Sonar Members Club No.36

カテゴリー: アルツハルマゲドン

喜寿庵で植樹

2020 APR 29 17:17:59 pm by 西 牟呂雄

 コロナ・クライシスに怯える東京にいるより安全なので喜寿庵にいる。テレ・ワークなるものにもチャレンジしているが、これは我々おじさんには慣れるまで多少の時間がかかる。
 ところがその間に緊急事態宣言が出てしまい、あんまり大っぴらに行き来するのも憚られる事態になってしまった。こちらの方にコロナを持って来た、と思われると居心地が悪くなってしまう。まあ、近所といえるほどの人口密度はないエリアだが。飲み屋もないし。

 実は先月、さるめでたいことがあり、ギリギリでコロナ・パニックになる直前だったので、喜寿庵のネイチャー・ファームの一画に記念植樹をした。この『センダイシダレザクラ』という品種は遅咲きので、4月15日時点が満開である。勢い余って『礼』と名前まで付け、天にお礼をしたつもりだ。
 ついでに広がるるコロナ禍をおさえるため、八百万の神を鎮る自作の「疫病退散」の踊りを奉納しようと、某日厳かに神事を執り行っていた。
 四方に酒を注ぎ残りを飲み、疫病退散を踊っていると、
『ナーニやってんだい』
 の声。ヒョッコリ先生ではないか。また勝手に入り込んだのか、しかも神聖な踊りの最中に。
『いやー、東京はコロナ騒ぎで大変なんでこっちでおとなしくしてるんですよ』
 と取り繕った。
『いや、そこから見たら頭がおかしくなって疫病退散の踊りでも踊ってるのかと思ったよ。ガハハハハ』
『まさか、アハハハ(いやなジジイだな)。先生はコロナ対策なんかどうしてるんですか』
『あれは弱ったなぁ。大体ああいった新種のウィルスに対する抗体を体内で作れるように普段から注意しておかないと。特に都会の人なんか弱い』
『(また知ったかぶりして)普段からって言っても何をすればいいのか分からないでしょう』
『ん?ゲンノショウコウを煎じて飲んで、それでも咳が出たら葛根湯をのめばいい』
『(聞かなきゃ良かった。お亡くなりになった方もいるというのに)ところでピッコロ君とマリリンちゃんはどうしてますか』
『一緒に来て芝生で遊んでるよ』
『(勝手に遊ばせるなよ)最近僕が不定期に読み書きを教えてあげたりしているんですよ(お前が面倒みてそうにないからな)』
『それは無理だよ。あいつらは字を読んだり書いたりはできんだろう』
『いや、凄く覚えが早いですよ。しかし何か国籍とか問題あるんですか。もう学齢に達しているんでしょう』
『ムチャいうなよ。あいつらにどうやって学校に行かせられるんだ』
『エーッそんな』
『おーい、ピッコロ』
 先生はファームから芝生の庭に行ってしまった。しょうがないな、奉納踊りの途中だったのに。

これが?

『このおじさんはオマエに字を教えてるって言うけどムチャいうなよ、だよなぁ』
 なに!これ犬じゃないか。そういえば以前ヒョッコリ先生はペットの犬を飼ってると言っていたけど・・・。
『ピッコロってこのワン公の名前ですか』
『あたりまえじゃないか。なーピッコロや』
『ワン、ワン』
 嬉しそうに尻尾を振って、ワッ飛びついてきた、僕に懐いている。

マリリン?

『あのー、マリリンちゃんは・・。妹の』
『へぇ?妹?マリリン、こっちにおいで』
 ササッと現れたのは違う犬種だけど、やっぱり犬ではある。
 気が遠くなりそうだが、何とか記憶を辿ってみた。
 ヒョッコリ先生が二人の子供を連れてきて、僕はその子達と遊んだ。暫くしてまた会ったときに先生が『そんな子供は知らない。それは飼っている犬の名前だ』と言ったのも確かだ。
 しかしその後もピッコロ君やマリリンちゃんはたまにやって来て僕と遊んだ。そして複雑な境遇のようなので僕が字や言葉を教えるようになった。ここまでが時系列で辿れた。
 その間も先生は学生さん達と会合していた所に現れたり、勝手に芝生でバーベキューをやったことさえあったっけ。
 それはいいのだが、そうだとするとヒョッコリ先生は二人いて片方のヒョッコリAは子供の面倒を見ており(見てないようだが)、もう一人のヒョッコリBは同じ名前の犬を飼っているとでもいうのか。
 いや、それとも大腸癌手術の後遺症、或いは睡眠導入剤の多用、飲酒による脳障害等で僕が犬と子供の識別ができなくなったのか。
『それじゃまたね。お前たち帰るよ』
 と先生はスタコラ帰って行った。
 植樹した枝垂桜『礼』を見上げて力なく呟くのみだった。
「オレの頭が狂ってアルツハルマゲドン状態になっても、お前だけは真実を見つめ続けてくれ。お前は今年からここに来たのだから過去はいいから、しっかりと後を頼むよ」
 そろそろ夜陰に紛れて上京しようか。

 そう思っていると、緊急事態宣言が全国に展開されてしまい県をまたいでの移動を自粛せよとのお達しが、ステイ・ホームだとか。この語感、何でも横文字にする某知事の趣味が前面にでて嫌いだが。東京に舞い戻るのも具合が悪いまま連休になってしまった。これは・・・。

