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2035年 わっ 大変だ !

2015 JUN 4 22:22:28 pm by 西 牟呂雄

人工知能編
 このところどうもおかしい。僕がヨレヨレになって人工知能付きライフ・スーツを2千5百万で買ってからどうも面白くないのだ。僕は今80歳だが75歳の時に原因不明の奇病を発症し、身動きが取れなく認知症も出た。ところがその頃から異常に発達した人工知能、生命工学および介護医療機器のおかげで何不自由なく暮らせるようになってしまった。
 ライフ・スーツはワイヤーを使って駆動させることが基本だが、皮膚へのダメージや感覚をソフトにするための多くの新開発が盛り込まれ、僕が買ったものはグローブタイプといって指先までカヴァーされているが暑かったりかゆくなったりしない。そしてあらゆるポイントにセンサーがついていてこちらが『立ち上がりたい』とか『歩きたい』『コップを持って水を飲みたい』と思うとそれに合わせた動きをしてくれるのだ。目の動きと神経の伝達を人工知能が感知して動くらしい。歩いているのはフワフワと腰掛けている感じだ。
 腰を悪くした人は若い人でもヒップスーツなどを着用している。これにより介護の負担は大幅に低下し、ライフ・スーツの売り上げは年間1兆円の巨大マーケットとなった。
 しかし愛用しだしてから、どうも自分で考えないでも人工知能が勝手にモノを食べさせたり排泄させたりしているような気がしてならない。認知症が進んできているのは記憶障害があったり言葉がすぐ出なかったりと自覚はしているのだが、最近はこのスーツのおかげで思考することができなくなったような気がしてくる。
 ウッ先程空腹感もないのにモノを勝手に食べたような気がしたが・・。待てよ、その後何を考えたんだっけ・・・。話そうとしたが何を言えばいいのか分からない。目の前の人は誰だ。
 これは・・・僕は生きていると言えるのだろうか・・。死ぬことはできるのだろうか、それとも死んでいるのか。
 待てよ!実験されてるとしたら・・・わっ大変だ!

鏡 子供編
「ほら、この鏡をもって三面鏡に映してごらん。鏡の中に鏡を持った自分が映っていて、そのまた映った鏡のなかにもズーと映っているだろ。」
「ホントだ。すごーい。どこまでも続いていて最後は点みたいになってはじっこで消えちゃうよ。その先はどうなってるの。」
「それはズーッと続いているんだけど、目と鏡に角度がついてるから見えないんだ。目が鏡の中に入っちゃわないと見えないよ。」
「へー。じゃ目が鏡になれば無限の奥まで見えるの。」
「そりゃそうだけど。目が鏡になっちゃったら見えなくなるんじゃないの。」
「アッ。」
「どうした。」
「見て見て。てまえから五番目に映ってる僕が動いてる。」
「何言ってんの。手がずれたか、自分で動いたんだろ。」
「違うよ。見てよ、5番目だけ横向いてる。ホラ、見ろよ。」
「何だよ、手動かすなよ。アッ本当だ。オイッお前目を離すなよ。コッチを見た。」
「わぁッ、本当だ。そっち見てる。」
「おい、手を振ってるぞ。オレを見てる。」
「痛い!」「痛い!頭ぶつかっちゃった。」
「こっちも手ぐらい振らなきゃ。」
「アッ、僕が横向いた。」
「エッ、お前今オレのこと見てるじゃないか。」
「いや、鏡から目が放せない。」
「何言ってんだよ、鏡の中じゃなくて今こっち向いてるじゃないか。」
「違うだろ、鏡の中の5番目のお前のことを見てるんだ。お前も写ってるじゃないか。」
「おい、変だぞ。オレ目が鏡になっちゃったんじゃないか。」
「僕も変だ。お互い鏡の中に・・・。目が鏡になっちゃったよ!」
「わっ大変だ!」

魚眼 編
 夜の桟橋でライトを射し込んだらゴンズイ玉がウネウネと漂っていた。色が不気味な緑色だったことを覚えている。この際哺乳類の鯨・イルカは別にして、魚は大きくとも小さくとも頭脳の程度は同じだとすると水の匂い、流れ、水圧、そして魚眼から見る風景といったものを感じて本能だけで生きていると考えて差し支えないだろう。更に光の届かない深海では物をみることも無いから、その辺で生きている魚類の視覚はかなり退化していると思われる。
 しかし僕たち人間は自力の移動について地表を二次元的にしか動けないが、魚は三次元移動可能だ(水の中だけではあるが)。海底や川の底に腹這いになる種類もいるだろうが、大体は陸上のいかなる動物より(鳥だって寝るときは地上か木の枝にとまる)自由に上下左右前に(中には後ろにも)移動していられる。
 それにしても魚眼は360度の視界で、魚は目が横についているからほぼ全方位を見ているのではないか。あの小さい脳の中でいかなる画像処理ができているのか。
 実は生命工学の発達により、現時点では人間の目の機能を体の別の部分に移植することは可能になり、十分に脳との信号のやり取りができることが確認されている。一応の倫理規定があるが、中国では手の平に目を移植した事例が報告されている。また、一時はまがいもの扱いされたSTAP細胞もその後に彗星のように現れた天才科学者、大日向霧子博士により見事に再現(というより発明)された。これによって臓器はおろか器官までどこにでも付け替えられるのも時間の問題だ。
 だから見た目を気にしなければ耳をウサギみたいに頭のてっぺんに移植して、目を顔の耳の部分に移植し左右別々に見えるようにすることも自由だ。その眼も何色にしようが魚眼レンズにしようがお望み次第。が、横についていて魚眼だったら人間の視界は脳内でどのように画像処理されるのか・・、意外とプレデターの見る画像に近かったりして・・・わっ 大変だ。

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Categories:アルツハルマゲドン

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