三島由紀夫の幻影 Ⅳ
2023 APR 1 0:00:16 am by 西 牟呂雄
山中湖畔に三島由紀夫文学館はある。故三島由紀夫の遺品を三島家から譲り受けて、町興しの一環として1999年に開館した。直筆原稿や創作ノートが展示してあり、なかなか見ごたえがあるのだが、観光スポットとしてはイマイチらしくすいている。
遺品の数が膨大なため展示にはテーマを設けていて、今年は『海』だそうだ。
はて、と腑に落ちなかったが、言われてみれば海の描写は確かに多くかつ見事だ。遺作の表題はは『豊穣の海』であり、『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』ではそれぞれ海を印象深く描いている。
しばらく読み返していなかったのですっかり忘れていたが、『潮騒』『午後の曳航』『金閣寺』といったベスト・セラーの一群でも海を書き込んでいた。目から鱗の思いで、自分の浅読みを恥じ入るばかりである。
そしてその海はあくまで明るく輝いている印象だ。筆者は三島が泳ぎは不得手だったという仮説を見立てているので、海に身を晒すことはなかったと考えている。そこへいくと我々ヨット乗りは波と潮の恐ろしさを体感的に熟知しているので、あそこまで美しい表現はできないだろう。
むしろ、三島の内なる暗黒部分、それは思想的あるいは性的な意味も含め、を海の情景に反射させたのではないか。外側を明るく塗りつぶして、中心のダークさを無意識に際立たせたともとれる。太陽の黒点が鮮やかなように。
特に『天人五衰』執筆時は例の事件を決意し、すなわち死を覚悟している。頭の中はその葛藤で一杯の時期に、駿河湾を書いているのは象徴的にみえる。
ところで、文学館の中庭には三島邸にあったものを模したアポロ像が立っている。
これは実はいわくつきの像で、クリックして拡大して頂くとうっすらと見えるのだが、一見して割れた腹筋の所に横にクラックが入っている。初めは無かったのだが何年かしてヒビが浮き出たらしい。
ご案内の通り三島は割腹自殺をし、同志森田必勝の介錯を受けて絶命した。
しかるに三島が憑依したのでは、と以前から言われていたようだ。
そして私が恐る恐る近づいて見上げたところ。
何と首筋にもクラックが!
三島先生!成仏してください!ナムアミダブツ・ナムアミダブツ・・・・
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