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言葉づかい

2015 AUG 3 5:05:57 am by 西 牟呂雄

 先日ラーメンを食べようと思って近所のなじみの店に行きました。カウンター席の隣にあらかた食べ終えた若い女性二人組がおしゃべりをしていて、聞くとはなく会話が耳に入ったのです。これが凄い。凄すぎる。
「でよー、頭にきたから言ってやったんだけどよ。ざけんじゃねぇ、バーローってよ。」
「マジかよ。ヤバくね。」
「な訳ねーだろー。」
 といった感じで延々と続くのです。思わず聴きほれる程でしたね。
 僕も言葉は荒い方ですので、チンピラ時代にサテンで喋っていたのを近くで聞いたオトナは同じような衝撃を受けたでしょうか。僕らは『マジか』は使っていませんでしたね。
 そして誰かの悪口が延々と続きました。

 川端康成が若い頃に書いた少女小説があって、その台詞がこれまた究極の山の手言葉でびっくりしたことがあります。『よくって。わたくしは』とか『いいこと。これは』といった記述に本当かいなと思ったもんです。ですが当時の(大正期)山の手の人口は今とは比較にならないほど少なく、良家の子女は実際に使っていた可能性は高い。
 冒頭の会話とは別の人種の趣があります。

 子供の頃自分を『オイラ』というのが流行ってました。タケシが使う下町のノリですね。どういう訳か母親がこの言い方を嫌ってしつこく矯正されました。
 秋葉原は今や『アキバ』としてオタク文化の整地、AKBの本拠地ですが、その昔はヤッチャバ即ち神田市場があってガラが悪かった。その言葉使いをどうやらいやがったのではないか、と今では思いますが当時はそれこそ知ったこっちゃねーや、ベラボーめ。

 一時は芸能人が使うサカサマ言葉を使いこなすのに苦労しました。これはこれで歴史があるようで、最近宍戸錠の書いた物を見ると石原裕次郎をチャンユー(裕ちゃんの逆)裕次郎はサンジョー(錠さんの逆)と呼び合っています。
 促音とか撥音が入ると難しくなって、例えば『ラッパ』とか『コップ』はどういうのか。どうやら『パツラ』と『プーコ』が正解らしい、等と議論を重ねました。更に上級になると子音ひとつや母音一つの『火』とか『胃』はどう活用させるのか。これらは『イーヒー』と『イーイ』と言うべきだと結論が出されました。
 大のオトナになってからもこのテーマは良く話題に上がっては盛り上がったもんです。
 ある日、飛び切りのバカが嬉しそうに寄ってきて言いました。
「ニシムロさん。凄いこと考えたんですけど。」
「何だよ。」
「例の業界語の活用法で『オレは病気になった。』って言えますか。」
「そりゃー『レーオーはキービョーになった。』だな。」
「そうでしょ。ところがですね。ジャングル大帝の主人公のレオ。『レオが奇病になった。』ならどうなりますか。」
「・・・・、オレは・・・・病気に・・・なった。」
「ウーン、ちょっと業界っぽくないですよ。そこは『オーレーはビョーキーになった。』とやらないとダメでしょうね。」
「・・・・。」
 ちなみにこの活用を考え出した者は今東南アジアで立派な社長になっています。

 そうやって日本語を乱しておいて偉そうなことは言えないのですが、子供の頃のそれなりの躾とサラリーマン生活のお陰で、尊敬語・謙譲語の敬語は何とかこなします。
 その僕がなんじゃこいつ、と思わざるを得なかったのは鳩山由紀夫元総理でしたね。
「国民のみなさん方にもぜひ新しい政治を興すために、しっかりとがんばっていただいて、汗を流していただいて税金をお支払いをいただき・・。」
 ここの『お支払いいただき』って変でしょう。「払っていただき」で十分。
「小沢先生にはどうか検察とお戦い下さい。」
 これも、なんでも『お』をつけりゃいいってもんじゃない、「戦って下さい。」です。

 で、冒頭の話に戻りますが。その物凄い言葉遣いのお姉ちゃん達、どんなご面相なのかどうしても見たくなるのは人情というもの。こっちも食べ終わってしまい、内心「席を立って動いてくれないかな。そうすれば顔が見えるのに。」とソワソワしました。しかしお喋りは止まらない。しょうがなくてレジでお金を払い忘れ物を取りに戻るフリをして『チョットすいません。』とやったら何と!今風のかわいらしい二十歳くらいのお嬢さん達でした。嗚呼!

方言の生きの良さ


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Categories:言葉

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