Sonar Members Club No.36

カテゴリー: アルツハルマゲドン

光輝く彼方

2020 MAR 5 7:07:19 am by 西 牟呂雄

 昨年の大腸癌除去手術の際に『せん妄』状態に陥ったことは既に書いた。無論その間の記憶はない。ただ写真を見たことを思い出すような、一場面のことは頭の片隅に残っている。
 それは、点滴を引き抜いて床に血が飛散った場面で、血の赤さが点々とする床を確かに見た。血痕の赤さがやけに鮮やかで、不思議なことにそれ以外の床やベッドが強く湧き上がるような明るさ、それも照明を浴びたような強い光りの中だった。あれはどういった幻覚作用なのだろう。
 実はこれも何度か書いているが、あわや一巻の終わりという事故・病気を以前やっているが、事故の際にも一瞬明るくなった(大晦日の夜中だった!)気がしているが後の刷り込みかも知れない。
 既に送った亡母の臨終の時に、幻覚を見ていたようで何かを喋っていたのを聞いたが、その表情は明るかった。
 思うに肉体が滅びる最後の最後は、苦痛を和らげるというか苦痛ではなくなるべく作用するメカニズムか物質が人間、いや動物には備わっているのではなかろうか。それがあまりに甘味なものであるため、臨死体験者・蘇生者が語る『あの世』の概念が作られたのかも知れない。
 夢の中にいたらしい『せん妄』期間中、約6時間程の私は少しは喋って、どこかに行こうと言う意思をもって動こうとし、もう少しで拘束されるところだったという。この間生きてはいたが記憶すらないので私としては眠っていたのと同じである。
 
  話は飛ぶが、多重人格というものがあるそうだ。「24人のビリー・ミリガン」という本で有名になった精神障害の一種とか。検索するとトラウマとか鬱病とか統合失調症とかいった恐ろしい病名が並んでいて、それらのストレスから逃れるために別の人格を作ってしまうとか。そして別の人格になっていた時の記憶は残らない、と。
 要するに『せん妄』とか『泥酔』になって何も覚えていないのは、多重人格と同じ(見た目の)状態のことになる。

 孟子の胡蝶の夢の境地ではないが、どちらが本当の自分か。恐ろしいことに、稀に『せん妄』の状態から戻らなくなって記憶喪失扱いされる患者もいるのだそうだ。それは優れて肉体は生きていても元の自分は死んだも同然である。その場合は今までの自分の魂は、雲散霧消してしまうのか。そうであれば、肉体は滅んでも精神がリレーされる方を誰でも選ぶだろう。生き物は必ず死ぬ。

 懐かしい亡き友よ、お前の精神はオレ達が引き継いでいるぞ。そしてもうすぐそっちに行く。きっとあの光りの輝きをくぐって。

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時を歩き続ける男 年始編

2020 JAN 1 5:05:29 am by 西 牟呂雄

 そろそろ松の内も過ぎようとしている。男は年末には北上をやめた。雪の山越えはいくらなんでも歩いては行けないので在来線を使って太平洋側に出て年を越した。
 相変わらず表情を頻繁に変えながらトボトボ歩いていたが、今日の宿を探さなければ。雪道を歩くので、移動距離がかせげない。雪が降っていると旅は一休みして居続けをすることになる。幹線道路で遭難でもしたらみっともないからだ。
 3.11の被災地を縫うように南下してきたが復興人員が大勢来ているのだろう。即席の民宿めいた宿が目に入ったのでそこに入ろうとした時、肩を叩かれた。
『おじさん、待ってたよ』
 振り返ると見たこともない妙齢の女性が立っていた。
『相変わらず旅ばかりしてるんだね。元気だった』
 思い出せない。
『えーっと、どこかでお目にかかってましたか』
『いやねえ、忘れちゃったの。以前雪に降りこめられてモーテルに一緒に泊まったじゃない。アハハ、でももう20年くらい前だから無理もないか』
 半月前にそういうことがあったが、その時の女性は学生風の若い人だったはずだ。まてよ、その子に面影が似ている。髪の長さもこんなロングだったし眼差しも、いや、そっくりじゃないか。
『もしかしてあなたは海岸で夕日を見ていて、その翌日にお蕎麦屋さんで向かい合わせに座って、一緒に歩いて雨宿りにモーテルで泊まった人かい。若い美人だった』
『あら、20年近く前のこと良く覚えてるわね。夕日やお蕎麦は覚えてないけどモーテルに泊まったのは確かよ』
『えっ、先月の話でしょ』
『いやねぇ、先月なんて。あたしはおばさんになったけど先月だったらそんなに急に老けるわけないじゃないの』
『・・・・、あの、・・・・』
『ねえ、ここに泊まろうとしてるのでしょ。さっきあたしがチェック・インしておいたわよ』
『それはー、マッ他を当たります』
『何言ってんのよ。おじさんが来るのが分かってたから相部屋で二人分のチェック・インしてるんじゃないの』
 男は唖然とした、と同時にそれは助かったとも思った。
 二人でその民宿っぽい宿に入った。部屋にはトイレもシャワーもない。六畳にちゃぶ台のような机、お茶のセットがある。
『あたしそこのコインランドリーに行くから待ってて。御飯食べに行こう』
 と言って女性は出て行った。
 あの女性は確かに先月会った人に違いないのだが、確かに年齢は当時は二十歳くらいにみえて、面影はそのままだが40歳代の風情である。
 暫くしたら洗濯物を持って帰って来たので、目の前の居酒屋に行った。
『カンパーイ!だけどあたしはオバサンになったけどおじさんは変わらないね』
 事情が良く飲み込めないので相槌の打ちようがない。
『前の時は「自分は余命幾許もない」みたいなこと言ってたけど手術とかしたの』
『そんなこと言わなかったよ。この通り体力は大して無いけど旅は続けられる』
『言ってたわよ。大腸癌だったって。心配したけど』
『チョット待てよ、・・・それは20年前の話だろ。僕達が会ったのは先月であなたは家出してたんじゃない、あの頃』
『実はね、あの旅は婚約を解消した後だったの。色々あってさ、挙式の直前に逃げておじさんに会ったんじゃない。それは20年前だってば。先月はあたしはアメリカにいたわよ。でも良かった。大腸癌は切って直ったんだね』
 男はさっぱり要領を得ないまま、ビールを焼酎に変えた。
 確かに20年ほど前に大腸癌の手術をしていた。その後暫く検査を続けたが、あほらしくなってほったらかしにした。その後さる事情により心境が大いに変わって仕事を辞めて今の旅暮らしに至った。しかし・・・。
 女は古くからの知り合いに語る様に話した。彼女の中ではそうなっていて、終いには男の方もそうだったかもしれない、と思い始めた。
『あの後あたしも結婚したのよ。娘を生んだんだけど、その頃から上手くいかなくなって結局離婚したの。そうしたらそれから運が開けたのね。しごとも始めて何とかやれるようになっていって、娘も10才になってるのよ』
 ごく自然に布団を並べて敷いて寝たらしいのだが、記憶が曖昧ながら目が覚めると、男はしっかりと二日酔いになっていた。モソモソと起き上ると隣の布団を見やったが、掛布団がくるまっている。しばらくするとその掛布団の塊がムクリと起き上った。
『バぁ~』
『わぁッ』
『おはよー』
『びっくりした。起きてたのか』
 10才くらいの少女だった。まだ子供だが、間違いなく昨日の女性の子供時代であることが瞬時にわかった。先月会ったあの若い女性の少女時代に違いない美少女だ。昨日からの流れ、更にこの一ト月あまりに起きた出会いを考えると、もう驚くにはあたらない。
『あのね、おじいさんはもう行かなきゃならないんだよ。お嬢ちゃん、そろそろおうちまで送って行こうか』
『やだぁ。きのう連れてってくれるって言ったもん』
 やれやれ、とにかく宿を出よう、と支払いをしようとしたところ「前金をお預かりしましたのでそのままお立ち下さい」といわれて男はあわてる。
 宿を出た時はもっと慌てる。きのうと景色がまるで違っているではないか。後ろから少女がついてきた。
『えーとさ、ここはどこだったっけ』
『ウソーッ、千本通り高辻下る、でしょー。やだオジイチャン』
『せんぼん・・・』
『きょうは桜を見に行こうって話したじゃん』
『さ、さくらぁ』
 ますます混乱しながら少し歩くと、丹波口という駅があった。なんとここは京都ではないか。
 男にはもはや時間の感覚が失われているようだ。
 地球の傾きがもたらす季節と自転が時間を感じさせる。人間は更に能力や体力の衰えや記憶することで時間の経過を經驗的に計ることはできる。
 だが、この男に関して言えば同一と思われる女性と何度も出会う事でかえって時間を感じられなくなってきたのだ。いつからこうして旅を続けているのか、いつまで続くのか。いや、この男は生きている人間なのだろうか。
 そして、年齢が変わってもいつも男の前に現れる女もまた、この世の人ではなかろう。

