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オリンピックへの道 あと1年(2015年からの憂鬱 急章)

2013 OCT 17 12:12:55 pm by 西牟呂 憲

2019年、世界の各ブロック経済が拮抗する故の気だるい平和の中、来年こそは東京でオリンピック、のかけ声とともに年が明けた。前回衆参同時選挙でも大勝していた最強安倍内閣も磐石かと思われていた。ところがそれは直ぐに吹っ飛んだ。

報道管制が強化され、内部の情報が断片的にしか伝わらなかった中国で内乱が起こっていたことが明らかになり、ついに分裂したのである。この3-4年に及ぶ経済混乱に統制に関わるコストを負担しきれなくなったのが直接の原因だった。古来より周辺国との関係において、朝貢体制による柵封というのがスタンダードで、革命前には国防関連費用がGDPに対し今日では考えられなかった程低かったのが中華というものであった。しかし共産中国は膨張しその負担が高くなりすぎたのである。元々北京とは仲の悪かった上海が香港と結託し、長江を境に独立の動きを見せたのが1月。スローガンにかの「プロレタリア文化大革命」が掲げられ紅衛兵が復活したのだ。管区人民解放軍がこれに乗る動きをしたためにもはや中央の威光が利かなくなっていたが、激高した北京が長江北岸に第三・第四野戦軍を出動させると、期をあわせるかのように、東北部が長城を国境とする独立を勝手に宣言した。既に完全に瓦解していて小競り合いにまでなりかけていた北朝鮮は、その動きに乗ずるように東北部独立に統合すると発表した。国名に『金』を復活させるという噂が飛び交い、実質の仕掛けはどうやら国家を維持し続けられなくなった北朝鮮執行部の呼びかけのようだった。東北管区の人民解放軍が鴨緑江を渡ったことが米衛星によって確認され、朝鮮人民軍は38度線に集結していたのだった。1月末にはこの『金』が韓国への牽制のため、竹島の領有権は日本に有り、と声明を出すという情報が駆け巡った。周辺国は俄に緊張し、台湾は金門・馬祖両島に陸軍を上陸させ、韓国は38度線に緊急出動、同時に竹島にも海兵隊を駐屯させた。

日本の政局は毅然と対応しようとする安部総理に対し、むしろ与党の公明党と自民党のハト派が足を引っ張る混乱に陥り自民党が分裂してしまう。土台が300議席が重すぎるのだ、色んな者が多すぎた。選挙をしている時間がない、と即断した安部総理はハト派と公明党を切り捨て、2/3の自民党と野田聖子率いる保守本流党で連立を組む賭けに出た。結果は衆参両院の首班指名で野田聖子総理大臣が誕生。安部総裁は力を温存できた。この間1週間。時の首相となった野田聖子はここに至って果敢に決断、尖閣に国防陸軍を上陸させ、海上封鎖する意思を固めた。そして出井旅団に強行上陸の命令が下った。

2月とは言え沖縄近海まで来ると日差しが暖かい。老人部隊は甘やかされているので当然統制は緩い。機動空母『いずも』の飛行甲板で原辺と椎野はまるで南の島にバカンスに行くようなノリで上半身裸で肌を焼いていた。大半のオヤジが船酔いで苦しむ中、二人は平気だった。                                               
「お二人とも船にも強く頼もしい限りです。」                           
サングラスを取るとこの日差しの中、制服制帽に汗ひとつかいていない出井大佐と汗だくの英曹長が立っていた。
「失礼しました。」                                          
慌ててシャツを着て敬礼する二人を制し、                           
「結構。それくらいでちょうど良いかもしれません。英特務曹長は本でも持ち込みましたか。」
「ハッ。原書30冊を別送しています。」                             
「アハハ、気を抜いてはいけませんが、敵海兵隊との交戦にはなりませんよ。」
と笑いながら行ってしまった。                                  
「なんだありゃ、クソ度胸満点だな。」                              
「本当に女か。良く見ると美形ではあるが・・・。」