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これは戦争だぁ Ⅱ

2020 APR 8 18:18:54 pm by 西 牟呂雄

 欧米型のリーダー、特に戦争遂行時の典型的な例で思い浮かべるのはエドワード・ザ・ブラック・プリンス、百年戦争のヨーロッパで連戦連勝しイングランドの優位を確保した。皇太子でありながら黒い甲冑に身を固め単騎敵陣に真っ先に切り込んでは大軍を圧倒した英雄だった。
 こういった貴族がイギリスのクラース(階級)のトップにいる。彼らは普段は何もしない。それ以下の階級とは通常通婚もしない。喋る英語さえも違う。これらは良く知られた話だ。
 しかし彼らの本務は防衛・戦争なのだ。ノブレス・オブリージュ、国家存亡の際には真っ先に先頭に立つことが義務と考えられている。従って普段ブラブラしていようが社交に現を抜かしていようが構わない。第一次世界大戦ではオックスフォード・ケンブリッジの貴族や王族の子弟に戦死者が多かった。彼らは志願した、上記エドワードの先例に倣ったといえる。
 翻って英国はこの度のコロナ・クライシスにあたり、当初は(良かったかどうかは知らないが)感染のピークを減らして多くの人が軽症を発症しても集団免疫を作ることを国民全体で共有する、といったものだった。ご案内の通りすぐ撤回されたが。
 すると皇太子が感染し、首相が重症になった。これは上記ジョンブル魂の発露として(再び良かったかどうかは知らないが)あっぱれではないか、上から順に倒れていく。
 なかなかやるもんだと思ったものの、あまり日本向きではないだろう。

 勿論我が国においてもこういったヒーローは歴史上いくらでもいて、人気もある。だが、どうであろう。後継者が続かないのだ。
 例えば日本には現在そういった意識を共有する階級が無い。武士階級は読書人として官僚化した姿において武士道という概念を練り上げたが、江戸期を通じて国家防衛の洗礼を受けていない。明治期の軍人に多少の面影があるといっても階級を形成できないうちに潰れた。

 総理大臣が緊急事態宣言を発表した。感染拡大の抑制のため要請と共に108兆円の経済対策をペアにしてあるところに、ギリギリ手続きを踏んだ跡がみえた。無論そう簡単に経済の回復などはありえない。苦しい年になるだろう。顔にも疲れが見て取れた。
 神戸で、3・11で、あれだけ冷静に行動し助け合った人々が平均的日本人だとすると、総理の訴えた言葉は届いたと思う。いきなり混乱に拍車をかけるより余程練られている。
 何しろ都知事がロック・ダウンを連発した途端にトイレット・ペーパーの買い占めやスーパーの行列ができるというミニ・パニックだ。加えて昨今の世相はマスコミの煽りと通信の発達により不平不満・炎上の無間地獄と化しているが如し。評論家は総じて朝令暮改状態。
  遅いの批判は覚悟の上だろう。

 話は変わるが私は例の大腸癌の経過観察でCT検査を受ける、あの慶應病院でだ。バカ研修医が宴会をやってクラスターを発生させた。
 週末には92才になったオヤジと会うことになっている。癌の経過も恐ろしいが、コロナを病院で拾うのも怖い。散々迷って延期しようと試みたが、この騒ぎで一斉に延期したらしく6カ月待ちにされてしまう、とのこと。その間に再発したらどうなる。
 といういきさつで意を決して本日突撃した。二重マスクに普段はしない眼鏡までかけて身を固め、決死の思いで行ってみると、『入院患者のお見舞いお断り』『マスクを付けない人の入館禁止』の張り紙とともに病院はガラガラ。不急の予約検診については病院側から変更予約の電話案内を昨日の段階でかけまくったらしい。さすがは慶応病院である。私に来なかったのはやはり急を要するのかもしれないと、緊張感を持って診療を受けた。 
 結果まで2週間。その旨を親しい仲間には伝えた。すると奴らはさすがに私の友人だけあって、返信は次の通り。
「御武運を祈ります」
「アーメン」
「靖国で待っていろ」
「よかったね」
 一人だけが『祈ってくれ』に「まかしとけ」と返信してくれた。

戦争だぁ!

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光輝く彼方

2020 MAR 5 7:07:19 am by 西 牟呂雄

 昨年の大腸癌除去手術の際に『せん妄』状態に陥ったことは既に書いた。無論その間の記憶はない。ただ写真を見たことを思い出すような、一場面のことは頭の片隅に残っている。
 それは、点滴を引き抜いて床に血が飛散った場面で、血の赤さが点々とする床を確かに見た。血痕の赤さがやけに鮮やかで、不思議なことにそれ以外の床やベッドが強く湧き上がるような明るさ、それも照明を浴びたような強い光りの中だった。あれはどういった幻覚作用なのだろう。
 実はこれも何度か書いているが、あわや一巻の終わりという事故・病気を以前やっているが、事故の際にも一瞬明るくなった(大晦日の夜中だった!)気がしているが後の刷り込みかも知れない。
 既に送った亡母の臨終の時に、幻覚を見ていたようで何かを喋っていたのを聞いたが、その表情は明るかった。
 思うに肉体が滅びる最後の最後は、苦痛を和らげるというか苦痛ではなくなるべく作用するメカニズムか物質が人間、いや動物には備わっているのではなかろうか。それがあまりに甘味なものであるため、臨死体験者・蘇生者が語る『あの世』の概念が作られたのかも知れない。
 夢の中にいたらしい『せん妄』期間中、約6時間程の私は少しは喋って、どこかに行こうと言う意思をもって動こうとし、もう少しで拘束されるところだったという。この間生きてはいたが記憶すらないので私としては眠っていたのと同じである。
 
  話は飛ぶが、多重人格というものがあるそうだ。「24人のビリー・ミリガン」という本で有名になった精神障害の一種とか。検索するとトラウマとか鬱病とか統合失調症とかいった恐ろしい病名が並んでいて、それらのストレスから逃れるために別の人格を作ってしまうとか。そして別の人格になっていた時の記憶は残らない、と。
 要するに『せん妄』とか『泥酔』になって何も覚えていないのは、多重人格と同じ(見た目の)状態のことになる。

 孟子の胡蝶の夢の境地ではないが、どちらが本当の自分か。恐ろしいことに、稀に『せん妄』の状態から戻らなくなって記憶喪失扱いされる患者もいるのだそうだ。それは優れて肉体は生きていても元の自分は死んだも同然である。その場合は今までの自分の魂は、雲散霧消してしまうのか。そうであれば、肉体は滅んでも精神がリレーされる方を誰でも選ぶだろう。生き物は必ず死ぬ。

