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ヒョッコリ先生奇怪録

2019 MAY 29 6:06:26 am by 西 牟呂雄

 山荘喜寿庵が見えてきた。
 木戸を開けて庭に回ってみると新芽が出だしたグリーンの借景が広がる。ところが・・・。
 開墾菜園ネイチャー・ファームに立ってボーッとしているのは何と行方をくらましたヒョッコリ先生ではないか。
「おや、しばらくでしたね。何処に行ってたんですか」
「キミこそ何でここにいるんだ。今頃はいつも船に乗っているんじゃないの」
「去年植えた栗の木がちゃんと芽吹くかどうか気になって」
「ああこれか。これなら大丈夫だろう」
「よかった。ところでピッコロ君やマリリンちゃんはどうしてますか」
「元気だよ。毎日駆け回って遊んでるよ」
「あのー、前から聞こうと思ってましたが、先生は普段何をしてるんですか」
「仕事してるよ」
「エッ、働いてるんですか」
「そりゃそうさ。働かなきゃ喰えないよ」
「どういう仕事なんですか」
「あんまり言えないんだが・・・・、まァいいか。地域限定の仮想通貨仲介業だよ」
「あのビット・コインとかそういうのですか。マイニングしたり」
「そんなことできるわけがない。第一発行されていない。マッあんたも準地元として少し教えてやるか。スマホ持ってるかい」
「ありますよ」
「それじゃちょっといじらせて。パスワード自分で入れてね」
 起動させて渡すと、先生は僕の携帯からどこかにアクセスし、画面を確認すると僕に見せた。
 スーパー・メタリック・コインSMCというタイトルの画面だった。スクロールすると、色んな物の画像があり、一つ一つに『2SMC』とか『15SMC』とかの表示がされている。
「なんですか、このSMCって」
「それが私のやっている仮想通貨の単位なんだよ」
「へぇー、『1SMC』って大体幾らなんですか、円でいうと」
「知らん」
「はァ!」
「あのね、素人が見てもゴミにしか思えないようなものが高値で取引されることがあるよね」
「骨董とか美術品はそうですね」
「そういう人たちにとっては値段なんかどうでもいいわけだ」
「まあ、そういうところはありますが」
「キミにだけそっと教えておこう。もう直ぐ消費税が上がるだろ」
「はい」
「延期するとか凍結するとか政治家が気球を挙げだしたよね。あれは実は今年は上げないで、オリンピック直前に上げる腹なんだよ。半年延期だ」
「そうなんですか。還元ポインントとか対策してますけど」
「新元号の初めの年に景気が落ちたら大変だ。それで今年はやらない、と打ち上げて選挙をやる。結果は大勝だ」
「ふーん、そんなもんですか」
「それが、だ。そんなことしたら学費無償化とかみんなパーになっちゃうからなんとかしなきゃならない」
「そりゃそうですね。税と福祉一体ですからね」
「だから結局増税やるんだけど、秋に出される法案に秘密が盛り込まれる」
「秘密ですか」
「そう。その法案には来年度から消費税を1年に1%上げる、とだけ書かれるんだ」
「すると9%ですか。計算が面倒ですね」
「初めの年はね。だけどキミだって9%で決まりと思ったろ」
「はい」
「なっ、騙されてる。1%上げるのは毎年1%という意味だ」
「えー!すると・・・」
「令和12年に20%になるってことだ」
「20%も!」
「だけど毎年なんて殆どの国民は気が付かない。ワシは昭和を覚えているけど今のJR、当時の国鉄は毎年毎年性懲りもなく値上げしてたんだぜ。それだけじゃない。他の物もしょっちゅう値上げがあって、新聞でも何でも反対とかキャンペーンしたけどみんなすぐ慣れちゃうんだよな」
「財務省主税局の狙いはそれなんですか」
「だからワシは今から奴らのウラをかいてやろうとSMCを始めたんだ。よく聞け。20エレのリンネル=1着の上着、という話分かるか」
「知りません」
「しょうがないな。マルクスの価格理論の話なんだが。まあいいか、要するに欲しいものといらない物の価値・価格は人によって違うんだ」
「成る程」
「必要な物も価格は需要と供給と競争の理屈が成り立つが、嗜好品についてはそれがない、人によって違う。ファッションや中古もだ」
「ははぁ」
「ところが消費税はそんなことはお構いなく掛ってくる。するとどうしても不自然な税体系になってしまう。それを回避する方法を模索する者が出てくるに違いない」
「そういうもんですか」
「そうだ。ワシが思うに回避し得る唯一のシステムは物々交換だ」
「はぁ~」
「おまけに世の中、物が溢れかえってるだろ。箪笥の奥でも納戸の隅でもいらないものの洪水だ。それでも人間は物は買っちまう。特にさっき言った嗜好品だな。そしてそれにも消費税が20%もかかることになるんだぜ。そんなものは誰も払いたくない。今はこのエリア限定だけど、引き合いはけっこう東京なんかからも来ることがあるから、そのうち全国ネットになるだろう。わっはっは。入会したければ会費1万円だからね。ウシー、シシシシ」
 不気味な笑い声にたじろいだ。
 要するに先生の言いたい事は、このSMCという表示は単なる記号で、捨てたい物をネット上で見せ合って物々交換するだけのことを、消費税節約の仮想通貨システムと言っているだけのようだ。しかし、そんな仲介が仕事になるのだろうか

 最後まで聞いてしまったが、先生の取り分は一体何が原資になるのか尋ねる前に『じゃあね』と言って先生は帰っていった。待てよ、どっから入ってきたんだ。

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Categories:202X年の怪

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