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狼少年ケン

2015 SEP 10 19:19:21 pm by 西 牟呂雄

 物凄いドラミング。ボバンババンボンボンババンバババボバンババンボンバンボバン。舌を噛みそうなこの出だし。そう、還暦に近い世代はあのボーイ・ソプラノを思い出すはずだ。
『いつーもオイラは泣かない』
 私にはこれがまた人一倍郷愁を誘うのだ。それにはわけがある。

 お江戸は下町、神田〇〇町に映画館がまだあって『夏休み子供ナントカ大会』という企画物をやる。小学校低学年の私は見に行った。それはテレビで既に放映された『狼少年ケン』だったが、当時はビデオも何も無い。性懲りも無く見に行った。走れよ「ケーン!」他にも子供が一杯いて合唱するように「ケーン!」に声が上がる。何しろ私の本名が建だから、自分の名前が歌われているのが嬉しくてしょうがない。

注)当然ながら映画は白黒だ。

 後ろの方に一際高い声で叫んでいる一団がいた。そしてそいつ等は行儀が悪く、ストーリーが始まってからも大声を出したりバリバリお煎餅をたべたりしてうるさかった。あんまりなので見てみると、その一人と目が合った。キューピーだ!画面が明るかったので向こうもこっちが分かったようだ。
 〇〇小学校の奴で、大きな目がクリッとして巻き毛の可愛い顔をしている。ついたあだ名がキューピーなのだが根性は悪い。少し前に仲間のイサムちゃんがからかったところケンカになり、コテンパンにやられて泣いた。私も調子に乗ってキューピーの顔を踏んづけてやった。奴はそのことを根に持っているに違いない。しかしきょうは私一人でイサムちゃんはいない。あっちは集団だ、マズいぞ、マズい。逃げようかと思ったが、そんなところを見られたら『あいつはビビッて逃げ出した。』という悪意ある噂を流すに違いない。
 一話が済んだ。奴等はまだいる。
 とうとう終わってしまった。そうっと見ると、いない。しめた、と鉢合わせしないようゆっくり席を立った。
 しかし甘かった。出口で待ち伏せしていたのだ。キューピーの奴、真ん中でエラソーに腕組みをして薄ら笑いをうかべていやがった。
「おい、ケン。この間はよくも可愛がってくれたな。」
「走れよ、ケーン!」
口々にからかってくる。5人もいて中の二人は知らない顔だった。他はヒロシとカズヤだ。ヒロシは界隈で最強と言われている兄貴が二人いて、凶悪な兄弟として知らぬ者のないクソガキだった。
「ちょっと公園まで来てもらうぞ。」
「お前一人で行け、このキューピー。」
「何だと。イサムがいなきゃ何もできないくせに。」

注)しかし今から考えるといくらマセたガキとは言えなぜあんなに大人っぽいチンピラ口調をきけたのか。想像するに当時年上の兄貴達がカブれていた日活映画のマネが伝染したものだろう。ピストルのことをハジキと言う隠語は知っていた。

「ふざけんな。行ってやろうじゃないか。」
「逃げるなよ。ついて来い。」
 私は本気でイサムちゃんとばったり会える奇跡を神に祈った。当然会うはずもない。〇〇公園に着いてしまった。砂場のところで取り囲まれた。私の恐怖感は頂点に達した。
「やいっ!この〇〇町でデカイ面すんなよな。」
「近所に住んでんだ。何が悪い。」
「近所って△△町だろうが、そっちで遊べ。〇〇まで来るな。」
「あいにく映画館がないんだ。だから来てやったんだ。」
「映画館もないようなイナカか、おまえんとこは。」
「そんな薄汚いもんはいらねーんだよ。」
「ウルセー!」
 ついにヒロシが、今でいうキレた。強い力で私の胸倉を掴んで砂場に引き倒したのだ。

注)そういえばチビガキのケンカはボクシング・スタイルのパンチの応酬にはならず、相撲スタイルで蹴りも頭突きもない。これは今でもそうなのだろうか。チビガキのケンカなんか何年も見ていない。

 砂まみれにされて顔を庇おうとしているとヒロシの巨体が乗っかってきた。くっ苦しい、鳩尾にドスンと入った。チキショーっともがいていたら大声が聞こえた。
「こらァー、何やってんだお前等!」
通りがかりのおじさんらしいが、砂が目に入ってしまって良く見えない。ポロポロと涙がこぼれるのを見てキューピー一派は『アッ泣いた泣いた。』等と囃し立てた。
「何だお前たち。大勢で寄ってたかって。どっちが悪いんだ。」
「こいつだよ。こいつこそこないだ二人掛かりでオレの顔を蹴ったんだ。」
「何言ってんだ。お前こそ横断歩道で石投げたじゃないか。」
「ちがわい!石じゃない。」
「いーや、石だったね。この卑怯者。」
あー、わかった。わかったからやめい!うるさい!
薄目を開けられるようになって気が付くと、別に遊んでいた子供達が遠巻きに見ているじゃないか、恥ずかしい。おじさんは跨っていた自転車から降りてこう言った。
「どうでもいいが、やっちまったケンカは両成敗だ。並べ。」
そして一列に並んだ私たちの頭に軽く拳骨を一発づつポカリとやった。助かった。おじさんは私を水飲み場に連れて行ってくれたので目を洗えた。見えるようになると、職人風の体の大きな人だった。口の中にも砂が入ってがジャリジャリするのでうがいもする。
 キューピー一派は『もうウチの町内には来るなよ。』等と言いながら走って行った。
 お礼でも言わなくちゃと振り返ると、もう自転車に乗って行くところ。ケンカをして帰ると母親に怒られるので、良く砂を払って帰った。
『いつーもオイラは泣かない。』と元気に歌いながら。

注)昔はこういったオジサンやオバサンがいたもんだったが。

 ところで家に帰った途端にバレて怒鳴り飛ばされた。背中にベッタリ砂がついていたからだ。

古い記憶

【昔のテレビ】今でも言える一節

【昔のテレビ】プロレスやアニメ・コント 

酷な出題


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同級生が・・

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