おしまい

時を歩き続ける男 年末編

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時を歩き続ける男 年末編

2019 DEC 31 21:21:15 pm by 西 牟呂雄

 男が歩いている。胸を張って顔はやや俯き気味にゆっくりと。低い冬の日差しの中、冷たい風に向かって一歩づつ歩いている。手はポケットに入れていて時おり目の前にかざしたり顎をなぜたりして落ち着きは無い。
 ただ、表情は目まぐるしく変わっていた。
 かすかに微笑んだりニタリとするが、どういう訳か突然涙ぐんだりひどく目を怒らせたりする。笑っているときは子供のように嬉しそうだが、悲しみに沈んだ暗い表情では絶望の中を歩いているようにも見えた。
 男は街道沿いの車の往来の多い道を歩き続け、いつしか川の土手を登った。人の往来があるのですれ違ったり追い抜かれたりしていたが、勿論知り合いのはずはない。男は目指しているところも無いらしく、まるで歩く以外には目的はない、歩くためにのみ存在しているかのようだ。そしてその間中、非常な頻度で表情が変わるのだった。
 つまり男は歩き続けるのだが、周りの状況や景色とは関係なく頭の中で色々な思いを巡らしている。それはおそらくこれからのことではなく、絶え間なく過去の何かを思い出しては笑ったり泣いたりしているに違いない。男には歩き続ける以外には未来はないと思われる。
 男にとって時間は歩くための目盛りで、それは歩き終わる時に向かう道標にすぎないだろう。周りの景色・空間はさらに現在の男には用がない。それが美しかろうが、ゴミの山であろうが。

 男は北上している。時々視界に入る海は日本海のようだ。服装はカナディアン・グース、ヨッパーにジーンズ、スニーカー、リュックサックのようなものを背負っている。年齢は60~70才くらいのオジイチャンだろう。両手には何も持たず、いやよく見れば空き缶を持っていて、時々立ち止まっては煙草を吸い、吸い殻をそこに入れている。
 どうやら幹線道路しか歩かず、横道にそれたり名所旧跡を訪ねることもしない。日が暮れる前に街中に適当な宿を見つけ泊まる。多くはビジネスホテルの看板を出しているところだ。
 チェックインすると、まず下着を着けたままシャワーを浴び、ボディ・シャンプーやら石鹸を全身に塗りたくる。そして流したあとに下着をタオルで絞ってハンガーに掛ける。翌朝までには乾くようだ。何組かの着替えは持ち歩いているようだった。そして近くのコンビニで簡単なカップ麺やおにぎりを買って夕食にしている。たまにビールを買うこともある。
 その日はどうやら城下町だったような所のシケたホテルに泊まることにして、珍しく公共交通(バス)に乗って海岸まで出た。雪が少し降ったらしく、街を外れると積もっていると思われた。
 ところで、観光地にあるような旅館では、男の怪しさに「予約はないと泊まれません」と断られる。街中のビジネスホテルを見かけると、スマホで予約を入れ、更に前払いでもしなければ宿泊できない。
 男は広い海岸に立った。

