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製造現場血風録ー補給・兵站

2013 OCT 27 13:13:04 pm by 西 牟呂雄

6月25日。緊急対策打ち合わせで、増産のための材料手配、四半期末の決算対策のための資金移動停止、現地で暫く使用見込みのない副資材の日本返送等、を例によって即決。ツベコベ言う奴もいるには居たが無視していたのでいつしか僕と生産計画担当部署は『緊急対策本部』と呼び習わされていた。そう言えば僕は営業・企画専門だから事業部長というものになったことがない。一度なってみたいなー、と思ったことがあったが緊急対策本部長とはシャレにならない。

この時点で新規出荷明細は膨大な出荷リストとリストラによる製造能力不足で、土日に強制出勤させてもとても捌ききれる代物ではなく到底無理なことは分っていた。しかし昨日送られて来た現場写真を良く見ると、出荷前の梱包はススもついておらず水も被っていない。こいつを出荷できればなー、と会議をやるのだが誰も結論が出せない。いい加減にアタマに来て                                       「ハラを括って出荷しろ。本部長命令だ-!」                         とやったところ、品質保証部長が                                「それでは私が行って見て見ましょう。」                                    と申し出て納めてくれた。早く言えよ早く。ついでに損害補償・保険請求・復旧手配・現地からの応援(日本での増産対応の人手)、といった事務方要員に、この4月に移動してきたばかりの担当者もつけて第二陣として明日派遣することとした。

26日(金)の朝方、台北のホテルから出張中の営業担当取締役から電話が入った。ユーザー間では既に火災の噂が駆け巡っており行く先々で『ウチの材料は大丈夫なんだろうな。』と聞かれている、とのこと。各社ナーバスになっており、一社にばかり傾斜供給すると直ぐにバレて大騒ぎになりそうなのだそうだ。急遽予定を変更して来週前半まで台湾に滞在し納期調整をするので出荷状況を知らせて欲しい、と懇願される。そんなもんこっちだって分からんものをどうしろと言うのか、と言いたいのを飲み込んで土日の進展を待て、と指示。

出勤してみると、今度は現場から『土曜はギリギリでシフトが組めたが日曜は人が集まらない。』との悲鳴が上がる。うっかりしていて第二工場では全従業員に訴えたが第一工場ではスタッフにしか伝えてない。急遽昼休みに集めて現地の写真を見せ、この際社長を引っ張り出して従業員にお願いする。

更に困ったことに来週初め、中国の合弁会社で薫事会があり現地要人及び海外工場の幹部が集まる。代わりを立てるかどうか迷いに迷ったが、すでに客先にまで火災の噂が回っていること、共同出資者に不安を与え兼ねないこと、第一僕自身が慌てふためいていると周りに感じさせたくないこと、等から一泊二日でトンボ帰りすることにした。週の頭が留守になるが致し方ない。この頃には各人各部署が自分の仕事を守るために(国内向けの出荷は続いている)情報が錯綜して、今までの現地とのホット・ライン一本では混乱を起こしかねなくなり、本日からは現地の日本人も5人となるので、日本語の通話のみは一元管理を解除した。夕方になって到着した品証チームから『既に梱包された製品は出荷可能』という喉から手が出るほど欲しかったデータが届いた。これで一週間は寿命が延びたことになる。

これは関係ない話であるが、中国では同じ敷地にグループの別の事業体も進出しておりヘッド・クオーターから監査チームが同時期に現地入りしていた。本稿の趣旨ではないので詳細は控えるが、発注上の不備が指摘されてしまい対応のテンヤワンヤに僕まで巻き込まれてしまった。後日現法の社長のクビが飛んだ。帰りのフライトで殊勝にも「オレが行くとみんなトラブルのか」と我が身の不徳を反省したりもした。

大陸の薫事会をサッサと済ませて帰国し、月が変った7月になると現場は混乱の極みとなっていった。特に検査、梱包といった下工程がネックとなってブツが滞留していた。おまけに先週現地から日本へ返送させた副資材が未整理で、又日本仕様と微妙に違うため一度洗浄をかけなければならない物が含まれていた。それでは、と人員を急遽配置したところで、一体何がどこにあるのか分らない状態に陥った。これは一種の人災で対策本部員となっている幕僚の一人を交代勤務に投入せざるを得ない事態だった。ギリギリ納期が繋がっていた一週間が過ぎたが、全く展望が開けない。

土曜も日曜もないのだが、幹部はどちらかに出ることにして(現場には個別に代休を取らせた。労基所及び組合対策)4日’の土曜日に出てみると恐れていたことが起こってしまった。副資材洗浄で残業が続いた担当者が緊急入院し、翌週月曜に即手術、人工透析することになってしまったのだ。元々持病があった上に黙々とやるタイプだったらしく、聞くところによれば朝の3時4時まで工場に居残ったそうだ。前日要員投入を決めた矢先だったが一手遅かったか、と臍を噛む思いがした。翌週に人事部長と工場長を呼び、事情を聞いたのだがロクに事態を把握しておらず、カッと来て怒鳴りつけてしまった。

「一体何を管理しているんだ!」

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