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一般不均衡理論 Ⅱ

2023 JAN 16 6:06:56 am by 西 牟呂雄

 2021年度末、すなわち昨年の今頃の時点である。マネタリー・ベース(中央銀行が市中に直接供給しているマネー)は日米でそれぞれ700兆円と5兆ドルだった。すると700÷5=140で1ドル140円が導かれる。
 2022年から米国があまりのインフレに利上げを始めると、円安が進行し3月に130円台になり、日本も物価が上がり出す。奇しくもロシアのウクライナ侵略と重なり世の中が騒然となった。特にマスコミは家計が破綻する、と煽った。為替はヒステリックに150円まで下落し、その後に目下の130円レベルで落ち着いた。その間の平均は140円くらいだろう。何だこれは。
 この単純な割り算は、交換比率について総量の比較と為替相場の相関を示したソロス・チャートと言われる分析手法として知られている。
 為替取引は株価と同じで、参加者の全員が全く同じ情報を共有して全く同じ思惑で行動すればある価格での売買は成立しないので値は動かない。従ってこの間に大儲けした者と損を被った者がいただけだ。儲けたのは誰だ!それは政府である。
 九月に外為特別会計180兆円のうちのドル建て債券を売却して、急速な円安対策として為替介入したが、その原資は1$100円時代に勝ったアメルカ国債だったと日経新聞が報道している。単純計算で含み益は数十兆円だったろう。
 確かに戦争の影響によるエネルギー・コスト上昇や円安に伴う原材料の高騰は家計を苦しめる。しかし、それも全体で観れば2%プラスα のレベルで、うっかり黒田総裁が口を滑らせた『許容の範囲』と言える。昨年12月の4%は驚きの数字ではあるが、むしろこの何十年も口にすることすら憚られた『値上げ』を許容できる環境になったことこそデフレ脱却の第一歩として評価したい。
 さらに悪い円安などというが、そのおかげも相まって2022年度の製造業に限って言えば大幅な増益の企業が目白押し。今まで貯めこんだ内部留保もあり、今回の春闘ではそれなりの賃上げはなされる。確かにコロナ禍もあり飲み食い旅行の類は厳しいものがあるが、マクロレベルでの物流はすでに回復していた。
 さすがに$=150円を付けた時はギョッとした。その時点での貿易赤字が月間2兆円にもなっていたからだ。これが続けば価格転嫁も交易条件の改善もかなり遅れるのだが、幸い冒頭申し述べたレベルに戻り、さらに日銀の方針転換を思わせる黒田介入によって現在の水準にある。所謂Jカーヴ効果が出る環境にある。
 先週末は次の黒田介入を期待しての国債売りが殺到し、均衡状態では稼げない金の亡者がカラ売りをかけている。これを日銀は10兆円で買い入れ市中の流通国債が枯渇するほどになれば、円の流通は市中で増加して為替は既に130円を切るまでになった。めでたしめでたし。この状況は前回『一般不均衡理論』で考証した。
 さて、これで万歳か、というとそうはいかないようだ。米中ともにリセッションの風が吹いて、実は年明けから製造業の活動水準は急速に落ちている。
 外部要因だけではない。防衛費増額・異次元の少子化対策,等まことに喫緊の重要課題に対してオウム返しのように増税議論がくっついてくるのだ。総理あるいは税調の重鎮から発せられるアナウンスは、いかにも民間の経済など知ったこっちゃない財務省の影がちらつく。なぜ、あの優秀な財務官僚が防衛関連個人国債とか消費税のうち1%を振り向けるといった発想が湧かないのか。
 この増税アナウンスは高市早苗が喝破したように今言う話じゃない。経済を活性化する方が先だろう、順番が違う。
 嘗てのキャリアは骨のある人が多く、上に向かっても政治家に向かっても自説を申し立てる根性があったと聞くが、目下のところ財務省の本義である『予算を切る』『税金を取る』ことに血道をあげ、上がそうなら末端まで一色になってしまった感がある。
 彼らは確かに優秀で、挫折感もない。だが出世欲は人一倍強く、そのためなら自説を曲げるどころじゃない。筆者の先輩に徹底的に我が道を行きペイオフを断行したサムライがいたが、そういう人材は枯渇したのではないか。あのリザイ局長なんか・・・ねぇ。
 で、困ったことに思うように出世しないと選挙に出たり(評判の悪い〇〇さつき)ひどい場合は自殺。自殺の大蔵、不倫の外務という言い方があった。
 総理はすでに絡めとられており、何か政策を発表しようとすると寄ってたかって財源論を刷り込まれ、そしてそれを言わされている。いずれ増税になるとしても時期と議論のタイミングがあるであろうに。
 かように経済の舵取りの不均衡状態は国家の内側からももたらされるのである。

一般不均衡理論

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