 砂浜の向こうに夕日が落ちていく。あまりの見事さに少し立ち止まり煙草に火を付けた。無論、簡易灰皿は携行している。冬の海が少し荒れていて真っ黒にみえる。水平線上には薄い雲がかかっており、夕日が沈んでしまうのはもうすぐだ。
 左に夕日を感じながら、時々雪が盛り上がっているような砂丘を右に見ながら歩くと、波の音は厳しく聞こえた。
 少し離れたところに一人、ポツンとした感じで敷物に腰を下ろし膝をかかえるようにしている髪の長い女性が座っていた。その女性はいかにも学生風の軽装で、ジーッと夕日だけを凝視していた。照らされた表情はよくわからない。色の白い人だった。
 男はそのまま歩き、とうとう夕日が雲の中に埋没してしまうと戻り始めた。
 先ほどの女性はもう姿を消していた。帰りはバスを使わず、1時間以上かけて歩いてホテルに戻った。思ったほどの積雪はなかったのだ。

 チェックアウトした時に、昨日の女性を見かけた。どうやら本格的なバック・パッカーのいでたちで、今日はとっくりのセーターにマフラー。チラッとこちらを見た後、一人でホテルを出て行った。男は後姿を見送ると、いつものように殺風景で車の行き交う幹線道路を歩きはじめる。男の表情が豊になってくる。嬉しそうに微笑んだり淋しそうになったり。
 午後になって港町に入った。そこそこの市街地で、この街に泊まろうと思うのかあたりを物色していと、蕎麦屋のチェーン店に目が止まり入る。けっこう混んでいて、食券で狐蕎麦を買いテーブルでの相席になった。座ってみると向かいの席は髪の長い女性で、軽く会釈された。男は良く分からないまま目礼して、直ぐに出された狐蕎麦を食べて席を立つ。こんな田舎でも店内は禁煙で、例の簡易灰皿で一服したかったからだ。
 それからおもむろにまた歩き出した。どうやら手ごろなホテルが無いようなのだ。1時間ほどすると道路は小高い丘を越えて行く。トンネルが見えてきた。男は疲れて腰を下ろしてしまった。しばらくすると若い女性がやはり歩いて来るではないか。女性は男に気が付くと『アッ』と声を上げた。
「オジサン。きのう海岸を歩いていたでしょう」
 男が見上げると、さっき蕎麦屋で向かいに座っていた人で、ということはきのう海岸で膝をかかえていた女性で今朝ホテルで見送った人物ということだ。
「や・・・こんにちわ。それじゃあなたきのう海岸で座っていた?」
「うん。そうだね。さっきのお蕎麦屋さんで向かい合わせだったじゃない」
「そうでした。・・・、ボクはオジサンじゃなくてオジイサンだけど」
「あはは、ずっと歩いてるんですか」
「はい」
「どこまで行くの」
「いや、決めてないんですよ」
「へー、それじゃあたしと同じか。ここからどうするの」
「まあね、道に迷うと分からなくなるから表示のある国道だけを歩きます。本当はこの街で宿を探そうとおもったんですがね」
「じゃもう少し一緒に行きましょ」
 二人連れで歩き始めた。女の荷物の方が大きいのだが、何しろ男は初老で歩みは遅い。丁度いいステップでノロノロと歩いていた。
 町外れになると田舎の街道筋を歩く者などは滅多にいない。寄せられた雪が残っている。
「おじさんは何で旅をしてるの」
「旅しかできないからですよ」
「うふ、その旅はいつ終わるのかしら。あたしは家出してるんだ。」
 男はそれには答えなかった。すると女は尋ねられた訳でもないのに身の上を話し出した。
 子供の頃から孤独だったこと、周りから見えている自分と自分が思っている現実とがいつも違うこと、よくモテたらしいが交際にはオクテだったこと、自分はカラッポな人間だと思っていることなど、合いの手を入れる間もないほど話した。かといって喋り捲るわけではなく、男が何も喋らないからポツポツと話し続けたようだった。よくみると大変に美しい顔立ちだ。
 そうこうしているうちに夕日が傾いてきてしまった。
「オジサン、もう直ぐ暗くなるよ」
「うん。早く次の町に行かないと寒いよ」
「チョット待って」
 女はスマホを取り出して地図を検索した。男も同じようにやっている。
「オジサン!どうやら泊まれるような町まで山道が続くよ」
「まずいな、弱ったってしょうがない。だけど何だか雪も降りそうだ。もう少し行こう」
 夕日を追いかけるような雲が頭上に広がっていた。低気圧が迫っているのだろう。肌寒いが、充分に湿気が感じられた。
 30分程歩き続けると、少し開けた景色になると道路沿いにホテルの看板。空室のサインが出ているいわゆるモーテルだ。まずいことにチラホラ雪が舞ってきた。二人は弱った顔で目が合った。
「オジサン。休もうよ。ああいうとこ一人じゃ行けないんでしょ」
「さあ、『休息5000円 宿泊7000円』ってばかに安いね」
 するとサーッと風が吹いてきたので、二人で走ってジタバタとチェック・インした。部屋の中はどでかいベットがあるだけ。そしてそこからガラス越しにみえる大きな浴槽が見えた。みすぼらしいモーテルだった。
 男は『チョット失礼』と言って濡れた服をハンガーに掛けるといつものように下着になって浴槽に行き、熱いシャワーを浴びながらボディシャンプを塗りたくって全身を洗った。女の方は少し驚いたようだった。下着を乾いたバスタオルで絞りながら着替えると『こうして干しておくとすぐ乾くんだ』と言う。女は笑いながら答える。
「あたしは町についたらコインランドリーを使うんだけどね。ねえ、ビールでも飲む」
 コイン式の冷蔵庫にはぎっしりとビールが冷えており、カップ麺などもある。女はコップも二つ出して並べる。
「はい。かんぱーい」
 男にとっては久しぶりのビールだ、旨かった、あっという間に飲み干して注いだ。すると女も一気飲みしている。
「ねえ、今度はおじさんの話もしてよ」
「おれ?何もないよ。不思議なんだがキミはこうして名前もわからない僕みたいなのとここで雨宿りして平気なのか」
「成り行きだよ。それでおじさんは何で歩いてるのさ」
「うーん、そりゃ色々あるわ。エイズになったから、なんて言ったらどうする」
「あーはっは、エイズなの?」
「ふふ、いい度胸だね」
「で、どうして旅を続けてるの」
「生き続けるためだよ。止まってしまうと生きているのか死んでいるのか、死んだことはないからよく分からんけど。一方でこの先に希望だの夢だのが見つかることはないし、この年だから。要するに逃げ出したんだ。これでも家族もいた、というか今もいるんだけど、連絡はとってない。向こうが探してるかどうか知らないが、多分諦めてるんじゃないかな。残りの金を持って行く、って置手紙は残したからね。ある日、あと何日歩いたりして生きていられるか勘定してみて一日幾ら使えるか割ってみたのさ。時間が区切られているのはどの生き物も同じだけど、人間は唯一死ぬことが意識できるようになっちゃったから」
「それって後どのくらいなの」
「分かるわけないじゃないか。ざっと10年のつもりだったけど。ひどいこと聞くな」
「ごめーん、でも冗談でしょ」
「お嬢ちゃんにゃかなわんな。マッいいや。とにかく時間が限られていることを自覚してないと、バカみたいにのんびりテレビ見て残りの時間が失われてしまうってことになりかねない」
「うん、うん」
「つまり時間が流れていることが分からなくなった時点で人間としての『本人』は失われる。そうなるとどうしても人の世話になるんだけど、圧倒的な善意にすがるというのも結構エネルギーが必要で、その力が枯渇すると無遠慮な態度になっちゃう。図々しく、当たり前だと思うようになるね。それがいやなんだ。もっともその段階では自分でも自分が制御できないくらいイッちゃってるかもしれないし」
「アッ、話途中だけどあたしシャワー浴びてくるから」
 と立ち上がるとバスの前にトコトコいって服を脱ぎだした。
 男は唖然とするもののどうすることもできなくて、ポカンをその姿を見ていた。真っ白な裸身が目に入るのだが、こういう場合どうすればいいのか考えあぐねているとガラス越しにバシャバシャとシャワーを浴びているのが見えた。そういえばさっきオレも似たようなことをしたんだっけ、ともう一本ビールを開けた。

