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ナニワの狂い咲き

2023 NOV 25 18:18:21 pm by 西 牟呂雄

 ピン・ポイントで大阪に行ってきた。
 摂津の国は、古くは即位前の神武天皇が畏れ多くも生國魂神社(いくくにたまじんじゃ)を建立された由緒ある場所である。その後も日本の政治経済の中心であり続け、江戸幕府が開かれた後でも敗戦後の繊維不況の波を被るまでGDPでは常に東京よりも上だった。
 令和の今日は、ほとんどの在版大企業が本社機能を東京に移したため地盤沈下が言われて久しいものの、東京に比肩しうる唯一の都市であることは変わらない。今年は日本シリーズも在阪球団同士で盛り上がり、38年ぶりのタイガーズのアレとなった。
 ナニワは漢字で難波(なんば とも読む)、浪速、浪花、浪華と表記され、江戸よりも遥かに人文は古い。ところがこと『観光』ということになると、例えば京都・奈良に比べれば見劣りする。まあ、道頓堀とか大阪城は名所といえば名所だが、いかんせん先の大戦で東京同様にやられたためもあり、目下の盛り場が観光地となっている。
 それはそれで結構なことだが、まずビックリしたのは外国人の多さだ。
 実は今回、宿泊をケチって梅田の近くの安宿を検索し、チェック・インの時点で仰天した。タチンボやポンビキがウヨウヨする連れ込み宿のど真ん中だった。地の利に疎いとはこういうことなのだが、驚いたのはそれだけじゃない。そういった場所になんの躊躇もなく外国人女性がトランクを引きずりながら闊歩し安宿に(僕のところとは別の)入っていく。おそらく僕のように安宿を検索して旅をしているのだろう。そして外国人ゆえにこういったところのヤバさ加減が分からないため平然としていられる。僕は十分注意しているが、彼女達大丈夫だろうか。
 というのも、泊まったところはやはりかなりの代物で、内装はビジネスホテルでもその昔は想像もつかない。一つだけ傍証を上げると窓を開けたら目の前に窓があり、夜中でもある種の女性の嬌声が聞こえっぱなしだった。それで隣の窓との間はどういうわけか塞がれた空間で、配管が通っていて右も左も外部に通じていない、つまり外が見えないのだ。まるで繋がっていたビルを無理矢理間仕切りして窓を嵌め込んだような不思議な造りで、向こうの窓が開いたらどうなるのか怖かった。

ビルの一角の高尾稲荷

 さて、今回の旅の目的は何かというと、最近始めた『都市進化論』のフィールド・ワークである。調査結果は別途まとめるのだが、焼け野原になった都市の中心部が復興するにあたってどのような形態をたどっていくのか、という内容。きっかけは東京で焼けてしまった高尾稲荷がビルにはめ込まれるように復活していたのを見たからである。これと同じように梅田のすぐ近くにかの曽根崎心中の舞台となった通称『お初天神』、正式名称は露天神社(つゆのてんじんしゃ)がある。ここも爆撃によって焼失してしまったのだが、果たして今日はいかなる状況にあるのかを見たかった。

大坂だなあ

  すっかり心中の神様扱いされて、縁結びのご利益が言われるのだが、元々は天照皇大神を祀った神明社(東京でいえば芝大神宮)で、名称の露天神社は大宰府に飛ばされた菅原道真がここで『露とちる 涙に袖は朽ちにけり 都のことを思い出づれば』と詠んだからとか。
 翌日起きてさてこっちかな、とノコノコ歩きだすと再び外国人女性が、しかしみんな手ぶらだ。夕べ見た欧米系ではなく、明らかにこの辺りで働いているであろうフィリピン系。これには痺れましたね。無論東京にもこういう光景はあるのだが、ここは大阪の顔である梅田の近くですぞ。
 このアナーキーさが大阪の魅力なのだな。
 もう少し言うと、このアーケードの朝の寂れぶりは大阪のイマイチ感を物語っているかな。

 アベノハルカスはできた。維新の会は立ち上がった。
 だが万博には苦戦している。
 しかし在版2球団での日本シリーズで盛り上がった。
 この怪しい街並みのすぐ向こうには高層ビル。
 昨日食事したビルの中のワン・フロアはオープン・スペースに似たような飲み屋がはいっていて、どこもが喫煙可。
 その下には素人では迷ってしまう地下街が広がる。
 我が東京はというと、スカイ・ツリーがあるが、都民ファーストは雲散霧消。
 オリンピックは何とかやり切ったものの、巨人はダメ。
 おまけに巨人が勝とうがヤクルトが優勝しようが日本橋から川に飛び込んだ奴は未だかつていない。

 さて、辿り着いたお初天神は、建物が押しくらまんじゅうをしているような所にあった。
 入って行くと意外と小さい。かつては2千平米弱の広大な敷地にうっそうと茂った森に覆われていたそうだが、戦災で焼けてしまい、その後急速な都市化に飲み込まれるように敷地を切り売りせざるを得ず、ご覧のような姿に変わった。
 更に裏参道はもっと凄い。
 こういうのを『巧み』とか『したたか』と言うのではないか。

 先程の『切り売り』だが、再建費用の捻出のためとネットにあった。タダでは起きないというか、さすがに大坂だなと感心してしまった。
 翻って我が東京では神宮外苑の再開発において東京都と、JSC、伊藤忠、三井不動産が覚書を締結し小池百合子女帝が認可したという大袈裟な代物で、樹木千本の伐採が問題になっている。
 時代は違うが、大坂では少しづつこんな感じでやったのではなかろうか。
『ウチも社殿が焼けてもうてドモなりまへんのや』
『そら難儀でんなぁ。それやったらここあたりこんぐらいで譲ってもらいまひょか』
『あんさん、そりゃ殺生や。かんにんしとくなはれ。せめてこんぐらいにでけまへんか』
『あちゃーっ。それこそきついでんな。もうちょっと勉強してもバチあたりまへんやろ』
『わかりまへんで。お初さん怖いでっせ』
なんてね。

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Categories:浪速のハナ

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