島が見えてきた段階で『いずも』からはオスプレイのピストン輸送で上陸。魚釣島の旧村落の近くと平坦部のある南小島に、アッという間に300人が移動した。これとは別に揚陸艦と大型のバートルにて、大和大尉が指揮する同じく老人施設部隊が重機・資材を持ち込んでおり、テキパキと駐屯地を設営していた。『いずも』はさすがに長居は無用とばかりに直ぐ視界から消えて沖縄にいった。プレハブに毛が生えた程度の兵舎を南小島に、戦闘指揮所及びその他の観測所といった設備を魚釣島に構築していた施設部隊はゼネコンのOBが多く、さながら熟練工の集まった精鋭部隊で、出井旅団とは士気からして違う。昔取った杵柄のノリで徹夜で仕上げまで完了させた。翌日には一部の調整に掛かる20人程度を残して帰って行った。

魚釣島には南国らしい蘇鉄が生えており、海はメロン色、夕日が落ちる時などはオレンジ色の光が射して来る。かすかな雲が水平線あたりに漂っている所などに思わず見とれている老兵が多くいた。100人程が南小島に居り、200人は魚釣島で昼夜3交代勤務での3勤1休のローテーションで配置に付いた。夕食後南小島からボートで魚釣島に行き、配置について夜11時時からの夜勤、朝まで警戒に当たり7時に交代して仮眠、午後3時からの昼勤務が11時まで、睡眠後常駐体制で3時まで、次の入れ替えと交代し南小島で夕食、翌日休みの体制が組まれた。3日も経たない内に曜日の感覚は無くなった。もはや保安庁ではなく国防海軍の輸送船、潜水艦、揚陸艦が物資を運ぶ体制で一週間が過ぎた。いくらでも弛緩してしまいそうな環境であったが、出井旅団は何とかそれなりの緊張感は維持できていた。

ある日、南小島から魚釣島に向かうボートに出井旅団長と英曹長が一緒に乗り込んできた。初めから原辺・椎野に話しがあったらしく上陸後に「集まられたし。」とお達しが来た。テント仕立ての野戦ヘッド・クオーターに招き入れられると他にも大和大尉以下施設幹部の姿もあった。出井聯隊長は地図を覗き込むと、

「北東部の海岸線の守りが手薄です。至急機関砲据付けを行うコトになったため現地調査並びに設営可能ポイントの確保をされます。明朝大和大尉の指揮の下出発して現地にて野営、帰還されたし。尚、断崖絶壁の為海上からの接近は困難。設営のための補給も必要なので、地上移動のこと。移動用具・食料携行、通信確保準備。本日の夜間警戒免除。
「ハッ。」「ハッ。」                                          
翌日は日の出とともに出発した。山中行軍ではあるが武器は持たず、ましてや1泊しかしないので、食料・通信機器の10Kg程度での装備だったが、やはり山登りはきつかった。施設の大和大尉は、これも若年キャリアのようで山登り山中行軍は二人組と同じようなスピードで大したことはない。途中休止の時点でもうヘトヘトになっているようだった。
「大尉殿はやはり若年キャリアですか。」                           
「映画の見過ぎですよ(ハアッハアッハアッ)。国防陸軍は『殿』は付けませんよ(ハアッハアッハアッ)。専攻は生産工学でした(ハアッハアッ)。施設入隊2年目です。」                                   
息も絶え絶えでこりゃどうなる、と原辺と椎野は顔を見合わせた。

這々の体で島北東部の崖の上にたどり着くと、青い海が広がった。ポツンと島が視界に入る。見渡しても敵の気配も何にもない。傾斜はきつくて海岸までは降りられそうもないので、設営可能な場所を手分けして調査した。ようやくここで良かろう、と最適ポイントを見つけて本部に連絡・報告した。大和大尉は輸送ルートの確保に地図を覗き込み、仕切りに計算している。原辺・椎野は樹木を切り倒したり簡易スコップで整地等をしているともう野営の準備になった。火は起こせないから携帯食料でわずか10分の夕食を食べると見事な夕焼けとなった。南の島でも2月の終わりでは日が暮れると涼しいというよりは肌寒い。雨除けのタープを吊っただけでそれぞれ眠った。

