喜寿庵紳士録 レイモンド君
2020 DEC 24 9:09:00 am by 西 牟呂雄
そろそろ会いたいなあ、と思う先輩・友人がいる。今年はコロナ騒ぎで春からは全く会えなかった。
するとコロナ安全圏だった喜寿庵で珍しく新たに知り合った友人レイモンド君とはまた会う機会が来た。ここにもクラスターが発生してしばらく来られなかったが、ほとぼりも冷めたようなので久しぶりに来てみると。
クラスター発生直後は本当に人っ子一人歩いていなくて住民がどこかに行ってしまったかのようだったらしいが、こういう田舎の地域は感染経路が分かりやすいので集中的に抑え込みが効いて3週間たった今では平穏な日常が戻っていた。
ところでヒョッコリ先生は子守の手がなくなるとレイモンド君を連れて来る(先生は友人でもなんでもない)。困ったことにこの人はスマホも持ってないらしい。電話してアポを取ることなどなくいつもフラリと現れるのだ。そもそもどこに住んでいるのかも僕は知らない。もしかしたら僕がここにいるのを確かめてからやって来るのか。
レイモンド君は何故か正装をしていた。
「やあやあやあ、寒くなってきたね」
「(あたりまえだろ)もう年末ですよ。レイモンド君こんにちは」
「実はこの子の両親がコロナになっちゃってね」
「えっ、ミャンマーに行ったんじゃないんですか」
「(あわてて)そっそうなんだ。それで帰国したらイチコロで罹ったらしいんだ」
「(見え透いた嘘だな)2週間隔離された後にですか」
「そこんところは良くわからない。それでね、この子のお宮参りに連れていく人がいないということなんだけどね」
「(アンタが行きゃいいだろう)ほう、先生は忙しいんですか」
「キミの家の庭に手作りの鳥居があるよねぇ」
「(人のウチのことをよくしってるな)あぁ、私設の滋養神社のことですか」
「そうそう。キミが一人で踊りを奉納してるだろ」
「(ギクッ見られたのか)それより先生の実験室のある八幡様にいけばいいじゃないですか」
「いや、あそこはマズいんだ。僕がウロウロしているところを見られたくない。ということでちょっと半日この子を預かってお参りをさせてやってくれ」
「(そら来た)今日は僕も忙しいんですが。チョット出掛ける用事もあって」
「よしよし、レイモンド。一緒に連れてってもらえ。これね、寝ちゃったときの着替えとおむつと離乳食なんだけどね。まぁ、すぐ迎えに来るから」
例によって勝手なことを言って赤ちゃんを僕に抱かせた。やられた。
レイモンド君とは3月ぶりで、心なしか少し締まったというか痩せたのかもしれない。
ともあれ、お宮参りということで滋養鳥居の前に行き二人で踊りを奉納した。何の踊りにするか迷ったが七五三が過ぎたので仕方がない、七五・三十五から七五三を引いて十五の奉納踊りを舞った。
さてどうしよう。久しぶりのレイモンド君は、やはり僕を忘れてしまったのだろう、初めは珍しそうに踊っていたが(抱かれていただけだが)家の中に入った途端泣き出した。わかった、3か月前に会った時はテレワークばかりだったので無精髭を生やしていて今と表情が違っているのだ。それはともかく、僕はいつかこの日が来ると思い秘密兵器を準備していた。今時の若い親御さんは与えることはないおもちゃ、デンデン太鼓だ。ところがせっかくやって見せてもちっとも面白がらず口に咥えようとしてばかり、危ないから取り上げるとまたフンギャーである。
ようやく落ち着いたところで二度目であるが喜寿庵を案内した。やはり覚えてはいないようでキョロキョロしている。
座らせてみると何かに掴まって立ち上がろうとする。ソファーの端っこを一生懸命つかもうとするのだ。これが大変で、まだハイハイも覚束ないから寄っていこうとするのに前に進めない。「アギー」とか「グー」とか言いながら匍匐前進していた。挙句の果てにつかみそこなってゴンッと音を立てて顔面を床にぶつけた。
『フンギャー』
今度は抱っこしても泣き止まない。仕方ないのでこの際おしめも替え、ミルクの飲ませたらゲップと一緒に少し吐いてしまった。ついでに着替もしたら機嫌が直った。フー。
それから二人で遊んだが,赤ちゃんというのは愛されることが商売だ。従って無償の愛しか受け付けないのではないのか。僕は勝手に友達になったと思っていたが、愛情は一方向でもありうるが、友情は双方向でないと成り立たない。
ヤンキー娘が早くに結婚して子供を産むが、さっさと離婚して次の男ができる。するとその相手が連れ子を虐待するという痛ましい事件が結構多い。次のアンチャンにしても赤ちゃんもしくは3歳未満の子供はかわいいものの、無償の愛情は注げない。泣いたりグズッたりするのを我慢できなくなって思わず手がでる。チビちゃんに友情を持とうとしても応えてもらえないのだ。
僕は既に(レイモンド君は忘れていたようだが)友達になる段階はクリアしたので、後は覚えてもらって親しみを感じてもらえばいいわけだ。幸い僕の方はヒマで時間だけはあるから毎日でも一緒にいられればすぐ慣れてくれるのに。しかし次にいつ会えるのかは分からない。
分かった。そもそも赤ちゃんと前期高齢者とでは流れる時間が違うのだ。赤ちゃんは記憶力が発達していないから毎秒毎秒新しいことの洪水に浸かっているようなもので、こちらが心待ちにして再会してもワン・オブ・ゼムでしかない。。友情を育むにも時間はかかるだろう。
まっ、あと10年くらいかけて親友になろう。それまで生きてるだろうか、オレは。
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Categories:和の心 喜寿庵