 翌日、男は大きなベッドで目を覚ました。部屋に一人だけである。エアコンの前のハンガーに干した下着、自分のリュック、タバコ、空いたビール瓶。昨日の女は影も形も無い。あれは・・・。外は晴れていた。
 机の上に置き手紙。
 『おじさんの話おもしろかったよ。良く寝てたから先に行くね。その調子だったらまた会えるかもしれない。お金をワリカン分置いていくからまたね』

 つづく

時を歩き続ける男 年始編

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ガンマ線バーストだって

2019 DEC 25 7:07:35 am by 西 牟呂雄

 約45億年前に太陽の百倍の質量を持つ星が重力崩壊し、ブラックホールが生成される際に放出されたという。 

1兆電子ボルト

 何とダイナミックと言うか破壊的と言うか、私程度の頭脳が理解する範囲を遥かに超えた時間とエネルギーのメカニズムだろう、ため息も出ない。
 この想像図の、エネルギーを放出した輝きの後には光りも時間も閉じ込めた暗黒のブラックホールが出現するはずだ。
 ガンマ線バースト自体は20秒程度の現象らしいが、45億年後に観測されたことにもワクワク感満載。確かガンマー線はX線より波長の短い放射線と呼ばれる電磁波だ。これを私も浴びていたのだろうか。

 話は変わるが、先日癌の切除手術を受けたが、本番の前に「PET」という検査をされた。要するに癌の周りに集りやすいモノを人工的に体内に入れ、癌のある部位、転移状況を確認する検査である。そのためそのモノを測定しやすくするためにその物質に外殻電子数の同じ放射性同位体を入れて測定する。勿論、人体に影響のない微量な放射能であるが、暫くは(30分くらい)排泄物から放射能が出るのだと言う。
 多少気味が悪く、終わった後には疲れた気がしたものだった。

 そして冒頭のガンマ線バーストは45億光年も離れた所で起きたからどうってことないとしても、そもそも宇宙ができてから138億年ではなかったか。すると宇宙年表で言えば1/3あたりでもうバーストしたわけで、ブラックホールはそれ以外に多く観測されているから宇宙誕生の直後からジャンジャン起きたことになる。そうなると最早時間の概念そのものがなくなる、ちょっと難しいかな。
 加えて最近の観測技術は進化し、宇宙誕生の際の銀河の中心部には炭素のガスの雲が発生していたことがわかったり、ブラック・ホールの周辺に惑星が存在するという仮説が出された。
 それどころか、その他の特異分子雲の発見・監察により電波天体としてにんしきされる超巨大ブラック・ホールは代用の400万倍の質量と推測される見当もつかない暗黒だとか。

 いずれにせよ生き物や星は時間と共に変化するが、宇宙の方はそんなもの知ったこっちゃない。
 と・言うことは・・・・アインシュタイン先生!教えて下さーい。

中性子星合体だって

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追憶のメキシカン・プロレス ルチャ・リブレ

2019 SEP 17 6:06:16 am by 西 牟呂雄

 直近のアルツハルマゲドン研究(私のです、あくまで)によると、耄碌が進んだ年寄りが同じ話ばかりして嫌われるのは、記憶の連続性が途切れてしまい、プロセスが飛ばされても差し支えない独立した部分だけが残ってしまうからだ。
 そしてその独立した記憶までもが消滅すると、これはもう桃源郷に遊ぶ心地。それはそれで愉快かもしれないが、端から見ればあまり楽しそうじゃない。
 画像保存機能が発達した現在では、結構なことに記憶からこぼれ落ちそうな場面も検索することができる。
 しかし、それさえも残らないマイナーな思い出、これを残すのにブログというのは実に有難いものではなかろうか。
 大好きなプロレスについて、上記の事実はそっくりそのまま当てはまる。
 誰の記憶にも残らないセミ・ファイナルや中継のない試合。ひょっとしたら僕しか覚えていない光景があるのではないか。往々にして記憶はすり替わる。