 懐かしい亡き友よ、お前の精神はオレ達が引き継いでいるぞ。そしてもうすぐそっちに行く。きっとあの光りの輝きをくぐって。

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時を歩き続ける男 年始編

2020 JAN 1 5:05:29 am by 西 牟呂雄

 そろそろ松の内も過ぎようとしている。男は年末には北上をやめた。雪の山越えはいくらなんでも歩いては行けないので在来線を使って太平洋側に出て年を越した。
 相変わらず表情を頻繁に変えながらトボトボ歩いていたが、今日の宿を探さなければ。雪道を歩くので、移動距離がかせげない。雪が降っていると旅は一休みして居続けをすることになる。幹線道路で遭難でもしたらみっともないからだ。
 3.11の被災地を縫うように南下してきたが復興人員が大勢来ているのだろう。即席の民宿めいた宿が目に入ったのでそこに入ろうとした時、肩を叩かれた。
『おじさん、待ってたよ』
 振り返ると見たこともない妙齢の女性が立っていた。
『相変わらず旅ばかりしてるんだね。元気だった』
 思い出せない。
『えーっと、どこかでお目にかかってましたか』
『いやねえ、忘れちゃったの。以前雪に降りこめられてモーテルに一緒に泊まったじゃない。アハハ、でももう20年くらい前だから無理もないか』
 半月前にそういうことがあったが、その時の女性は学生風の若い人だったはずだ。まてよ、その子に面影が似ている。髪の長さもこんなロングだったし眼差しも、いや、そっくりじゃないか。
『もしかしてあなたは海岸で夕日を見ていて、その翌日にお蕎麦屋さんで向かい合わせに座って、一緒に歩いて雨宿りにモーテルで泊まった人かい。若い美人だった』
『あら、20年近く前のこと良く覚えてるわね。夕日やお蕎麦は覚えてないけどモーテルに泊まったのは確かよ』
『えっ、先月の話でしょ』
『いやねぇ、先月なんて。あたしはおばさんになったけど先月だったらそんなに急に老けるわけないじゃないの』
『・・・・、あの、・・・・』
『ねえ、ここに泊まろうとしてるのでしょ。さっきあたしがチェック・インしておいたわよ』
『それはー、マッ他を当たります』
『何言ってんのよ。おじさんが来るのが分かってたから相部屋で二人分のチェック・インしてるんじゃないの』
 男は唖然とした、と同時にそれは助かったとも思った。
 二人でその民宿っぽい宿に入った。部屋にはトイレもシャワーもない。六畳にちゃぶ台のような机、お茶のセットがある。
『あたしそこのコインランドリーに行くから待ってて。御飯食べに行こう』
 と言って女性は出て行った。
 あの女性は確かに先月会った人に違いないのだが、確かに年齢は当時は二十歳くらいにみえて、面影はそのままだが40歳代の風情である。
 暫くしたら洗濯物を持って帰って来たので、目の前の居酒屋に行った。
『カンパーイ!だけどあたしはオバサンになったけどおじさんは変わらないね』
 事情が良く飲み込めないので相槌の打ちようがない。
『前の時は「自分は余命幾許もない」みたいなこと言ってたけど手術とかしたの』
『そんなこと言わなかったよ。この通り体力は大して無いけど旅は続けられる』
『言ってたわよ。大腸癌だったって。心配したけど』
『チョット待てよ、・・・それは20年前の話だろ。僕達が会ったのは先月であなたは家出してたんじゃない、あの頃』
『実はね、あの旅は婚約を解消した後だったの。色々あってさ、挙式の直前に逃げておじさんに会ったんじゃない。それは20年前だってば。先月はあたしはアメリカにいたわよ。でも良かった。大腸癌は切って直ったんだね』
 男はさっぱり要領を得ないまま、ビールを焼酎に変えた。
 確かに20年ほど前に大腸癌の手術をしていた。その後暫く検査を続けたが、あほらしくなってほったらかしにした。その後さる事情により心境が大いに変わって仕事を辞めて今の旅暮らしに至った。しかし・・・。
 女は古くからの知り合いに語る様に話した。彼女の中ではそうなっていて、終いには男の方もそうだったかもしれない、と思い始めた。
『あの後あたしも結婚したのよ。娘を生んだんだけど、その頃から上手くいかなくなって結局離婚したの。そうしたらそれから運が開けたのね。しごとも始めて何とかやれるようになっていって、娘も10才になってるのよ』
 ごく自然に布団を並べて敷いて寝たらしいのだが、記憶が曖昧ながら目が覚めると、男はしっかりと二日酔いになっていた。モソモソと起き上ると隣の布団を見やったが、掛布団がくるまっている。しばらくするとその掛布団の塊がムクリと起き上った。
『バぁ~』
『わぁッ』
『おはよー』
『びっくりした。起きてたのか』
 10才くらいの少女だった。まだ子供だが、間違いなく昨日の女性の子供時代であることが瞬時にわかった。先月会ったあの若い女性の少女時代に違いない美少女だ。昨日からの流れ、更にこの一ト月あまりに起きた出会いを考えると、もう驚くにはあたらない。
『あのね、おじいさんはもう行かなきゃならないんだよ。お嬢ちゃん、そろそろおうちまで送って行こうか』
『やだぁ。きのう連れてってくれるって言ったもん』
 やれやれ、とにかく宿を出よう、と支払いをしようとしたところ「前金をお預かりしましたのでそのままお立ち下さい」といわれて男はあわてる。
 宿を出た時はもっと慌てる。きのうと景色がまるで違っているではないか。後ろから少女がついてきた。
『えーとさ、ここはどこだったっけ』
『ウソーッ、千本通り高辻下る、でしょー。やだオジイチャン』
『せんぼん・・・』
『きょうは桜を見に行こうって話したじゃん』
『さ、さくらぁ』
 ますます混乱しながら少し歩くと、丹波口という駅があった。なんとここは京都ではないか。
 男にはもはや時間の感覚が失われているようだ。
 地球の傾きがもたらす季節と自転が時間を感じさせる。人間は更に能力や体力の衰えや記憶することで時間の経過を經驗的に計ることはできる。
 だが、この男に関して言えば同一と思われる女性と何度も出会う事でかえって時間を感じられなくなってきたのだ。いつからこうして旅を続けているのか、いつまで続くのか。いや、この男は生きている人間なのだろうか。
 そして、年齢が変わってもいつも男の前に現れる女もまた、この世の人ではなかろう。

