば、そのミッションとは何だったのであろう。ここから筆者の悪い癖が出て、バカバカしい妄想に取り憑かれてしまった・・・。
真面目な読者の方は以下の文章は無視してください。
工作を仕掛けるとすれば徹底抗戦派の妨害だろう。3つの陰謀が想定される。
➀ 米側の文書をわざと誤訳して到底受け入れられないと会談を決裂させる
➁ マッカーサー司令部の幹部が集まった際に自爆テロを決行し日本占領を遅らせる
➂ 合意した文書を日本に持ち帰らせないでもみ消す
いずれにせよ、密命を受けた中野学校系の情報工作員あたりで、任務に失敗したためまったく表から消えていったのではないだろうか。ジャンジャン!
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