Sonar Members Club No.36

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製造現場血風録ー全力疾走

2013 OCT 30 9:09:05 am by 西 牟呂雄

 7月6日(月)から、少なくとも日本サイドは第一第二工場ともフル・シフトになり、臨時派遣も配置についた。現場が底力を出し始めるのだ。この段階では各部署が自律的に立ち上がり出すので、対策本部の当初の指示に手戻りがみられるようになる。これは仕方のないことで、出来るだけ細かく調整してやらなければならない。その際にはどこにでも必ず「だからオレは最初から反対だった。」という輩が出てくる、本当にだ。こっちは毎日毎日荒っぽい決めごとを捌いているのだからしょうがない。このグチとも何ともいえないセリフがいかに当事者のモラルを下げるか、僕は経験則的に知っていたので、命令変更の際には「いいか、後になって自分は初めから反対だった、とは決して言うな。」とドスを効かせた。そういう僕自身、連日のドタバタに頭に血が上り、第二工場との往復の際アラーム・ランプにも気付かずにガス欠になり、高速道路で1時間も立ち往生、JAFを呼ぶ大騒ぎを引き起こしてしまった。

 一方で四半期が終わったための実務が追いかけてくる。やれ決算だ、下期の見通しだ、三カ年計画の作成準備だ、しかし戦力になる事務方の手足はみんな海外に投入して出払っている。挙句の果てに以前から決まっていたシンガポールの顧客の監査が二日かかる。数字の整合性は大きな声では言えないが殆どサイコロで決めたに等しい割り切りでしのいだが、普段から摺り合せていたため幹部間で大きなすれ違いが無かったのは日頃の鍛錬の賜物か。シンガポール顧客は中国語使い(中国系日本人と中国系マレー人)二人に対応させギリギリの最低点で監査をパスした。

 火災保険請求のため、保険証券と大家(工業団地の賃貸物件だった)との賃貸契約の長文の英語が送られて来て、一瞬気が遠くなった。こんなもん読んでるヒマはない。アウト・ソーシングのつもりで、工業団地に一枚噛んでいる日本商社を訪問し、①保険請求は単独でやるべきか、②場合によっては現状復帰はタッグマッチでやった方がいいか、の2点に絞って協議することとした。工業団地は現地財閥が実質のオーナーで(勿論華僑)それに対してタッグ・マッチに引きずり込む作戦だ。結果は自社による保険請求をし、誠意を持って現状復帰させる、となった。

 復旧工事の施工のため、ヘッド・クオーターの現地代表ゼネコン部門が人を出してくれる目処がついた、と事務方から連絡が入る。危機管理に必要だと説明し、いやがるヘッドクオーターに社外取締役として入って貰っていたことがここで生きた。今度は工場が復帰するまでブラブラしている現地従業員をどうするか。オペレーターは日本に連れてきて研修させれば一石二鳥ではないか。こっちは一時的にせよ大幅な人手不足なのだ。ナニ?パスポートを持ってないだと?会社でまとめて取らせて送り込んで来い!

 人間関係は悪くなっていないか、疲れが出てないか。品質は落ちていないか。客先に不安を与えていないか。考えたってしょうがないことが次々に頭に浮かぶ。イライラする時は現場に入り込んで物の流れに目を凝らした。余計な雑談などすると人を怒鳴り飛ばしてしまいそうからだ。会社の大ピンチ、とみんなが僕の一挙手一投足を見ているのだ。火災勃発から三週間目はまさに全力疾走で過ぎた。週末には密かに自宅でムチャ酒を飲んだ。ずっと飲まなかったのだ。車で通勤していたので帰りに飲めないし、元々普段から肝臓が悲鳴を上げていたので、翌日午前中を棒に振りかねない。不思議なことに毎日がドタバタしている割に二日酔いにならないので体調がいい、という珍現象を味わった。

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製造現場血風録ー火災勃発

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製造現場血風録ー復興

製造現場血風録 (開発の蹉跌)

Categories:製造現場血風録

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