ドーンドーンドーンバリバリバリバリドーンドンといつ終わるか分らない物凄い轟音とビリビリ伝わる衝撃波に飛び起きた。音が止まないので声も伝わらない。それぞれが「どっちから来るんだ。」「やられてるのか。」「敵襲かー。」と言っているようだがお互い全く聞こえない。30分は音が絶えなかった。島の反対側が集中的にやられたようだった。俗に、寝込みを襲う、と言う早朝未明の奇襲攻撃なのだが、島北辺には敵の艦船など見えない。味方の反撃は全くないようだ。通信を試みていた大和大尉が首を振って言った。

「全く連絡がつかない。ここにいてもダメだ。戻りましょう。」                 
三人は装備を装着し、ゴソゴソと山を越えた。分水嶺から見えたのは南小島から幾筋もの黒煙が上がり、駐屯ベースは真っ黒焦げになっている。魚釣島のヘッド・クオーターにも何発もくらったようで跡形も無い。急斜面を滑りながら必死で降りた。

やっと息を切らせて降りてくると何とも言えない臭いがして、苦しいくらいである。まさかの戦場の実態に物も言えなくなった。しかし建物は吹き飛んだが命中したのは微妙にポイントが外れていて起き上がって動いている人陰が煙りの中に見える。三人が駆け寄っていくと血だらけの出井大佐に小柄な英曹長が肩を貸していた。                     
「ご無事ですか。」                                         
「モルヒネを・・・・。無事が確認出来たのは他には・・・・。」                 
「設営に行った東側には生存者がいるはずです。恐らく南小島は全滅かと。」
「それでは残存者は大和大尉が指揮を・・・・。訓示があります。」            
「ハッ。」「ハッ。」「ハッ。」
「注目。本作戦はこれをもって終了。攻撃は 潜水艦によるスタンダード・ミサイルによる無差別飽和攻撃。やって頂きたい事があります。国旗の掲揚。そして直ぐに救助ヘリが来ますので我々の配置を伝えられたし。遺体のできる限りの保全。」
苦しくなったのか、深く息を継ぎながら最後の力を振り絞っているようだった。
「実は第七艦隊は既に海域に接近しています。国防陸軍石垣揚陸部隊も直ぐに上陸します。追加攻撃は無い。申し訳ないが、東京オリンピックの成功のために、どうしても最初の一発は受けざるを得ないという、誠に苦渋の選択による作戦でした。よろしいか、領土とは国旗があり、守る者がいてそしてその犠牲の上にしか成り立たないものなのです。・・・・諸君に感謝します。」
3人は暫く呆然としたが、あきれるほど静かな午後になって、使える資材の中からポールと日の丸を探し出し掲揚した。掲揚したのだがいかにも無意味な光景ではあった。すると轟音とともにオスプレイが3機飛来した。
「わかったぞ。出井大佐は我々を逃がしたんだ。国旗掲揚と部隊の存在証明に。」
冷静な大和大尉がつぶやいた。                                    
「大尉。飛んでくるのは国防軍なんでしょうね。」                       
「見れば分るでしょう。日の丸です。」                              
単純な原辺は感動して喚いている。                                
「出井大佐の遺骨を内地にお連れしなければ。」                        
皮肉屋の椎野はせせら笑った                                 
「バカ、まだ亡くなってない。モルヒネが効いてるだけだ。これじゃオモチャの兵隊の在庫セールだぜ。お前みたいなのが一番危ねーんだよ。こういう時は。」

折しもオレンジ色の夕日がオスプレイの編隊をシルエットにしていた。

 
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