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202X年の怪 Ⅱ(戒厳令ではない!)

2014 SEP 23 15:15:30 pm by 西 牟呂雄

 二日目
 朝6時、NHKは政府特別放送を発表するとテロップを流した。
 今回は小渕官房長官だった。石原本部長が脇に控える。何故か佐々淳之東京都知事の姿もあった。
『総理は官邸危機管理室に詰めておられます。私の方からはまず、金融・株式市場の閉鎖は明日一杯で、本日も決済は行われません。もう一つは本日衆参両議院の本会議を召集します。若干の不備があるやもしれませんが、午前11時から衆議院、午後3時から参議院の本会議です。討議はもちろん公開されます。くれぐれも本日中は国民の皆様の安全を確保するための緊急処置としてご理解下さい。冷静な行動をもって待機して下さい。具体的には石原本部長より発表します。』
 石原慎太郎がゆっくり登壇した。
『えー、これは戒厳令ではありませんよ。』
と笑いを取ろうと笑って見せたが、これは完全にスベった。
『只今から3時間後に全ての民間機の航空機の離発着を禁止します。続いて船舶についても入港出港を禁止。海上保安庁の全艦艇をもって臨検を実施します。アメリカ第七艦隊は海上自衛隊護衛艦隊と有機的に連絡を取りつつ、既に索敵を含めた作戦行動に移っており出動を完了しています。この一連の作戦は他国への領海侵犯及び侵攻を目的としておらず、集団的自衛権の憲法解釈範囲内であります。尚、不測の事態に備えるため特殊車両の市街地通行を許可すべく、道交法の改定を強く進言します。付け加えると昨日以来多数目撃されている、国籍不明の小隊は現在の所在が確認されていない。それこそ目的も何もわからない正体不明の部隊で、治安対策をどうするかここにいる佐々淳之都知事の意見を参考に各道府県知事と連絡体制を構築中。佐々知事、詳細をお願いします。』
車椅子の都知事、佐々淳之がマイクを握った。
『石原本部長の仰る通り、これは戒厳令ではありません。報道も規制されておりません。取材は自由でありますが、各人の安全を最優先すべきことをご理解の上で取材をお願いします。市民生活の安全が確保できるまでは気を付けていただきたい。ご覧ください。』
特別に据え付けられたスクリーンに各地から寄せられたメール等SNSの画像が映された。
『初めの画像は典型的な迷彩服に目出し帽の集団であります。小火器を携行していますね。こちらはGパンの集団ですが、ここを見て下さい、拳銃携行している可能性が高い。又、こちらは背中に背負っている荷物は野営の準備でしょう。目撃されたのは東北から日本海側の各県、北海道、太平洋側は茨木・千葉・静岡・紀伊半島・高知・宮崎・沖縄島嶼部。その後の行方は不明。最悪の想定はこれ等の集団がテロ行為を行う可能性があります。連合赤軍以来の国内での銃撃戦になり得るということです。従ってこれを排除、場合によっては制圧するため、各県警及び警視庁は総力を挙げていわゆる”山狩り”を行います。よろしいですか、警察による治安維持活動です。間違えないように。その間対象からの攻撃への備え、或いは都市部における通常治安維持に齟齬をきたさないよう、陸上自衛隊各県の普通科・施設科連隊を配置し総予備として当たります。その際市街地では軽武装。更に北海道等広範囲にわたる場合は特車連隊の展開が不可欠なので、先ほど石原本部長の言われた『道路交通方』の改定を待って速やかに出動させます。繰り返しますが警察警備行動の範囲内で、個別自衛権並びに集団的自衛権の憲法解釈を逸脱してはおりません。ところで官房長官以下国会の準備もありますので、会見は打ち切り、我々も移動し指揮を取ります。失礼。』
 11時、開催に合わせて議員達が国会議事堂にアタフタとやって来たが、一様に驚きの表情となる。議事堂が昨日はいなかった自衛隊員に護られているのだ。警官の姿も混じっているが遥かに少ない。迷彩服に身を固めた2千人ほど、習志野の精鋭空挺師団が堂々大型のバートルから落下傘降下して来たのだった。水も漏らさぬ布陣に普段はふんぞり返って議場入りする議員達もオドオドしながら入場した。前日、極秘に国会対策委員長会議が行われ、自民党高市早苗委員長から「この事態に国会として対処せざるを得ない。各委員会を開催している余裕はない。」の意見に押し切られ、各国会議員に非常呼集がかかったのだ。ただ、国会対策委員のいない共産党は欠席した。
『ギチョーーーー。本日は、最近のわが国領土への実態のある攻撃及び潜入部隊に対処すべく、状況報告並びに関連法案の審議を、ネガイマーーーース。』
独特の開会の掛け声と共に衆議院議長の指名を受けて野田聖子総理大臣が演説した。趣旨は状況説明以外に目新しいことは無い。最後には、
『何がしかの組織が我が国の安全を脅かしていることは明らかです。実は今まで報道されておりませんが、政府機関、防衛機関、金融機関等、国家の中枢への膨大なサイバー攻撃がなされております。我が内閣は各種関係先と歩調を合わせ、断固としてこれを阻止し、国民を守り抜きます。尚、これらに対する無慈悲な報復を持って対処することは考えておりません。』
と締め括った。準備も何もできていない野党陣営に質問で切り込めるはずもなく、騒然としたまま終わってしまった。もっとも情報の無さは与党も同じで、そもそも『道交法』が採決されたことに殆どの議員が気が付かなかったのだ。続いた参議院本会議は更に盛り上がりに欠けた。
 
 午後3時に、航空自衛隊浜松基地から早期配備されたF-35が次々にスクランブル発進を始めた。この時点の配備は未だ20機だが、3機編隊で轟音とともに離陸する。又、北海道の陸上自衛隊上富良野駐屯地から第2師団戦車連隊が小樽と根室に、静岡駒門駐屯地から第1師団戦車大隊が東京へとキャタピラ音と伴に出動を開始した。道交法改正の狙いはこれだったのである。これらの動きは専らテレビのニュースではなく、ネットへの画像アップにて国民の知るところとなる。又東京に限って言えば、2020年のオリンピックの為に整備された東京の都心インフラ整備によって、全ての高速道路は人知れずヒトマル戦車の通行が可能になっていたことは誰も知らなかった。改正道交法により駒門の戦車大隊はまっすぐに皇居に向かい堀端に配置された。照明に浮かび上がる戦車はさすがに不気味で、近寄る野次馬も出なかった。
 NHKの放送は中継以外に特に流すものが無くなったため、撮り貯めした番組は流せたがライヴ映像はない。泊まりこんだアナウンサー以外は局に来ることも出来ず、警戒に当たっている自衛隊員やヒトマル戦車、時々上空を行く自衛隊機を映す程度だ。駆り出される放送記者や評論家もステレオタイプの「軍国主義復活批判」のコメントは出せない、何しろ攻撃は起きてしまったのだから。夜中12時に石原本部長からブラック・アウトは解除の発表があり、各局も番組は流せたがタレントが集まらないためにバラエティ系の半組は全滅状態、ヘラヘラしている場合ではなくなってしまった。。

つづく

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202X年の怪 (日本侵略される!)

202X年の怪 Ⅲ(何かおかしい!)

202X年の怪 Ⅳ(クーデター!)

202X年の怪 (エピローグ)

Categories:202X年の怪

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