おしまい

時を歩き続ける男 年末編

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時を歩き続ける男 年末編

2019 DEC 31 21:21:15 pm by 西 牟呂雄

 男が歩いている。胸を張って顔はやや俯き気味にゆっくりと。低い冬の日差しの中、冷たい風に向かって一歩づつ歩いている。手はポケットに入れていて時おり目の前にかざしたり顎をなぜたりして落ち着きは無い。
 ただ、表情は目まぐるしく変わっていた。
 かすかに微笑んだりニタリとするが、どういう訳か突然涙ぐんだりひどく目を怒らせたりする。笑っているときは子供のように嬉しそうだが、悲しみに沈んだ暗い表情では絶望の中を歩いているようにも見えた。
 男は街道沿いの車の往来の多い道を歩き続け、いつしか川の土手を登った。人の往来があるのですれ違ったり追い抜かれたりしていたが、勿論知り合いのはずはない。男は目指しているところも無いらしく、まるで歩く以外には目的はない、歩くためにのみ存在しているかのようだ。そしてその間中、非常な頻度で表情が変わるのだった。
 つまり男は歩き続けるのだが、周りの状況や景色とは関係なく頭の中で色々な思いを巡らしている。それはおそらくこれからのことではなく、絶え間なく過去の何かを思い出しては笑ったり泣いたりしているに違いない。男には歩き続ける以外には未来はないと思われる。
 男にとって時間は歩くための目盛りで、それは歩き終わる時に向かう道標にすぎないだろう。周りの景色・空間はさらに現在の男には用がない。それが美しかろうが、ゴミの山であろうが。

 男は北上している。時々視界に入る海は日本海のようだ。服装はカナディアン・グース、ヨッパーにジーンズ、スニーカー、リュックサックのようなものを背負っている。年齢は60~70才くらいのオジイチャンだろう。両手には何も持たず、いやよく見れば空き缶を持っていて、時々立ち止まっては煙草を吸い、吸い殻をそこに入れている。
 どうやら幹線道路しか歩かず、横道にそれたり名所旧跡を訪ねることもしない。日が暮れる前に街中に適当な宿を見つけ泊まる。多くはビジネスホテルの看板を出しているところだ。
 チェックインすると、まず下着を着けたままシャワーを浴び、ボディ・シャンプーやら石鹸を全身に塗りたくる。そして流したあとに下着をタオルで絞ってハンガーに掛ける。翌朝までには乾くようだ。何組かの着替えは持ち歩いているようだった。そして近くのコンビニで簡単なカップ麺やおにぎりを買って夕食にしている。たまにビールを買うこともある。
 その日はどうやら城下町だったような所のシケたホテルに泊まることにして、珍しく公共交通(バス)に乗って海岸まで出た。雪が少し降ったらしく、街を外れると積もっていると思われた。
 ところで、観光地にあるような旅館では、男の怪しさに「予約はないと泊まれません」と断られる。街中のビジネスホテルを見かけると、スマホで予約を入れ、更に前払いでもしなければ宿泊できない。
 男は広い海岸に立った。

 砂浜の向こうに夕日が落ちていく。あまりの見事さに少し立ち止まり煙草に火を付けた。無論、簡易灰皿は携行している。冬の海が少し荒れていて真っ黒にみえる。水平線上には薄い雲がかかっており、夕日が沈んでしまうのはもうすぐだ。
 左に夕日を感じながら、時々雪が盛り上がっているような砂丘を右に見ながら歩くと、波の音は厳しく聞こえた。
 少し離れたところに一人、ポツンとした感じで敷物に腰を下ろし膝をかかえるようにしている髪の長い女性が座っていた。その女性はいかにも学生風の軽装で、ジーッと夕日だけを凝視していた。照らされた表情はよくわからない。色の白い人だった。
 男はそのまま歩き、とうとう夕日が雲の中に埋没してしまうと戻り始めた。
 先ほどの女性はもう姿を消していた。帰りはバスを使わず、1時間以上かけて歩いてホテルに戻った。思ったほどの積雪はなかったのだ。