 試しに自分で欠けそうな記憶を辿ってみると、やはり途切れてしまった。
 場所は後楽園ホール。怒涛のコールが鳴り響く。
『ケンドー、(チャッチャッチャ)ケンドー、(チャッチャッチャ)』
 あのニッポン・チャッチャッチャのノリだ。
 ここで困った。ケンドーというレスラーは日本人ペイント・レスラーであるケンドー・ナガサキ、同じく日本人マスクマンのケンドー・カシン、メキシカン・マスカラでその名もケンドー、と3人いるが誰だったっけ。マスクマンのルチャだったようなので多分ケンドーだったかな。ここまで書いてどの団体の試合だったかも思い出せないことに愕然とした。全日本や新日本じゃない。ヒマに任せて通りがかった試合を見たようだ。僕はケンドーを初めて見で、それが最後だった。コメディアンのケンドー・コバヤシは関係ない。
 そのケンドーは上半身を反らし下半身でリズムを刻みながら、チャッチャッチャのところで広げた両手の手首を上の方にクッ、クッ、ク、と上げる。いわゆるルチャのノリで観客は大喜び(僕も)、益々コールは大きくなる。
 相手はメキシカンのルード(悪役)で覆面はしていなかった。入場してリングに上がるも、あまりのケンドー・コールに耳を塞いで見せたり顔をしかめたり。終いには頭に来てリングを降りて控え室に帰る素振りを始める。
 すると、通いつめているらしい練達のファン達は逆にルードのコールを始める。この阿吽の呼吸は実にプロレス的でツウならではの面白さがあった。エーット、確か『プラタ・チャッチャッチャ』だったかな。
 それを聞いたヒールは嬉しそうに再びリングに戻り、観客と一緒にチャッチャッチャをやってはしゃぐ。
 今度はケンドーが両手を広げてポルケ(ホワイ)の表情。手を耳にかざして客をあおると、心得たもので再び『ケンドー、(チャッチャッチャ)』が始まる。
 いつ果てるとも知れないパフォーマンスに客は(僕は)酔い痴れるのだった。

 勿論、試合の結果なんか記憶にない、遠い彼方の光景なのだ。
 読者の諸兄諸姉、この試合を覚えている方は御一報下さい。いるわけないか。

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ハーリー・レイスの訃報 必殺ダイビング・ヘッドバット

恐怖の4の字固め デストロイヤーの訃報

さらば黒い呪術師 アブドーラ・ザ・ブッチャーの哀愁

心に残るプロレスの名言 全日本編

宿酔(ふつかよい)

2019 JUN 27 20:20:00 pm by 西 牟呂雄

 ああ、オレひどい二日酔いなんだ。吐き気がして喉が渇く。頭はチャポチャポしてるし少し痛い。いや、ズキズキではないけど。
 ちょっと手伝ってくれ。ここ、この耳の後ろの所に傷みたいなのがあるだろ。見てくれ。そうそう、その縫い目みたいなところ。はがれそうなんだけど上手く掴めないんだよ、引っ張ってみてくれない。夕べ転んで打ったみたいなんだ。朝起きたら枕が真っ黒に濡れてて何かと思ったら出血してたんだな、これが。
 うー、気持ち悪い。
 イテテテ。もっとゆっくり、そうそう。何だ、ぺろんとはがれてくるじゃないか。
 ホント?頭の皮が剥けて来るのか。アッ、もういいよ、その辺で。何だかさっぱりする。
 剥けてるってかつら取った感じ?
 真っ赤?ええっと。痛て、確かに沁みるな。皮膚がむき出しなの?血管が浮き出てる?何だよ気味が悪いな。酒臭い!それはそうだろう。二日酔いの元のアセトアルデヒドがそのあたりにたんまり固まっているはずだからな。
 おい、なんだか痒くなってきたぞ。ちょっと待って、そーっとそーっと。何だかピクピクしてるけど。あー痒い。
 うわっ、おいおい今指が入ったぞ。オレの頭、何だか風船みたいにプヨプヨしてる。変だよ、頭蓋骨ないのか。やってごらん。バカ、そんなに押すな。
 おっとっと、待て。何だか涙が出てきたぞ。ヒックヒック。痛くも悲しくもないのに。ハンカチを・・・。ナンだこれ!おい、みてくれ。これ涙じゃなくて膿みじゃないか、緑色してる。目から膿が出ちゃったよ。お前が頭に指突っ込んだから目から膿が出たんだろ?あっまた、もうやめろ。
 ナンなんだよこれは。相変わらず喉が渇く、ゴクゴクゴク。
 ちょっとすっきりしたような気分だ。そういえば痒みも頭痛も治まった。吐き気は相変わらずだけど。
 もういいや、そのさっき剥がした頭皮をもとに戻してくれよ。
 えっ、透き通ってきた?脳味噌見えてんのか?やだな。何!何も見えない?そんなバカな。オレに脳がないはずはないだろう。良く見ろ。ホントか、さっきの膿みたいな色だと。あっまた涙が・・。もしかするとその汚れた膿が頭の中から染み出してるんじゃないか。冗談じゃないぞ。
 ゴクゴクゴク。うーおいしい。えっ、また少し透き通った?水飲むと薄まるのか。いや、バカ言っちゃいけないよ。オレの胃が頭にあるみたいじゃないか。あっ涙が・・・、ウワーまたあんな目ヤニが。ちょっと目を洗わせてくれ。
 ナンだって!頭の中の色がどんどん薄まってくる?もっと洗ってみよう。
 おいおい、少し良くなってきてる。コーヒーが飲みたいな。グビッ。
 はァ?今度は黒くなった?そんなバカな、それじゃ脳はどこに行ったんだ・・・・。

