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少年に読ませたくない本

2020 MAR 14 10:10:27 am by 西 牟呂雄

 別に子供に見せたくないアダルト本の話ではない。
 僕は死んだ母親の影響が大きかったのか、読書に関しては早熟だった(他の事はいつまでもガキだった)。
 その中で実に後味の悪かったという意味で忘れられない作品がある。胸糞悪い思い出をこのまま墓場までもっていくのも癪に障るので、敢てブログに書き付けて憂さを晴らしておきたい。

1.『車輪の下』ヘルマン・ヘッセ
 何でこんな本がウチにあったのか。何かの推薦図書だったのではなかろうか、読書感想文を書いた覚えがある。6年生だった。
 真面目な秀才がプレッシャーに負けて落ちこぼれる話なのだが、何でこんなモンが推薦されたのか。おそらく『こうなってはいけない』と言う意味なのだろうが、全く面白くなかった。
 主人公ハンスのイジイジした性格より彼を堕落させるヘルマンに感情移入した。今から考えるとこれがきっかけになって僕の精神放浪が始まったと考えるべきかもしれない。
 絶対に子供には読ませたくない一冊だ。
 どうもヘッセの体験が下敷きになっているようで、精神的にもかなりアブない人らしい。
 ノーベル文学賞を取ったドイツの代表的作家だから、僕の浅読みでは読み込めない深い世界が内臓されているかもしれないが、なぜドイツ人はこんな作品を好んで読むのか不明。

2.『赤と黒』スタンダール
 母親が持っていたナントカ全集から読んだ。中学に入った頃だったと思う。
 恋愛感情の筆致は興味深かったが、ジュリアン・ソレルという野心丸出しの主人公は何たる田舎モンか、とあきれた。
 別に地方出身者を貶めているのではない。上記『車輪の下』で既に不貞腐れたガキになってしまっていたので、ジュリアンの根性が実に醜く感じられた。
 不思議なことにジュリアンよりも、マチルドの取り巻きである堕落した貴族のドラ息子達の方に魅力を感じたのは僕自身の生来の怠け気質が表れたのではないか。

3.『ジョセフ・フーシェ』ツヴァイク
 ツヴァイクの作品では徹底的にいやな奴に描かれてしまい、読後感も悪い。これは図書館で読んだから、少なくとも15才以前の中学生だった。
 しかしフーシェその人は実は大変魅力的な人物で、一種のピカレスク・ロマンの味がある。ツヴァイクは余程フランスが嫌いだったのだろうか。筆致に悪意さえ感じられる。
 これを読んだ為にフーシェについての偏見に取り付かれ、ついでにフランス革命も胡散臭いものと刷り込まれて、科目としての世界史を全く勉強しなくなった。せめて高校卒業後に読めば良かった。

4.『友情』武者小路実篤
 これは喜寿庵の本棚にあった。小学六年ではなかったか。背伸び気分で無理やり感はあったし、思えば不幸な出会いと言えよう。
 主人公の野島の恋心がうっとうしい。長い独白も現実離れしており、いっぺんにこんなにしゃべる人間なんかいない、と思ったものだ。
 おまけに終わり方も爽快感に欠けること著しく何が面白いのか・・・。

 こういった作品にうんざりした私は高校時代は殆んど読書をしなくなる。例外は三島由紀夫の文庫本くらいだが、今から考えると失敗作も多い。その後庄司薫や柴田翔に出会うのだがこれも直ぐに飽きて、その後は小説には見向きもしなくなった。村上春樹もダメだった(オッサンになって読んだ)。
 その代わり名作の一部だけを口ずさみ、全部読んだふりをすることに熱中した(なんとバカだったのだろう)。
「神がいなければ、全てが許される」
「人間にたいする運命の攻撃によって支配されている世界のなかで、価値ある登場人物といえば、それに抵抗する人々のみだ」
「きょう、ママンが死んだ」
 全部分かる人は相当な読書人でしょう。
『僕はチボー家で言えばジャックなんだ』
 これはオリジナルの呟きだ。

 今頃になってブログを書いてみて、いかに小説の素養がないか良く分かったが今からではもう遅い。やはり小中学生にはあんまり名作は読ませない方がいい、せめて高校進学後、できれば旧制高校生の年齢にすべきだ。できあがったのがこんな有様と考えれば自明だろう。

漫画ばかり読んでいた

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