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雨のバンガロール

2022 DEC 1 0:00:04 am by 西 牟呂雄

 

 インドに行った。目下は雨季。カンカン照りの乾いた大地に立って、つくづく『インドには日陰が良く似合う』と思ったものだったが、街並みはしっとりと濡れていた。
 そもそもコロナ後に初めて出国したのだが、出だしから先行きが危ぶまれた。
 航空会社のカウンターで接種証明か最終の検査結果を見せろと言われ、既に五回目も打った僕は意気揚々とスマホを見せた。するとオネーチャンは『英語表記でないとインドで入国できません』と言うではないか。それではと再発行を操作しようとすると『マイナンバー・カードをかざしてください』ナニッ!そんなもん持ち歩くわけないだろう!それならイチかバチか行きます、と言っても航空会社はこれを拒否。自宅から家人が2万円のタクシー代を払って持ってきて最後の客として乗り込む離れ業で搭乗した。イミグレは通ったのか覚えていない。で、そんな思いをして辿り着いたデリーでは、インド人の典型である『自分の範囲しか働かない、なるべく余計なことはしない、絶対に責任は取らない』の3ナイ主義者、入国管理官のせいで、トランジットも最後の一人となる。そうやって辿り着いたバンガロールはこの雨だった。

 今回は長年のパートナーが工場をリニューアルした竣工式に行ったのだが、パートナーのお父さんが2週間前に亡くなってしまいギリギリまではっきりしなかった。というのヒンドゥーでは13日も葬式をやるため、竣工式ができるかどうか。死亡当日に火葬⇒4日後遺骨を拾う⇒13日後葬式⇒ガンジス川に流す。という流れの真ん中に当たっていた。雨はそのせいなのか。
 前日。同じくパートナーのドイツ人の一人(二人来るはずの一人は1週間前から来印していた)がドイツでのフライトキャンセルにより来ない。それは仕方がないものの不安を抱きながら新工場に行った。
 既に数年協力関係にあるが、始めた時はなかなか技術が定着しなかった。それを苦労しながら受注につなげ、リニューアルにこぎつけたと思うと感慨深いものがある、はずだったが、これは・・・。

何とかしろ!

 いくらインドでもこれはないだろう。エントランスに巨大な牛のウンチ。
 しかも誰も平然としてかたづけるでもない、オイオイオイ、明日セレモニーだろ、何考えてんだ!
 まっ、いいや。前回サンプル作成に失敗していたので早速現場を見ると、真剣な目付きのスタッフが待っていた。事前に送っていたチェック項目に従ってプロセスを見ていく、成程。
 つくづく思うのだが、とにかく試片、薬品、部品、といった製造のインフラにあたる部分が圧倒的に不足していて、それは産業としての足腰の問題だが、郷に入っては郷に従うしかなく、やたらと日本流にやれといっても無理である。オペレーターは直ぐに辞めるし技術の蓄積は難しい。
 そんな中、入管のエラソーな小役人とは違って、彼らなりに何とかしようとはしていた。
 僕のライフ・ワークは『何もない所に製造拠点を作り、日本の技術で立ち上げ、そのエリアに貢献する』だから、こういったいじらしい姿をみると、やってよかったとしみじみと思うのだ。無論その間、コノヤロウ、バカヤロウがある。

 帰り際に、なにやら女性のはしゃいだ声が騒がしく、事務所の入り口に人だかり。僕のファンかと思ったが、そんなはずもない。
 オペレーターの女性達が作業着のまま、事務所入り口の地面に絵を描いていた。
 そしてそれに色を施していたのだが、染料の粉を手でパラパラと落して採色する。その色の鮮やかさには目を見張った。ヒンドゥーの縁起物なのか、怪しげな魔方陣のような幾何学模様もいとおかし。

 そして当日は晴れた、工場に来てみてアッと驚いた。もちろん牛のウンチはかたづけられていて、それどころか工場正面は花で飾られていた。どうやら昨日僕達が帰ってから業者が雨の中、徹夜で飾り付けたらしい。もっともパートナーは手広く事業をやっていて、その一つに広大な花の農園があり一度連れて行ってくれたことがある。野生の象がいるという森の中だった。そこから大量に運び込んだ花だ。

 さらに、絵に色を付けていた女性達はご覧の正装である。鮮やかな原色が黒い肌によく似合う。おそらくはそう豊かでもない彼女たちにとって今日は晴れがましく、心から楽しんでいるのだろう。
 考えてみれば数千年の歴史を内包し、分厚い文化を守り続けている人々である。数百の民族と宗教と言語を持ちながら選挙をやり、核を持ち、原子力空母を運用する大国であり、ロシアへの制裁など見向きもせず、目下は空前の好景気。ここの従業員はおおらかな人達だが、商談の相手のネチッこさとケチさ加減には辟易させられる。
 インドは大いなる矛盾の塊なのだ。

 こちらは我がパートナーの奥方。この人達はバラモンで、その内の中くらいのカーストらしくインドに1千万人いるとか。中堅の財閥を形成していて、まぁ金持ちだ。
 こう言っては何だが、大変に物腰が上品な美人である。聞くところによると、適齢期の同じカーストに適当な候補者がいないと結婚はせず、女性の場合このクラスでは学者か弁護士になるのだとか。
 雨の中、記念の植樹をやり、即興でスピーチまでさせられた。

  嗚呼

 翌日、工場に行くと再び仰天させられる。午前中にあれだけ豪華に飾られていた花はゴッソリと捨てられているではないか。それも工場の前の空き地に無造作に投げられていた。
 まあ、何もない空き地に捨てるという行為はあまり感心なことではないが、この荒涼とした大地に多少の花では環境破壊にもならないのだろう。バンガロールは近代的な都市ではあるが、一歩裏通りに行けばゴミだろうが牛のウンチだろうがお構いなしで、犬は繋がれもしない。スラムではそういった環境でも平気で暮らしている。一時はCOVID19の新規感染者が1日30万人いて工場でも一人亡くなったのだが今はゼロだという。ウソだろう。
 こんなところに来るのに接種証明も陰性照明もないもんだ、航空会社は現地を見てないのか。 、
 
 帰り際に工場の隣の空き地にあの巨大排泄物を置いて行ったノラ牛がいた。
 よく見ると、白い鳥も一緒にいてなぜか仲良く群れている。
 今夜、フライトでムンバイに行くドイツ人とビュッフェを食べながらビールを飲んだのだが、別れ際にこう言ってニヤリとした。
『今までは友達だが今夜は違う』
 そう、この日は23日。これからWカップ・サッカーの日本ドイツ戦がある・・・。

 そして夜半、メールが入る。『フェアな戦いだった。コングラッチュエーション!』いい奴なのだ。

乞食?

 
 P.S 工場の横でいつもウロウロしていた老人だが、乞食だと思っていた。
     後日分かったがこの老人は例の牛の飼い主で、夕方牛と一緒に家
     に帰るのだそうだ。

満天の星は血を騒がせる
朝日はなぜか気怠い
南中の日差しにはせかされる
夕暮れはいつも寂しい
インドでは雨が癒してくれる
(洪水も起こすが)

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Categories:インド

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