 チェックアウトした時に、昨日の女性を見かけた。どうやら本格的なバック・パッカーのいでたちで、今日はとっくりのセーターにマフラー。チラッとこちらを見た後、一人でホテルを出て行った。男は後姿を見送ると、いつものように殺風景で車の行き交う幹線道路を歩きはじめる。男の表情が豊になってくる。嬉しそうに微笑んだり淋しそうになったり。
 午後になって港町に入った。そこそこの市街地で、この街に泊まろうと思うのかあたりを物色していと、蕎麦屋のチェーン店に目が止まり入る。けっこう混んでいて、食券で狐蕎麦を買いテーブルでの相席になった。座ってみると向かいの席は髪の長い女性で、軽く会釈された。男は良く分からないまま目礼して、直ぐに出された狐蕎麦を食べて席を立つ。こんな田舎でも店内は禁煙で、例の簡易灰皿で一服したかったからだ。
 それからおもむろにまた歩き出した。どうやら手ごろなホテルが無いようなのだ。1時間ほどすると道路は小高い丘を越えて行く。トンネルが見えてきた。男は疲れて腰を下ろしてしまった。しばらくすると若い女性がやはり歩いて来るではないか。女性は男に気が付くと『アッ』と声を上げた。
「オジサン。きのう海岸を歩いていたでしょう」
 男が見上げると、さっき蕎麦屋で向かいに座っていた人で、ということはきのう海岸で膝をかかえていた女性で今朝ホテルで見送った人物ということだ。
「や・・・こんにちわ。それじゃあなたきのう海岸で座っていた?」
「うん。そうだね。さっきのお蕎麦屋さんで向かい合わせだったじゃない」
「そうでした。・・・、ボクはオジサンじゃなくてオジイサンだけど」
「あはは、ずっと歩いてるんですか」
「はい」
「どこまで行くの」
「いや、決めてないんですよ」
「へー、それじゃあたしと同じか。ここからどうするの」
「まあね、道に迷うと分からなくなるから表示のある国道だけを歩きます。本当はこの街で宿を探そうとおもったんですがね」
「じゃもう少し一緒に行きましょ」
 二人連れで歩き始めた。女の荷物の方が大きいのだが、何しろ男は初老で歩みは遅い。丁度いいステップでノロノロと歩いていた。
 町外れになると田舎の街道筋を歩く者などは滅多にいない。寄せられた雪が残っている。
「おじさんは何で旅をしてるの」
「旅しかできないからですよ」
「うふ、その旅はいつ終わるのかしら。あたしは家出してるんだ。」
 男はそれには答えなかった。すると女は尋ねられた訳でもないのに身の上を話し出した。
 子供の頃から孤独だったこと、周りから見えている自分と自分が思っている現実とがいつも違うこと、よくモテたらしいが交際にはオクテだったこと、自分はカラッポな人間だと思っていることなど、合いの手を入れる間もないほど話した。かといって喋り捲るわけではなく、男が何も喋らないからポツポツと話し続けたようだった。よくみると大変に美しい顔立ちだ。
 そうこうしているうちに夕日が傾いてきてしまった。
「オジサン、もう直ぐ暗くなるよ」
「うん。早く次の町に行かないと寒いよ」
「チョット待って」
 女はスマホを取り出して地図を検索した。男も同じようにやっている。
「オジサン!どうやら泊まれるような町まで山道が続くよ」
「まずいな、弱ったってしょうがない。だけど何だか雪も降りそうだ。もう少し行こう」
 夕日を追いかけるような雲が頭上に広がっていた。低気圧が迫っているのだろう。肌寒いが、充分に湿気が感じられた。
 30分程歩き続けると、少し開けた景色になると道路沿いにホテルの看板。空室のサインが出ているいわゆるモーテルだ。まずいことにチラホラ雪が舞ってきた。二人は弱った顔で目が合った。
「オジサン。休もうよ。ああいうとこ一人じゃ行けないんでしょ」
「さあ、『休息5000円 宿泊7000円』ってばかに安いね」
 するとサーッと風が吹いてきたので、二人で走ってジタバタとチェック・インした。部屋の中はどでかいベットがあるだけ。そしてそこからガラス越しにみえる大きな浴槽が見えた。みすぼらしいモーテルだった。
 男は『チョット失礼』と言って濡れた服をハンガーに掛けるといつものように下着になって浴槽に行き、熱いシャワーを浴びながらボディシャンプを塗りたくって全身を洗った。女の方は少し驚いたようだった。下着を乾いたバスタオルで絞りながら着替えると『こうして干しておくとすぐ乾くんだ』と言う。女は笑いながら答える。
「あたしは町についたらコインランドリーを使うんだけどね。ねえ、ビールでも飲む」
 コイン式の冷蔵庫にはぎっしりとビールが冷えており、カップ麺などもある。女はコップも二つ出して並べる。
「はい。かんぱーい」
 男にとっては久しぶりのビールだ、旨かった、あっという間に飲み干して注いだ。すると女も一気飲みしている。
「ねえ、今度はおじさんの話もしてよ」
「おれ?何もないよ。不思議なんだがキミはこうして名前もわからない僕みたいなのとここで雨宿りして平気なのか」
「成り行きだよ。それでおじさんは何で歩いてるのさ」
「うーん、そりゃ色々あるわ。エイズになったから、なんて言ったらどうする」
「あーはっは、エイズなの?」
「ふふ、いい度胸だね」
「で、どうして旅を続けてるの」
「生き続けるためだよ。止まってしまうと生きているのか死んでいるのか、死んだことはないからよく分からんけど。一方でこの先に希望だの夢だのが見つかることはないし、この年だから。要するに逃げ出したんだ。これでも家族もいた、というか今もいるんだけど、連絡はとってない。向こうが探してるかどうか知らないが、多分諦めてるんじゃないかな。残りの金を持って行く、って置手紙は残したからね。ある日、あと何日歩いたりして生きていられるか勘定してみて一日幾ら使えるか割ってみたのさ。時間が区切られているのはどの生き物も同じだけど、人間は唯一死ぬことが意識できるようになっちゃったから」
「それって後どのくらいなの」
「分かるわけないじゃないか。ざっと10年のつもりだったけど。ひどいこと聞くな」
「ごめーん、でも冗談でしょ」
「お嬢ちゃんにゃかなわんな。マッいいや。とにかく時間が限られていることを自覚してないと、バカみたいにのんびりテレビ見て残りの時間が失われてしまうってことになりかねない」
「うん、うん」
「つまり時間が流れていることが分からなくなった時点で人間としての『本人』は失われる。そうなるとどうしても人の世話になるんだけど、圧倒的な善意にすがるというのも結構エネルギーが必要で、その力が枯渇すると無遠慮な態度になっちゃう。図々しく、当たり前だと思うようになるね。それがいやなんだ。もっともその段階では自分でも自分が制御できないくらいイッちゃってるかもしれないし」
「アッ、話途中だけどあたしシャワー浴びてくるから」
 と立ち上がるとバスの前にトコトコいって服を脱ぎだした。
 男は唖然とするもののどうすることもできなくて、ポカンをその姿を見ていた。真っ白な裸身が目に入るのだが、こういう場合どうすればいいのか考えあぐねているとガラス越しにバシャバシャとシャワーを浴びているのが見えた。そういえばさっきオレも似たようなことをしたんだっけ、ともう一本ビールを開けた。