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ヒジョーに不思議な夢 ボケ進行中

2019 JUN 16 16:16:27 pm by 西 牟呂雄

 起き上がって歩こうとしたら何かを蹴飛ばして、それはドライヤーだった。そしてそれが突然作動して物凄い音を立てる。ドローンのようなプロペラが付いているやつで、僕はうるさくて敵わないと叩きつけて壊そうとした。
 ところが、何故かそこで目が覚める。ああ、あれは夢なんだなと分かったもののその不快な音はまだ聞こえているのだ。夢だと分かっていつつも音が聞こえているのは優れて幻聴なのではないかと冷静に疑った。
 そしてもう一度音に悩まされながらも寝入ると、今度はそのドライヤーを折りたたみ始め、まてよ、これは夢の続きだろう、とそのドライヤーの風口に手をかざした。すると手には温風を感じるではないか。これは夢ではないのか、と夢の中で思った。
 すると又、目が覚めて今度はタバコを吸いにベッドから起きた。その時点でドライヤーの音は聞こえなくなりホッとした。時計を見ると朝の五時だ。
 もう一眠りしようと横になると『あっ、ナントカだナントカ』と人の名前を言っているのが聞こえて、奇怪にも『これは夢なんだな』と冷静に判断できる。そのナントカカントカさんは逆光のようにシルエットなのだが、僕の寝込みを確かめるように擦る。頬の所に手の感覚があった。そこで、夢であるかどうか確かめようと手先を動かしてみると、肌触りを感じた。ひょっとしてこれがオバケというものかな等と考え、何故か菊池寛が満州に講演に行って旅館で幽霊に会ったという文章を(確か小林秀雄が書いていたはずだ)思い出しているうちに再び目が覚める。ベッタリと汗をかいていた。
 恐怖感は全然無く、その続きはどうなるのかと再度眠る。
 いきなり先ほどの部屋(ドライヤーを壊そうとした部屋)にいて、ボランティアの仲間の(なぜボランティアとわかったのか不明)オニーチャン4人と世間話をしているではないか。
 そのうちの一人の若者はロンゲでパーマをガリガリかけているのだが、某大学の剣道部出身だという。そこで僕の知り合いの名前を出すと、その先輩ならば知っています、と答えた。

 以上の夢を少し前に見て今も鮮明に記憶に残っているのでブログに書いてみたが、この「あっつ、これは夢だな」と自覚があるような感覚で夢を見るというのは一体どういうものだろう。ユングやフロイトの研究者だったら分析してくれるだろうか。いや、これでは精神異常者と判断されるのがオチか。
 そしてそれよりも恐ろしい考えが浮かんでおびえた。
 これはボケの前兆で、四六時中そういう状態にあることをモーロクというのかもしれない。
 そういえばこの間、ゴルフ場で練習ボール用のコインを買った途端にそのコインが消え、スタートしたらキャディさんが『練習場に忘れてましたよ』とアイアンを持ってきてくれた。恐い。

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あれ?

2018 DEC 21 8:08:50 am by 西 牟呂雄

 自分自身の意識というものがコントロールできない人はバカとか呼ばれている。
 しかし予てから疑問に思うのだが一般的な経済学での普通の人の定義は『こうすれば損だから』と普通でない行動を片っ端から削り取って完全無欠な人間を想定してしまう。でもそれっておよそ『普通』の人間ではない。
 経済予想がしばしば狂うのはその普通な行動をモデルに乗せるからではないのかな。冒頭のようなバカは大方の予想を裏切って、しばしば思いも寄らないうねりを作っているのではないか(だが、しばしば大穴を当てて大儲けする例外あり)。そこで得意のゲーム理論の逆を張った消去法でコントロールの効かない行動を以下四つに分類して遊んでみた。
➀ 合理的な行動が分からない
➁ 合理的な行動を取りたくても取れない
➂ 合理的な行動を取りたくない
➃ 何をするか見当もつかない
 ➀の人は気の毒と言えばそうで、周りが十分行動した後から遅れて参加しようとするが既に遅くなり結果としてヘマなことになりがちだ。この総数は意外と多く、偏差を計算する簡易手法で大体1/5近くいるものと推定される。これは選挙の投票結果を見てもしばしば誤ったことが起きるので分かる。自分ではインテリだと思っている人は多い。
 ➁は結構深刻な境遇かも知れないが、一頃言われた引きこもりもここに入る。知的トレーニングを嫌う。
 ➂は宗教人や『主義者』といわれるイデオロギスト、革命家のような人達。柔軟性はない。政治的には野党の立場に常に立ちたがる。下手すると独裁者になる。
 ➃は不規弾(一斉射撃や機関銃の連射の際にとんでもない方に飛んでしまう弾丸のこと)ともいうべき正に『普通』の反対を行く人。稀に天才が出る。の四種類だった。
 そしてどうやら『普通』にやることと普通にやろうとして➃になってしまうのは全く同じ意識の元で起こっているようにも考えられる。だから等しくある確率で➃になってしまうのは単なる思いつきも含め仕方がないことなのだ。
 それにしてもこの仮説に立脚して過去を振り返るのは辛いモノもある。先ほど『ある確立で』と前提めいたことを言ったが、僕自身思い出して見ると、意外と重大なことをあたかもサイコロを振るように決めた。
 意識は脳内の化学反応なのだから僕の脳に限って反対の反応が進むはずもないが、普通のことを選択していないのはなぜか。

