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謎の人物 (都市伝説編)

2016 SEP 15 20:20:39 pm by 西 牟呂雄

 ついにその名前が明らかになることなく、歴史のかなたに埋もれていった人物は多い。或いは正体不明のまま消えていった人達。本人の自覚も無く、どこかで言い伝えられたり、噂に上りながらついに名乗り出る事のなかった人。筆者はそういった人を捜し当てたい欲望にかられる。

 明治天皇は大層お酒を召し上がり、飲み過ぎて臣下の者に抱えられて寝所に帰ることもあった。尤も当時の側近は下級武士上がりも多く、薩摩出身の枢密顧問官、黒田清隆などは酒乱でも有名だった。
 昭和天皇はお酒を召し上がらなかった。体質的にあまりお好きではないと共に時代も洗練されてきて、泥酔した人間を見たこともなかったという。
 戦時中、広い御所ではなく防空舎の御文庫でお暮しに成った時のことである。侍医の一人が事もあろうに泥酔して長椅子に寝転がっているのを見てしまった。
「これは病気であるか?」
 と陛下は尋ねられ、酔っ払って寝てしまった旨をお聞きになった。
「酒に酔うとこんなになってしまうのか」
 と呟かれた。僕はこの話が好きで、この泥酔した豪傑の侍医先生は一体何という人か知りたくてずいぶん調べたがついに分からない。戦後はどうされたのだろう。

 先般、天皇陛下が戦没者慰霊の旅に訪れられたペリリュー島の話。ここはかの硫黄島での戦闘の前哨戦のような持久戦が戦われた激戦地だった。米海兵第一師団は壊滅する。結果はご案内の通りではあるが。
 記憶が曖昧なのだが、ここで最後の一兵として機関銃を乱射して戦死した女性がおり、何かの雑誌でその女性と思しき方が軍装で日本軍と写っている写真を見たことがある。
 確かその記事では『佐官の愛人の芸者』となっていたと思うのだが定かではない。パラオには多数の民間人もいたので、そこからついてきた日本人慰安婦なのだろうか。
 米軍も手榴弾まで投げて食い止めようとした最後の一兵が女性であったことに驚き、十字架を立てて手厚く葬ったというオチもついている。これはかなり信ぴょう性が薄いと思われる。
 それにしても軍籍がないので戦死者とも認定されず、親兄弟もいたであろうにこの人の名前くらいは知りたいと思ったのだが皆目分からなかった。
 サイパンで自決しようとして重傷を負われた菅野静子さんという従軍看護婦の方がおられるが、この話と混同したのだろうか。

 『命売ります』は1968年に発表された三島由紀夫の娯楽小説で、ちくま文庫で今でも刊行されている。内容は例によって三島がエンタテイメントをやるといつも陥る不完全小説だ(と僕は思っている)。
 ところがその20年も前「5万円で命売ります」という広告が名古屋市内に張り出されたことがあった。父親の病気治療のためにある青年が実名で書いたもので、何人かの申し入れがあり面談にも及んだ実話だ。
 また、瓦礫の山になってしまった新橋から銀座のあたりで『命売ります』の看板をサンドイッチ・マンのようにぶら下げている男が多くの人に目撃されている。実際は複数かもしれない。
 敗戦後間もない混乱期で売る物もなくなり必死に生きようとした話だ。その人(複数かもしれない)が載った半藤一利と森本哲郎の対談を読んだが、その後はどこでどうなったのか。まさか本当に『売る』ことになってしまったのか・・。

謎の人物


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Categories:伝奇ショートショート

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