 翌日、男は大きなベッドで目を覚ました。部屋に一人だけである。エアコンの前のハンガーに干した下着、自分のリュック、タバコ、空いたビール瓶。昨日の女は影も形も無い。あれは・・・。外は晴れていた。
 机の上に置き手紙。
 『おじさんの話おもしろかったよ。良く寝てたから先に行くね。その調子だったらまた会えるかもしれない。お金をワリカン分置いていくからまたね』

 つづく

時を歩き続ける男 年始編

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ガンマ線バーストだって

2019 DEC 25 7:07:35 am by 西 牟呂雄

 約45億年前に太陽の百倍の質量を持つ星が重力崩壊し、ブラックホールが生成される際に放出されたという。 

1兆電子ボルト

 何とダイナミックと言うか破壊的と言うか、私程度の頭脳が理解する範囲を遥かに超えた時間とエネルギーのメカニズムだろう、ため息も出ない。
 この想像図の、エネルギーを放出した輝きの後には光りも時間も閉じ込めた暗黒のブラックホールが出現するはずだ。
 ガンマ線バースト自体は20秒程度の現象らしいが、45億年後に観測されたことにもワクワク感満載。確かガンマー線はX線より波長の短い放射線と呼ばれる電磁波だ。これを私も浴びていたのだろうか。

 話は変わるが、先日癌の切除手術を受けたが、本番の前に「PET」という検査をされた。要するに癌の周りに集りやすいモノを人工的に体内に入れ、癌のある部位、転移状況を確認する検査である。そのためそのモノを測定しやすくするためにその物質に外殻電子数の同じ放射性同位体を入れて測定する。勿論、人体に影響のない微量な放射能であるが、暫くは(30分くらい)排泄物から放射能が出るのだと言う。
 多少気味が悪く、終わった後には疲れた気がしたものだった。

 そして冒頭のガンマ線バーストは45億光年も離れた所で起きたからどうってことないとしても、そもそも宇宙ができてから138億年ではなかったか。すると宇宙年表で言えば1/3あたりでもうバーストしたわけで、ブラックホールはそれ以外に多く観測されているから宇宙誕生の直後からジャンジャン起きたことになる。そうなると最早時間の概念そのものがなくなる、ちょっと難しいかな。
 加えて最近の観測技術は進化し、宇宙誕生の際の銀河の中心部には炭素のガスの雲が発生していたことがわかったり、ブラック・ホールの周辺に惑星が存在するという仮説が出された。
 それどころか、その他の特異分子雲の発見・監察により電波天体としてにんしきされる超巨大ブラック・ホールは代用の400万倍の質量と推測される見当もつかない暗黒だとか。

 いずれにせよ生き物や星は時間と共に変化するが、宇宙の方はそんなもの知ったこっちゃない。
 と・言うことは・・・・アインシュタイン先生!教えて下さーい。

中性子星合体だって

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追憶のメキシカン・プロレス ルチャ・リブレ

2019 SEP 17 6:06:16 am by 西 牟呂雄

 直近のアルツハルマゲドン研究(私のです、あくまで)によると、耄碌が進んだ年寄りが同じ話ばかりして嫌われるのは、記憶の連続性が途切れてしまい、プロセスが飛ばされても差し支えない独立した部分だけが残ってしまうからだ。
 そしてその独立した記憶までもが消滅すると、これはもう桃源郷に遊ぶ心地。それはそれで愉快かもしれないが、端から見ればあまり楽しそうじゃない。
 画像保存機能が発達した現在では、結構なことに記憶からこぼれ落ちそうな場面も検索することができる。
 しかし、それさえも残らないマイナーな思い出、これを残すのにブログというのは実に有難いものではなかろうか。
 大好きなプロレスについて、上記の事実はそっくりそのまま当てはまる。
 誰の記憶にも残らないセミ・ファイナルや中継のない試合。ひょっとしたら僕しか覚えていない光景があるのではないか。往々にして記憶はすり替わる。

 試しに自分で欠けそうな記憶を辿ってみると、やはり途切れてしまった。
 場所は後楽園ホール。怒涛のコールが鳴り響く。
『ケンドー、(チャッチャッチャ)ケンドー、(チャッチャッチャ)』
 あのニッポン・チャッチャッチャのノリだ。
 ここで困った。ケンドーというレスラーは日本人ペイント・レスラーであるケンドー・ナガサキ、同じく日本人マスクマンのケンドー・カシン、メキシカン・マスカラでその名もケンドー、と3人いるが誰だったっけ。マスクマンのルチャだったようなので多分ケンドーだったかな。ここまで書いてどの団体の試合だったかも思い出せないことに愕然とした。全日本や新日本じゃない。ヒマに任せて通りがかった試合を見たようだ。僕はケンドーを初めて見で、それが最後だった。コメディアンのケンドー・コバヤシは関係ない。
 そのケンドーは上半身を反らし下半身でリズムを刻みながら、チャッチャッチャのところで広げた両手の手首を上の方にクッ、クッ、ク、と上げる。いわゆるルチャのノリで観客は大喜び(僕も)、益々コールは大きくなる。
 相手はメキシカンのルード(悪役)で覆面はしていなかった。入場してリングに上がるも、あまりのケンドー・コールに耳を塞いで見せたり顔をしかめたり。終いには頭に来てリングを降りて控え室に帰る素振りを始める。
 すると、通いつめているらしい練達のファン達は逆にルードのコールを始める。この阿吽の呼吸は実にプロレス的でツウならではの面白さがあった。エーット、確か『プラタ・チャッチャッチャ』だったかな。
 それを聞いたヒールは嬉しそうに再びリングに戻り、観客と一緒にチャッチャッチャをやってはしゃぐ。
 今度はケンドーが両手を広げてポルケ(ホワイ)の表情。手を耳にかざして客をあおると、心得たもので再び『ケンドー、(チャッチャッチャ)』が始まる。
 いつ果てるとも知れないパフォーマンスに客は(僕は)酔い痴れるのだった。

