Sonar Members Club No.36

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製造現場血風録ー復興

2013 NOV 1 10:10:44 am by 西 牟呂雄

7月13日(月)火災発生から3週間が過ぎたところで、嬉しい報告が入った。現地クリーン・ルーム内で暴露試験をした結果、設備自体は生きていることが確認できた。純水装置の加水洗浄も完了。今までは日本から全て製品で出荷していたが、途中仕上げの半製品で現地に送り、後工程の操業ができることになった。日本サイドは第一・第二工場ともまがりなりにもフル・シフトの稼働となり、何とかギリギリの綱渡りができたことになる。僕は通常機能が回復したと見て、緊急対策本部は解散し、元の指揮命令系統に戻すことに決めた。だが急ブレーキをかけてはスピンしてしまう。現地緊急派遣の連中が戻るタイミングで徐々に役割を消していった。そして原隊復帰する直属幕僚だった部下にはこう言い添えた。

「こういう仕事は見事に立ち上げれば立ち上げるだけ『何だ、大したことなかったのか。』と言われるのが常だ。そういう時は、はいはい左様で、と言って涼しい顔をしてるもんだぞ。」

そうは言ってもやることは山ほどある。損害の確定、原因と対策、新規設備の導入、数え上げればキリがない。だがこれらは業務を分担し、粛々とこなせば良いことで、今どうするのかという切った張ったではない。言うならば戦国乱世から抜け出して秩序ある藩幕体制になったようなものだ。僕の役割は終わった。

しかし振り返ってみれば反省することしきり。まず、指示・重要報告は必ず相対にて確認する必要があること。CCをやたらと付けて発信者は十分に連絡を果たしたつもりだろうが、緊急時に毎日100件200件とメールが飛び交っているときは、念のためにこの人にもとやるのは返って集団無責任体制を助長することになる。或いは保身のため、とも思えるようなCCメールも多く、僕はそんなもんは見るハナから削除した。まぁ善意を持って発信するのだろうが、レスポンスが欲しい相手には必ず確認を取らなければ危機の際に情報が埋もれる。なにしろ物凄い量なのだから。ところで今から考えてみるとやたらにCCを付けるるタイプと、「オレは聞いてない。」と開き直るタイプには一定の相関があるようだ。

また、周りが殺気立っているにも関わらずどこ吹く風の輩も居た。暫くしてから気がついたのだが、メチャクチャになっている間は目に入らなかったのである。「自分には権限がない。」「まだ情報が上がって来ない。」そして「聞いてない。」、このタイプこそ危機の状況下最も無用者で扱いに困った。実際は優秀なヤツ等なのだが。この問題の救いがたいことは教えてどうなるものでもないことだ。本人の人間性のいい悪いの話でもない。普段は役に立つのだから評価がどうこうとも言えない。あくまで例外的危機状況なのだから、そういった人材は無視しておくに限る。

総括するつもりではないが、事故は幾つかの不幸によって必然的に起こり、高いモラルと不断の粘りによって回復する。今回は一丸となって責任感を共有し対応に当たった実感が残った。特に直属幕僚だったK課長、H係長、H嬢、A嬢の驚異的ガンバリには感謝するばかり、君たちは素晴らしかった。又、現在も尚闘病中のH君の回復も祈って止まない。

後日、目処が付いた報告をヘッド・クオーターに報告に行った際、ダイレクターはこう言った。                                              「どうなることかと思ったが、大したことなくてすんだな。」                  僕は思わずニヤリとして答えた。                               「はい。お陰様で。」

 

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