 ところで人工知能は、車の自動運転どころか論文の評価まで、更には新聞記事にまで恐ろしく早く進化している。
 新聞記事は前から思っていたが、ある方面の記事には『市民運動家は怒りをぶちまけていた』政治面では『総理の見解をバッサリ』と同じような言い回しが気にはなっていた。昨今話題のA新聞などの解説は『~というのは当然である。しかし~』とやってはある種のバイアスがかかった落しどころに持って行き、ヘッド・ラインだけ見ればどういう記事か大体予想がつく(何年も読んでいないが)。S新聞も立場は違えど同様。こんなのは人工知能に『現象』だけ打ち込めばすぐできるような代物に思える。
 或いは裁判の判決と量刑だ。これなんか人工知能に法律条文と過去の判例を記憶させ証拠立件条件をアルゴリズム化すれば、あの膨大な時間が限りなくゼロに近くなる、かな。検事と弁護士が打ち込むだけ、裁判官もいらない、かな(法曹関係の方ゴメンナサイ。皆さんのことは尊敬してます)。
 そこで話が戻って、冒頭の『自分自身の意識というものがコントロールできない人』や決断力の無い人は全て人工知能に判断してもらうのは近い将来お奨めかも。
 行こうか行くまいか、食べようか止めようか、どうでもいいことをウジウジ悩むような人は人工知能の仰せのままにやればかなり合理的に行動できるだろう。
 白状すると、結果として望まないにも拘らず➃になってしまう僕なんかは大いに人工知能に期待したい。
 それに正直に言えばそう遠くない将来にアルツハルマゲドン状態になったときなど、恐らく考えることができなくなるであろうから端末でピッピッとやれば・・・・。いや自分ではなにもできないから初めから人工知能にお願いしてそのおっしゃる通りにやっていれば(やられていれば)見事天寿を全うできるのか。その時に拒否できる判断力と気力が残っていれば断固拒否がけれど。

 例によって隠遁場所である山荘にいた時に、普通の合理的な行動様式で暮らしてみた、実験してみたのだ。何だできるじゃないか。心静かに農業計画について思いめぐらせた。合理的精神を全うするために人と会うことを避けた。どうってことない。タバコも減らせた。極端なことも考えないようにすると退屈した。だが損になることはしないように合理的に行動する。酒も飲まなかった。
 しかし帰京すると異変が起きた。いちいち書かないがポイントは”忘れ物”が主たる原因で、心霊現象が起きたようにメチャクチャなことになり、予測不能のアクシデントやポカが次々と襲い掛かってくるのが3日続いた。自分が望まないにも関わらず、上記分類➃の結果になってしまった。 

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2025年 AIを国民のベーシック・アセットに

脳を鍛えなくちゃ 記憶を呼び起こす

2018 NOV 23 10:10:36 am by 西 牟呂雄

 カオス理論では結果は初めから予想されうるが、数値で予測するにはパラメーターが複雑過ぎて無理なのだということになっているらしい。
 一方で『手首を曲げる行為』の実験によると『手首を曲げよう』と意識する1/3秒前には脳が活動を始めることが確認されている。即ち自由に考える前に外部の刺激に単純に反応しているだけ、ということは人間の自由意思というものが証明されない。
 また、記憶に関しても『概念』は後天的な刷り込みが可能で、やったことが無くても自分の経験として”記憶”してしまうこともある。
 すると”一般的な状況”というのは個別に違ってしまい、”一般”を構成するはずの全員が例外的存在になる。経済学者やアナリストがしばしばハズすのはそれ故らしい。
 我々が”主体的”に好き嫌いを決めている訳でもなく、外部の刺激にのみ予定反応しているだけだとすると、偉そうなことを言っても人間という形のリトマス試験紙のようなものということになる。
 最近のニュースでギョッとしたのは、ネットで自分の好む情報ばかりを見ていると、ネットにはフェイクがちりばめられていて自然と自分の都合のいい(心地よい)ウソまでも信じ込む、勝手に組み立ててしまう、という話だ。
 個人データをハッキングして無党派層に向け、当人の好むネガティヴ(或いはポジテイッヴ)キャンペーンを吹き込む。選挙干渉は相手に合わせてバイアスのかかった情報の優先度を上げて恣意的に見せ、マインド・コントロールすることが可能だと。
 そうなると冒頭の1/3秒前に脳が反応するどころではなく、個人の意思を操作されてしまうではないか。記憶も何もあったものではない。自分の脳をハッキングされるような話だ。
 しかもこの調子で認知症でも進んだ日には、外部の刺激に対する反応どころか、仮に記憶にあると本人が辛うじて思い込んでいても、何かの辻褄を合わせるために自身の記憶を(すでに機能的に通常の”脳”ではなくなっていたとしても)リセットしてしまうかもしれない。既にカオス理論からも見放された境地、結果は予想できない、と。
 僕はボケるだろうが、そうなった時も自由意思、思考、記憶といったものを細々とでも保持していたい。
 