 勿論、試合の結果なんか記憶にない、遠い彼方の光景なのだ。
 読者の諸兄諸姉、この試合を覚えている方は御一報下さい。いるわけないか。

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宿酔(ふつかよい)

2019 JUN 27 20:20:00 pm by 西 牟呂雄

 ああ、オレひどい二日酔いなんだ。吐き気がして喉が渇く。頭はチャポチャポしてるし少し痛い。いや、ズキズキではないけど。
 ちょっと手伝ってくれ。ここ、この耳の後ろの所に傷みたいなのがあるだろ。見てくれ。そうそう、その縫い目みたいなところ。はがれそうなんだけど上手く掴めないんだよ、引っ張ってみてくれない。夕べ転んで打ったみたいなんだ。朝起きたら枕が真っ黒に濡れてて何かと思ったら出血してたんだな、これが。
 うー、気持ち悪い。
 イテテテ。もっとゆっくり、そうそう。何だ、ぺろんとはがれてくるじゃないか。
 ホント?頭の皮が剥けて来るのか。アッ、もういいよ、その辺で。何だかさっぱりする。
 剥けてるってかつら取った感じ?
 真っ赤?ええっと。痛て、確かに沁みるな。皮膚がむき出しなの?血管が浮き出てる?何だよ気味が悪いな。酒臭い!それはそうだろう。二日酔いの元のアセトアルデヒドがそのあたりにたんまり固まっているはずだからな。
 おい、なんだか痒くなってきたぞ。ちょっと待って、そーっとそーっと。何だかピクピクしてるけど。あー痒い。
 うわっ、おいおい今指が入ったぞ。オレの頭、何だか風船みたいにプヨプヨしてる。変だよ、頭蓋骨ないのか。やってごらん。バカ、そんなに押すな。
 おっとっと、待て。何だか涙が出てきたぞ。ヒックヒック。痛くも悲しくもないのに。ハンカチを・・・。ナンだこれ!おい、みてくれ。これ涙じゃなくて膿みじゃないか、緑色してる。目から膿が出ちゃったよ。お前が頭に指突っ込んだから目から膿が出たんだろ?あっまた、もうやめろ。
 ナンなんだよこれは。相変わらず喉が渇く、ゴクゴクゴク。
 ちょっとすっきりしたような気分だ。そういえば痒みも頭痛も治まった。吐き気は相変わらずだけど。
 もういいや、そのさっき剥がした頭皮をもとに戻してくれよ。
 えっ、透き通ってきた?脳味噌見えてんのか?やだな。何!何も見えない?そんなバカな。オレに脳がないはずはないだろう。良く見ろ。ホントか、さっきの膿みたいな色だと。あっまた涙が・・。もしかするとその汚れた膿が頭の中から染み出してるんじゃないか。冗談じゃないぞ。
 ゴクゴクゴク。うーおいしい。えっ、また少し透き通った?水飲むと薄まるのか。いや、バカ言っちゃいけないよ。オレの胃が頭にあるみたいじゃないか。あっ涙が・・・、ウワーまたあんな目ヤニが。ちょっと目を洗わせてくれ。
 ナンだって!頭の中の色がどんどん薄まってくる?もっと洗ってみよう。
 おいおい、少し良くなってきてる。コーヒーが飲みたいな。グビッ。
 はァ?今度は黒くなった?そんなバカな、それじゃ脳はどこに行ったんだ・・・・。

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ヒジョーに不思議な夢 ボケ進行中

2019 JUN 16 16:16:27 pm by 西 牟呂雄

 起き上がって歩こうとしたら何かを蹴飛ばして、それはドライヤーだった。そしてそれが突然作動して物凄い音を立てる。ドローンのようなプロペラが付いているやつで、僕はうるさくて敵わないと叩きつけて壊そうとした。
 ところが、何故かそこで目が覚める。ああ、あれは夢なんだなと分かったもののその不快な音はまだ聞こえているのだ。夢だと分かっていつつも音が聞こえているのは優れて幻聴なのではないかと冷静に疑った。
 そしてもう一度音に悩まされながらも寝入ると、今度はそのドライヤーを折りたたみ始め、まてよ、これは夢の続きだろう、とそのドライヤーの風口に手をかざした。すると手には温風を感じるではないか。これは夢ではないのか、と夢の中で思った。
 すると又、目が覚めて今度はタバコを吸いにベッドから起きた。その時点でドライヤーの音は聞こえなくなりホッとした。時計を見ると朝の五時だ。
 もう一眠りしようと横になると『あっ、ナントカだナントカ』と人の名前を言っているのが聞こえて、奇怪にも『これは夢なんだな』と冷静に判断できる。そのナントカカントカさんは逆光のようにシルエットなのだが、僕の寝込みを確かめるように擦る。頬の所に手の感覚があった。そこで、夢であるかどうか確かめようと手先を動かしてみると、肌触りを感じた。ひょっとしてこれがオバケというものかな等と考え、何故か菊池寛が満州に講演に行って旅館で幽霊に会ったという文章を(確か小林秀雄が書いていたはずだ)思い出しているうちに再び目が覚める。ベッタリと汗をかいていた。
 恐怖感は全然無く、その続きはどうなるのかと再度眠る。
 いきなり先ほどの部屋(ドライヤーを壊そうとした部屋)にいて、ボランティアの仲間の(なぜボランティアとわかったのか不明)オニーチャン4人と世間話をしているではないか。
 そのうちの一人の若者はロンゲでパーマをガリガリかけているのだが、某大学の剣道部出身だという。そこで僕の知り合いの名前を出すと、その先輩ならば知っています、と答えた。

 以上の夢を少し前に見て今も鮮明に記憶に残っているのでブログに書いてみたが、この「あっつ、これは夢だな」と自覚があるような感覚で夢を見るというのは一体どういうものだろう。ユングやフロイトの研究者だったら分析してくれるだろうか。いや、これでは精神異常者と判断されるのがオチか。
 そしてそれよりも恐ろしい考えが浮かんでおびえた。
 これはボケの前兆で、四六時中そういう状態にあることをモーロクというのかもしれない。
 そういえばこの間、ゴルフ場で練習ボール用のコインを買った途端にそのコインが消え、スタートしたらキャディさんが『練習場に忘れてましたよ』とアイアンを持ってきてくれた。恐い。

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あれ?

