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戦争の終わり方

2017 JAN 4 20:20:17 pm by 西 牟呂雄

 先の大戦でポツダム宣言受け入れ後のソ連の行動は多くの作品に描かれ人口に膾炙している。最近では浅田二郎の作品で着目された千島列島最北端にあたる占守島(しゅむしゅとう)の戦いがある。
 この戦闘はご承知の通り8月18日のソ連軍の上陸から始まった。
 守備に当たっていた帝国陸軍第91師団の猛烈な砲撃と戦車第11聯隊の果敢な突撃で初戦を跳ね返している。
 驚くべき事に、この島には缶詰工場に夏場働いていた女子工員数百人を含め二千人もの民間人がいた。陸海軍の軍人は8千人である。
 直ぐ側のアリューシャン列島でアッツが玉砕・キスカが撤退したというのに民間人がいた。米国を警戒していたとは言えソ連の参戦をほとんど想像していなかったものと思われる。
 それにしてもここで一度は跳ね返したことは戦後処理に大きく効いた。どうやらスターリンは北海道の半分をよこせ、と言っていたのだ。
 日本占領に伴って各国に進駐を割り当てる際、東南アジアでも連合国の談合があり、朝鮮半島は38度戦の北をソ連が、南をアメリカにした。同じ事はヴェトナムでも起こり南は旧宗主国フランスによる連合国、北側を蒋介石と分割して、どちらも直ぐ後にドンパチが始まった。
 こういう戦後処理は、古くは第一次世界大戦後の中東でもサイクスーピコ協定の勝手な線引きがなされて、今日に至るまでの紛争の火種となっている。

 ハタと気が付いたことがある。 国境を考える で記述した旧ドイツ領、カリーニングラード(旧名ケーニヒスベルグ)について、今までドイツは一度も返還を口にしていない。
 そうこうしている内にバルト三国が独立したのだが、誰も何も言わなかったのでロシアの飛び地となってしまった。治安も悪いエリアに成り果てていたのだが、プーチンの離婚した奥さんがここの出身地だったので多少の金が付いたそうだ。
 あの哲学者や数学者を輩出した大学はここにあったのだが最早ドイツ人は郷愁も感じないのだろうか。もっともその前にドイツは分断された歴史が長かった為、それどころではなかったのか。

 日本は完膚なきまでに負けて、多くの犠牲を出した結果占領された。僕は府中のスタジアムが米軍基地の住居時代だった頃の記憶がある。昭和の20年代は東京ですら基地があったのだ(今も横田にエア・ベースはあるが)。
 進駐軍の統治・改革は巧妙に隠された事は広く知られる。当時の文書検閲に多くの日本人が関わっていたのだが、ただの一人も『自分はこうやって手紙を開封して検閲していた』と白状した人はいない。江藤淳の研究でその一端が明らかになっているがそれは凄まじいものだった。教科書は墨で塗られ僕の母方の祖父はパージされた。大方の日本人はこんな苦しい戦争が終わってホッとしたり、始まって以来の敗戦に脱力したりした。
 概して一般の国民は占領政策に従順だった。
 それに対し過激な日本人の対応は三つに分かれる。
 一つは敗戦を奇禍として、アメリカの作法に則って近代国家として出直すことに邁進するグループ。極端になるとアメリカのお先棒を担いでのし上がってしまおうと親米右翼にまで行ってしまう輩も多かった。中には積極的にCIAの協力者もいたと言われている。
 二つ目も、右翼と言えば右翼なのだが、何が何でも気に入らないとばかりの反米右翼でこちらも一定の割合でいた。世に自主独立派という訳で街宣車に乗ることもある。このグループは下手をするとヤバい筋に近づきやすい。
 三つ目は大雑把に左派とくくるのは難しいが、一部言論人に多い反米反日グループ。戦争に対する反省は確かにその通りなのだが、ともすればアジア反日勢力に繋がる傾向がある。
 それらは睨み合いつつ『その看板はもう下ろせない』状態に至って一部職業化して今日に至っている。
 そもそも日本を占領し改革したというアメリカも、緒戦の苛烈さに二度と戦争をさせないという意味で組合結成・農地解放・夫人参政・財閥解体さらに憲法改正をさせたが、戦前日本は三権分立で選挙もやる民主国家ではあったのだ。

 ここで、私なりの結論めいたことを言うのは多少勇気がいる。占領は不愉快ではあったが、多くの日本人の努力で結果としてそう悪くはなかった。戦死者・被害者多くの人々を悼みつつ、無論いまだに憲法問題等を引きずってはいるものの、である。
 占領時GHQの詰問機関の一員として来日し労働基準法の策定に係ったヘレン・ミアーズという女性がいる。この人は日本の研究者で日本史や開戦にいたる満州・朝鮮・中国の国際関係を俯瞰し、開国して欧米の植民地経営(モダニズム)にぶつかった悲劇を証明した。その著書はマッカーサーに邦訳を禁じられた。(『アメリカの鏡・日本』角川ソフィア文庫)
 この人に限らず多くの占領改革者は『理想主義的』で(無論ひどいのも多かっただろうが)未だアメリカ自身が解決できていないことも改革しようと試みた跡が伺える。従って現在日米が抱える諸問題はかえって同時進行的に展開され、時には日本で顕在化した問題がアメリカに飛び火することさえありうるだろう。
 際どい想像だが、仮に戦争を回避したとしても海外領土(北方四島は海外領土としない)、すなわち満州・朝鮮・台湾・南方をコスト的にも文化的にも維持管理できたはずはない。今日のような国境となってことだろう。

 現在世界中が内向きになっている。
 一国単独での安全保障が望めないほど多極化してしまった今、磐石な平和を確保するために、安倍総理はプーチン大統領との関係を保ちつつトランプ次期大統領とも信頼関係を構築して、本年早いうちに三極のキーマンとなるだろう。そのブリッジ役を安倍総理に期待したい。

戦争の終わり方 Ⅱ


 

世界のグチャグチャを考えてみた (今月のテーマ インテリジェンス)

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Categories:国境

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