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狂い死に

2015 JUN 6 17:17:51 pm by 西 牟呂雄

 ここのところボケ・アルツハイマーの症状を研究しているが、そんなものは昔からあって、耄碌(もうろく)したとか狐付きとかで済ませていた。
 精神医学も発達した今日では脳科学者や精神科医が様々な分類を行いモデル化するために、色々複雑な状況になっている。
 実際に発症された方やご家族は大変だろう。それぞれの症状に合わせて投薬・ケアをしなければならず、社会問題化することもある。
 昔は分裂症(現統合失調症)と躁鬱病(現在は幾つかに別れている)の二つ程度で、他はオバカくらいの分け方だった。特に躁鬱病は作家北杜夫氏の一連のユーモラスな作品でポピュラーなものになった。株投資で破産したり何年もドローンと落ち込んでいたりしてご家族は冗談じゃなかったろうが。

 それで色々検索してみると、どのケースもしまいに幻覚・幻聴・妄想に苦しめられると書いてある。もちろん僕はそんなモノ見たことはない。ところが、これまたほぼ共通して『行動的な障害を伴う患者は、ストレスが原因で普段とはかけ離れた著しい行動に出ることがあるが、患者本人はそれらの行動の変化に懸念や自責の念を持たないことが多い。それらの行動の具体例としては、アルコール依存・・・。』という説明がある。なんだこれは。酔っ払った時の僕のことではないか。

 提題に戻って『狂い死に』であるが、狂ったことで死ぬことはできない。結局自殺してしまうか何かの病気を併発して死んでしまう。そこで巷間狂って死んだことになっている幾つかのケースを分類してみよう。

突発的変人自殺型
 世の中から『あれは少しおかしい。』と言われている変わり者が前触れもなく自殺してしまう。普段から変わり者、がミソ。
 秀才の場合は大体つまんない恋愛沙汰が多い。
 歴史上こういった例ではバイエルンの狂王と言われたルートヴィッヒ二世だろうか。あまりにも有名なので詳細は省くが、弟オットーは本当に発狂している。湖で水死体となって発見されているが狂った後の自殺だろう。ちなみにワグナーのスポンサー(途中でケンカ別れ)。
 躁が昂じて止まらなくなったのが三島由紀夫、鬱でやってしまったのが恐怖症・芥川龍之介、秀才型が心中中毒・太宰治、と言ったら研究者に怒られるだろうか。ただこの三者は狂い死ににはならないか。

アル中型
 死因は肝硬変だ心不全だと色々あるが、基本酒の飲み過ぎ。心の病だろうが何だろうがアル中はそりゃ死にますよ。
 中毒するくらいだからまぁ悩みは多いでしょう。
 日本史の中では関が原の裏切りで終生苦しんだ小早川秀秋がこのパターンで狂い死にしたとされる。秀吉の甥(ねね殿の甥にあたる)金吾中納言である。寝返りを食い止めようと立ち塞がった名将大谷吉継が「人面獣心なり。三年の間に祟りをなさん」と言って切腹し、祟りによって狂死したと噂された。確かに2年後だった。当時は祟りも信じられていただろうから、ガバガバ呑んだ時は恐怖でうなされたことだろう。

梅毒型
 病気が病気だけに臨終直前の幻聴・幻覚は恐ろしいものがあるだろう。何故か大作曲家にこのテがいる。ロベルト・シューマンはカルテもあるそうだが梅毒による障害がひどく、幻聴で聞こえた天使の合唱を五線譜に書いた後、ライン川に投身自殺をしようとしたとか。しかも当時は梅毒の治療に水銀を処方したそうだからこれも体にも悪かった。怪物に襲われる幻覚やA音の幻聴に悩まされた、とクララ夫人の手記にあるそうだ。
 実は若死にしたシューベルトも梅毒だったし、本当かどうかベートーベンの聴覚障害も(否定されているようだが)梅毒説があったらしい。
 もう一人付け加えたい。日本の思想家で、東京裁判民間人唯一のA級戦犯容疑者になった大川周明(笹川良一もそうだったが不起訴)。極東裁判での奇怪な振る舞いにより松沢病院に入院させられ、梅毒による精神障害と診断されている。この人については改めて別途述べたい(入院した後にコーランの翻訳などしてかなりアヤシい)。

本物型
 医師がそうだ、と診断したケース。結局肺炎とか栄養失調で死ぬのだろう。本当になってしまったら通常の生活はできないから、周りの介護がなければ悲惨だ。
 今では読む人もいないだろうが、大正期の作家島田清次郎は精神分裂病と診断されて死んだ。
 『地上』という自伝的作品がベスト・セラーとなり、一時は『島清』と称されたアイドル的人気があった小説家である。ロンドンの第一回国際ペンクラブ大会に於いて初の日本人会員になったりもした。しかしピークは僅か4~5年で、女性関係、虚栄、傲慢が次第に人を遠ざけて、ファンだった女学生とのスキャンダルで転落する(僕の母親の母校の生徒だが)。警察に保護された際支離滅裂なことを口走って鑑定したところ、正真正銘の精神分裂病であったために巣鴨庚申塚の保養院に収容された。多少執筆もしたが、直ぐに結核で死んでしまった。

 さて、もし危なくなって狂い死ぬとしたら僕の場合圧倒的にアル中型なのだろうが、25才で急性膵炎をやった時に医者から『アル中にもならずに良くこんな病気になった。』とほめられた位だからこれも難しい。やっぱり自然体アルツハイマー型ボケ死にがふさわしいのだろうか・・・。

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Categories:アルツハルマゲドン

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