 ところで僕は週末には山荘喜寿庵に閉じ籠り、一人で農作業のマネごとをしたり、この季節は落ち葉を掃いたりして暮らしている。要するに何も考えていない。うまくすれば何もしなくても最低限生きていける(食事と排泄は許して下さい)。
 仮に『手首を曲げよう』とさえもしなければ脳は活動を抑え、要するに目は開いているが眠っているような状態を持続できるだろう。そこでそういう環境を作り出し(スマホもテレビも切って、酒も飲まずに)過去の記憶がどこまで正しくたどれるか実験してみた。何かのキーワードについて直近から古い方に記憶をたどっていく。
 まず”病院”という言葉が浮かんだ。ある事情で最近見舞いに行く機会が多いからだが、そこから始まって自身の病院経験をズーッと遡ってみみた。亡母の最期にいた所、親友が入っていた病院、眉間を割って担ぎ込まれた外科、さる知り合いのいたICU、ズーッ遡って自分が40日も入っていた病室、往診に来てもらった『奥田先生』とたどっていく。すると僕の病院にまつわる最古の記憶は妹が生まれた時にオヤジに連れられて行った産院だった。4才の時である。オヤジの革靴がキュッキュッと鳴った音とともに覚えていた。
 ヨットで今年の夏に落水したことを思い出し、”水”に関して(飲むのではなく泳ぐ、浸かる)やってみたところ、この何年も船からバシャバシャ飛び込む以外はまともに泳いでない。セッセと泳いだのは遥か昔の小学校までだった。ギリギリ中学か。子供の頃に近くのYMCAのプールで水泳教室に通った。そのくせ、喜寿庵の下を流れる桂川で淵にはまって溺れかけた。水泳教室で習ったのはクロールであり、川遊びの役には立たなかったのだ。もっとチビだった頃、どこかのプールに連れていかれて『人間の体は沈まないんだよ』とオヤジがうつ伏せに浮いて見せた。確かにどこにも掴まっていないのに沈まない。やってごらん、となって横にされて手を放された途端にブクブク沈んだ。そしてそれよりも前に、庭に掘った池(喜寿庵ではないが、本籍地に引っ越す前に住んでいた家)に浸かって歩いた感触を思い出した。気になってアルバムを見ると3歳くらいの僕が水遊びをしている写真があった!
 面白くなって次は”食”。大して食道楽ではないから旨いものではなく、不味い記憶を辿ってみた。本格的にひどかったのは社会人になってから行ったスキー場の卵丼。次に学生時代に甲州街道沿いのゲームセンターで食べたピラフ(これは塩加減を間違えたとしか思えない殺人的な不味さだった)。小学校低学年時代に給食で出たイカ(さすがに半分以上の児童が残すという前代未聞の味)。ここで止まった。
 それはそうだろう。学校給食が始まるまでは嫌いな物なんか食べなかったからだ。思い出して来た、ソーセージとタラコを間違えてタラコが嫌いになった瞬間や蟹の缶詰の絵柄のグロテスクさに食べもしないくせに大嫌いだった。海老もだ。
 ”泣く”。直近では『パパはわるものチャンピョン』というプロレス映画でホロリときたが、さすがにギャーギャー・ポロポロと泣くことは何十年もない。最古の記憶は幼稚園前(場所の記憶があるので間違いない)、本に書いてある通りにどうしても切り紙が出来ない時に悔しくてビャアビャア泣いた。するとそこに母親がやってきて『どうしたの。貸してごらんなさい』と丁寧にやってくれると、簡単に出来てしまった。すると(その時点でも泣いていた)それが悔しかったので思いっきりその切り紙を引き千切ってもっと泣き出した。その時のあきれ返った母親の表情がうっすらと残っている。「こりすのポッコちゃん」というテレビ番組を見た頃と思うので4歳くらいだったか。

 待てよ!これで脳を鍛えているつもりになっていたが、ついさっきナニをしていたか覚えてないじゃないか。
「昔はこうだった」と同じ話しばかり喋るのはヤバい兆候。これでは脳を鍛えていない。気付かずに脳を退化させボケを進行させてしまった・・。

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序章は既に始まっていた

2018 NOV 15 0:00:47 am by 西 牟呂雄

 約十年程前、物凄い不眠になった。48時間キッチリ眠れなかった後に、やっと寝たが10分ほどで飛び起きてしまう。次の36時間もその繰り返しで、昼間はぼんやりするかというとそうでもなかった。そして泥酔すると眠れたが多少の酒は返って目が冴えてダメだった。
 一ヶ月くらい経って怖くなり、かかりつけの内科医に相談してみた。実はこの医者に酒を飲むな、と厳命されていたので殊勝な顔で禁酒しているフリをしていたのだが、不眠を訴えたら『酒飲めばいいんじゃない。どうせ飲んでるでしょ』等とふざけたことを言った上(当たっていたのでギョッとはしたが)で ××××ミン という薬を処方してくれた。これが効いた、効きすぎた。よく分からないが深く眠り過ぎるのか翌日手足がだるく、これでは二日酔いと大して変わらない。しかも効き目が出るのがやや時間がかかるのが難点で、飲んでから全然聞かない、とビールもついでにやって2時間くらいしてから眠っていた。これは後に大変に脳と体に悪いと知れたが、その時は知らなかった。 
 丁度その頃マイケル・ジャクソンが何かの薬で死んだのでビビり、医者にもう少しチョロい薬にしてくれ、と訴え ×××リー というのに代えた。すると眠りには入れても4時間くらいで目覚めてしまう。結局処方された以上に服用してしまうことが多かった。
 一度ヨーロッパ便の飛行機の中で酒と併用したところ、とんでもないボケ方をして徘徊してしまった。トイレに行った後、自分の席が分からなくなり機内を二周くらいして不審がられた。無論その後は併用は固くやめた。この間、かなりの数の脳細胞をダメにしたはずだ。
 不眠は未だに直らないが、この年になってあんまり依存するのもマズいと少し薬を減らそうとはしている。なぜかいくら訴えても医者の奴は『うつ病の恐れがある』とは絶対に言わない。
 かつての無頼派、坂口安吾は覚醒剤ヒロポンをやってハイになり、無理矢理眠るためにアドルムを飲んだというが、言うまでも無く僕は覚醒剤何かやっていない。
 眠れずに意識がはっきりしていても、体は休まっているのでジッとしていれば多少はウトウトして睡眠は取れているという説があるが、全くの嘘である。何度も寝返りをうっている内に夜が白々と明けて来た時の疲労感たるや凄まじいものがあった。

 加えてSMCのメンバー野村氏が投稿したブログによれば、そろそろ男性更年期障害の心配もしなければならないと知った。ただ、不眠の症状に陥った時にはブログに記載されたような状態は観察されず、年齢的にも早すぎる。いや待てよ、若年性という可能性もある。更に私の場合、多量の飲酒とそれによる泥酔に止められない煙草というハンデもあるので、そのテの症状が人より早まっても不思議ではない。
 そうか、これらはみなこれからの『年齢』への戦いのプロローグなのだ。この戦いに挑むにはそれなりの準備が必要であろう。戦略は何とか膠着状態を作り出すことだ、死なない人間はいないから。不眠がその兆候だとすれば十年前から戦いは始まっていたとは。だがまだ間に合うだろう。衰えが何だ、ボケが何だ。

 だけどなぁ・・・。今夜も眠れない。

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