2018 DEC 21 8:08:50 am by 西 牟呂雄

 自分自身の意識というものがコントロールできない人はバカとか呼ばれている。
 しかし予てから疑問に思うのだが一般的な経済学での普通の人の定義は『こうすれば損だから』と普通でない行動を片っ端から削り取って完全無欠な人間を想定してしまう。でもそれっておよそ『普通』の人間ではない。
 経済予想がしばしば狂うのはその普通な行動をモデルに乗せるからではないのかな。冒頭のようなバカは大方の予想を裏切って、しばしば思いも寄らないうねりを作っているのではないか(だが、しばしば大穴を当てて大儲けする例外あり)。そこで得意のゲーム理論の逆を張った消去法でコントロールの効かない行動を以下四つに分類して遊んでみた。
➀ 合理的な行動が分からない
➁ 合理的な行動を取りたくても取れない
➂ 合理的な行動を取りたくない
➃ 何をするか見当もつかない
 ➀の人は気の毒と言えばそうで、周りが十分行動した後から遅れて参加しようとするが既に遅くなり結果としてヘマなことになりがちだ。この総数は意外と多く、偏差を計算する簡易手法で大体1/5近くいるものと推定される。これは選挙の投票結果を見てもしばしば誤ったことが起きるので分かる。自分ではインテリだと思っている人は多い。
 ➁は結構深刻な境遇かも知れないが、一頃言われた引きこもりもここに入る。知的トレーニングを嫌う。
 ➂は宗教人や『主義者』といわれるイデオロギスト、革命家のような人達。柔軟性はない。政治的には野党の立場に常に立ちたがる。下手すると独裁者になる。
 ➃は不規弾(一斉射撃や機関銃の連射の際にとんでもない方に飛んでしまう弾丸のこと)ともいうべき正に『普通』の反対を行く人。稀に天才が出る。の四種類だった。
 そしてどうやら『普通』にやることと普通にやろうとして➃になってしまうのは全く同じ意識の元で起こっているようにも考えられる。だから等しくある確率で➃になってしまうのは単なる思いつきも含め仕方がないことなのだ。
 それにしてもこの仮説に立脚して過去を振り返るのは辛いモノもある。先ほど『ある確立で』と前提めいたことを言ったが、僕自身思い出して見ると、意外と重大なことをあたかもサイコロを振るように決めた。
 意識は脳内の化学反応なのだから僕の脳に限って反対の反応が進むはずもないが、普通のことを選択していないのはなぜか。

 ところで人工知能は、車の自動運転どころか論文の評価まで、更には新聞記事にまで恐ろしく早く進化している。
 新聞記事は前から思っていたが、ある方面の記事には『市民運動家は怒りをぶちまけていた』政治面では『総理の見解をバッサリ』と同じような言い回しが気にはなっていた。昨今話題のA新聞などの解説は『~というのは当然である。しかし~』とやってはある種のバイアスがかかった落しどころに持って行き、ヘッド・ラインだけ見ればどういう記事か大体予想がつく(何年も読んでいないが)。S新聞も立場は違えど同様。こんなのは人工知能に『現象』だけ打ち込めばすぐできるような代物に思える。
 或いは裁判の判決と量刑だ。これなんか人工知能に法律条文と過去の判例を記憶させ証拠立件条件をアルゴリズム化すれば、あの膨大な時間が限りなくゼロに近くなる、かな。検事と弁護士が打ち込むだけ、裁判官もいらない、かな(法曹関係の方ゴメンナサイ。皆さんのことは尊敬してます)。
 そこで話が戻って、冒頭の『自分自身の意識というものがコントロールできない人』や決断力の無い人は全て人工知能に判断してもらうのは近い将来お奨めかも。
 行こうか行くまいか、食べようか止めようか、どうでもいいことをウジウジ悩むような人は人工知能の仰せのままにやればかなり合理的に行動できるだろう。
 白状すると、結果として望まないにも拘らず➃になってしまう僕なんかは大いに人工知能に期待したい。
 それに正直に言えばそう遠くない将来にアルツハルマゲドン状態になったときなど、恐らく考えることができなくなるであろうから端末でピッピッとやれば・・・・。いや自分ではなにもできないから初めから人工知能にお願いしてそのおっしゃる通りにやっていれば(やられていれば)見事天寿を全うできるのか。その時に拒否できる判断力と気力が残っていれば断固拒否がけれど。

 例によって隠遁場所である山荘にいた時に、普通の合理的な行動様式で暮らしてみた、実験してみたのだ。何だできるじゃないか。心静かに農業計画について思いめぐらせた。合理的精神を全うするために人と会うことを避けた。どうってことない。タバコも減らせた。極端なことも考えないようにすると退屈した。だが損になることはしないように合理的に行動する。酒も飲まなかった。
 しかし帰京すると異変が起きた。いちいち書かないがポイントは”忘れ物”が主たる原因で、心霊現象が起きたようにメチャクチャなことになり、予測不能のアクシデントやポカが次々と襲い掛かってくるのが3日続いた。自分が望まないにも関わらず、上記分類➃の結果になってしまった。 

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